16話 王都アストール観光.1
2026/06/28 改稿
ケモ耳っ子達と、焼肉パーティーをしたその二日後の朝──只今王都内を、観光中。この王都に来た、本来の目的は、ミルンと楽しく観光する為ですからね。
「……無事に大通りに出れて、マジ助かったぁ」
「すんすんっ、人が沢山っ」
「そうだね。ここまで人が多いと、朝の通勤時間に乗ってた、満員電車を思い出すよ」
「つうきん? でんしゃ?」
貧民街からこの通りまで、徒歩で来るという、ある意味冒険をしましたとも。出て行く時に、院長影さをんから道を教わり、『正面の扉を出て、このスラムから中心部への道を、お間違えのないように、お願い致します』なんて事を言われ、心臓バクバクで歩いてたんだぞ。
「ミルンがいなかったら、襲われてたかもな」
「何が?」
「いや、流石に貧民街の奴らも、斧を持ったケモ耳幼女が、怖いんだろうなって話だ」
ミルンを肩車して、孤児院の鉄の扉を潜ったら、ヤバい目をした奴らが、うろうろとしていたけど、ミルンが斧を握って、肩の上でワクワクしているのを見たら──逃げて行った。
それはもう、脱兎の如く逃げて行った。
「帰る時は、ミルンに任せて良いんだよな?」
「大丈夫っ。臭いのにも慣れたし、孤児院の匂いも覚えたから、ちゃんと帰れるの」
「そりゃ頼もしい」
ともあれ、観光する為には、金が要る。
元々リティナが、金を出してくれるって、約束だったけども、治療で儲けた金は、殆ど孤児院に入れてるらしいので、金をせびる訳にはいかなかった。
「さてさて、冒険者ギルドはどこだ?」
だからこそ、観光する為の資金作りに、まず向かうのは、冒険者ギルドという訳だ。
「お肉の匂いがするうぅぅぅっ、食べたいっ!」
「お金が手に入ってからな。院長影さんが言うには、俺の持ってるハイオークの魔石なら、相当な金になるって話だし」
「ミルンは、これを売るのっ」
ミルンは自慢げに、首にぶら下げているネックレスと、サイズの合ってない腕輪を外して、見せてきた。
「そういや、ずっと付けてたな。宝石みたいなのが付いてて、高そうな物だとは思うけど……それってどこで、手に入れたっけ?」
「ラクレル村で、禿げ頭から剥ぎ取ったやつ!」
「禿げ頭……あぁ、あの時の物か」
教会関係者の物にしては、金細工というか、凝った作りをしてるし、高く売れて欲しいな。
「で……ギルドの場所が分からん」
大通りの遥か先には、お城が二つも建ってるし、落ちているう◯ちに目を向けなければ、海外に旅行に来た気分を味わえる。しかし、肝心の冒険者ギルドが、見当たらない。
「人混みが邪魔過ぎるっ……」
「お父さん、あっちに冒険者がいるのっ。あのおっきな建物に、入って行ったよ」
「ナイスミルンっ。そのまま肩の上から、お父さんを誘導してくれ」
ミルンの視界は開けてるし、元々目が良い犬耳だから、案内役にはピッタリだ。
「あっちなのっ! お父さんゴーっ!」
「了解だっ! よっ、ほっ、通りまーす。はいはい、失礼しますよーっと」
片腕を前に出して、御免なさいポーズで、人混みを掻き分けて進む、必殺技だな。これならどんな人混みでも、突き進めるぞ。
「変な姿勢してるの。なんで?」
「この方が進めるからな。お父さんの居た世界だと、大半の人が使えるぞ」
「変なのっ」
そうして歩く事、二十分くらいか。剣と盾っぽいマークが描かれた、冒険者ギルドっぽい建物の前まで、到着した。
「これ……西洋建築か?」
「なあにそれ?」
石造りの外壁に、塗装された屋根。高さ的には、三階建てくらいだろうか。横幅も、周りの家の三倍はある、立派な建物だ。
「剣や槍を持つ人達が、出入りするとか、マジでファンタジーっぽい……感動モノだぁ」
「せいよいふうって、なあに?」
「俺の世界の、昔の建物っぽいって事だぞ」
「日本の?」
残念ながら、日本じゃあないんだ。この街並みといい、奥に聳え立つ城といい、どこからどうみても、中世っぽい雰囲気だし。
「浪漫を感じるのは、俺だけだろうか……」
「?」
「なんでもない。入るか」
「入るのっ」
そう言って、足を進めたのだが、扉の前でふと──嫌な想像をしてしまい、足が止まった。
異世界あるあるの展開だと、冒険者ギルドって、見慣れない奴が入ったら、絡まれたりするんじゃなかろうか。
「……急に入りたく、なくなってきたなぁ」
「駄目っ。お金がないと、お肉が買えないのっ」
「うん、分かってるんだけどね」
冒険者ギルドの他に、買取りをしてそうなお店はなかろうかと、周囲を見渡すが、沢山のお店はあれど、正直言って分からん。
あそこは、武器屋っぽいし、あそこは串焼き屋っぽい……ミルンの口から、涎が垂れてきてるのか、俺の頭が濡れている気がする。
「お父さん、ギルドに入るっ」
「それしかないか……良しっ、腹を括るぞ」
そう意気込み、ギィィィ──っと嫌な音を出す扉を押して、建物の中へと足を踏み入れる。
そして俺は──予想外の光景を、目にした。
「……えっ」
冒険者ギルドのイメージとしては、酒場っぽいカウンターに、丸いテーブルが幾つも置かれた、荒くれ共の溜まり場だろう。
「これが、冒険者ギルドなの?」
