20話 魔王としての一撃を.2
2026/06/28 改稿
日の出の時刻──いまだ誰も起きてこない中で、俺はただ静かにジッと、燃え尽きた焚火の跡を見詰めていた。
勿論、ずっとそうしていた訳ではなく、別の焚火では、大量に買い込んだ食材を使い、朝食の準備を抜かりなく、行なっております。
「……眠気が来ない」
トマトっぽい野菜を潰し、水と一緒に煮込みつつ、水気が飛んできたら、塩、胡椒、ニンニク、唐辛子っぽい調味料を加え、炒めるようにしてかき混ぜる。次に、一口大に切り分けた、コカトリスのモモ肉と絡めて、更に炒める。
「醤油が欲しいなぁ……白くはないけど、お高い塩が売ってたんだから、この異世界にも、海はありそうだけど……魚醤はどうかなぁ」
そんな事をボヤいていたら、聖女の"せ"の字も感じない顔をしたリティナが、小屋の方からふらふらと、歩いて来た。
「おはようさん」
「なんや……あんた寝とらへんのかい」
「三徹までなら、耐えれるからな。てかリティナお前、顔怖いぞ。まだ寝てなよ」
俺の言葉を無視して、なぜか俺の隣に胡座をかいて座り込み、すんごい目で睨んでくる。
「こちとら家族襲われたんや。二度寝なんてしてる暇、あらへんやろ」
「……そりゃそうだ。ケモ耳達を襲って、住む所を燃やした奴には、やり返さないとな」
「それだけやない。あん餓鬼共らが受けた痛みの、何倍もの悪夢を見せたるわ」
家族を襲われ、傷付けられ、家まで焼かれたリティナの怒りは、今の俺以上に堪え難いものなのは、分かりきっている。俺だって、ミルンを傷付けられようものなら、相手に地獄の苦しみを与えるだろうからな。
「んで、リティナは昨日の襲撃者が誰なのかってのは、知らないんだよな?」
「ウチが見たんは、ミウとメオが連れ去られるところや。顔は見てへんねん」
「となると、やっぱり院長影さんが起きるのを、待つしかないって──丁度起きたか」
ミルン、院長影さん、ニアノールさん、そして──ミウとメオがくっ付いたままの村長が、ゆっくりと歩いて来た。
「村長何してんの?」
「仕方なかろう。この二人、寝ているにも関わらず、恐るべき力で放さぬのだ。それに、無理に引き剥がすと、起きるであろう」
「羨ましい……ミルン、おはようさん」
「くわぁぁぁ、おはよ……おと……むにゅ」
村長が羨ましいので、眠気眼のケモ耳ミルンわ手招きして、膝を枕に二度寝をさせる。可愛い牙が、俺の膝を齧ってますとも。
「院長影さん、ニアノールさん、おはよう。多少顔色は良くなったようで、なによりだ」
「おはよう御座いますぅ」
「おはよう御座います、流さん。番をお任せしてしまい、申し訳御座いません」
院長影さんは、真面目だねぇ。ミルンの尻尾で、強制就寝をさせたのは、俺なのにさ。
「うしっ、話を聞くついでに、朝食にするか。ケモ耳っ子達が起きる前に、色々と聞いておきたいしな」
「おにぐぅぅぅっ、ミルンもぉ、だべるぅ」
「……匂いで覚醒って、流石ですミルンさん」
そうして、朝食を食べながら、昨日起きた事の詳細を一人一人に聞き、実行犯は誰で、どこに所属している者かを、知る事が出来た。
実行犯は──ザルブ・ポワード。ラクレル村で俺を嵌めようとし、村長にボコボコにされていた、あの神官だった。
「あのボケ神官……ウチの家族に手ぇ出しおってからにっ、ぶち殺したるわぁぁぁっ」
「村長。ミウとメオを助けた時には、ザルブっておっさんは、居なかったんだよな?」
「うむ。多量の血痕はあれど、彼奴の姿はどこにもなかったのである……念の為、建物は破壊したであるが、生死は分からぬ」
俺の聞き間違いでなければ、この筋肉村長が、建物を破壊したと言ったように、聞こえたんだけど……いや、スルーしておこう。
「あのザルブは、大司教、オーグド・ディムニの子飼いの者で、今回の件を命じたのも、あの者でしょう。ですが……」
院長影さんの顔が、ムッとなってるなぁ。言わんとしている事は、分かっていますとも。
「"証拠"がないっていう事だろ」
「仰る通りです。相手はアルテラ教の大司教。何をするにしても、証拠がなければ……っ」
「証拠ねぇ……」
こうなる事が分かっていれば、ラクレル村で襲われた時に開けた、あの宝石箱っぽい物を、残しておけば──いや、あれだけじゃあ、証拠にはならないか。
「証拠がなくても、ウチは許さへんで……聖女怒らせた事、必ず後悔させたるわっ」
「聖女様。そう申されましても、下手に動けば被害を受けるのは、子供達なのである。事を成すには、情報が足りぬっ」
「こっそりとぉ、殺れば良いんですよぅ」
リティナは一人でも動きそうで、村長はキレているけど冷静。んで、ニアノールさんは一番物騒な事を言っていると……怖い。
「教会の、大司教ねぇ」
「おにぐぅ、おにぐぅ……美味しいのおっ!」
「完全に起きたなぁ」
膝の上で、口いっぱいに肉を詰め込むミルンを見て、今回の事を冷静に考えてみる。
あの時、ラクレル村で、ザルブは言っていた。大司教様の命令で、魔王と"噂"される俺に、会いに来たのだと。
"噂"の発端は──俺がプッツンして、ラクレル村の村民の殆どを、半殺しにした所為だ。
「何か忘れてるな……あっ、そうだ。確かラクレル村を、"神降りた地"とかなんとかって、言ってたような……」
「流さん。それは恐らく、空高く伸びる光の柱が、"ラクレル村の方角"に落ちるのを、教会の者が見た所為で御座います」
「光の柱って──アレかぁぁぁっ」
ミルンの傷を癒した、空からの光。アレが発端となり、教会共が動き出したって訳か。
「どうするかねぇ」
ザルブを動かしたのは、大司教である事は間違いないっぽいんだけど、物証なんてモノはなく、証人として使えそうなザルブも、どうなったのか分からないこの状況。
「証拠がないなら……作れば良い、か」
「流君、何か妙案でも?」
「ちょっとね。なあ院長影さん。この王都に、新聞……瓦版……何て言えば良いのか。事件や事故が起きた事を、広めるモノってあるかな?」
異世界だから、新聞的なモノが存在するのは分からんけど、魔王の噂が流れた速度を考えても、似たようなモノは、存在する筈だ。
「しんぶんや、かわらばんと仰る物が、何なのかは分かりませんが、情報を広める手段でしたら、冒険者ギルドに御座いますね」
「冒険者ギルドに? そんなんあったかなぁ」
「危険な魔物が現れた際に、冒険者ギルドが王都中に配る物で、その魔物の生息域が、記された紙に御座います」
異世界版の、災害警報みたいなモノか? ともあれ、それがあるのなら好都合だ。
「くくっ……現代人を舐めるなよ、大司教様」
「お父さんの顔がっ……怖いっ!?」
「流にーちゃん、何する気やねん」
「顔が魔王そのモノですよぅ」
膝の上のミルンが、尻尾をぶわあって膨らませてるから、今の俺の顔は、相当酷いのだろうけど、これからもっと酷くなるぞぉ。




