12話 誰の後悔後先立たず.9
「それじゃぁ改めて、儂がここの闇ギルドっちゅーもんのボスをやっちょる、ヤナギと言うもんや、宜しくのぉ神官さん」
目線を鋭くザルブを睨みつける。
ザルブはこのヤナギに首根っこを掴まれ、闇ギルド内に引き込まれ、そしてヤナギの前で震えながら正座をしていた。
「それで神官さんは何の用向きですかのぅ。三つの事除いて、儂らはなんでもするけぇ」
それを聞いたザルブは、今迄の経緯を捲し立てる様に説明し、項垂れる。
「そうかぁ…魔王のぅ。なぁ神官さん、その魔王に獣族の子供がぁ一緒に居たんは本当かのぉ…?」
ザルブは考え無しに喋る。
「間違いない! あの穢れた獣が私の装備を奪いおったのだ!」
そうかぁ…ヤナギは少し考え返答する。
「神官さん、すまんのぉ。この仕事は受ける事はできへんなぁ、儂の矜持に反するけぇのぉ」
ザルブは今言われた事を飲み込めずにいる。
「何故だ!? 金なら幾らでも払うし望む物をやろう! 頼む! 私にはもう後がないのだ!!」
「儂の矜持に反する言うたやろぅ。このぉスラムにもなぁ決まり事ちゅーもんがあってなぁ。一つ、孤児院の院長センセには逆らうな。二つ、子供にゃあ手ぇ出すな。まぁコレは犯罪者を覗きってぇ注釈がつくけぇのぉ、そして最後。三つ、自分の直感を信じろ。是等を守れんかったら、このスラムじゃぁ生きて行く事は出来へんからのぅ」
その魔王っちゅー者に手ぇ出したら、ザルブさん、間違いなくアンタらぁ終わるでぇ。
そう言われ、ザルブは追い出された。
ザルブは喚き散らし、崩れかけの家屋に剣を振り、石を蹴り飛ばし、大地を叩く。
ザルブに残された手段はー。
※
女王ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは未だ寝室にて引き篭もり、あーでも無いこーでも無いと流を城へ呼ぶ計画を練っていた。
扉前であの煩いリズムを繰り出していた大臣の気配も無く、ある意味休日である。
「女王陛下、至急、お伝えしたい事があり参りました」
其処へ、どうやって入って来たのか影が姿を現す。
この影は流の居場所を把握する為に尾行させていた影の一人である。
「どうした、影自ら表にでてくるとは珍しい事もあったものじゃな。いつもなら呼ばんと出て来ん癖に」
そう、この影はジアストールの暗部であり、女王となる前からルルシアヌに付き従っているが、呼ばないと出て来ず、呼んで命令した事が終わると直ぐに居なくなる。
小さい頃に一人が寂しくて呼んで見たが、命令が無ければ直ぐ居なくなる。
「それで、至急の報告とは何じゃ?」
孤児院の院長が流に伝えた事。
ミルンが何者か。
あの場で影が見聞きした事全てを女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは聞いた。
「やはりか…兄様と獣族の子供…私の姪、ミルン」
あの正門で会った少女。
あの黄金に輝く眼を見た瞬間、なぜか愛おしくなり、後ろから抱き締めてしまった少女。
それに、流はミルンの母を自分の母さんと言ったというが…どう言う事だ?
「女王陛下、流さんより言伝がございます」
ふむ、影に頼む程の事か。
「何を言ってきたのじゃ?」
影が珍しく笑みを浮かべている。
そんなに楽しい事かの?
ふむ…成程。
「中々に面白い事を考えるな魔王め、良いじゃろう。孤児院の院長へ儂からの言葉を伝えよ」
影は頭を下げ、ゆっくりと扉に向かい開け放ち、そこにはーーー
「陛下ぁあああ!? やっと扉が開いたぁああああああああ!!」
ーーー大臣が待ってましたと言わんばかりに書類の山を持って寝室へと侵入して来た。
影よ…絶対わざとじゃろ。
女王の束の間の休日が終わりを告げた。