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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女の居る世界

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15話 ザルブ・ポワードの苦悩


 2026/06/28 改稿



 唯一神、美の女神アルテラ。

 その神を、信奉する者達が集う場所こそ、前国王バハス・ゲイ・ジアストールが認めた、ジアストール王国内にて、絶大な権力を有する、アルテラ教である。

 私が幼い時は、王都の片隅に、ひっそりと佇む教会があるだけで、権力などとは無縁の、小さな教団であった。

 月日が経つにつれ、その規模は拡大し、前国王が王座に就かれてからは、一気にその勢力を拡大して、今や巨大な大聖堂が、王城に並び建つ程に、権力を握るまでになった。


 私は憧れた。

 平民出の司祭に、貴族共が恭しく頭を下げ、時には平伏させるその姿に、私は憧れたのだ。

 だからこそ私は、休まず、寝ず、血反吐を吐きながらも、ただがむしゃらに働き続け、入信する為の"金"を貯めた。

 勿論、金はなくとも、入信は出来る。が、それはあくまでも、"教徒"としての入信だ。

 金を積まねば、教徒で一生を終えるのだ。

 そんなのは、我慢ならなかった。

 

 金を積み、三十歳で入信を果たし、普通ならば五年かかるところを、僅か二年という短い期間を経て、ただの教徒から見習い神官へと、なる事が出来た。

 三十二歳で、見習い神官。

 決して若くはない。が、コネもなく、ただの平民がこの歳で、見習い神官なのだ。快挙と言っても、間違いではなかった。

 本来ならば、そこから十年をかけて、神官となるところを、同じ立場の者を蹴落とし、罠に嵌め、上役に媚びを売り、金を握らせて、私は三十八歳という異例の若さで、司祭補佐である神官へと、なったのである。


 代償は、歳に見合わぬ頭であろう。三十八という若さにも関わらず、私の毛根は、度重なる極度の重圧に耐え切れず──死滅していた。

 分かっていた事だ。

 朝目が覚めると、枕元には大量の抜け毛。

 鏡を見ると、徐々に生え際が後退していき、遠からず私の髪が、終わるだろうと、予想はしていたのだ。


 ジアストール王国内のどこかに、髪を生やすとされる、固有スキルを持つ者が居ると、噂されており、私が権力を握った暁には、その者を探し出し、必ずやこの頭を、復活させてやる。

 そう心に誓い、今は気にしない事にした。

 いや、目を逸らしたのだ。

 失ったモノは、戻らないのだから。


 そうして、私より下の者を踏み付け、上がってこれないように、策を弄し、私に賛同する者達を優遇するなどして、日々を過ごしていた、そんな時──大司教様に呼び付けられた。

 そして、告げられた言葉。


 この王都から、馬車で二日程の距離にある、ラクレル村に、神が奇跡をお示しになられた。光の柱が──落ちたのだと。


 そのラクレル村は、村民達を襲い、蹂躙した、魔王に占領されており、どのような手段を用いても、その魔王から、神降りた地であるラクレル村を、取り戻さねばならぬ。


 話を聞いても、意味が分からなかった。

 確かに、ラクレル村から避難して来た者達は、酷い有様ではあったが、それを何故私に、告げるのだろうかと、理解出来なかった。


 大司教様は、『私のスキル──神の審判を込めた、この箱を使うと良い』と、私に宝石箱のような物を渡して、再度告げた。


『あの聖女が、どうやら向かうようだから、それに同行したまえ。決して聖女に、悟られるでないよ? 護衛として、付いて行くんだから』


 あの聖女とは、聖女リティナの事だろう。

 傷を癒すという、稀有なスキルを持つが故に、アルテラ教から聖女認定を受けた、生意気な貧民街の出の者。そして──アルテラ教の意向に、従わぬ者。


 厄介だと思った。

 大司教様直々の命令に加えて、聖女自らが動くといった異例の事態に、いつの間にか私も、巻き込まれていた。


 しかし、もしも大司教様が仰られた、神降りた地を、手に入れる事に成功すれば、その勢いのままに、司祭、大司祭へと、上がるのではなからろうかと思い、気を入れ直した。


 そして直ぐに、知る事となった。その考えが──間違いであったと。


 聖女一行と共に、部下の二人を引き連れて、ラクレル村へと、向かったのだ。

 魔王の容姿は、ラクレル村から避難して来た者達から、細やかに聞いていた。その魔王に、大司教様から賜った、この箱を開けさせて、そのまま始末する。

 とても簡単な事だ。

 媚びへつらい、五体投地の勢いで、魔王へと歩み寄り、献上品だと偽って箱を手渡し、そのまま開けさせるだけ。

 そして──その時が来た。

 魔王とやらに箱を開けさせ、その箱から眩いばかりの光が溢れ──魔王を消す事に、成功したのだと、勝鬨をあげた。

 二人の部下と、声をあげたのだ。


 その瞬間、オーガと見紛う程の、筋骨隆々の大男が現れ、魔王は、「お帰り──っ、村長」と傷一つなく言い放ち、一瞬にして、頭の中が混乱に陥った。


「「「えっ?」」」


 私と部下二人が、魔王を凝視した。


「むっ?」


 大男の視線が、我々に向けられた。


「おっ?」


 魔王はその大男を、まじまじと見ている。


「くわぁあああむにゃむゅ、何してるのぉ」


 魔王の側に居る、獣族の子供が、大きな欠伸をして、意味が分からない状況であった。そして、この状況に、耐え切れなかった部下の一人が、おもむろに剣を抜き放ち、大男へと向かって行ったのである。


