16話 王都アストール観光.3
2026/06/28 改稿
ミルンの簡単貨幣講座、はーじまーるよーと頭の中で思いつつ、冒険者ギルドの隅っこに移動して、ミルン先生に教わっています。
「ラクレル村のパンは、幾らだったのかって、ちゃんと覚えてる?」
「幾らって……値段なんて、書いてなかった筈だけど。どこかに書いてたのか?」
誰も居なくなったラクレル村で、色々と拝借した時に、見て回ってたけど──値段が書かれたモノなんて、なかった筈だ。
「ちゃんと書いてたの。パン一つ、百五十ストールで、銅貨一枚と石貨五枚なのっ」
「貨幣の単位は、ストールって言うのか」
ジアストール王国の、王都アストールで、お金の単位はストールとか、非常に覚えやすい。それに、貨幣の数え方も、分かりやすいな。
一の位はなく、十の位で石貨、百の位で銅貨ときたら、銀貨が千の位だろうか。
「ミルン先生。銅貨十枚だと、幾らになるんだ」
「それだと、銀貨一枚になるのっ。更に、銀貨十枚で、半金貨になるよ」
「ほうほう……半金貨? て事は、半金貨十枚だと、金貨になるって事か?」
「そうなのっ」
それを聞いてふと──目の前に積まれた、皮袋を見る。その皮袋をそっと開けると、眩いばかりの金貨が、みっちりと詰まっている。
「……」
「どうしたの?」
「……」
小さな皮袋が、俺の魔石を売った分。金貨二十五枚、二百五十万ストールが入っており、一気に小金持ちになりました。
問題は、ミルンの得た額の方だ。
金貨三百枚──三千万ストール。
もう一度言おう──三千万ストールだ。
「……」
「お父さん?」
俺と同じく、一文無しだったケモ耳幼女が、ほんの僅かな時間で、大金持ちになりました。効果付きの宝飾品を、売っただけでだ。
「……良かったなミルン。お肉屋さんのお肉を、全部買い占めても、問題ない程の大金だぞ」
「山ほど買うのっ! お父さんのスキルに入れておけば、腐らないっ!」
「うん、よく覚えているなぁ」
ミルンはどうやら、自分が得たお金が、どれほどのものかを、理解してはいないようだ。恐らくだが、肉屋一軒どころか、小さなミルン村を、興せるかも知れない程の──大金。
「このお金も、空間収納に、入れておいて下さいなっ。重たくて持てないもん」
そんな大金を、平然と預けてくるって……確かに、空間収納内に入れておけば、盗まれる心配もないけどさぁ。
「……色々と、買いに行くか」
「お肉を買うのっ!」
「ミルンはブレないねぇ」
そうして冒険者ギルドを後にし、お肉屋さんでミルンがお肉を買い占め、八百屋さんの野菜や果物も買い占め、最早ミルン無双。俺の空間収納スキルが、ミルンの私物を"認識"する程大量に、食べ物関係を買い漁った。
「お肉っ、お肉っ、たーくさーんお肉っ!」
そして現在──上機嫌なミルンを肩車しながら、ミルンに合いそうな服を求めて、王都をぶらぶらと散策しております。
「どうだミルン? 服屋さんは見えるか?」
「んーとね、見えないっ。けど……周りの人達が、ミルンを見ている気がするのっ」
「なんじゃそりゃ?」
ミルンのその言葉に、一度人混みから抜け出して、ジッと立ち止まり、耳を澄ませてみると、『珍しい毛色の獣族だな』、『奴隷制度が廃止されなければ、あの獣を飼えたのに』と、中々物騒な話し声が、聞こえてきた。
「ミルン、目を閉じてなさいな」
「なにするの?」
「良いから良いから」
肩の上のミルンが、可愛い手で目を隠した瞬間──満面の笑みを浮かべて、通行人達を見渡し、『ひっ、何よあの男っ』とご婦人方が、足早に逃げる程の"圧"を、振り撒いてやった。
「ふぅ……どうだミルン? 嫌な視線は、なくなったと思うんだけど、まだ感じるか?」
「なにしたの? 嫌な視線がなくなったっ」
「何をしたのかは、内緒だ──おっ? あれってもしかして、洋服店か?」
人混みが散ったからか、お店の外観がハッキリと見え、一枚ガラスの奥に、なにやら高そうなドレスが飾られている。
「一般的な服じゃあ、なさそうだけど……ケモ耳ミルンの、ふわふわドレス姿か」
「ドレス?」
ミルンはこの国の、正統な王家の血筋らしいし、ドレスの一着や二着は持っていた方が、良いのかも知れないなぁ。と言うのは建前で、俺がただ、ミルンのドレス姿が見たいだけ。
