12話 誰の後悔後先立たず.12
暗がりに潜みながらザルブは孤児院の中へと侵入していた。
「糞っ糞っ魔王がおらん!? どこに逃げた魔王め!」
そう言いながら油と魔石が入った箱を置いて周り、外の様子を確認する。
「やはり族風情では、聖女の護衛を抑えてきれぬか…早くこれを置き逃げねば!」
「どこへお逃げになられるので?」
ザルブは心臓が鷲掴みにされたかのような殺気に前を見る。そこには黒外套を身に付けた者。
「きっ貴様何処から現れた!? いや、貴様がここの責任者か魔王はどこだ!」
そう言いながらもザルブは震えが止まらない。
剣を抜いた瞬間に手足が切断され、心の臓へと目の前の影が手を伸ばす姿を幻視して、汗が堪らず噴き出してくる。
「教会の者ですか…愚かな」
影がゆっくり動き出す。
死ぬっ死ぬっ死ぬっ逃げるどうやって逃げるどうやって死ぬっ死ぬっ死ぬっとザルブの思考は答えを導き出せない。
そして…生存本能がその答え導きだした。
「死ぬぅうううううううううう!?」
手に持っていた油と魔石が入った箱に着火。
影は直ぐ様身を翻しその爆発を回避し、ザルブは身に付けていた神官服の効果により吹き飛ばされるも多少の火傷で済んだ。
ぶはぁっ死ぬ死ぬ逃げねば逃げねば!?
ザルブは裏口へと走り出す。
前から獣族の子供がこっちに走って来る。
「どけぇえええ獣共ぉおおおおおお!」
そう言いながら剣を抜き放ち、一番先頭を走っていた筋肉質の獣に切り掛かる。
パリィンッと剣が砕けた。
頭をカチ割ったと思ったら何故か手にしている剣が粉々になった。
「は…おぶぅ!?」
その獣はザルブの腹へ拳を撃ち込みーーー
「あいがたりなぁあああああああい!!」
ーーーと意味が分からない事を叫ぶ。
げほぉっ糞っ先程の黒外套と言い、目の前の獣と言い馬鹿にしぉってえええ!
少し理性が戻り、その獣達を見る。
こうなればどれか捕まえて盾代わりにしてでも逃げねばっ!?
アイツだ!
そう思い駆け出す。目指すは一番小さい獣!
先頭の獣の拳を避け、他の獣共が慌てている間に首を掴み走り抜ける。
「メオちゃん!?」
そこへ同じ様な小ささの獣が抱きついて来た。
「メオちゃんをはなして!」
「ミウちゃんだめよにげて!」
嗚呼煩い煩いこのまま二匹共盾代わりだ!
そう思い前を見たら、炎の中を、全裸の筋肉が凄い形相で走って来る!?
ヒィッ!?
と口から音が出て直ぐ窓を破りそこから飛び出す。
手に獣二匹を掴んだまま。
私は死なない死んでたまるか死んでたまるかぁあああああああああああ!!!
※
ヘラクレスはそれを見た。手にメオとミウを掴み、外へと逃げる男を。
ニアノールはリティナと合流して、子供達を探していた。そして見た、メオとミウを掴み逃げる男を。
影は油断していた。役目を終えて十年の衰えは、確実に影の牙を削いでいた。
リティナは何も出来ずにいた。戦闘技能が無く、幻影と癒しか使えないから。
「院長殿、他の子供達と外へ! あの族は私が追います故!!」
「リティナ様は子供達の治療を! あの族は私が追いますので!!」
ヘラクレスとニアノールが全力で族を追跡する。
「リティ、急いで子供達と外へ。このままだと逃げれなくなります」
影が子供達を誘導し、孤児院近くの小屋で寝かせる。所々に酷い火傷が出来ており、煙を吸ったのか皆弱っていた。
「大丈夫やガキ共! ウチが傷痕のこさん様に治したるからな!」
リティナは奇跡を行使する。
何度も、何度も、何度も。
「このままだと此方にも火が来そうですね。リティ、私は人を呼んできますので、決してここを離れてはいけませんよ」
口調は平淡やけど、そうとう焦っとるな院長。
ガキ共攫われて家燃やされたらそりゃあ焦るわ…ウチだってキレそうやもん。でも、ウチができる事、先にせんとな!
聖女リティナはひたすらに奇跡を行使する。
「リティナ!?」
少ししてから流にーちゃんが戻って来て、孤児院の火を消し止めた。




