14話 誰の後悔後先立たず.1
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アルテラ教神官、ザルブ・ポワードは、冒険者ギルドに依頼を出す事が出来ず、焦りに顔を歪ませていた。
「くそぉっ! 冒険者ギルドのあの女っ、事が終わったら覚えておれよっ」
冒険者を使えたならっ、確実にっ、問題無く魔王を滅っせたモノをっ!!
高ランクの冒険者であれば、たった一人で、魔物の集落を、殲滅出来る程の強さを持つ。
であるからこそっ、大金を払ってでも、依頼をすると言ったのにも関わらずっ。
「質は落ちるが……やむ得まいか」
この私が何故……っ、この様な事をせねばならぬのか。敬虔な信徒を導く立場である筈の、この私がだっ。
「……っ、行くしか無い」
王都で最も、治安の悪い場所。
子供でも知っている場所であり、遊び半分で入って仕舞えば、骨すら残らず解体、利用されると言われている、恐ろしい場所。
この王都の掃き溜め、スラム街。
情報屋から、スラムに存在すると言われる、とある組織の案内人を紹介して貰い、その案内人の後ろを、必死に付いて行く。
『旦那ぁ、あっしの後ろから、離れないで下さいねぇ。じゃないと……ひっひっひっ』
こうして、案内人を付けなければ、周囲に潜む者達に捕まり、文字通り、喰われてしまうであろう。
ここの者達は、人肉を喰らう。
喰える物なら、なんだって喰らうのだ。
「まっ、まだ着かぬのかっ」
『もう直ぐですよぉ。ほら旦那ぁ、あそこでさぁ。それじゃあっしは、失礼しやすねぇ』
「闇ギルドっ、おい待てまだっ……」
闇ギルドの者に取り次いで貰おうと、案内人を呼び止めたが、いつの間にか消えていた。
闇ギルド────王都に潜む、拷問、暗殺、裏の人間の護衛から、犯罪奴隷売買まで手広くこなす、犯罪者集団である。
「あの案内人……まあ良いっ」
幸いにも、闇ギルドの大きな門の前に、護衛なのか、女の姿が見える。教会の者だと伝えれば、ボスとやらに会うのも、容易かろう。
「おい、そのこ女。私はアルテラ教神官、ザルブ・ポワードである。貴様らのボスに繋げ、話があるのだ」
「……あんっ? フンッ、失せろゴミが」
「っ、私にゴミだと……っ、今直ぐに訂正するのならばっ、許してやるぞ」
「誰かからの紹介状は有るのか?」
「しょっ、そんな物有る訳無かろう!!」
女は、小馬鹿にした様な目をザルブに向け、腰にぶら下げている、ナイフの柄に手を添えながら、注意を促す。
「紹介状も無く、礼儀を欠く物に、何故わざわざボスが会わねばならない。死にたくなければ、今直ぐ立ち去れ」
ザルブは顔を真っ赤にさせ、髪を掻き毟り、地団駄を踏みながら、愚かにも、腰の剣を抜いてしまった。
「ふっふふ巫山戯るなっ!! わざわざこの私が出向いたのだぞっ、さっさとボスの所まで案内しろっ! この雌豚の家畜がぁっ!!」
それを聞いた女の顔から、感情が消え去り、腰からナイフを抜く。
「ここで剣を抜いて、五体満足で帰れるとは、思わぬ事だ。殺しはしないが、手足の一、二本は、覚悟して貰おう」
ザルブは、剣を持つ手を震えさせながら、前に進もうとするが、恐怖で足がすくみ、ただのカカシと化していた。
「先ずは右腕だ」
女が消えた。そう思った瞬間────『何ぃしちょるんじゃ入口でぇ……邪魔じゃぁ』
ザルブの腕を斬り落とす一撃が止まり、女は恭しく、声の主に頭を下げた。
「ボス、お帰りなさいませ。少しだけお待ち下さい。このゴミを、直ぐ処分致しますので」
ボスと呼ばれた、その男。
見事な坊主頭に、目付き鋭く、着物の様な衣装を身に纏う。腰には東洋に伝え聴く刀を携え、その悠々と歩く姿は、正に任侠の人。
「やめぃと、言うとるんじゃ。聞けんのか?」
圧が一体を支配する。
女も、神官ザルブも息が止まり、今一歩でも動けば、間違い無く死ぬと言わしめる程の、殺気。
「まあ、なんじゃぁ。儂は今、とても機嫌が良いけんのぉ。そこの神官さんの話だけでもぉ、入って聞こか?」
「かはっ、はっ、はっ、はぁ……ボスっ、この様な者に、宜しいのですか」
「構わんじゃろぉ。依頼を受けるかどうかぁ、聞いてからの話じゃけんのぉ」
圧が霧散した瞬間、ザルブは必死に、息をしようと胸を動かす。
「かひゅっ、かはぁっ!!」
「なんじゃぁ、情け無い男じゃなぁ。ほれっ、そこん神官さん。さっさと来んしゃい」
ボスと呼ばれた男は、ザルブの首根っこを掴み、そのまま建物へと入っていった。