「ただそれだけなんだっ!」
「お父さんがまた可笑しくなったのっ!?」
「良しミルン。ドレスを買おう、そうしよう」
「そのお顔は気持ち悪いのっ!」
気持ち悪いと言われ、心に傷を負いながらも、お洋服店に向け一直線──そこまま扉に手をかけて、ワクワク気分でお店に入ると、「あらぁ、いらっしゃい。可愛い女の子ねぇ」と、異世界に来て幾度目かの、衝撃を受けた。
「なっ……マジかっ」
見るからに、美味しいクッキーを焼いてくれそうな、絵に描いた様なお婆ちゃんが、お店の奥の椅子に、ゆったりと座っていた。
「すんすんっ……んしょっ、んしょっ」
「どうしたミル────っ!?」
突然肩から降りたミルンが──お婆ちゃんに向かって行き、そのまま膝の上に乗って、丸まってしまった。
「あらぁ、今日はどうしたの?」
「良い匂い……お洋服下さいなぁ」
「ふふっ、買いに来てくれたのねぇ」
初対面の人に、あんなにも懐くミルンを見るのは、初めての事だ。しかも、膝の上に乗るとか……お婆ちゃんって、凄げぇ。
「貴方が、この子の保護……違うわねぇ、お父さんって感じだわぁ」
前言撤回っ。凄げぇを通り越して、怖ぇ。眼力と言うのか、人を見る目がヤバ過ぎる。
「……」
「ふふっ、警戒しなくても、大丈夫よぉ。人を見るのが趣味だから、何もしないわぁ」
「余計怖いなぁ……そのミルンに合うドレスを、買いに来たんだけど」
「あらあら、嬉しいわぁ。それなら先ずは、ミルンちゃんの寸法を、調べないとねぇ」
お婆ちゃんはそう言うと、膝の上で丸まっているミルンを見て──目の錯覚だろうか。椅子に座っていた筈のお婆ちゃんが、六人に分身したかのように見えた。
「……はっ?」
目を擦って確認すると──ミルンを膝に乗せたまま、お婆ちゃんは、椅子に座っている。
「そこのお父さん。この三着なら、ミルンちゃんに合うだろうから、着せてみるかい?」
「……いつ準備したの?」
「何か言ったかい? 歳なのか、耳が遠くなってしまってねぇ。もう一度、言っておくれ」
それは暗に、聞くんじゃないという、脅しなのだろうか……このお婆ちゃん、一体何者なんだよ。ただのお婆ちゃんじゃあないだろ。
「なんだかねぇ。このミルンちゃんの瞳を見ていると、幼い頃の、殿下を思い出すねぇ……」
このお婆ちゃん、王族の関係者なの? この国の殿下って事は、亡くなったミルンの、パパさんだよな。
「お婆ちゃん、あんた一体……いや、なんでもない。その服を見させてもらうよ」
「良いよ、見ておくれぇ」
殿下が、ミルンのパパが、亡くなっている事を知っているのは、俺、院長影さんに、女王であるあいつと、ミルンだけだ。ここで下手に口を開くと、不味い気がする。
「……っ、この服はっ!?」
テーブルの上には、ミルンサイズのお洋服が三着。そのどれもが見事な縫製で、職人技を感じる、正にオーダーメイドの逸品。
そして、今から始まるのは、着せ替えミルンの、オンリーファッションショー。
「腕を上げてねぇ」
「どうぞっ!」
お婆ちゃんの手により、ボロ着だったミルンの姿が、一瞬にして──変身した。
「……また残像出てんじゃん」
先ずは、ボーイッシュミルン。
男の子用のズボンに穴を開け、ミルンの尻尾が振り振りと、自由に回転出来る仕様。フワッ広がるシャツの袖口には、ヒラヒラの布が折り込まれ、女の子らしさも忘れない、見事な作りとなっている。
「これなら走れるのっ!」
次は、お姫様風ミルン。
薄いピンクの布地には、細かい模様が編み込まれ、その胸元には、可愛いリボンが付いている。腰からフワリと広がるそのスカートは、薄い布地が、緩やかな波を描いて、ミルンを優しく包んでいるかのようだ。これぞ、お姫様といえる、見事なドレスだろう。
「ふわふわぁ」
最後に、ワンピース姿のミルン。
ワンピースといえども、侮るなかれ。一枚布を細断して縫い合わせ、裏地にも同様の布を使い、軽やかな印象を与えつつも、耐久性と実用性を兼ね備えた、見事なお洋服。
そして、なにより……なによりもだ。ワンピースの背中の部分に、天使の羽根の装飾が施され、ケモ耳幼女の天使御降臨っ!!
