13話 ミルンと楽しくお買い物.6
お婆ちゃんのお洋服店を出て、次に向かうのは、ミルンお待ちかねっ、食材の買込みだ。
「ミルンっ! お肉屋さんの匂いを探すんだ!」
「おにくっ!」
ご飯は一日の活力だから、コレばかりは妥協したく無い。何より、ミルンが美味しく食べてくれるから、作るの楽しいの。
「スンスンッ、ぬぅぅぅっ」
ワンピースを着ているミルンを、よいしょと肩車して、スンスンと匂いを嗅いで、探す姿もマジ天使。
「おとうさん……あっち、すごいくさいの」
「臭い?」
「おはなつんつんするっ」
つんつんする臭いって何だ。ミルンお鼻押さえてるし、とりあえず行くか。
こうして歩いていると、また通行人が、ミルンをチラチラ見て来る。
今迄の、貶すような目線じゃ無くて、耳がピコピコ尻尾フリフリの姿が、可愛いからか?
「……視線がウザいっ」
下衆な視線混じってるし。そんな視線には、魔王の笑みをプレゼントっ!!
「くるっと顔向けっ、ニタァ……」
「おとうさん。なにしてる?」
上を見たら天使、下をみたら魔王の、天国と地獄のデュエットだぞぉ。
『ひっ、おい早く行くぞっ』
『待って貴方っ。あの獣族、何処で買えるのかしら……っ、こっち来たわ!?』
「おい逃げるなよ。そこの、紳士淑女の皆様。ミルン見てたよね? 待て待て逃げるな早歩きで逃げるなよぉぉぉっ」
「おとうさんっ! めっ!」
「御免よミルン。でもね、下衆な視線を向けて来た奴等は、しっかり目を潰さねばっ!」
ネリアニスさんや、洋服店のお婆ちゃんのお陰で、とても良い気分だったのに、台無しにされたら堪らんからな。
「においっ、つよくなってきたっ」
「確かに……あそこか」
流石にこの距離だと、俺でも分かる。
料理に必須だけど、入れ過ぎたら味が可笑しくなると言う、魔法の粉達。
「やっぱり香辛料か。これが有れば、ミルンの大好きお肉さんが、更に美味しくなるぞ」
「おいしくなる!」
「味の確認が先だけどね」
どんな香辛料か味を確かめないと、本当に大変な事になるからね。
『いらっさぃ、何かおさがすで?』
「この香辛料は、全部で幾らだ?」
この男……何言ってるんだコイツ?の目で、見てくるなよ。商売人だろうに。
「ぜんぶだと、百万ストールだぁ。一ストールもまけらんねぇげど、買えるのげ?」
「馬鹿にしているな……ほい金貨十枚」
『っ、ひぃっ!?』
金貨を渡したら驚かれて、物凄く怯えられてるんですけど、急にどうした?
『貴族さまですだかっ、すまねぇだ! 直ぐ用意じますのでぇっ、少しお待ちぐたせぇ!』
成程ね。金貨をポンっと渡したから、俺を貴族だと勘違いしたのか。
「大丈夫だぞ。俺は一般人だから、ゆっくり用意して貰っても大丈夫だ」
「おとうさんは、むしょくなの」
「ミルンさんや。無職って言われると、心にダメージを負うから、ニートで包もうね?」
「にーとのっ、おとうさん」
ニートのニートのお父さん、貴方の職業何ですか? 全然オブラートに包まれ無いぞ。
『お待たせじますた。馬車まではごびますのでぇ、どぢらでじょぅ?」
「馬車? そんなん無いぞ。『空間収納』に収めれば、簡単に運べるからな」
『ひぃっ!? 魔法使いざまですたか!?』
「そんな驚かんでも……有難うさん」
香辛料大量ゲットっ!
ミルンは鼻を押さえたままだけど、尻尾は元気に揺れてるから、機嫌は良い様だな。
「うしっ、次はお肉と野菜だな」
「おとうさん、匂いあっち!」
「流石ミルン。しっかり見付けていたのか」
香辛料の屋台の少し先に、肉屋を発見。
まごう事なき肉屋なんだけど、血塗れの豚野郎、二足歩行の牛、小さなコカトリスが描かれた看板……めっちゃシュール。
「やっぱり……今まで食べてたお肉、こいつらだったのか。ミルンがオーク見て『おにくっ』って言ってたもんなぁ」
「ここのおにくは、ミルンがかうの!」
竜巻を起こせるのではと思う勢いで、尻尾をグリングリンと回し、鼻息荒く眼が恐いですよミルンさん。
「分かったよ、ここの支払いは任せるから、斧から手を離しなさい」
「おじゃましまーす、お肉下さいなー」
元気良く店内に入るが、誰も居ない。
出かけてるのかと思ったが、奥からダンッダンッっと、鈍い音が聞こえて来る。
「すみませーん……来ないな」
「おにくっ! スンスンッ」
ミルンは、鼻をスンスンさせながら、店の奥に行っちゃった。呼びに行ったっぽいけど、勝手に行くのは、不味い気がする。
「ミルンっ、戻って来な……?」
奥へ行った筈のミルンが、可愛く転がってきた? なにその可愛い遊び。
「どうしたミルン?」
「こわいひとっ」
怖い人? やっぱ奥に、誰か居たのか?
