14話 ここがオアシスパラダイス.2
2026/06/28 改稿
ミルンを肩車して、さっきまでのしんみりとした空気を、少しでも和らげる。
「ミルン。ちゃんと皆に、挨拶するんだぞ」
「ムフーっ、ちゃんと力を示すのっ!」
鼻息荒く、やる気満々なんですけど、ここのボスに成ろうとしてませんか? 喧嘩なんてしたら、必殺っ、お遊び強制終了を発動させて、お布団に寝かせよう。
「んで、村長はどこだ……?」
そんな事を考えながら、歩いていると、『ふはははっ! そうであるっ! その腕をぐるっと回してっ、良いぞ子供達っ!』と、筋肉村長の声が聞こえてきた。
「何して遊んでんだ?」
「早く行くのっ!」
正面の広場に到着した。到着したんだけど、そこに広がる光景に、俺はドン引きした。
「さあ次は、腕を上げて肩の筋肉を膨らませたポーズからのおおおおおおっ、笑顔!!」
「ぽーずからのっ、えがお!」
「ふんぬぅ……笑顔っ!」
「むーんっ、ニコッ!」
「ぬうううえがお!」
「はあああっ、えがお!」
「むずかしいっ、えがお!?」
「きんにくぅ! きんにくぅぅぅっ、えがお!」
「わたちはきんにくむすめになるっ、えがお!」
小さなケモ耳っ子達が、まるで筋肉に洗脳されているかの如く、村長とタイミングを合わせて、見事なマッスルポーズを、披露している。
「良いぞっ、良い笑顔であるっ! 次はそのポーズからっ、回してぇぇぇっ、笑顔!!」
「おい……筋肉村長?」
村長の背後から、声をかけてみるが、気付いていないのか、まったく反応がない。
「回してえええ笑顔っ!」
「まわしてえがお!」
「ぬーんっ、えがお!」
「まわしてっ、えがお!」
「はああああっ、えがお!」
「こうっ、えがお!」
「きんにくううううっ、えがお!」(覚醒した)
「わたちはまけないいえがお」(ハム歯が光った)
可愛いケモ耳っ子達なのに、悪夢の光景。純粋な心が、筋肉に汚染されていやがる。
「おいこらっ! ヘラクレス筋肉馬鹿村長っ!」
「むぅっ、流君か。ここの子供達は、覚えが早くて、教え甲斐があるのである。子供達っ! 流君とミルン君が来たぞ!!」
ケモ耳っ子達が、一斉にぐりんっ──と首をこっちに回し、その瞳がもう、手遅れだと思わせる程に、筋肉に満ちていた。
「「「まわしてぇぇぇぇぇぇっ、笑顔っ!!」」」
「怖すぎるわっ!?」
「皆のお目々がっ、怖いのっ!?」
輝く白い歯を見せ、一斉に動きを合わせたポージング。その内の一人は、何かオーラみたいなモノを放ち、ハム耳の子は、ハム歯が光り輝いて……何かに覚醒でもしたのだろうか。
「良いぞっ! その笑顔が素晴らしい!!」
「ミルン……準備は良いか?」
「じゅんびよしっ!」
「さあっ! 次は────」
「止めんか筋肉お馬鹿っ!!」
スパァァァンッ──と、良い音が出る程の力で、村長の後頭部を殴り付け、ミルンも、肩の上から手を伸ばし、「届かないのっ」と頑張って村長を、叩こうとしている。
「何をするのかね……流君」
「ケモ耳っ子達を、ゴリマッチョにする気か?」
「気持ち悪いのっ!」
幼い子には、筋肉は悪影響です。
村長の肩の上に、ミウちゃんが居るんだけど、『きんにくっ、きんにくっ』て口遊みながら、上腕二頭筋を鍛えてるんだぞ。
可愛いケモ耳が、シックスパックでムキムキになった事を想像するだけで、俺の精神が砕かれてしまいそうになる。
「遊ぶのなら、もっと別の方法があるだろ」
「うむぅ……何をする気かね」
という訳で、人気者の村長には逃げ回ってもらい、本能剥き出しのケモ耳っ子達による、鬼ごっこをしております。
鬼は勿論、ケモ耳子達。
逃げ回るのは、筋肉村長ただ一人。
「流君っ! 止めさせたまえっ!」
「筋肉が逃げたぞっ!」
「まわりこめっ、そこおおお──っ!」
「ぬぐっ!? 危ないのであるっ!」
惜しいっ、あと少しで、村長の股間にクリーンヒットしてたのに、ギリギリで避けられた。
