14話 誰の後悔後先立たず.5
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良しっ、奴等の陽動が成功したか。今の内に潜入して、魔王の首を跳ね飛ばしてやるわ!
ザルブはそう息巻いて、側面の壁を越え、孤児院へと侵入したものの、あの魔王の姿が見えない。
部屋を片っ端から探したものの、影も形もない。
「糞っ、魔王が居らん……っ。まさか、どこからか情報が漏れて、逃げたのかっ」
あの屑共を使ったのだ、後戻りは出来ぬっ。
矢張り、この手を使うしか有るまい。
そう言って、抱えた袋から取り出したのは、油が入った瓶と、大量の魔石。
「これを、魔王の仕業と教会に広めさせ、明確な犯罪者とすればっ、国も動かざる得まい」
そう言いながら、一番燃えそうな孤児院の中央部に設置して、外の様子を確認する。
「やはり、族風情では、聖女の護衛を抑えてきれぬか。用は済んだのだ、早く逃げねば」
「どこへお逃げになられるので?」
ザルブは、心臓が鷲掴みにされたかのような殺気に、通路の奥を見た。
そこには、黒外套を身に付けた者。
「きっ、貴様何処から現れた!? いや、貴様がここの責任者かっ、魔王はどこだ!」
そう言いながらも、ザルブは震えが止まらない。なぜなら、こちらが剣を抜いた瞬間、瞬く間に殺される事が分かるから。
それ程の殺気。
大量の冷や汗が、背中を濡らす。
「その顔……教会の者ですか。愚かな……」
「なっ、何故っ!?」
「教会の者だと、何故分かったか?ですか。一通り顔は、覚えておりますので」
影がゆっくり動き出す。
「ひっ、ひひっ(死ぬっ死ぬっ死ぬっ、どうやって逃げるっ。どうやってどうやってっ!?)」
ザルブの思考は、答えを導き出せない。
しかし、生存本能が、その答え導きだした。
「死ぬうううううう────っ!?」
魔石に魔力が籠ると、それを放り投げた。
その魔石は、今先ほど設置したばかりの、油の瓶と大量の魔石が置かれた場所に落ち、大量の魔石が反応した瞬間────爆発。
ザルブは、身に付けていた神官服の効果により守られるも、爆風によって、通路の端へと吹き飛ばされた。
「ぐふっ!? ぐぅぅぅっ、逃げねばっ、死にたく無いっ、逃げねばあああ──っ!!」
痛む体を必死に起こし、本能のままザルブは走り出す。何故なら、あの様な殺気を放つ存在が、そう易々と、死ぬとは思えないからだ。
「裏口はどっちだっ、こっちか! ぐぅ、早く逃げねばっ、あの化物にっ!」
正直言って、魔王どころの話では無い。
あのラクレル村で見た魔王よりも、遥かに恐ろしい存在であると、本能が告げていた。
「はぁっ、はぁっ、ぐっ、何故獣が!?」
通路を塞ぐ様に、前方から忌まわしき穢れた獣共が、真っ直ぐ走って来る。
通常であれば、一匹ずつ仕留めて行くところをっ、今はそれどころでは無いっ!!
「どけえええ──っ! 獣共おおお──っ!!」
そう言いながら、剣を抜き放ち、一番先頭を走っていた大柄な者に、その刃を振り下ろす。
パリィンッ────「はっ?」
頭をカチ割ったと思ったら、何故か手にしている剣が、粉々になった。そして、一瞬ではあるが、呆けてしまった。その一瞬の間に、腹に衝撃が走り、メリィッと音が鳴り、ザルブは膝を付き嘔吐した。
「うぼぇっ!? うぇっ! なっ、何がっ……」
「あいがっ、たりなぁあああ──い!!」
「ぎざまっ、えふっ、貴様がやったのか!?」
先程の黒外套と言い、目の前の獣と言い、私にこの様な屈辱をっ!!
