12話 暗がりの楽園.3
2026/06/28 改稿
鉄扉に鉄線と、壁に囲まれた屋敷。
王都貧民街の、最奥に位置する場所に建てられた、孤児院・アントーン。
「……地味にボロいな」
「お外のお家より、綺麗なの」
「比べたらって話だろ?」
ミルンを肩車したまま、影と名乗る院長の後を歩き、目の前の孤児院を観察する。
貧民街の荒屋よりも、確かに綺麗だ。しかし、所々外壁が剥がれ、建物自体が、若干傾いているぐらいには、ボロさが目立つ。
「ふむ……孤児院ならば、国から支援金が出ている筈ではあるが、ここまで酷いとはな」
「そういや、ラクレル村には、孤児院とかはなかったな。作らなかったのか?」
「……孤児の大半は、獣族である。ここまで言えば、流君ならば分かるであろう」
「あーっ、納得した」
今や無人となった、ラクレル村は、獣族であるミルンを、殺そうとした村だ。そんな村に、孤児院なんて建てれないわな。
村長の過去に、何があったにせよ、結果として俺の怒りを買い、村は廃村状態……今なら孤児院とか、建てれるんじゃね?
「なんのおはなし?」
「むっ……何でもないのである」
ケモ耳幼女を肩に乗せる、今の村長なら、もう獣族を、殺そうとは思わないだろうし、このまま考えを、変えてくれると有り難いな。
そうして、孤児院の中に入ってみると、ボロさが目立つ外観とは違い、しっかりとした造りで、埃一つ舞っていない清潔さ。
「……何このギャップ」
お陰で息がし易いです。貧民街を通った時は、臭いがヤバかったけど、建物の中だと、その臭いも消えている。
「ちゃんとぉ、お掃除してますねぇ」
「ニアノールさん……姑?」
ニアノールさんは、ス──ッと窓枠を、小姑の如く指でなぞり、首を縦に振っている。
清潔を保てている理由が、ハッキリした。
ニアノールさんが、お掃除チェック担当。
そりゃあケモ耳っ子が、怖がる訳だよ。
「気にし過ぎやてニア。ウチらが見てんでも、餓鬼共なら、しっかりやってるやろうし」
「「「しっかりやってるよ!」」」
「怠けて居たらぁ、御仕置きだったのにぃ」
「「「なまけてないよ!」」」
何かの合唱団ですか?
息ピッタリに答えてるし、ニアノールさんへの恐怖が、ちゃんと植え付けられている。
「お父さん、早く歩くのっ」
「へいへい、分かってるよ、ミルン」
「"へい"は一回っ!」
「何でそんな言い方知ってんの?」
「何の事?」
ミルンさんや、今さっきの事だぞ。ノリで言ったから、忘れちゃったのだろうか。
「流さん、こちらに……」
「今行くよ」
影さんを筆頭に、後ろに俺とミルン、村長とケモ耳幼女、ニアノールさん、リティナが続いて行くんだけど、どうしてか他のケモ耳っ子達が、楽しそうに後を付けて来る。
何かこんな風に、子供達を攫う童話が、あったような……なかったような……なんだっけ?
「リティ、ニア。貴方達は先に、院長室で報告を。流さんとミルン様は、こちらの部屋で、少しだけお待ち下さい」
「はいよっ。村長はどうするんだ?」
「ヘラクレス様。お手数ですが、子供達のお相手を、お願い致します」
「なっ、私に子守をしろと申すかっ」
そんな事を言われた、村長の顔が引き攣っているというか、肩に乗ってるケモ耳幼女が、笑顔で顔を引っ張っている。
「っ、院長殿。私は子守をする為に、王都まで来たのではないのである。そこの流君は、仮とは言えどもラクレルの住民。私にも同席する権利は、有ると思うのだが……」
「村長……そんな事言ったら、危ないぞ」
「何がであるか?」
村長の言わんとしている事は、理解出来る。出来るんだけど、村長が肩車している、ケモ耳幼女の尻尾が垂れて、ガチ泣き発射、十秒前準備良しになってるぞ。
「おじちゃん……ミウと、あそんでくれなぃ?」
「ぬぅっ……」
「ミウのことっ……きらい?」
「ぐぅっ……」
ケモ耳幼女は、ミウちゃんと言うのか。
流石の村長も、肩の上で泣きかけているケモ耳幼女には、何も言えない様だ。
「初めて見る顔をしてんぞ、村長」
「泣くのではない、ミウとやらっ。私は何も、遊ばぬとは言っておらんっ。流君も笑っていないでっ、助けてくれ……」
さて、この面白い状況を、どうしたものか……ここはアレだ、可愛いケモ耳っ子達優先で、物事を考えるべきだな。
「村長。影さんからの話は、後で伝えるから、遊んでやったらどうだ?」
「なっ、流君っ!?」
「どうやら……話があるのは、俺とミルンだけみたいだし。頼むよ村長」
「むぅ……」
考えている村長ではあったが、「ふぅ……分かったのである」と、凄い顔をしながも、了承してくれた。その瞬間──「今だーっ!」とケモ耳の一人が声を上げ、アレよアレよという間に、村長を取り囲み、包囲網が完成した。
「黒い身体…人種?」
「おじちゃん誰?」
「めっちゃおおきーい」
「ミウちゃんかわって!」
「どうやったら、そこまでの姿に」
「きんにくっ、はぁはぁ……きんにくっ」
「いきるためにはっ、ちからがいるのっ!」
何だろうかこの光景は……筋肉に群がるケモ耳っ子達って、代わって欲しいんですけど。
「うぬぅっ、待つのだ、掴むでないぞっ」
村長の顔は、困りながらも、少しだけ、ほんの少しだけ、楽しそうではあった。約一名やばいケモ耳がいるけど、大丈夫だろう。
「ふううぅぅぅっ……はあああぁぁぁ」
村長の奴、何で深呼吸なんか──まさかっ、アレを子供達に見せる気なのかっ!
「やあ、はじめまして!」
モコっと盛り上がる腕を、ゆっくりと背中側へ回し、胸筋をピクピクとさせる。
「私はっ!」
腕をぐるっと前に出し、片足を爪先立ちの様にさせ、脹脛の筋肉を、モリッと膨らませる。
「ラクレル村から来た、村長っ!」
そしてそのまま、大胸筋が歩き出す。
「ふぅぅぅ……っ、むんっ!」
腕を曲げ、力こぶを作り出し、白い歯を見せつつ、マッスルポーズをキメる。
「ヘラクレスゥゥゥウ! ヴァントっ!」
笑顔の白い歯が──光り輝いた。
「宜しくであるぞっ、子供達よっ!」
あれだけ元気良く騒いでいた、ケモ耳っ子達が、シンッ──と静かになった。
その気持ちは、分からなくもない。
俺も初めて、村長と出会った時に、似たような自己紹介をされて、『気持ち悪い奴だっ!』と口に出しちゃった程だからな。
「「「きんにくだああああああ──っ!!」」」
「あれっ?」
静かだった筈なのに、一瞬にしてケモ耳っ子達が、村長に飛び付いたぞ。ただの筋肉の塊なのに……急に何で? 気持ち悪くないの?
「ぐっ……これがっ、筋肉の力なのか」
「お父さん、ドンマイなの」
「ミルンさんや、何でそんな言葉知ってるの?」
「お父さんは、ミルンを撫でてれば良いの」
「……そうするよっ」
モフモフは気持ち良いんだけど、あんな風に、ケモ耳っ子達に埋もれたいと思うのは、贅沢なのだろうか。




