14話 誰の後悔後先立たず.2
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闇ギルドのボスらしき者に、首根っこを掴まれまま、屋敷の奥へ奥へと、入って行く。
「(ここがっ、闇ギルド……っ)」
至る所に、ギルドの構成員が徘徊しており、こちらに目を向けるなり、跪き、頭を垂れる。
諍いの真っ只中だろうと、拷問の途中だろうと、このボスの視界に入ったなら、皆一応に跪き、頭を垂れる。
この男は、それ程までに、恐ろしい存在。
ザルブは、東の地に普及していると言う、畳と言われる床が敷かれた部屋に通され、座らされた。
何故、ブーツを脱がなければならないのか。
しかし、『脱がねば足を切り落とす』と脅されれば、脱ぐしかあるまい。
「そんじゃぁのぉ。改めて、儂がここのボスをやっちょる、ヤナギと言うもんや。宜しくのぉ、神官さん」
口元は笑っているが、目は笑っていない。
下手な事を言えば、私はどうなるのか……想像出来ない訳が無い。
「わっわわ私はっ、アルテラ教神官っ、ザルブ・ポワードである」
「ザルブさんねぇ。それでぇ、今日は何の用ですかのぅ。三つの事除いてぇ、儂らはなんでもするけぇ」
「話が早くて助かるっ。闇ギルドに依頼したい内容が────」
出来うる限りの事を話した。
大神官様の事を、口に出してはならないが、ラクレル村での出来事や、そこから避難して来た者達の話を、嘘を混ぜ、より残酷な出来事だったかの様に説明した。
「以上だっ。貴様達に依頼したいのは、魔王を滅する事と、関わった者全ての処分だ……」
特にっ、私の邪魔をしたあの筋肉とっ、穢らわしい獣の娘は、生かしておかぬ。
「魔王のぉ……なぁザルブさん。その魔王とぉ、獣族の子供がぁ一緒に居たんは、事実で間違い無いんじゃなぁ」
「間違い無いっ!! あの穢れた獣がっ、私が家の家宝を盗みおったのだっ! あの犬畜生の小娘がっ、忌々しいっ!!」
「そうかぁ……犬人の小娘ねぇ」
ザルブは、顎に手を当てて、何やら考え事をしているヤナギを見る。
先程の異様な圧。
それこそ、高ランクの冒険者達が、子供に思えてしまう程の、威圧感。
この者ならば、あの筋肉の塊を屠る事など、容易い事であろう。
「のぅザルブさん」
「何だ……」
「すまんがぁ、こん依頼は受けられへんなぁ。儂の矜持にぃ、反するけぇのぉ」
「はっ?」
今っ、この男……何を言った?
えっ、闇ギルドが、依頼を断ったのか?
何故……何故断るのだっ!
「何故断るっ!? 報酬なら言い値で支払う! 欲しい物が有ればっ、何でも差し出そうっ! 頼むっ、私には後が無いのだっ!!」
「儂の矜持にぃ、反する言うたやろぅ」
「きょっ矜持!?」
「ザルブさん。このぉスラムにもなぁ、決まり事っちゅーもんがあってなぁ」
「スラムに……決まり事だと」
「一つ、孤児院の院長センセには逆らうな。二つ、子供にゃあ手ぇ出すな。まぁコレは、犯罪者を覗きってぇ注釈がつくけぇのぉ」
「っ、馬鹿なっ、貴様等は無法者だろっ……」
「そして最後の三つ目、自分の直感を信じろ。是等を守れんかったら、このスラムじゃぁ、生きて行く事は出来へんからのぅ」
むっ、無法者の屑共が……っ、冒険者ギルドも、闇ギルドも、私の依頼を断るのかっ。
「以上じゃのぉ。おお誰か、客人のお帰りじゃけぇ、正面まで案内しちゃれ」
「待てっ! まだ話をっ!」
「なぁ、ザルブさん。爺からの忠告じゃぁ。そん魔王に手ぇ出したらぁ、間違い無く……あんたら皆んなぁ、終わるでぇのぉ」
ヤナギのその言葉を最後に、知らぬ間に背後に居た者に首を掴まれ、そのまま闇ギルドから追い出された。
「ふっ、巫山戯るなぁっ! 何が闇ギルドだ! あの孤児院の院長が何だっ! 獣の餓鬼を殺すのにっ、何を躊躇うっ!!」
喚き散らし、崩れかけの家屋に剣を振り、石を蹴り飛ばし、大地を叩く。
「ぐぅぅぅっ、こうなればっ」
ザルブ・ポワードは、止めると言う手段を、思い付く事すら出来ない程に、追い詰められていたのである。
◇ ◇ ◇
女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、未だ寝室にて引き籠り、あーでも無いこーでも無いと、流を城へ呼ぶ計画を練っていた。
扉前で、あの煩いリズムを繰り出していた、馬鹿大臣の気配も無く、ある意味休日である。
「女王陛下。至急、お伝えしたい事が御座いまして、お休み中のところ、失礼致します」
其処へ、この密室へとどうやって入って来たのか、影が姿を現した。
この影は、流の居場所を把握する為に尾行させていた、影の一人である。
「影自ら表にでてくるとは、珍しい事もあったものじゃな。いつもなら呼ばんと、出て来ん癖にのぅ。何の用じゃ?」
そう、この影はジアストールの暗部であり、女王となる前から、ルルシアヌに付き従っているが、呼ばないと出て来ず、呼んで命令した事が終わると、直ぐに居なくなる。
小さい頃に、一人が寂しくて呼んで見たが、命令が無ければ直ぐ居なくなる。
「はっ、報告させて頂きます」
孤児院の院長が、流に伝えた事。
ミルンが何者か。
あの場で影が見聞きした事全てを、女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは聞いた。
「矢張り、そうであったか……兄様と獣族の子供。私の姪、ミルンであるか」
あの正門で会った少女。
黄金に輝く眼を見た瞬間、なぜか愛おしくなり、後ろから抱き締めてしまった少女。
「……兄様っ」
感傷には浸れぬよ。儂は女王なのじゃから。
しかし、こうして話を聞いていると、意味が分からぬ事がある。
ミルンの母の事を、流は母さんと言った?
歳も合わぬし、見た目も違うのに?
「女王陛下。流さんより、言伝がございます」
「何を言ってきたのじゃ?」
影が珍しく、笑みを浮かべている。
そんなに楽しい事かの?
ふむふむ…………成程のぅ。
「中々に、面白い事を考えるな魔王め。良いじゃろう。孤児院の院長へ、儂からの言葉を伝えよ」
「畏まりました。直ぐにお伝え致します」
影はそう言うと頭を下げ、ゆっくりと扉に向かうと、ドバンッと開け放った。
「何をやっとるか影っ!?」
「陛下あああ──っ!! やっとっ、扉が開いたああああああああ──っ!!」
大臣が、待ってましたと言わんばかりに、書類の山を持って、寝室へと侵入して来た。
「謀ったなっ、影えええ────っ!?」
女王の束の間の休日が、終わりを告げた。