「お父さんっ! ミルンに似合ってる?」
「似合ってるよ、ミルンっ……」
首を傾げるケモ耳天使ミルンの愛らしさと、可愛いお洋服の力が合わさればっ、俺はもう満足なんです全部買おうっ!!
「お婆ちゃん……全部下さいっ!!」
脳内がバグってくるよね。でもね、これは仕方のない事だと思うんだ。可愛いミルンには、可愛い服を着せたいもの。
「そうだねぇ。ドレスは少しだけ、高いけど、お金は大丈夫なのかい?」
「問題ない。多少高くても、払えるぞ」
「凄い笑顔だねぇ。それじゃあ少し、オマケして……五十万ストールかねぇ」
洋服三着で、金貨五枚のお値段です。
アレかな……もしかしてこのお店って、王族御用達とかいう、超高級な洋服店なのか?
「金貨五枚だな……丁度出すよ」
「有り難うねぇ。それじゃあ、お前さんの服は、サービスしてやるから、持ってお行き」
「あっ、俺の服忘れてたな……良いんですか?」
「構わないよ。持ってお行き」
物凄く優しい笑顔だ。これは……怖いと思ってしまった事を、反省しないとだな。
「それなら俺は、上着とズボンを貰うよ」
残るは──孤児院のケモ耳っ子達の服だけど、新品だと、気を遣いそうだから、綺麗な古着とかが、あれば良いんだけどなぁ。
「お婆ちゃん。ここって、古着とかあるかな。あったらそれも、買いたいんだけど」
そうお婆ちゃんに聞いてみると、「あっちの山になってる物を、持ってお行き」と指を差し、顔を向けて見ると、どう見ても新品。
「いや、あれって、どう見ても新品でしょ?」
「良いのよぁ。売れ残って、ずっと置いたままだからねぇ。持ってお行きなさいな」
「っ……有り難うな、お婆ちゃん」
このお婆ちゃんになら、見せても良いかと、空間収納に服を入れ、沢山の子供服を、手に入れる事が出来た。
「んしょっ、お買い物終わった?」
お婆ちゃんの膝から下りて、尻尾をふりふりとさせながら、ミルンが近付いて来た。どうやら帰る雰囲気を、察したようだ。
「ああ、終わったよ。それじゃあお婆ちゃん。また何か、買いに来るよ。有り難うな」
「また来るのっ。元気でいてねっ」
「はいはい、いつでもおいでねぇ」
俺とミルンは、再度お婆ちゃんにお礼を言い、服屋を後にした。もちろんっ、追加で金貨五枚を、テーブルに置いてな。
「あのお婆ちゃん、気付いてたよ?」
「……それでも良いさ」
ケモ耳に偏見がなく、ミルンがすぐに懐いた人になら、お礼はしっかりとするべきだ。金が出来たら、また買いに来ないとだな。
「どうだその服? 着心地は良いか?」
「むふふっ、可愛いのっ」
「気に入ったようで、良かったよ」
あとは、のんびりと観光でもして、暗くなる前にでも、孤児院に戻るとするか。




