14話 ここがオアシスパラダイス.1
2026/06/28 改稿
目から涙が溢れ、鼻水を垂れ流し、膝の上でぷるぷる震えるミルンを、力強く抱きしめる。
「ぐぅぅぅ、ズズッ、うぅぅぅっ……」
今の俺の顔は、どうなっているのか。
ミルンの話を聞いた瞬間、涙腺が崩壊し、視界がボヤけ、盛大に泣いてしまった。
「おっ……お父さんのお顔がっ、面白いのっ」
どうやら、ミルンが震えている理由は、悲しいのではなくて、俺の顔が面白過ぎて、震えているらしい……そんなに面白いの?
「ミルン様。殿下とっ……由香里の最後を聞かせて頂き、感謝申し上げます」
「別に良いよ。パパもママも、ミルンの中で生きてるもん。それと、様は要らないのっ」
「しかし……いえ、そうですね。では、ミルンさんとお呼びしても、宜しいでしょうか」
「"さん"も要らないのに……」
ミルンの話を聞いて、思う事──やっばりミルンのママは、俺の母さんで間違いない。
記憶がハッキリしなかったのか、それとも、最後に前世を思い出したのか……どちらにしても、ミルンを全力で守った、素晴らしい親だ。
「前世では、暴漢に殺されて、奴隷転生して、ミルンを守って……か」
どこまでリシュエルが、関与しているのか。いくら考えても、情報が足りなさ過ぎて、分からない事だらけだ。
「んっ? んんっ? ミルンは、元王子の娘……なんだよな。て事は王族の正当な血筋……」
前王子の妹が、今のあの女王。んで、ミルンは前王子の娘だから──女王の姪っ子? マジもんの王族? ケモ耳お姫様っ。
「どうしたの、お父さん?」
「ミルン……世が世なら、ミルンは今頃、お城のお姫様なのかぁって、思ってね」
ケモ耳王女様とか、最高過ぎる。もしもそうなっていたら、ミルンと出逢う事が、出来なかったかも知れないけど、見てみたかったなぁ。
「流さん。実を申しますと、前王太子の反逆行為は、表に出ておりません。ですので、今のミルンさんは……」
「えっ? 影さん……その話、マジ?」
「事実です。ルルシアヌ女王陛下が、"暗部を総動員"して、握り潰しましたので……」
なんでこのエルフさんは、そんな話を知っているのだろうか。まるで"当事者"の様な、話ぶりだけど……影って名前、暗部っぽいよね。
「言っておくおが、ミルンが望まない限り、あの女王に引き渡すなんて事は、しないからな」
「勿論に御座います。由香里の子を、政争の渦中に放り込む真似は、望みませんので」
「女王に命令されてもか?」
「私の主は、今は亡き殿下に御座います。万が一ルルシアヌ女王陛下が、粗相をしようものならば……"元暗部の長"として、対処致します」
うん、今絶対に、聞いちゃ不味い事を、しれっと言い放たれたよね。わざと言った? 俺を逃すまいと、わざと言ったのかなぁ。
「……今絶対に、逃げ道塞いだだろ」
「そのような事は、御座いません。私の立場を明確に示す為、敢えて口に出しました」
「あんぶって、なあに?」
ほらぁ……ミルンが興味を持っちゃったよ。
「どう答えるべきか……暗部っていうのは、商店の裏方さんで、表に出ない人……かな?」
「うらかたさん? 分かんないっ」
「今はそれで、納得して下さいっ」
何でも良いから、答えを言わないと、延々と聞いてくるのが、ケモ耳幼女のミルンです。
子供のなあに攻撃は、本当に大変だよ。
「ふふっ……本当に、親子のようですね」
「ミルンは俺の娘だが?」
「お父さんの娘なのっ」
「そうですね、失礼致しました。という事ですので、そこに居る"影"……女王陛下へ、私の立ち位置も含めて、報告なさい」
影さんは何故か、俺の後ろに視線を移し、自分の名前を言ったんだけど、後ろ? と気になったので、ミルンと一緒に振り向いてみた。
「……誰っ!?」
「あなたはだあれっ!?」
いつの間にか、俺達の背後には、影さんと同じ黒外套を羽織った人が、立っていた。
「お久しぶりです、影。随分と痩せられたようですが、感覚は衰えておりませんね」
「これでも、元長で御座いますので。そんな事よりも、今の話を違う事なく、陛下へお伝えなさい。これは──命令です」
「しかと陛下へ、お伝え致します」
元暗部の長が、現暗部に命令とか、物凄くピリピリしてるんですけど……空気が重い。
「では影、いずれまた……失礼致します」
そう言って黒外套の人は、忽然と姿を消すのではなく、普通に扉から出て行った。
急に現れた時の驚きを、返して欲しい。
「消えないの? 何で?」
ミルンまでも、その自然な動きを見て、少しだけ残念そうな、雰囲気を出している。
「なあ……影さん」
「何で御座いますか?」
「アレ、さっきの人……いつから居たんだ?」
「最初から居ましたが?」
最初からとは、この孤児院に着いてからなのか、着く前からなのか……聞くのはよそう。心臓に悪過ぎる。
「ふぅ……さっきまで、しんみりしてたのに、いつの間にか通常運転かよ」
まあこれで、一通り話は終わったか。
影さん……さっきの黒外套も、影って言われてたから、分かり難いな。院長影さんからのお願いは、魔王と噂される俺を使って、孤児院の子供達の安全を、より強固にする。
「んで、リシュエルを発見次第、一発……じゃあ足りないか。タコ殴り確定だな」
「たこ殴り?」
「泣くまで殴るって意味だぞ」
元凶っぽいから、泣いても殴るけど。なんだったら、あの意味不明な威力の魔法を、全力でぶち込むだろう。
「んじゃあ、これで話は終わりかな?」
「左様に御座います。流さん……これからもミルン様を、宜しくお願い致します」
律儀に頭を下げてくるとか、本当にこの院長影さんは、母さんと友達だったようだ。
「頼まれんでも、一緒にいるっての。そんじゃあちょっと、村長の様子でも見に行くか」
「遊ぶっ!」
ミルンは器用に、膝の上からするすると肩へ上がり、足をぶらぶらさせての、肩車完了。
「ミルン合体完了! 流号っ、発進します!」
「敵を殲滅なのっ!」
そうして俺達は、部屋から飛び出し、村長とケモ耳っ子達がいるであろう、孤児院の広場へと、歩いて行った。