「ミルンがっ、ミルンが潰すのっ! あの時のっ、お礼参りなのおおおおおおっ!!」
ラクレル村で、村長にボコボコにされた時の、お礼参りという事だろう。ミルンの目が、本気の狩人になってるよ。
「お礼参りって言葉、よく知ってるなぁ……絶対母さんに、教わっただろ」
博識で、更に魔物を狩るケモ耳とか、考えるバーサーカーと言っても、過言じゃない。
「ミルン君っ、目が本気なのだがっ!?」
「死ぬのおおおおおおっ!」
棍棒がブウンッッッ──と、凄い音を出しながら、村長を襲うが、流石元騎士団副団長。ギリギリまで引きつけて、しっかり避けてるわ。
「危っ! 潰す気満々であるなっ!」
でも、そっちに避けたら、他のケモ耳っ子達が、突撃姿勢で狙っているぞ。
「きんにくうううううっ、ふぁいっ!!」
「ぬぅっ!? こっ、この力はなんなのだっ!」
特に──覚醒者のあの子がな。
上手い感じに、背後から村長を押さえて、意味が分からない力を、発揮している。
あんなに小さいのに、村長の動きを止めるとか、凄いを通り越して、普通に恐ろしい。
「わたちがどどめをさすのおおお──っ!!」
一番小さなハム耳が、下から行った。
「やらせないっ。このおじちゃんは、ミウのものだから、たたいちゃだめっ!!」
ミウちゃんという犬耳が、村長から飛び降りて、援護し始めたって、物凄く気に入られてるじゃん……羨ましいんだけど。
「この時をまっていたっ!」
おっ、一番小さな子の後ろからっ、角っ子が飛び出して来たっ! 今だ角っ子っ! そのまま村長の股間を──叩き潰してしまえっ!
「ふっ、ふはははっ! 甘いぞ子供達よっ!」
角っ子の一撃が、村長の股間を捉え、見事に砕くかと思われたその時、村長が淡く輝いた。
「あれって……っ、まさかスキルか?」
防御特化スキル──輝く身体。その場でポージングを行い、動かない限り、防御力を向上させるという、ある意味でチートなスキルらしいが、子供の遊びに使うなよ。
「「「はんそくだ──っ!?」」」
「村長……それは、大人げないと思う」
ミルンは諦めず、村長の股間を、ひたすら殴打しているけど……後で手を洗わせよう。
残念ながら、村長の股間撲滅パンチは失敗したが、お陰でケモ耳っ子達と、仲良くなる事が出来た。そんな充実した時間を、過ごしていたら、知らぬ間に夜となり、『ご飯だよ。皆んなっ、食堂に集まれーっ』と、影さんの号令がかかり、一斉に移動。
「元気に走って行ったなぁ……お手伝いか?」
「お手伝い?」
「そうだぞミルン。俺達も何か手伝わないと、働かざる者、食うべからずだ」
「働きますっ!」
そうして、建物の中に入ると、門番である筈のリスタとアジュが、普通に座っていた。夜なのに、見張りはどうしたのだろうか。
「おいおい、二人してさぼりか?」
「違いますよ。門番のお手伝いは、夜までなんです。本職は冒険者ですからね」
「へぇーっ、冒険者なのか。門番が手伝いって事は、やっぱり二人も、ここの出なのか?」
「そうですよ。僕もアジュも、この孤児院の出です。家は別で借りていますので、食事を頂いたら、そのまま帰りますよ」
リスタの説明は、物凄く分かりやすいな。
「この孤児院は、実家だな。偶にこうして、見回りに来ねぇと、変な奴らがガキ共を狙って、突っ込んで来るからよ」
アジュはやっぱり、口は悪いが、弟分妹分を心配する、良いお兄ちゃんって感じだな。
「突っ込んで来るって、貧民街の人がか?」
「そうだ。獣族のガキ、特に羽人なんかは、羽根を毟られて……っと、ここで言う事じゃねぇな。今のは忘れてくれ」
「忘れろって、言われてもなぁ」
リスタもアジュも、家族想いの良い奴らだ。二人共、角も羽根もない、ただの人なのに、獣族への偏見もなく、しっかりとお兄ちゃんをしてるとか……やっぱり、育つ環境が大事だな。
「んで……肝心の夕飯が、これかぁ」