 そして──瞬く間に制圧されてしまった。

 魔王にではなく、突然現れた大男に、アルテラ教の神官である私が、ボコボコにされて、しまったのである。


 獣族の子供に、貴重な宝飾品を剥ぎ取られ、ローブだけとなった我々は、縄でギチギチに縛られたまま、聖女のもとへと、まるで物のように、運ばれてしまった。

 処刑されてしまうのか。

 魔王の拷問が、始まるのだろうか。

 恐怖に怯え、木に括られた状態で、聖女が馬車から出て来るのを、ジッと待っていると──何故かその馬車が、行ってしまった。魔王を乗せたまま、行ってしまったのである。


 我々は、縛られたまま。

 まさか我らの存在を、忘れたなんて事は、あるまいなと──悩んでしまったが、このままここに居ると、非常に不味い。


 ラクレル村には、誰も居ない。となると、こういった場所には、魔物が寄って来やすくなり、括られたままでは、逃げる事が出来ない。

 部下なぞどうでも良い。私だけでも逃げなければと、必死にもがき続け──遠くから、ゴブリン共の叫び声が響いて来た。




 一人の部下が──ゴブリンに喰われた。

 縄が緩み、抜け出して、もう一人の部下と共に、必死になって駆け出した。

 ゴブリンが追って来る。

 一対一ならば敵ではないが、見える範囲だけでも、十体以上は確認出来る。だからこそ私は、もう一人の部下を蹴り飛ばし──そのまま村の外へと、駆けて行った。

 遠くから、私の名を叫ぶ声と共に、骨が砕かれ、肉が裂ける音が、響いてきた。

 私は──走りながらも、耳を塞いだ。


 王都までは、馬車で一日二日の距離。徒歩であれば、四日五日というところだ。だからこそ、私は走り続けた。

 聖女と魔王が、行動を共にしている。魔王を消す事には、失敗したが、この情報を大司教様へ、お伝えしなければならない。でなければ、司祭に上がるどころか、今の神官としての地位でさえ、危うくなってしまう。

 その一心で走り続ける事──三日目の夜。

 息も絶え絶えに、王都アストールへと到着し、門兵から水を奪って喉を潤し、そのまま大聖堂へと、走って行った。


「いっ、以上がっ、報告っ、となります」


「ふむぅ。私の神の審判が、通じなかったというは、本当なのかぁ……ザルブ?」


「さっ、左様に御座いますっ!」


 アルテラ教の大聖堂の奥に位置する、アルテラ像の前から、跪く私を見下ろすお方──大司教オーグド・ディムニ。

 脂塗れの顔、デカい鼻、肥え太った体と、外で出遭ったならば、間違いなくオークと間違われ、冒険者に襲われるであろう、見た目。


「そうかぁそうかぁ。ならば、他の手段でもって、確実に滅したであろうなぁ?」


「っ……めっ、滅する事叶わずっ……」


「んんーっ、ザルブやぁ。何と言ったぁ?」


 しかし、見た目がオークであったとしても、この大司教様は、アルテラ教で絶大な権力を有する者の一人。言葉を違えれば、私の教会内での地位は、間違いなく終わるであろう。


「もっ、申し訳御座いませんっ! なっ、なな何卒っ、大司教様のお慈悲をっ!!」


 だが私には、これがある。額を床に擦り付けてでも、構わないという信念があるのだ。このまま終わってなるものかっ。


「魔王は一人であろう? わざわざ聖女の護衛にと、私自ら、推薦したというのになぁ」


「っ、じゃっ邪魔が入りっ、打ち取れなかったのです……あの者さえ居なければっ!!」


「魔王の動向は、追っているのだよねぇ?」


「勿論ですっ! 門の兵を問い詰めましたところ、この王都に入っており、聖女と共に行動しているとの、情報を得ておりますっ!」


 このまま話を有耶無耶にすれば、私は今のまま、神官のままでいられる。この失態が忘れられた頃にでも、また上を目指せば良い。


「聖女リティナと、同行かぁ……彼奴め、神の意向を無視するかぁ……ふむぅ、確か貧民街が、彼奴の住処であったなぁ」


「さっ、左様に御座いますっ……」

 

「ならばぁ、貧民街のゴミ諸共、纏めて燃やして仕舞えば、全てが収まるなぁ」


「……はっ?」


 大司教様は、今何と……仰られた?


「ザルブ。ゴミはね、燃やさないと、ずっと溜まるいっぽうなんだよ。分かるかなぁ?」


「いやっ、えっ、それは……っ」


「だからぁ、ゴミを燃やすだけだよ。この意味を、君なら分かるよねぇ?」


 息が──詰まり、声が出ない。

 目の前に居る、あの大司教様が、一体何を仰られているのかが、理解出来ない。


「すっ、枢機卿様や、教皇様はっ……この事をご存知なのですかっ」


 私の口から漏れ出た言葉は、今までの私からでは、想像も出来ない言葉だった。


「お二方は遠方に、視察に行かれてるからね。この件は、知らないだろうけど……それがどうかしたのかい、ザルブ・ポワード」


 背筋が凍るかと思う程の──視線。

 私は結局、従うしかないのだ。

 今この王都に、大司教様以上のお方が居ない以上、私には、どうする事も出来ない。


「頼んだよ、ザルブ」


 私はどこで、道を違えたのだろうか。



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