14話 誰の後悔後先立たず.6
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「ひっ、ひふっ、糞っ!!」
魔王を滅せず、化物に身元を知られっ、獣共を誰一人として殺せずっ、何故私がこの様な目にっ!!
ザルブは、必死の形相で走った。
ゴミの山を抜け、廃墟を過ぎ、瓦礫の山を越えて、目的地へと走った。
「むぅーっ、やーっ!」
「メオちゃんをはなしてーっ!」
「黙れ獣がっ!!」
二匹の獣が叫き、暴れるが、今はそんな事よりも、この国から逃げねばならない。でなければ、大神官様に殺されてしまう。
「あの化物からもっ、逃げなければっ、後少しでっ、あそこだっ!!」
ザルブが向かった場所は、スラムと普通の民家が建ち並ぶ、境界線の廃屋。そこへ滑り込む様に入り、持っていた二人の獣を投げ、急いで鍵を閉めた。
「ひゅーっ、ひゅーっ、後は……」
投げて倒れた獣に近付き、踏み付ける。
「けふっ!?」
「メオっ、ちゃんっ」
逃げられない様に更に踏み付け、うずくまっている間に、地下通路の扉を確認。
「良しっ…後はここから、城壁近くの小屋に向かえばっ、逃げ切れる」
問題は、この二匹の獣。連れて行き、道中で売り払って金にするか、このままここで、殺してしまうか。
「一匹だけ居ればっ、事足りるか」
「ぃぅっ」
「メオちゃんっ、このぉっ!!」
獣が一匹、牙を向けて来た。
余計に付いて来た獣で、コイツならば、嬲り殺しにしても、問題無いだろう。
脚目掛けて、噛み付こうとして来た獣に、そのまま蹴りを打ち込む。
「ぎゃんっ!?」
「獣の如きがっ、このザルブ様に敵うとでもっ、本気で思っているのか!!」
鈍い感触が足に伝わり、肋骨が数本折れたのか、血を吐き転がる獣。
「ミウっ…ちゃんをっ、いじめるなあああっ!」
「痛っ、貴様っ! 離せえええ──っ!!」
小さい獣が、右足に噛み付いた。
その姿を見て、ザルブは怒りが込み上げ、その噛み付いたままの獣を、左足で踏み付けた。
「ちぅぅぅっ」
「離せっ!! この穢れた獣がっ!!」
「やめっ…メオがっ…しんじゃう!」
しかし、何度も何度も、踏み付けているにも関わらず、その獣は離さない。離れない。
「もう良い死ね! 貴様二人共要らぬわ!!」
何十回踏み付けたか分からなかった。
息が切れる程踏み付けて、ようやく獣共が、静かになった。
「暴れるからだっ。片方は残してやると言う私の慈悲を、無下にしおって……っ、こうしては居れぬ、早く逃げねば」
地下に続く扉の鍵を開け、ザルブはほんの少し、ほんの少しだけ、安堵した。
愚かにも、気を緩めてしまったのである。
ヒュカ──ッと言う音と、背後から何かが壊れた音が聞こえ、何事かと振り向いた。
「えっ?」
振り向いて、直ぐに気付いた。いつの間にか、天地が逆さまになっている事に。
「何だ────」
一瞬にして、ザルブは意識を失った。
◇ ◇ ◇
「っ、ニアノール殿は子供達を診るのである! 私はこの者の止血をする!」
「分かりましたぁ」
ニアノール殿が先行して、ミウとメオの匂いを辿り、勢いそのままに廃屋へと突入した。
そして、見たモノ。ミウとメオが、血溜まりに倒れている姿。
それを見た瞬間、ニアノール殿が風の如き速さで男に迫り、両脚を切断。そのまま床へと、叩き付けた。
「流石、リティナ様の護衛であるな……」
床に刺さったザルブを引っこ抜き、両脚をきつく縛り、状態を確認。
「気絶しておるか……ニアノール殿! 子供達はどうであるか!」
「かろうじてぇ、息が有りますぅ」
ギリギリであったか。
子供達のもとに向かい、顔を見た。
顔は腫れ上がり、息が浅い。
「ミウ、メオ、意識は有るか?」
「そ…んちょ…」
「きん…にく…」
「うむっ、良く耐えたのである」
