12話 暗がりの楽園.2
2026/06/28 改稿
皆様、お久しぶりで御座います。
今回も、当物件を案内させて頂くのは──私、小々波流に御座います。何卒最後まで、お付き合い頂きますよう、お願い申し上げます。
「お父さんがっ、また可笑しくなったの!?」
先ずは──見てくださいこの立地。
辺りには大量のゴミが散乱し、腐臭漂うこの通りっ。鼻に臭いがこびり付き、鼻うがいをしても、絶対に取る事は出来ないでしょう。
「なんやこん顔……ムカつくわぁ」
勿論っ、ご近所の方も個性派揃いです。
全裸で寝て居る方や、ゴミを漁る方が、常に貴方の側で、見守っておりますので、近付いて来られたら、全力疾走で逃げて下さいっ!
スリル満点絶叫体験を──味わえますっ!
「頭を叩いても……治らぬであろうな」
さあさあ、見えてまいりました──当物件の目玉っ! 有刺鉄線付きの壁っ!
これ以上先へは進ませまいとする、この有刺鉄線があれば、常人は道を変え、関わりを持とうとは、思わない事でしょう。
「気持ち悪い顔ですねぇ。リティナ様の仰られる通りぃ、ムカムカしますよぅ」
そのまま先に進み、見えてきたのは──頑強な鉄の扉に御座いますっ! 両端には、守衛の様な姿をした若者が、眼を光らせており、その先にボスが居る事、間違いなしっ!
「それでは皆様っ! 逃げる御準備をっ!」
「あんた……どこに逃げる気やねん」
「お父さんっ、正気に戻るのおっ!」
「気持ち悪いですねぇ」
「流君……現実を見るのだ」
さっきからチクチクと、言われているけどもだ。あの鉄製の門構えを見て、萎縮しない中年なんてのは、日本にいないんだよ。
どこからどう見ても、マル暴の家だろ。
そんな事を思っていたら、リティナが馬車から降りて、守衛に向かって歩いて行った。
「……流石、関西風聖女。根性あるなぁ」
大股で向かうとか、清楚さは皆無だけど。清楚とは真逆の聖女って、聖女なのか?
「リスタ、アジュ、待たせてもうたな。聖女様のお帰りや、早よ門あ──ああっ!?」
守衛の一人に、ゴスッ──と拳骨されて、その場にしゃがみ込む聖女って、何してんの?
「痛っ、何するんじゃボケェッ!!」
「お前なあっ! 何北門で暴れてやがんだっ! 院長先生に心配かけんじゃねえっ!」
「しゃあないやろがあっ!」
リスタと呼ばれた、好青年っぽい奴が、リティナの頭に見事な拳骨をかまして、アジュと呼ばれた奴が、凄い剣幕で説教をしている。
「長い説教だなぁ……いつ迄待てば、良いんだろうか……こっちに来た?」
「リティナがご迷惑を、お掛けしたようで、申し訳御座いません。僕はリスタと申します。直ぐ門を開けますので、暫くお待ち下さい」
「あっ、ああ……」
リティナに拳骨落としてたけど、凄い良い感じの、日本でもあまり見なくなった、イケメン好青年じゃん。好感が持てる人だなぁ。
「よっ、アンタが噂の魔王様か。リティナが迷惑かけて、すまねぇな。俺はアジュって言うんだ、宜しくなっ!」
こっちは、口調は荒々しいけど、礼儀がしっかりしていて、見た目よりも良い奴っぽいな。
「……」
リティナの方を見ると、とぼとぼとこっちに戻って来てるけど、この良さそうな二人と、聖女との差は、一体何なのだろうか。
「何や……ウチ今疲れとんねん」
「残念聖女とは、大違いだな」
「じゃかましいわっ! 残念聖女言うなやっ!」
そうして、少しだけ待っていると、三メートル程の鉄の扉が、ゴゴゴッ──と音を立てながら開き、馬車から降りた俺達は、そのままその先へと、入って行った。
そして俺は、この世の天国を見た。
俺にとっての、天国とは何か。
ミルンの様なケモ耳天使達が、きゃっきゃうふふと笑顔を振り撒き、楽しく遊ぶ──それこそが、俺にとっての天国なんだ
「なんっ……だとっ!?」
馬車から降りたミルンが、俺の身体をよじ登り、この場所は私の場所だと言わんばかりに、鼻息を荒くする。
「お仲間がいっぱい居るのっ」
ミルンの言う、お仲間とは──勿論、この異世界で獣族といわれている、モフっ子達の事。
そして今っ! 俺の目の前には……そのモフっ子天使達が、楽しそうに遊んでいるんだ。
「これっ……マジかっ……」
犬耳猫耳何の耳。尻尾がふりふり遊んでる。
角っ子羽っ子獣っ子。皆楽しくキャッキャと遊び、一人止まってこっちを見たら、皆んな止まってこっちを見たよ。
お目々が爛々輝いて、皆んなが走ってこっちに来るよ。俺は両手を大きく広げ、さあっ、この胸に飛び込んでおいでと、合図は完璧。
俺の横を素通りしたよ。
そしてリティナにタックルだ──っ!!
