20話 魔王としての一撃を.1
2026/06/28 改稿
王都アストールを、ミルンと楽しく観光中。ギルドへ行って金を得て、肉や野菜を買い占めて、犬耳天使の御降臨と、とても有意義な時間を過ごしていた。
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎるモノ。
空が夕焼け色に染まってきたので、孤児院へ戻ろうと思ったのだが、広場を発見してしまい、試しにと"空間収納"から木の板を出して、円盤に加工。
「お父さん、それなあに?」
「これはな、投げて遊ぶ物なんだ。試しに投げてみるから、ミルンも投げ返してくれな」
そう言って軽く投げると、ミルンが「まてーっ!」と全力で追いかけ、ジャンプしてからの──空中で口でキャッチ。それを咥えたまま、走って戻って来たんです。
「がうううっ、取って来たっ!」
「……うん」
思っていたのと──何かが違う。
木の円盤が、唾液でベタベタだけど、拭き拭きしてから、ミルンを見て考える。
「もう一回っ! お父さん、もう一回っ!」
「あっ、ああ。もう一回な……よっ!」
今度は強めに投げるも、「わーいっ!」とミルンはそれを追いかけ、ジャンプして咥えた。
「……うん、やっぱり何か違う」
犬人族とやらの、本能だろうか。その姿はまるで、獲物を追い狩をするケモ耳が如し。尻尾が全力で揺れております。
「まあ……可愛いから良いんだけどもさ」
「お父さん、もう一回っ!」
はいっ、もう一回を十回程繰り返しました。お願いされたら、やるしかないだろう……だって可愛い娘なんだもの。
そんな時間を過ごしていたら、夕日が沈み、暗くなってしまったので、ミルンを肩車セットオンして、慎重に孤児院へと戻って行く。
「……月明かりしかないのって、怖えぇぇぇっ」
「すんすんっ、あっちなのっ」
帰り道を迷わないように、ミルンナビを使って、貧民街の中を歩いております。違う道に入ると、帰って来れないなんて、恐ろしいよ。
「ぬぅぅぅ、何か臭いっ」
「場所が場所だからな。仕方ないだろ?」
「その臭いじゃなくて……焼けた臭いっ」
ミルンはそう言って、指を差した。俺はその先に目をやると──そう遠くない場所から、火の手が上がっているのが見えた。
「火事……だよな? こんな燃え易い物ばかりの場所で、火事とかって……不味いだろ」
「お父さんっ! 孤児院のある場所なのっ!」
「ミルン……それって、マジかっ! ミルンっ、降りてくれっ! 本気で走るぞっ!」
「走るのっ!」
俺達は地を蹴り、全力で駆け出した。
「うぉっ! 何だこの速度っ、速すぎっ!」
「お父さんが速いのっ!?」
これも、半魔王の影響なのか。異様に足が軽くなり、本気で走るミルンに、余裕で付いて行けているとか、凄い事だぞ。
そうして、ボロ屋を抜け、瓦礫の山を超え、ゴミ捨て場を過ぎた先で──孤児院が、真っ赤に燃えていた。
「おぉ──い! 誰かいないのかぁ──っ!!」
声を出し呼びかけるが、返答がない。ケモ耳達は、上手く避難出来たのか。村長やリティナ、ニアノールさん達は無事なのか。
「お父さんあの小屋っ! 皆の匂いがするっ!」
ミルンが匂いを察知したのか、端にあった小屋へ向かうと──リティナが、額に汗を流しながら、子供達に手を当て、治療を施していた。
この状況に思考が追い付かず、「おい、リティナ。これは、どういう状況なんだ?」と、静かに聞いてみた。
リティナは治療の手を止めず、口を開いた。
孤児院が襲われた事。
火を放たれた事。
ミウとメオが──拐われた事。
ウチはなんも出来へんかった。何も知らんうちに、こん餓鬼共が襲われて、妹達拐われて、何も出来へんかった。
初めて見る涙を流して、俺に教えてくれた。
一瞬で──俺の怒りを沸点を超えた。
