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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女の居る世界

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19話 愚かな男は静かに消える


 2026/06/28 改稿



 私は走った。あの化物共から一歩でも先に、少しでも遠く逃げる為に、私は走った。

 脇に抱える二匹の獣が、とても重く感じ、今直ぐにでも放り出して、身軽な状態で逃げたかったが、それは出来なかった。


「ひっ、ひふっ、糞っ!」


「むぅーっ、やーっ!」


「メオちゃんをはなしてーっ!」


 この二匹の獣を捨てれば、あの化物共に追い付かれた際の盾が、なくなってしまう。それに、逃げ切れたとしても、金がなくては生きては行けず、その為にはどうしても、この二匹の獣が必要だった。


「ぐぐぅっ……なぜっ、この私がっ、神官であるこの私がっ、こんな目にぃぃぃっ」


 闇に包まれた貧民街を、遠くに見える一般街の明かりを頼りに、ただひたすら駆けて行く。

 ゴミ山を抜け、廃墟を突き抜け、瓦礫だらけの地面を踏み越えて、目的地を目指す。


「だれかーっ! たすけてえーっ!」


「メオちゃんからてをはなしてえーっ!」


「煩いわこの獣がっ!」


 二匹の獣が叫き、暴れるが、幸いかここは貧民街だ。いくら泣き叫ぼうとも、この獣を助けようとする者なぞ、一人もおるまい。


「後少しでっ、あそこだっ!」


 貧民街と一般街の、境界線に建つ廃屋。そこへ滑り込むように入り、持っていた二匹の獣を投げ捨てて、急いで鍵を閉めた。


「ひゅーっ、ひゅーっ、これで──っ」


 あとは地下通路を通り、南門から出て、そのまま馬を使って、この王都から逃げるだけ。


「ふううう──っ、この獣があっ!!」


 恐怖が鎮まり、代わりに腑が煮え繰り返る程の怒りが込み上げ、投げて倒れた獣に近付き、勢いよく踏み付けた。


「けふっ!?」


「メオっ、ちゃんっ」


「このっ! このおっ! 私を馬鹿にしおってっ! 貴様らがっ! 貴様ら獣ごときがあああああああああああああっ!!」


 何度も、何度も、腹を踏み付け蹴り飛ばし、声が出なくなるまで痛め付ける。獣が一匹死んだところで、もう一匹残っておるのだと、その怒りを発散した。


「ふぅ……っ、早く行かねば、追い付かれてしまうか。剣があれば、首を斬ってやったものを、怒りが収まらぬわっ」


「めっ……ぉちゃん」


「ミウちゃんっ、ミウちゃんっ」


 痛め付けたのは──犬の方か。もう一匹は、鼠ではあるが、これでも売れば、多少の金にはなるであろうな。


「おい獣っ、さっさと来いっ!」


 地下へと急ぐ為、無造作に獣の胸ぐらを掴み持ち上げた。獣の前を、掴んでしまった。それに気付いたその時──「ぢゅゔゔゔっ!」と掴んだ腕に噛み付かれ、肉を抉り取られた。


「ぎっ!? この獣があっ!!」

 

 左手で殴ろうとするが、鼠の獣はすばしっこくそれを避け、犬の側で立ち止まると、鋭い前歯を覗かせて、この私を威嚇してきた。


「ぢゅゔゔゔっ、ミウちゃんを、よくもぉっ」


「この私にっ、噛み付くなぞっ……もうよい、もうよいわっ! 今直ぐひねり潰してやるっ!」


「かみついてぇ、えぐってやるぅっ」


 もうこの獣共は要らんっ! 金なぞ教徒から巻き上げればっ、幾らでも手に入るのだっ! 今直ぐにこの獣を殺して、この場を去らねば!


「獣如きがっ、人種に敵うとでも────」


 一歩踏み出したその時、ヒュカ──ッと言う音と、背後から何かが斬られた音が聞こえ、何事かと振り向いた。

 振り向いて、直ぐに気付いた。いつの間にか、天地が逆さまになっている事に。

 

「────あぇ?」

 

「じゃから言うたじゃろぅ。子供にゃあ手ぇ出すなってのぅ……こん馬鹿者がぁ」


 闇が迫る中、あの男──ヤナギの声が、聞こえたような気がした。


◇ ◇ ◇


「ヘラクレス様っ! 二人の匂いがぁ、あの建物からしますぅっ! 急ぎましょう!」


「うむっ!」


 猫人であるニアノール殿を先頭に、この明かり一つない暗闇の中を進み続け、ミウとメオを拐った者を追っているのだが、矢張り獣族は、恐ろしい種族であるな。

 分かっていた事ではあるが、恐らくこのニアノール殿は、私より遥かに強い。元副騎士団長である私でも、勝てぬ相手である。


「夜戦ともなれば、一方的に……であろうな」


「何がですかぁっ!」


「いや、何でもないのであるっ!」


 そんな事よりも今は、ミウとメオを救い出さねば、孤児院の子供達に、顔向けが出来ぬ。そう思い、"入口が開いたまま"の建物へと、踏み込むと──メオがミウを抱き抱え泣いていた。


「っ、ニアノール殿は急ぎ、子供達をっ!」


「分かりましたぁっ!」


 建物内を見回すが──床に血痕があるだけで、二人を拐った者の姿が、見当たらない。


「どういう事であるか……逃げ切られたとでも? ミウとメオを残して……有り得ぬな」


 子供を人質に取る者が、二人をこの場に残してなど、行く訳がなかろう。


「ニアノール殿っ!」


「メオは擦り傷程度ですぅ。ミウは……っ、骨が折れていますのでぇ、直ぐにリティナ様に、診て頂かないとぉ」


「分かったのであるっ……済まぬが、二人を孤児院まで運んでくれぬか。ニアノール殿の方が、足は速かろう」


 本当であれば、私自身の手で、二人を運んであげたいのであるが、今は速さが必要である。悔しいが、私では遅過ぎる。


「分かりましたぁ。先に戻っておりますねぇ」


「そんっ……ちょっ」


「ミウちゃん、なあにっ」


 ミウに呼ばれた声がしたので、顔を向けてみると、その小さな腕で、力こぶを見せてきた。本当に、強い子であるな。


「ミウ、メオよ。元気になったら、また遊ぶのであるっ! よく頑張ったのであるぞっ!」


 今この私の手で、触るわけにはいかぬ。しっかりと治ったその時に、優しく頭を、撫でてやれば良いのだ。


「では、ヘラクレス様。失礼しますねぇ」


 三人を見送った後、私は近くにあった大きな布を拾い上げ、腰にしっかりと巻き付けた。今から私が、すべき事は何か。


「いや……これはただの、八つ当たりであるな」


 ゆっくりとその拳に、力を込め──限界突破の反動を堪えながらも、その拳を振りかぶり、床へと叩き付けた。


「決して私はっ──許さぬぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお──っ!!」


 怒号と共に、床へと突き刺さったその拳は、床に亀裂を生じさせ、その亀裂は壁を伝って、建物全体へと拡がって行き──その全てを粉々に打ち砕いた。


「この様な事を、個が計画した訳ではあるまいっ……黒幕を見つけ出し、この建物と同じ目に遭わせてやるわっ!!」

 

 拐った者も見つけ出し、その黒幕諸共、粉々に打ち砕く。筋肉に血管を浮かび上がるのを抑えながらも、孤児院へと戻って行った。


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