ヘラクレスは、ミウとメオの頭を優しく撫で、怒りを顔に出さぬ様、歯を食いしばる。
「二人を急ぎ、リティナ様の所へ。私より、ニアノール殿の方が早く着く」
「分かりましたぁ。ヘラクレス様……後の処理を、お願いしますぅ」
すまぬ。本当ならば、ニアノール殿がやりたいのであろうが、コレばかりは譲れぬ。
ニアノール殿を見送り、息を吐く。
私がやるべき事は、ただ一つ。
寝ているザルブを、片手で持ち上げ、そのままザルブの顔面に拳を────撃ち付ける。
メゴォッ────「ぎゃふっ!? がはぁっ、なっ何だ!?」
状況が分からぬ様で有るな。これはこれで、好都合なのである。
「起きたであるな。さて、ザルブ殿。私の顔を覚えているかね」
「きっ、貴様っ! あの村に居たっ。私を離せっ、私を誰だと思っておる!!」
「ふむ、離しても良いのであるか?」
ヘラクレスは手を離し、浮いた状態だったザルブは、そのままベチャッと、床に落ちた。
「……へ? あっ、ああああああ脚っ! 私の脚がああああああああああああ────っ!?」
気付いてやっと、痛みが理解出来たのだろう。床にのたうち回り、ぎゃあぎゃあと叫ぶその姿見て、ヘラクレスは溜息を吐いた。
「脚っ私の脚っ、痛いっ、熱いいいいいいっ!」
子供達は、あの様な姿でも、涙一つ流していなかったと言うのに、愚かなモノであるな。
「ザルブ殿……今回の事を、一体誰に命令されたのか、教えてはくれぬか」
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
「答えぬのかね? 仕方あるまい」
床に転がるザルブの首を掴み、動けない様にしつつ、その顔に拳を振り下ろす。
何度も何度も、拳を振り下ろす。
何度も何度も何度も、何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、拳を振り下ろす。
瞼が腫れ、鼻が凹み、歯が全て抜け、最早誰とも分からぬ顔と、成り果てたザルブを見て、ようやく殴るのを止めた。
「なじぇ……わだじぎゃ……」
「流石、神官の装具であるな。ここ迄殴り付けても、まだ息があるとは」
「かひゅっ。わだじば……なにぼじだど……」
「スラムへの放火、孤児院への襲撃、子供達を誘拐し、更に暴行。特に放火は……このジアストールでは死罪である」
スラムなど、燃え易い物ばかりである。瞬く間に火は拡がり、下手をすれば、穀物にまで被害を与える大罪である。
「やみぇてぇ…じにだぐ…ない…」
「ならば首謀者を言いたまえ。そうだな……流君が言った言葉を借りるなら、『楽に生きれると思うなよ』だったか。首謀者を吐くならば、殺しはしない」
「ぐぅぅぅっ……っ、じじぼ、だじだのば……だいじんがんざまだ」
「ふむ、矢張りであるな」
アルテラ教の大神官であるか。
分かっていた事ではあるが、この者達は、選択を誤ったのであるな。
敵にしてはなら無い存在を、怒らせた。
「まぁ、私が言えた義理では無いであるな」
彼を怒らせて、五体満足でここに居る。
あんなに憎んでいた筈なのに、獣族の子供達と、笑顔で遊べて居るのだ。
「ザルブ殿……孤児院を襲った事で、リティナ様はその脚を、治さぬであろう。しかし、この出来事が、貴殿の転機に成る事を願う」
「いばだぁぁぁっ、ばじぃぃぃっ」
その傷では、どの道長くは無いであろうが、残りの人生を、後悔しながら、生きて行くと良いのである。
「お互いに、馬鹿な事をした者であるなぁ」
過去に戻れるならば、愚かな私に、何と伝えるであろうか。
「戻るのである……」
ヘラクレスは、ザルブを放置したまま、廃屋から出て、孤児院へと走り出した。
ここは未だ、スラムの中。ザルブが辿る末路など、目に見えている。
「楽に生きられぬか……その通りであるな」




