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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女の居る世界

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18話 破滅への序章(リティナ視点).6


 2026/06/28 改稿



 なんて事ない、のんびりとした日やったのに、ニアの耳がピコピコ動いて、面倒さそうな顔をしおった。

 これはアレや、また貧民街の馬鹿共が、孤児院の餓鬼を攫おうと、やって来たんやろなぁ。そうおもて、ニアに聞いたんや。


「なんやニア、馬鹿共が来たんか?」


「どうにもぉ、いつもの人達じゃあ、なさそうですよぅ。念の為ぇ、リティナ様は逃げるご準備を、お願いしますぅ」


「……分かった、ニアがそこまで言うんや。餓鬼共と合流して、動けるようにしとくわ」


 ニアにしては珍しく、警戒しとんなぁ。ぶっちゃけ、院長先生に鍛えられたニアに勝てんのは、この貧民街にはおらへんし、ヘラクレスですら、無理なんちゃうやろか。


「せっかく寝巻きやったのに……えっと、ウチの着替えはどこや──あったあった」


 東の商人から買った、お気に入りの帯物を着て、準備完了や。ニアの言うた通り、餓鬼共と合流して、地下にでも身を隠しておこか。


「せっかく、のんびりしてたのに」


 愚痴を溢しながら、部屋から出ようと扉に手をかけたその時──魔法が暴発したかのような音と共に、孤児院が大きく揺れた。


「っ、なんや急にっ!」


 転けへんように壁に手を付き、廊下へと飛び出すと──家の中や言うのに、風に乗った熱波が、ウチの肌をチリチリと焼いて来おった。


「なんやこれっ……おい餓鬼共っ!!」


 ここは二階の西側の部屋。餓鬼共の部屋も、この二階に集まっとるけどっ、今の時間に部屋におる訳がない。


「ノーインっ! モンゴリっ! 返事せえっ!」


 ノーインは餓鬼の兄貴で、危険察知に優れた狐人。モンゴリは人種やけど、馬鹿みたいな体付きで、並外れた体力を持っとる。

 その二人の返事がないっちゅう事は──餓鬼共は二階に居らず、一階ちゅう事やなっ!! そうおもて、急いで階段を駆け下り、声を上げて餓鬼共を探した。


「熱っ、どこや餓鬼共っ!」


 燃え広がる炎でも、ウチは死ぬ事はない。治癒のスキルを使うて、黒煙を肺から追い出し、火傷を"軽減"して進めば、問題はない。

 

「おい餓鬼ど────」


 視界に映ったのは──ミウとメオが、どこかで見たおっさんに掴まれて、窓から外に飛び出して行った、意味の分からへん光景。


「おどれなにしとんじゃわれえっ!!」


「リティナ様っ!」

 

「子供を放さぬかあああああああああっ!!」


 ニアが突然現れたと思うたら、通路の先から全裸のヘラクレスが走って来て、何がなんやら分からへん状況や。


「おいヘラクレスのおっさん! これは一体どういう事やねんっ! さっきの奴っ、ミウとメオを拐いおったんかっ!」


「聖女様っ! 今は先ずここからっ、子供達を避難させる事が先であるっ!!」


 ヘラクレスのいう事が正しい。餓鬼共は少なからず火傷をしとるし、この煙の中やと、小さい餓鬼は耐えられへん。


「急ぎ正面広場へ向かうのであるっ!」


「ちょっ、待てやっ! 院長先生はどこにおんねんっ! 餓鬼共探しとるんちゃうんか!」


「任せるのだっ、院長どのおおおおおおおおお──っ!! 正面広場に居るのであるぞおおおおおおおおおお──っ!!」


 鼓膜を破らん勢いで、ヘラクレスは叫んだ。お陰で一瞬、意識を持っていかれそうになったけど、これなら院長先生に届くやろな。


「急ぐであるぞっ!」


 ヘラクレスは、七名もの子供達を抱え、全力で屋敷を駆け抜け、広場に飛び出した。

 ノーイン、ラカス、モスク、ラナス、ノリス、コルルの六人は、少なからず火傷を負い、煙を吸ったからか、意識がない。


「聖女様は子供達の治療をっ! ミウとメオは私が助けるのであるっ!」


「家族を、拐うだなんてぇ……許さないですぅ」


 ヘラクレスのおっさんとニアは、血相変えて走って行きおった。二人共、今まで見た事のない顔で……っ、なんやねんこれっ!