「「「リティナお姉ちゃ──んっ!」」」
「ぐぇっ!? やめいチビ共っ!」
広げた両手をそのままに、俺はそのまま地面に崩れ落ち、心の奥から叫びを上げた。
「何故だああああああああああああああああああああああああああ────っ!!」
ケモ耳っ子達に囲まれて、もみくちゃにされるリティナを見て、俺は──涙が止まらない。
「お父さんにはっ、ミルンが居るのっ」
「そうだね……ミルンだけだよ」
地面に落ちた涙が、血の色に見えるのは、俺の悲しみが、そう見せているだけだよね。
「流君……久しく君に、恐怖を感じたのである」
「気持ち悪いですしぃ、怖いですぅ」
村長とニアノールさんが、何か言っているが、今の俺には聞こえませんともっ!
「良いなぁ……リティナの奴っ」
「泣かないのっ。ミルンの尻尾で、我慢して」
リティナの姿を見て、涙を流しながら、ミルンに慰められていたら、ニアノールさんが、透き通る様な声で、「皆んなぁ、そろそろ離れましょう、ね?」と、言葉を発した。
ニアノールさんの、張り付いているかのような、笑顔ではない笑顔──その顔見て、ケモ耳っ子達が、一目散に逃げて行った。
「「「うわあああああああああ──っ!!」」」
阿鼻叫喚とは、この事を言うのだろうか。
逃げ惑うケモ耳っ子達の中に、「わたしはいきるっ、いきるんだっ」とか、「もっと、もっとみてええええええっ!」とか、色々とツッコミどころ満載の、ケモ耳が居るぞ。
「……本気で逃げてるじゃん」
「リティナ様、大丈夫ですかぁ」
「あぁ、有難うなニア……死ぬかと思ったわ」
ケモ耳っ子達は、ニアノールさんが恐怖の魔王なのか、逃げ込んだ建物内から、チラチラとこっちを見てくる。
「物凄く……可愛いなぁ」
「お父さんは、ミルンのっ!」
「ミルンが一番可愛いぞ?」
「むふふっ、一番っ」
そんな事をしていたら、建物の中から、一人のケモ耳幼女と手を繋いだ、黒外套を羽織る変な人が、ゆっくりと歩いて来た。
「────んっ?」
黒外套の所為で、顔は見えないが、何だか俺の肩に乗るミルンを、見ている気がする。
何だ……この感じ。
「院長先生、ただいまや。言われた通り、こん王都で噂になっとる魔王を、連れて来たで」
「何だそれ? 俺に用があるって言うのは、リティナじゃなくて、この人なのか?」
「そうや。ウチはただ、連れて来て欲しいって、頼まれただけやさかいな」
院長と呼ばれた人は、俺の前で立ち止まり、静かに腰をおって、頭を下げてきた。
「初めまして。私はここで、孤児院を営んでおります、"影"と申します。どうぞ影と、お呼び下さいませ」
どう考えても、偽名としか思えない名前だ。
孤児院の院長なのは、ケモ耳っ子達と、リティナの反応を見れば分かるが、初対面の俺に、名前は教えないって事なのか。
「ああ……影さんだな。俺は────」
「小々波流さんと、"ミルン"様で御座いますね」
「……俺の名前ならいざ知らず、何でミルンの名前まで知ってんの? 王都で噂になってるのは、俺だけだよな」
以前ラクレル村に居る時に、俺の名前が王都に知れ渡った事は、教えてもらったが、ミルンに関しては、触れられてすらいない。
だからこそ、この院長とやらが、ミルンの名前を知っているだなんて事は、あり得ない。
「警戒なさらずとも、大丈夫に御座います。"名前"の件も含めて、お話させて頂きますので、どうぞこちらへ」
俺の緊張も、感じた疑問も、全て見透かされているとか、気味が悪いな。
院長の後に続くように、リティナとニアノールさんは歩き出し──さっきまで院長と手を繋いでいた、ケモ耳幼女だけが、ジッとこっちを見上げてくる。
「……可愛い」
俺を見上げているというより、肩の上のミルンと、見詰め合ってるっぽいな。
「そこ、かわって?」
「この場所は、ミルンだけのもの」
「むぅっ……」
少し考えていたケモ耳幼女は、ふと──俺の後ろに居た村長を、まじまじと見つめ、軽やかに近付き、そのまま頂上へ昇る。
「なっ、なんだね急にっ!」
「んしょっ、こっちのがたかい!」
ケモ耳幼女と、ケモ耳幼女が、お互いに目を合わせて、威嚇しあっているけども、可愛い過ぎて、鼻血が出ちゃいそうだ。
「流君っ……これは、どうしたものだろうか」
「役得だろ村長。似合ってるじゃん」
「あんていかん、ばつぐんっ!」
「お父さんにはっ、俊敏性があるのっ!」
肩の上で、何のやり取りかな?
喧嘩なら止めるけど、この感じだと、互いのテリトリーを決めて、不可侵の取決め?
犬耳の習性なのかね。
「んじゃ、行くか」
「お父さんっ、走るのっ!」
「こらっ、暴れるでないぞっ」
「きんきくっ、しゅっぱつ!」
俺達はそのまま、ケモ耳幼女を肩に乗せ、影さんの後に付いて行った。