野菜屑のスープに、豆、芋、屑肉と、どこぞこ精進料理かと思うほど、質素な夕飯。しかしこの食事を見ても、誰も文句を言わないのは、コレが当たり前って事だ。
「……流石になぁ」
ミルンがご飯見て、しょんぼりと尻尾を垂らしながら、「これ、おにく?」と、悲しみの視線を、俺に向けてくるんだ。
「なあ影さん……ここの孤児院の運営って、結構ヤバい感じなのか?」
「っ……」
顔を逸らされた。これは、聞いちゃ不味かったかな。物凄く、暗い顔をしちゃってるし、そんなにお金がないのか。
「……誤魔化せないですね。子供達には、お腹いっぱい食べさせて、あげたいのですが」
「資金不足って事?」
「はい。国からの援助も、年々減っており、"私の貯え"も、残り僅かなのです」
「孤児院の運営にっ、私財を使ってるのかよ」
あの女王っ……こういった場所の援助を減らすとか、何を考えてやがる。炊き出しとやらで、大人の腹を満たさせる前に、子供の飢えをなくせっての。
「チッ……やらない善より、やる偽善か。こればかりは、見過ごせないな……」
ご飯なら、今の俺でもどうにか出来る。ラクレル村から拝借した、肉屋一軒分と、八百屋一軒分の物資を、"空間収納"に入れてますから。
問題は、渡す為の名目だ。
拝借した物を、渡しました。
盗んだ物だろ。
犯罪です。
以上、物凄く怒られます。とならない為に、ラクレル村の村長である、ヘラクレスの協力が必須だろうな。
「うしっ、院長影さん、村長。少し話があるから、こっちに来てくれないか」
「どうかなさいましたか?」
「何だね流君?」
「良いから、外で話があるんだっての」
無理矢理二人を、外へと誘導して直ぐに、『空間収納』から、大量の肉の塊と、大量の野菜根菜芋等々を、ぶち撒けました。
「「……んっ?」」
「そんな訳で影さん。この筋肉村長からの、贈り物だ。受け取ってくれ」
「「……えっ?」」
「二人共、動きが揃ってるぞ」
村長、院長影さん共に、食材と俺を交互に見て、何がなんだか、分からない顔をしている。中々面白い光景です。
「流君……君が、規格外のスキルを持っているのは、知っておるが、この量の食材を持っておるとは……それをなぜ、私からの贈り物だと?」
「だってこの食材、ラクレル村のだからな。村長からの贈り物と言っても、間違いないだろ」
「流君……っ、歯は大事かね?」
これ、ガチギレしてね? 村長の顔面に、血管がビキビキと浮かんでるんだけど、このままだとボコボコにされるかも。
「なあ村長……あのまま村に置いていたら、肉や野菜は腐ってしまって、無駄になるだろ? でも、俺の空間収納内なら、その心配はない」
「……それで?」
「だからこっそりと、村長に黙ったまま、有り難く頂戴してました……っ、御免なさい顔近いその拳骨を収めろ止めろっ!?」
握った拳にも、血管が浮き出てるとか、拳にまで筋肉が付いてるのって、可笑しくね?
「あの野営地で食べた食材も、そうなのかね?」
「ああ……悪かった。でも、腐らせんのは勿体ないし、ここのケモ耳っ子達に、贈れるんだから、良い使い道だろ?」
「流君、君と言う者は……」
村長は、少し項垂れた後、俺の笑顔を見て諦めたのか、疲れた声で了承した。
「影殿……私からの支援品である。ここの子供達に、お腹いっぱい、食べて貰って欲しい」
院長影さんは、村長に対して、深く頭を下げ、「ヘラクレス様……感謝申し上げます」と、泣きそうな顔で、御礼を伝えていた。
「うんうん。俺の行為もうやむやになったし、ケモ耳っ子達も喜ぶし、Win-Winだな!!」
「流君……もうっ、隠し事はないだろうねっ」
「もうないって……っ、その笑顔止めろよ! 恐い恐い顔面近付けて来んなっ!?」
村長の顔面は、圧力が強いんだよ……俺の空間収納見ても、もうないよな?
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「あっ、貞操帯の鍵……返してなかった」