ミルンまでもが、可愛く首を傾げて、不思議そうな顔を、こっちに向けてくる。
そりゃそうだわ。だってね、仕切り板で区切られた、横長のカウンターで、ギルドの制服を着た女性が、「七十番の方どうぞーっ」と、どこかで聞いた事のある台詞を、言ってんだもん。
「……」
カウンターの前には、二十席以上の椅子が設置されており、そこに座っている、筋骨隆々な冒険者達は、騒ぐ事なく、何故か下を向いて、静かに座っている。
「なあ……ミルン」
「なあに?」
「ミルンは、冒険者ギルドに入るのって、初めてだよな? あれを見て、どう思う?」
あれとは、項垂れている冒険者達の事。
「お顔が死んでるのっ」
「だよな……」
この空気には、身に覚えがある。
日本での社畜人生の中で、たった一度だけ転職をした時に、お世話になった、あの場所だ。
「ある意味冒険者なのか」
「お父さんのお顔も、暗くなってるよっ」
「うん……ちょっと待っててくれ」
一度外に出て、深く息を吐き、笑顔で行き交う人々を眺めてから、ゆっくりと建物の中へと戻ってみる。
「……落差やばくね?」
「木札があるのっ! 取って良い?」
「木札? ……ああ、番号札か。なんか、変な絵が描いてるけど……まあ良いか」
ミルンは肩から飛び降りて、木札を手に取り、そのまま空いている席へと座って、辺りを見渡している。
「どっこいせっと。ミルンさんや。順番がくるまで、静かにして待っていような」
「静かに待つ……何かあそこ、煩いのっ」
「確かに。クレームとかか?」
一番右端の受付で、「高ランクの冒険者をっ、出せと言っておるのだっ! 貴様っ、教会に楯突く気かっ!」と、何やら騒がしい。
「異世界にも、あんなのが居るなんてな。ここまで聞こえてるし……煩せぇ」
自分の都合だけを、相手に押し付けて、冷静に断られ、逆ギレしちゃったとかか? ここからじゃあ、煩い奴の顔は見えないけど、ギルド嬢さんはキリッとしてるわ。
「その様な妄言で、御依頼を受ける訳には参りません。しかもこの御依頼、我々ギルドに犯罪の片棒を担げと? 丁重にお断り致します」
「貴様っ……教会に逆らうとどうなるか、分かっておるのだろうな。こんなギルドなど、いつでも潰せるのだぞ……」
脅迫しちゃってるよ。なんでああいった奴は、最終的に、脅す行為をするのだろうか。頭が悪いとしか、考えられない。
「当ギルドは、各国家に点在し、各国家の王、首領に認められ、どの国にも所属していない事は、ご存知で御座いますね」
「ぬぐっ、そっ、それがどうしたっ!」
「今のお言葉は、当ギルドへの干渉と判断致します。教会へ、異議申し立てを行いますので、予めお伝えいたします。では、お帰り下さい」
「なっ、きっ、貴様っ!!」
ほうほう。今の説明だと冒険者は、特定の国家に、属してはいなさそうだ。日雇い労働者っぽいのに、そこだけは冒険者なんだなぁ。
「糞っ! 覚えていろっ!」
席を立って、ぶつぶつ言いながら、早々と出て行くおっさんか……あれっ? どこかで見たような顔だけど、どこだったかなぁ。
「まあ良いや……ミルン? 何して……っ!?」
「まるまる、お禿げっ!」
横に座っている、ミルンを見たら、なぜかミルンの右隣に座っている、立派なスキンヘッドの頭を、ペチペチと平手打ちしています。
「ミルンっ、本当に何してんのっ!?」
「良い音鳴るのっ」
「本当だね、良い音……じゃないっ! すみませんっ、うちのミルンが粗相をしてっ!」
ミルンがペチペチと、頭を叩いている人は、傷だらけのスキンヘッドに、目が鋭く光り、角張った顔付きの、見た目が反社の人なんです。
分かり易く言うと、見た目がヤ◯ザ。
「いやぁ、構わんよ兄ちゃん。儂はこんな見た目じゃけぇ、子供から逃げられるんじゃぁ。珍しい体験じゃわい」
そりゃ逃げるだろうよ。などとは、口が裂けても言えない。言える訳がない。
「なんじゃぁ、何か言うたかのぅ?」
「気の所為です。お構いなくっ」
見た目と口調は、ヤ◯ザそのモノなのに、言ってる事は普通とか、もしかして良い人?
「もっと鳴る筈っ!」
ミルンの強烈な一撃に、ペチィッ──とヤ◯ザ顔の人の頭から、エグい音が鳴り響いた。
本当に、生きた心地がしませんよ。
「ミルンっ! いい加減にしなさいっ!」
「うぅっ……怒らないでっ」
「カカッ! 面白い二人やのぅ。"得体の知れん"兄ちゃんに、獣族の子供とはなぁ」
ミルンに頭を叩かれても、笑顔のまま──いや普通に怖い。笑顔が笑顔に見えないとか、どれだけ人相が悪いんだよ。
「八十二番の方、どうぞーっ」
「おっ儂やのぉ。どっこいせっ……じゃあな兄ちゃん。獣族のお嬢ちゃんもぉ、短い時間やったがぁ、楽しかったけぇの」
「本当にっ、すみませんでしたっ!」
「構わん言うとるじゃろぉに。ほいじゃぁの」
ヤ◯ザ顔の人が、受付に歩いて行った。
歩き方まで、任侠の人っぽいんだけど、あの風体で冒険者なのか。どう見ても、裏を取り仕切っている、親分的な人だろうに。
「禿げ行ったの……つまんないっ」
「ミルン。もし次……知らない人の頭を叩いたら、お肉をなしにするからな」
「そっ、それは嫌っ! 叩かないのっ!」




