13話 守り抜いた者.6
2026/06/28 改稿
魔物を狩ってお腹を下す。そんな日々を過ごして居たら、魔龍の川の近くで、誰かが座り込み、何かをしていた。
村の人であれば、逃げないといけない。
そっと、小屋の中から警戒していると、その知らない人の手に、お魚が握られていた。
そしてその人は、小屋に近付いて来た。
私は斧を手に、ジッと身構える。
『失礼、誰かいないか?』
普通なら、こんな場所まで来る、怪しそうな者に、返答なんてしないだろう。
「あなただあれっ!」
でも私は、ママの子供なのだ。
反射的に……返答してしまった。
『私の名か。エルファス、"シアード・エルファス"という者だ。敵ではないぞ?』
やっぱり、知らない人だ。敵かも知れない。そぉっと、扉に近付き、開けた瞬間に、斧の一撃で、仕留めるっ!!
「だから、敵じゃないって」
急に背後から、声がした。
振り向き様に斧を振るうが、『良い一撃だね』と、余裕で斧の"刃"を掴まれ、そのまま斧が、砕け散った。
「あ……パパのおのっ!? パパのっ……うわあああああああんっ、パパのっ、がだみっ、ごわれだああああああ────」
「えっ、えぇ……これ、私の所為……」
そのまま、ひたすら泣き続けていると、香ばしい何かの匂いが、鼻を刺激して来た。
「んんっと、さっきは御免ね。斧はもう、直す事は出来ないから、お詫びに、これをあげるよ。結構釣れたからね」
「おさかな……」
「納得いかないのは、分かってるけど、私に出せる物と言ったら、魚と知識だけなんだ。この国のお金なんて、持ってないからね」
ゴルキュルルルルルッと、魔物肉ばっかりだった私のお腹は、お魚を求めてしまった。
「ほら、焼けたよ。美味しいぞぉ」
「いただきます……どうやって、ひをつけたの」
火を着ける道具なんて、ここにはない。
その、顔も見えない外套の下にでも、何か道具を、隠しているのだろうか。
「んっ? 火なんて、こうすれば」
その人の人差し指に、火が灯った。
「まほう? ミルンにもつかえる?」
「魔法が使いたいのかい? お嬢ちゃんはどう見ても、獣族だから……んんっ? んーっ?」
「なんでミルンのおかお、ジッとみるの」
「ボソッ(混血? いや、まさか……有り得ないでしょ、こんな事……)」
この人は、変な人。
いつかまた、ママに会った時に、怒られちゃうから、口には出しちゃ駄目だけど、心の中で思う分には、セーフ。
「えっと、お嬢ちゃん」
「ミルンです」
「そうかい。それじゃあ、ミルンちゃん。私の知識は、とある場所で教えよう。どこで教えたかの記憶は、"変えさせて貰う"けど、基礎はしっかり教えるから、安心して欲しい」
「むぎゅむぎゅ、んぐっ。ミルン、まほうつかいに、なれる?」
「それは分からない。でも、ミルンちゃんなら、若しかしたら……どうする?」
「おぼえたいっ────」
それからの記憶は、少し曖昧だ。
何処かも分からない、知らない場所で、延々と、変な人から、魔法のアレコレを、教えて貰って居た様な気がする。
気付いた時には、小屋に居て、変な人の姿は、何処にもなかった。
「まぼろし?」
パパとママが死んでから、初めて、楽しいと思えた時を、過ごして居た……筈。
「へんなひと、いなくなった?」
目の前に有るのは、焼魚。
火がどこにもないのに、焼魚。
「またひとり……むぎゅむぎゅ。さみしいなぁ」
魔龍の川近くに、住み始めて二年も経つと、ゴブリン狩りも、慣れたモノ。それでも、逃げられる時がある。しょんぼりしながら、ゴブリンの血が付いた体を、川でゴシゴシ洗っていたら、川上から何かが流れて来るのが見えた。
「レモモ? ……レモモっ!?」
あれはどう見ても、レモモ。
若干赤みを帯びていて、真ん中から割れた様な形には、見覚えがある。
甘辛じょっぱい、美味しい果実。
この魔龍の川付近には、果物どころか、木の実も落ちていない。だからこその、超御馳走。
「レモモおおおおおおおおお────っ!!」
気合いで川に飛び込んで、レモモの側までなんとか泳ぎ、齧り付こうと口を開けたら……レモモじゃなかった。
赤いお洋服から、尻が半分出てる……人。
「何で人……?」
この川は、地味に深い。今もギリギリ、爪先立ちで耐えている。浮かんでいる人は、ゴボッと泡が出てるから、生きてるっぽい。
「どうしよう……このまま、流そうかなぁ」
そう思い、一度は離れようとした。でも結局、引っ張って助けてあげた。
「寝覚めが悪くなっちゃうもん」
何とか川から引き上げて、背負っている物を握って引き摺りながら小屋へと運び、ふぅと一息吐いて、すやすや寝ている人を、ジッと観察する。
起きたらミルンを、怖がるだろうか。
暴力を振るっては、こないだろうか。
「それ今じゃなくねええええ──っ!?」
「あぅっ!?」
それが、お父さんとの出逢い。
ミルンの尻尾を触ろうとしたから、手を叩いてそれを防ぎ、それでもまじまじと、尻尾を狙ってくる、とても変な人。
今度はお耳を触ってこようとしたから、その手に噛み付たのに、怒ってこなかった。
謝りなさいって、諭してくれた。
「噛んで……御免なさい」
「はい、良く出来ました。で、ここはどこ?」
「私はだあれ?」
初めて会う筈なのに、話しやすかった。
そして、その人の名前を聞いた時──ママの最後の言葉を、思い出した。
「俺の名前は、流だ。小々波流」
ママの最後の言葉。
かすれた声で、でもしっかりと、ミルンの耳に聞こえた言葉──『いつか流が、助けてくれる』──ハッキリと思い出した。
そして今、ミルンはこうして、お父さんの暖かい、膝の上に居る。ミルンの話を聞いて、涙を流し、鼻水を垂らす、優しいお父さん。
だからミルンは、寂しくない。
パパとママはいないけど、寂しくはない。
お父さんが、側に居てくれるから。