「なんなんやほんまっ! なんでこんなっ! いつもの奴らやなかったんかっ!」


 貧民街の奴らでも、放火はせえへん。一度火を放ってもうたら、火の粉が飛び散り、この孤児院だけやなく、貧民街の全部に燃え広がって、自分らの住処も燃やすからや。


「あいがっ……たりなぁぁぁぃっ、ぐぬううううううっ……? ここは外ですか?」


「おいモンゴリっ! 起きたんやったら、餓鬼共運ぶの手伝えっ! あそこん小屋やっ!」


「ノーインお兄ちゃんっ! 皆っ! なんで寝てるんですか……小屋で寝ないとっ!」


 ウチ一人やったら、運ぶのに時間がかかったけど、モンゴリが起きたのなら、運ぶのは苦じゃない。問題は──こん餓鬼共の火傷や。

 餓鬼共を小屋へ運んで直ぐ、火傷の酷い小さなコルル、ラナスに手を当てて、癒しのスキルを発動させる。


「クソっ……絶対に死ぬなや、餓鬼共……」


 ウチのスキルの欠点。

 北門で、流にーちゃんの火傷を治した時も、一瞬で治らず、スキルを複数回使うて、やっと治す事が出来た。

 骨折、四肢の欠損や内臓破裂といった、即死級のモノですら、一瞬で治すスキルやけど、火傷、凍傷、毒といったモノに関しては、治るのに時間がかかる。それに加えて──体力も削られるんや。


「っ……今倒れてたまるかっ」


「リティっ! 子供達は──っ」


 倒れへんように、下唇を噛んで、意識を保っていると、結構な火傷を負った院長先生が、凄い形相で入って来た。


「院長先生っ、来るの遅いわ……ミウとメオが、拐われたんや。ニアとヘラクレスのおっさんは、今そいつらを追っとるっ」


「くっ……私の油断の所為でっ。リティ、この場を頼んでも良いでしょうか。私は今直ぐ、火を消す為に人を集めますので」


「分かったわ。餓鬼共は任せろや」


 院長先生はそれを聞くと、どこかへ走って行った。あない余裕のない院長の顔は、付き合い長いけど、初めて見たな。


「あかん、泣きそうやっ……餓鬼共、早う目え覚ましてくれやっ。せやないとウチはっ、姉ちゃんは泣いてまうでっ」


 いつの間にか、モンゴリまでも横になり、呼吸はしっかりしとるけど、ウチの体力が持つかどうかや。


「お前らっ……一人も死なせへんからなっ」


 十回、二十回と、連続でスキルを行使し、今にも倒れそうになるなかで、それでも諦めず、火傷一つ残さないよう、治療を続ける。

 怒りを沸々と溜めながら。

 涙を流すまいと、堪えながら。

 そして──「おい、リティナ。これは、どういう状況なんだ?」と、背後から聞こえて来たのは、流にーちゃんの声。

 ウチは治癒を続けながらも、声を出した。

 孤児院が襲われた事。

 火を放たれた事。

 ミウとメオが──拐われた事。

 ウチはなんも出来へんかった。何も知らんうちに、こん餓鬼共が襲われて、妹達拐われて、何も出来へんかった。

 知らんうちに、ウチは泣いていた。


「そうか……そんなら、先ずは消火だなぁ」


「お父さん。ミルンも手伝うのっ」


「頼むミルン。俺だけだと、プッツンして、魔法が暴発しそうだからさ……」


 そう言って直ぐ、流にーちゃんが使うた魔法に──ウチは驚愕した。自分の見たもんが、信じられへんかった。

 魔王と噂され、北門の兵士達を萎縮させた、この流にーちゃんが使うた魔法。


「……俺、びしょ濡れじゃん」


「ずぶ濡れなのっ! ぶるぶるっ!」


 恐らくは古の、神級魔法の一つ──『天候操作』──と云われる、神代の魔法。


「はっ、ははっ……流にーちゃん。ほんまあんた、規格外過ぎるやろ……」


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