10話 影さんと一緒.2
「あーうん。流にーちゃん、間違ってないでここはスラム。王都の中の掃溜めであり、捨て場や」
あーやっぱりな。
ゴミが山の様に積み上げられ、家もミルンが住んでいたボロ屋より更に酷く、ちょっと目線をずらすと老若男女問わず汚れた姿で路上で寝たり、ゴミ漁してたり、ぶつぶつ独り言ってたり、こっちを見て来たり、走って来たり…恐いわっ。
ミルンが膝の上に乗り、俺はミルンを撫でて心を落ち着かせる。
異世界と言っても…世知辛い。
「それで、まだ着かないのか?」
「せっかちやなぁ流にーちゃんは、もう直ぐ着くて。ホラあの鉄線の先や」
スラム街のど真ん中じゃないのか?
スラムのボスにでも会うの?
嫌だよ俺は。
魔王ムーブ出して全力で逃げるからね!
俺は気を紛らわせる為、ミルンの尻尾をモフモフ…あぁ気持ちいいふわふわ。
※
ジアストール城内。
「陛下! 陛下! 出て来て下され陛下ぁあああああ!」
扉が強く叩かれる音を無視しながら、全力で寝室に引き篭もっている女王。
「陛下! 陛下! 陛下ぁあああ!」
もうコイツ、本当に首落としてやろうかと考えたが、それでもコイツがいないと実務に差し障りが出て凄く面倒臭くなる。
「陛下! 陛下! へいっ下! 陛下! 陛下!」
扉を叩く音が軽く音楽に聴こえて来たぞ大臣め若干楽しんでおるな…あの糞っ!!
「へいっ下っ、陛下! へいっ下っ、陛下! へいっ下っ、へいっへいっへいっ陛下ぁあああああ!」
「五月蝿いは馬鹿者ぉおおおおおお!!」
はっ、堪らず返してしまった!?
「おぉ陛下、早く出て来て下され。陛下しか判を押せぬ書類が溜まっておるのです」
それは分かる、分かるのじゃが大臣に言われると腹が立つ。
「元は貴様のせいじゃろうが! 魔王を怒らせよってからに! お陰で儂はっ…兵の前であんなっ! あんな…醜態を晒す羽目にぃいいい!!」
枕を扉に投げつけベッドに顔を埋める。
「陛下…弁明は後程幾らでもしましょう。ですから出て来て下され。各諸侯からの文もございますれば」
「嫌じゃ! もう今日は何もせぬし貴様がやっておけ! 女王命令じゃっ!」
女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、どうしたら城へ魔王を呼び込めるかをただひたすらに、それだけを考えるのであった。
「陛下! 陛下! へいっ下! 陛下! 陛下!」
扉の向こうの雑音に堪えながら。