「そうか……そんなら、先ずは消火だなぁ」
「お父さん。ミルンも手伝うのっ」
「頼むミルン。俺だけだと、プッツンして、魔法が暴発しそうだからさ……」
ミルンがここに居なければ、俺は怒りのままに、意味不明な魔法を行使して、鎮火するどころか、大洪水を起こしていたであろう。
村長とニアノールさんが、ミウとメオの救出に向かったのならば、俺は俺に出来る事を、全力でするだけだ。
「んしょっ、んしょっ、定位置っ!」
ミルンが俺の頭に、手を乗せてくたお陰で、冷静に、今の俺の状態を把握出来る。ステータスのスキル欄、称号欄を確認。
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・基本魔法(一人暮らしのお供に)
小々波 流の固有魔法
全属性魔法中級まで使用可
使用回数制限無し
心の揺らぎにより範囲威力増減
INT 150より制御可
レベルアップ時INT成長を妨害
・半魔王
基本魔法制御解放
心の揺らぎにより範囲威力増減の効果を抑制
特定の魔物好感度上昇
レベルアップ時 INT成長を妨害
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この異世界に来て間も無い頃、水が飲みたいと切に願い、"ウォーター"と唱えたら"滝の様な水が降って来た。
ハイオークには、恐怖が優ってたのか、圧縮された水が噴射され、額を撃ち抜いた。
ミルンの小屋は、良く分からない内に、良く分からない魔法が発動して、粉微塵になった。
ラクレル村では、地球で見聞きしたゲームの魔法をイメージして、それが発動した。
野営地で、ミルン達を狙っていた奴等には、多少威力は落ちたが、制御してミディアムに出来た。
北門城壁の上では、門兵が使った魔法を、俺も発動しようとしたら、イケる気がした。
俺の固有魔法、"全属性中級"まで使用可。
今まで発動した魔法は、間違いなく中級の範囲を超えており、意味が分からない。が、今はこの際どうでも良い。
「今はその、意味不明な魔法が……必要だ」
今まで何度も使ってきたんだ。大体の発動条件は、予測する事が出来る。意思と想像と感情の合致──それにより、この基本魔法とやらは発動する、筈だ。
「意思は、怒りを糧に……目の前の炎を消す為の魔法を……想像しろ」
破壊では意味がない。想像するのは、干ばつから人々を救い、大地を潤し、時に全てを流し消し去る──恵みの雨。それを言葉であらわすならば、一つしかない。
「──発動しろっ! "旱天慈雨"っ!!」
身体が熱くなり、俺のスキルや称号が、俺の想いに応じている事が分かる。その熱がゆっくりと消え去る瞬間──それは起こった。
「お水が降ってくるのっ」
月明かりが照らす夜空に、突如として雨雲が発生し、ポッ、ポッ、ポッ──と、ゆっくりと雨が降り始め、それは瞬く間に大雨となり、燃え盛る孤児院の炎を、確実に鎮めていく。
「……俺、びしょ濡れじゃん」
「ずぶ濡れなのっ! ぶるぶるっ!」
いまだ消えぬ怒りを冷ますように、滝と見紛う程の大雨が、俺とミルンに降り注いだ。
「はっ、ははっ……流にーちゃん。ほんまあんた、規格外過ぎるやろ……」
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが1上がりました(濡れ中年っ!)
ピンポンパンポーン(下がり調)
リティナの力ないツッコミと、リシュエルの糞みたいな煽りを聞いて、少しばかり、怒りが収まってきただろうか。
「……いや、リシュエルはムカつくわぁ」
木材の焼け焦げた臭いが、鼻に付く。
所々、小さな残り火が見えるけど、周囲は水浸しだから、燃え広がる事は無いだろう。
月が真上を過ぎたから、もう昨日になるんだろうか。起きてるから今日かな?