痛みと怒りで我に返り、ハッキリと、状況を整理する事が出来た。
「神官たる私にっ、このようなぁっ!!」
大柄な者を見る。
穢れた獣の耳や尻尾は無く、人種に見えるが、先程の拳の威力は常軌を逸している。戦えば、無駄に時間を取られ、あの化物に追い付かれるだろう。
「こうなればっ」
どれか捕まえて、盾として使い、何が何でも逃げねば。どれが一番弱い……穢れた獣共は、例え子供であっても、油断出来ん。
「あの獣だっ!」
そう言って直ぐに駆け出す。
目指すはっ、一番小さい獣!!
先頭の大柄な者に、剣の柄を投げ、『あいいいっ!』と叫びながら迫る拳を避け、他の獣共が慌てている間に、小さい獣の首を掴み、そのまま走り抜けた。
「メオちゃん!?」
走り抜けたと思ったのに、どうやってか、同じ大きさの獣が、無理矢理しがみ付いて来た。
「メオちゃんをはなして!」
「ミウちゃんだめよ! にげて!」
「くっ、嗚呼煩いっ!! このまま二匹共盾っ、代わりにしてやるわっ!!」
そう言って、意識を前に向けた時、前方から、炎の中を掻き分ける様にして、全裸の筋肉が、凄い形相で走って来ていた。
「ひぃっ!?」
最早安全確認なんてしていられないと、窓に体当たりをかまして、外へと飛び出す。その手に、獣二匹を掴んだまま。
「私は死なないっ、死んでたまるかあああああああああああ────っ!!」
◇ ◇ ◇
ヘラクレスはそれを見た。
男が窓を突き破って行った際、その手にメオとミウを掴んでいる事を。
リティナは、炎が燃え盛る屋敷の中で、必死に子供達を探していた。そして見た、メオとミウを掴み逃げる、男の姿を。
ニアノールは安堵してしまった。
炎の中、無事なリティナの姿を見付け、子供達も無事であると、思い込んでしまった。
影は油断していた。
役目を退き、十年と少しの安息の日々は、確実に影の牙を削いでいた。
ヘラクレスの大声が、孤児院に響き渡る。
「院長どのおおお────っ!! 正面広場に避難をおおおおおお────っ!!」
ヘラクレスは、七名もの子供達を抱え、全力で屋敷を駆け抜け、広場に飛び出した。
リティナ、ニアノール、影と、皆一応に広場へと集まり、子供達を見た。
「リティナ様は子供達の治療を!! あの族は私が追うのであるっ!!」
「ミウとメオをっ、許せないですぅ」
二人は目を血走らせ、男が逃げた方向へ、全力で駆け出した。
「リティ。急いで子供達を、離れの小屋へ。ここでは火に近過ぎて、危ないです」
「っ、わーとる! モンゴリ、ノーイン、ラカス、お前らなら立てるやろ! シャキッとせい!!」
「げほっ、ですね。年長者がへばってたらっ、この子達の兄として、失格です!」
「この火は俺の悪戯じゃないぞぉっ」
「ぼくはっ、げんきでっす! みんなをはこぶの、てつだうよおおおっ! ぶふっ」
そうやって、全員で幼少組を担ぎ、なんとか小屋まで来た瞬間、ノーイン、ラカス、モンゴリまでも、一斉に気絶した。
「先ずは、小さい餓鬼からやっ。ウチが傷痕の残さん様っ、治したるからな……頼むからっ、元気になってくれやぁっ」
リティナは奇跡を行使する。
死に至る外傷をも、一瞬で癒す奇跡ではあるが、例外が存在する。
火傷や凍傷には、その効果が減衰するのだ。
だからこそ、何度も、何度も、何度も、休む事無く、必死に奇跡を行使する。
「リティ。私は火を消す為に、人を呼んできますので、決してここを、離れてはいけませんよ。このままでは、スラム全体に広がりますっ」
「分かったわ。餓鬼共は任せろや」
影はそれを聞き、その場から消えた。
それを見届けたリティナは、更に奇跡を行使し続ける。誰一人、死なせない様に。
『っ、何だこれ……』
リティナは、声がした方に目線を向けると、流とミルンが立っていた。
リティナは悔やみ、涙を流しながら、流に事情を説明した後、自らの奇跡とは別格の奇跡を、目にする事となる。
『……俺、びしょ濡れじゃん』
『あめっ、ひどいのぉぉぉっ!』