『っ、おいっ、転がって逃げんな! 肉切ってる時に危ないだろがっ!』
凄い剣幕で、おっちゃんが出てきたぞ……何でそんなに怒ってるの?
「えーっと、うちのミルンが何かぁ?」
『あんっ! 兄ちゃんその子の保護者か!? ちゃんと見てねぇとっ、危ねぇだろうが!』
「すみませんっ……それで、ミルンが何か、粗相をしたのでしょうかぁ」
いつでも土下座に移行できる様っ、必殺の中腰になりながら、恐る恐る聞いてみる。
『ふぅっ。肉切ってる最中に、手を突っ込んで来たからな。危うく、その子の手も、斬るところだったぞっ……』
「申し訳御座いませんっ! お肉大好きケモ耳ミルンなんでっ! ほらっ、ミルンもちゃんと、御免なさいをしなさい!」
「ごめん…なさぃ……」
あぁ……泣きそうになってるけど、こればかりは、ミルンが悪いからな。
『ちゃんと謝れて、良い子じゃねぇか。俺も……声荒げて悪かったな』
そう言っておっちゃんは、ミルンに近付いてからその頭を、わしゃわしゃ撫でた。
「わぷっ……」
この人も、獣族とか気にしない良い人だな。ちゃんとした理由で怒ってくれてるし、ここの人達は、良い人ばかりなのか。
ルシィと門兵共は、許さんけどな。
「肉屋のおっちゃん。そのミルンが肉好きで、沢山買いに来たんだけど」
『おっ、客だったのか。ミルンお嬢ちゃんは、そんなに肉が好きか?』
「おにぐぅっ!!」
ミルンの尻尾が、またローリングしてるよ。
最早扇風機だなその尻尾。
『どんくれぇ肉欲しい?』
「ぜんぶくださいな!」
『ぜっ……んんっ?』
間髪入れず発した、ミルンの言葉に、肉屋のおっちゃんが考え始めたぞ。
ミルンは本気で言ってるからね?
『全部ってなると、金貨百五十枚になるが、流石に買えねぇだろ?』
肉屋一軒、一千五百万ストール。
ごめんね肉屋のおっちゃん。ミルン普通に、払えちゃうんですその金額。
「『空間収納』から、ほいミルン。自分で払うんだから、自分で渡しなさいな」
「ミルンのおかねっ。いちまいっ、にまいっ、さんまいっ、んしょっ」
「……ケモ耳幼女が、尻尾を振り振りしながら、地面にお金を並べて数えているっ」
可愛い過ぎて、鼻血が止まらないよね。
ミルンは小さいのに、お金を数えれる程、頭が良いケモ耳幼女だ。
「これでかえますか!」
『凄いなミルン嬢ちゃん! 確かにっ、金貨百五十枚だな。ははっ、今日は店仕舞いだ!』
「おにぐぅ! たくさんっ! おとうさんっ、いれておいてくださいっ!」
「はいよ。店一軒分……マジで買うとは」
肉の量凄いけど、空間収納に余裕で入るぞ。やっぱこのスキル、チートだな。
「総重量一トン以上の肉か。毎食焼肉パーティーしても、無くならないぞ……この量」
「おにぐぅっ、じゅるっ」
最後はお野菜だ。
直ぐ隣にお店があったから、そのまま横移動して、店舗に突入します。
「おやさいは、いりませんっ!」
「ミルンさんや。お野菜も食べないと、大事なお肉を出してあげないぞ?」
「おにくがっ、ひとじちっ!?」
そんなこんなで、お野菜も全部購入。
葉物、根菜、芋、果物と、怪しいキノコ類を買い占めて、お店を閉店さようなら。
季節感ガン無視の野菜達だったけど、どうやら温室っぽい場所で、栽培しているらしい。
これ絶対、異世界人、来てるよね?
誰かは知らないけど、感謝しておこう。
「残金は……金貨十四枚、銀貨九枚と、銅貨九十五枚か。うん、使い過ぎた」
ミルンの残金は、金貨二百枚。
二千万ストールって、お金持ちだよね。あの神官に、ちょっとは感謝しておこう。
「おとうさん、かいものおわり?」
「ああ。少し、王都を見てから帰ろうか」
「んしょっ、んしょっ、いくの!」
「ミルンっ、肩車セットインっ!」
のんびり見て、ゆっくり帰ろう。
仕事も探さなきゃだけど、今はミルンと全力で、楽しむ事が重要だからね。