ニアノールさんが、瀕死のミウちゃんとメオを抱き抱え、必死の形相で戻って来た。それを見たリティナは、もう顔が般若そのもの。
額に血管が浮かび上がる程に、怒り狂いながらも、その二人に治療を施していた。で、二人の傷が癒えて、息をしている事を確認したと思ったら、リティナはそのまま倒れたと。
「ニアノールさんも寝なよ。リティナ程じゃないけど、相当顔色悪いぞ?」
「大丈夫ですよぉ。リティナ様のお側でぇ、護衛をしなきゃですからねぇ」
「……見張りぐらいするっての。ミルンさんや、やっておしまいなさい」
「分かりましたっ!」
ミルンはシュバっと、ニアノールさんに飛び付き、尻尾で顔をふわっと一撫ですると、ニアノールさんは膝から崩れ落ち──そのままスヤスヤ夢の中。
「流石、ミルンの尻尾」
「自慢の尻尾なのっ!」
「そいじゃ、焚火しながらでも、村長待つか」
火種は、そこいらにある残り火だ。
暗がりの中でミルンと二人、ジッと焚火を眺めている。本来ならこんな事は、あの野営地というキャンプ場で、楽しくやりたかった。
「……なにあの服装?」
火の明かりの先から、ローマ風衣装の様な一枚布を羽織った村長が、鬼の形相をしながら、ゆっくりと歩いて来た。
「お帰り村長……何か怒ってないか?」
「お顔のシワが凄いっ」
「流君か……もしや、さっきの雨は……いや、聞くのはよそう。子供達の容体はどうかね。皆、無事であろうな?」
優先すべきは、ケモ耳の安否か。そりゃあ、あれだけ懐かれれば、そうなるよな。とても良い心掛けです。
「あそこの小屋で、すやすやと寝ているよ。そこまで心配なら、直接見に行けば良いだろ」
「うむ……」
村長は頷くと、ふらふらしながら小屋に向かい、二人の寝顔を見て直ぐに、そのまま倒れてしまった。
「お疲れさん、村長」
余程疲れていたのであろう。ミウとメオを優しく抱えて、寝るその姿は、孫を守らんとする、立派なおじいちゃんだ。
「皆のお家、なくなっちゃったぬ」
「そうだなぁ。半分以上燃えちゃってるし、ここにはもう……住めないだろうなぁ」
村長もニアノールさんも、リティナも、ケモ耳っ子達守りながら戦って、拐われた二人を助けて、そりゃあ気絶するだろう。
「それと──あんたも寝ろよ、院長影さん」
俺がそう呼びかけると、暗がりから院長影さんが現れ、音もなく近付いて来た。カマをかけたつもりだったが、予想通りだな。
「気付かれていたのですね……流さん。火を消して頂き、誠に有り難う御座います。あのまま火が拡がっていたら、スラム全体にまで、被害が及んでおりました」
「違うだろ……感謝なら、あそこで寝ている三人に、するこったな。ケモ耳っ子達を守ったのは、あいつらだろうに」
「それでも……有り難う御座います」
「律義なこって。あの三人にも、礼を言えよな」
「勿論です。流さんも少し、お休みになって下さい。番ぐらいは、私が致しますので」
影さんの顔色は、焚火の灯りでも分かる程に悪く、若干息を切らしている。どこに行ってたのかは知らんけど、寝るのは影さんだろうに。
「ミルンっ、影さんに尻尾攻撃だっ! そしてそのまま、一緒に寝なさい」
「尻尾で眠るのおおおおおおっ!」
「っ、流さん何を────」
敬礼をしたミルンが、影さんの身体に張り付き、尻尾で顔を"ふぁさっ"と一撫ですると、影さんがその場で膝から崩れ落ち──白目になりながら夢の中。
「ミルンさんや、毛布を……」
「すぴーっ、すぴーっ、すぴーっ」
「あの一瞬でっ、ミルンも夢の中とか……」
仕方なく二人を引き摺り、小屋へと運び、俺はそのまま寝ずの番をする。
「……さてっ、考える時間は、沢山あるな」
一体誰が、孤児院に火を放ち、ミウやメオを誘拐して、傷を負わせたのだろうか。
恐らくだが、暗部の元長である院長影さんならば、調べは付いているのだろう。だからこそこの怒りは、明日に向けて蓄えるべきだ。
「異世界から来た中年を、ここまで怒らせがって……絶対に後悔させてやる。どんな奴らが相手だろうが、必ず後悔させてやるっ」
俺は、ゆらゆらと燃える、焚き火をジッと眺め、ただそれだけを口に出し、一夜を過ごすのだった。




