13話 天然混じりの恐怖のドジっ子.3
ミルンとドールを見送って、久々に黒姫と二人きり。簡易小屋からノブストンの首都を、監視し続けております。
「また来たな……これで何回目だよ」
「我が見るのは、三回目ぢゃのう」
「と言う事は、最初のを含めて四回か」
そう、あの気味の悪いフルプレートが、十五分おきに現れて、橋の手前で力尽きて直ぐ、騎兵に引っ張られて帰ってんの。
「学習しない馬鹿なのか、ただただ執念深いのか。どっちにしても、怖すぎるわぁ」
「ふむ……背は流より、頭ひとつ低いのぅ。あの感じぢゃと、女子やも知れぬ」
「ここからでも、身長分かるのか?」
「御主、我を誰ぢゃと思うとるかや。あの首都の城壁の上に出とる、城の窓近くの花瓶も、ハッキリと見えるのぢゃぞ」
「すっげえ視力だな。スキル無しで見えんの?」
「スキルを使うまでも無いのぢゃ」
この黒姫、出会った時のあの残念さが、嘘に思える程の、チートっぷりだわ。
「そういや、完全回復した黒姫なら、リシュエルより強いんだっけ?」
「急になんぢゃ?」
「ふと思っただけだ。以前リシュエルと戦った時は、互角だっただろ?」
「ふむ、そうぢゃの。リシュエル程度ならば、今の我でも楽勝なのぢゃ」
それなのに、この大陸の魔王を警戒するって事は、リシュエル以上に厄介なのか? 本当にこの世界って、化物だらけなのな。
「その顔……何を考えておるのか、丸分かりなのぢゃ。以前にも言うたが、この地の魔王と我とでは、相性が悪いだけぢゃぞ」
「空飛んだら、ズドンだっけ?」
「そうなのぢゃ。そしてそれは、同じく空を飛ぶリシュエルにも、当て嵌まるのぢゃ」
「相性が悪いだけで、殴り合いをしたら、リシュエルが勝つと?」
「然り。ぢゃから魔王は、姿を見せぬのぢゃ」
以前にも言ってたな。引き籠り根暗体質で、近付いたら即逃げる魔王って。
「っと、あのフルプレート、どうなった?」
「どうやら今回は、橋まで来たようぢゃな」
「新記録達成じゃん。あのまま、こっちの門前まで来てくれれば、空間収納射程圏内で、ミスリルの斧を頂戴出来るぜっ」
「……盗賊かや?」
「違うぞ黒姫。今は戦の真っ最中なんだし、あの斧は戦利品だろ?」
簡易小屋で茶を飲みながら、「頑張れ頑張れ」と、這って来るフルプレートを応援していると、また騎兵達が迫って来た。
「あいつら、ずっと同じ事繰り返す気か?」
「それはそれで、面白いのぢゃ」
「でも、今回は力尽きず、フルプレートの奴も頑張ってんじゃん。こっちに来たら来たで、戦斧没収するけどもさ」
「流は鬼畜ぢゃのぅ」
「あっ、橋の中央で力尽きやがった……ギリ空間収納外とか、面白く無えーっ」
騎兵達も到着して、また持って帰るのかね?
そう思っていたら、今までと違った。
騎兵達はその場で、フルプレートをガチャガチャと回収し、中身だけ放置して、そのまま王都へと、帰って行ったでは無いか。
「……どゆこと?」
「ほれっ、我の言うた通り、女子だったであろう。我の眼力は確かなのぢゃっ」
「あっうん、凄い凄い。でも今は、そんな事よりも、アレよアレ。放置されてんじゃん」
「放置プレイかのぅ?」
「その言葉、ミルンの前で使うなよ。おっ、流石に軽くなったから、立ち上がったな」
にしても何で、あの騎兵達は、フルプレートの鎧だけ回収したのか。ミスリルの戦斧は、持たせたままじゃん。
「流や、彼奴が来たぞぇ」
「ようやくか……何の用件かねぇ」
そっと、フルプレートでは無くなった、誰かさんを見下ろして、確認する。
『ここを開けて下さーいっ。私は、エルララルラ・ポーノグリトス・ノブストン。大国ノブストンの、女帝なんですよーっ』
「なあ黒姫」
「なんぢゃ?」
「アレ、女帝って言ってんだけど」
「その様ぢゃの」
『開けないとっ、この門壊しちゃいますよーっ』
物騒な事を言っているが、さっきまで散々騎兵に引っ張られて、帰っていた奴が、何を言ってるのだろうか。
『うるちゃんを、返してーっ』
女はそう言うと、背負っていた戦斧を手に持ち、本気で門を壊す気の様だ。
「うるちゃんって、誰だ?」
「知らぬのぢゃ」
「うるちゃんうるちゃん……円堂?」
下で括られたまま、大人しくしている円堂に、顔を覗かせて聞いてみる。
「おーい、自称大魔法使い様や」
「何よ……」
「太々しい態度乙っ。お前の事を、うるちゃん呼びする奴に、心当たりはあるか?」
「えっ……うっ、うるちゃん……まさかっ、あの子が来てるのっ!?」
急に円堂の奴が、顔面蒼白状態です。あの反応は、知り合いが来た嬉しさと言うよりも、恐怖の大魔王が来たって感じだな。
「茶髪ロングの背が低い、ほんわかした喋り方の奴だったぞ。今門前まで来てる」
「っ、絶対に門を開けないでっ! あの子が来てるのならっ、障害物が無いと危険だわっ!」
「んんっ? 門を開ける気は無いけど、そんなに怖い奴なのか?」
「怖い……で済めば、どれ程楽かっ……」
意味が分からない。あの女のどこに、そんなにも恐怖する理由が、あるのだろうか。
「流や、彼奴が動きだしたのぢゃ」
「ほいほいっと」
『本当にっ、壊しちゃいますからねーっ』
「ミスリルの斧だから、門ぐらい壊せるだろうけど、斧がデカ過ぎて、上手く持てて無いじゃん。あれじゃ、マトモに振れんだろ」
「そうぢゃの」
『もうっ、知りませんからああああああっ!』
女は斧を振りかぶり、そのままスポット斧が抜け、振りかぶった勢いそのままに、ヒュゴッ────と首都へ一直線。
「んっ?」
「のぢゃっ?」
ミスリルの斧が、首都の城壁上部に穿たれた瞬間、スゴオオオオオオンッと、大きな爆砕音が、鼓膜を震わせた。
「えーっと、んんっ!?」
「城壁が、抉れとるのぢゃぁ」
『あれっ、斧は? あっ……またやっちゃったっ!? 修繕費がっ、大臣に怒られちゃうっ』
またやっちゃったって、あの女、何回も城壁を壊してるって事なの? て言うか、今の光景は何なの? 斧がヒュゴッて……。
「円堂をっ、問い詰めねば……」




