12話 誰の後悔後先立たず.8
最後は野菜だな…まあ直ぐ隣だから凄く分かりやすいよね。だって肉と野菜はセットで頂く事が身体を作るのだからね。だからミルン、野菜から目を逸らしてはいけませんよ。
「あれ、肉屋さんもう閉めちゃうの?」
若い女性が野菜屋から顔を覗かせて疑問の顔をしながら聞いてきた。
「なんか色々あったので閉めるみたいですよ。すみません、葉物や果物が欲しいのですが?」
「うーん、色々ウチは揃ってるよ。葉物ならキャベ、レタ、ホウレが定番で、果物ならリン、ミカ、レモモ、イチガ、スイコ、ナバナやナッシ、あとはキノコ系かな」
うん…絶対俺より遥か先に誰かこの世界来ただろ季節感ゼロのレパートリじゃないか。
ふむふむ、薄いシートで覆って熱の魔法で温暖にね、はいはい分かってますよ。
まあ、誰かは知らないが有難うな。
「全部下さいな」
そう言って野菜屋も店を閉め、俺達はとりあえずの買い物を終えた。
俺の残金いくらだ?
金貨十四枚に銀貨九枚、銅貨九十五枚だな。
ミルンは金貨二百枚。
うん、ちょっと買い過ぎたかな。
それでもミルンさんはお金持ちですね。
「おとうさん、かいものおわり?」
「ああ、ちょっと王都周ってから帰ろうか」
ミルンが俺の肩の上で目を輝かせていた。
※
「糞っ冒険者ギルドめがっ!」
歩きながら悪態をつく神官ザルブ。
ザルブは焦っていた。スラムにある孤児院を襲撃して、魔王を殺せと冒険者ギルドへ依頼をする為向かったが、受付にて取り次ぐ間も無く断られ、ならばと次の場所へ向かっている最中である。
「冒険者ギルド如きが教会の命令を断るとは、なんたる不敬か! あの受付の奴も、冒険者ギルドも必ず教会が神罰を下して痛い目に遭わせてやる!」
だがその前に、魔王を何とかしなければ大司教様に殺されてしまうっ糞!! 何故この私がこの様な事をせねばならぬのか…ふぅ抑えろ私…ここか。
ザルブが魔王を殺す為に次に向かった場所、スラムの一角に居を構える謂わゆる闇ギルド。
拷問、暗殺、裏の人間の護衛から犯罪奴隷売買まで手広くこなす闇の集団である。
その闇ギルドの入口にいる門番に声をかける。
「おいっそこの! 私はアルテラ教の神官、ザルブである! 貴様らのボスに合わせろ、話がある!」
そこのと言われた女性はザルブを一瞥してから鼻で笑いーーー
「なんだお前、なぜ私達のボスに貴様の様な礼儀知らずの馬鹿を合わせなければならない? 紹介状も持たず、礼儀も知らず、なんだその上から目線の腐った顔は…帰れゴミが!」
ーーーと一蹴する。
ザルブは顔を真っ赤にさせてーーー
「ふざけるなわざわざこの私が出向いたのだぞさっさとボスを連れて来いこの雌豚が!!」
ーーー言いたい事をぶちまけた。
それを聞いた門番の女性の顔から感情が消え去り、腰からナイフを取り出す。それを見た神官ザルブが同じく剣を抜き、構えるが脚がすくみ、手が震え、最早産まれたてのマッスルホースである。
「死にな…ゴミッ」
そう言って一瞬にしてナイフがザルブの首を切断する間際ーーー
「何ぃしちょるか入口で…やめんかぃ邪魔じゃ」
ーーー門番の女性のナイフが止まる。
「ボス、お帰りなさいませ。少しお待ち下さい、このゴミを直ぐ処分致しますので」
ボスと呼ばれた男。
スキンヘッドに立派な顎ひげを蓄え、布地の衣装を身に纏い、腰には東洋に伝え聴く刀を挿して悠々と歩く姿は任侠の人。平たく言うとヤクザに見える。
「やめぃと儂が言うとるんじゃ…聞けんのか?」
圧が一体を支配する。
門番の女性も、神官ザルブも息が止まり、今一歩でも動けば間違い無く死ぬと言わしめる程の殺気。
「まあ、なんじゃぁ儂は今、機嫌いいけんの。そこの神官さん、中ぁ入って話し聞こか」
そう言うと圧が消え去り、二人共に肺に空気を必死で送り込む。
その姿をみて、ボスと呼ばれた男は「なさけなぃのうお前ら」と言い、ザルブの首根っこを掴み建物内へ入っていった。