12話 暗がりの楽園.1
2026/06/28 改稿
北門から体感時間で、二十分程度だろうか。
王都に着いて直ぐ、色々とあったけども、こうして異世界の街並みを、吐きそうな程揺れる馬車に乗って眺めながら、進んでいます。
「ぎぼぢばるっ……」
半裸は卒業しましたよ? 女王から、兵士の替えの服を一着、貰いました。今直ぐにでも、下呂塗れになりそうだけどね。
「うぷっ……なあリティナっ、この馬車の揺れ、酷過ぎるだろっ。何で馬車で向かってんの……」
「しゃーないやろ。ウチらが今向かっとんのは、北門からの歩きやと、相当遠いねんて」
「これなら、歩いて行く方が早いだろ……何でヨボヨボの、マッスルホースなんだよ。どう見ても、名前負けしてるじゃん」
屋根付きの馬車を見た時は、リティナの巨大馬車の時とは違い、ちょっとだけ感動した。
ガチ馬車なんだよ、異世界の。
安っぽい木製だけど、レトロな雰囲気が良くて、俺からしたら格好良い部類の馬車。それなのに、その馬車を引っ張るお馬さんが、年老いてヨボヨボの、マッスルホース。
それを見たミルンの反応が、『食べれそうな部位が、少ないっ』と、少しショックを受けた程、ヨボヨボ過ぎるんだ。
「お父さん、大丈夫?」
唯一の救いは、ミルンに膝枕をされて、メンタル的には、プラスになっている事だろうか。
「ミルンの膝に、下呂は嫌だよ?」
「大丈夫……吐きそうになったら、左側の村長か、前のリティナに吐き出すから」
「ウチに吐いたらどつき回すからなあっ!」
「吐かれる前に、馬車の外へ放り出すのである」
二人共酷い……いや、ニアノールさんも、目が笑っていないから、ミルン以外は酷いよ。
「んで、吐きそうなのは、冗談じゃないんだけど、結局俺は、何で捕まったんだ? 赤は重犯罪者っぽい、言われ様だったけどさ」
「お父さんは、軽犯罪ばかりだよ?」
「ミルンさんや、それ、フォローになってないからね? 心を抉るのは、止めて?」
「ふぉろーって、なあに?」
お願いをしたのに、疑問で返されるこの不思議。他の三人も、疑問の顔を浮かべている事から、フォローが通じていないのだろう。
「助けるって意味だぞ。あとお父さんは、犯罪なんて犯した事ないだろ?」
「……?」
「何言うとるんやこいつ」
「流君っ……」
「嘘は、駄目ですよぅ」
馬車の中なのに、孤立しちゃいました。
いやいや、精々ラクレル村の村人を、生殺しにして、誰も居なくなった家屋から、放置されていた物を、物色した程度だぞ。
「冷静になって、思い返してみれば……結構やばい事してるなぁ」
「全部ミルンを守る為っ。だからお父さんは、軽犯罪者なのっ。子悪党!」
「あっ、うん……酷くね?」
純粋なケモ耳の言葉が、胸に突き刺さる。
あれだよね、子供の言葉って、ある意味的を得てるから、言い返せないよね。
「それで、話を戻すけどさ、赤って結局、何だったんだ? 即殺される程なのか?」
「うむ、私が話そう。先ず大前提として、赤になった者など、ジアストール王国中を探したとしても、流君だけであろうな」
「……何それ」
それだと、盗賊野盗ヒャッハーな奴らでも、赤にはならないって、事じゃないのか。
「重犯罪者でも、赤にならないのか?」
「ならぬ。これは一部の、軍関係者しか、知らぬ事でな……真心の水晶の本来の役目は、"魔王級"の者を、即座に見分ける事なのだ」
魔王級の者を、見分ける為の物? とすると、あの時俺が触って、赤になった理由は、半魔王とかになっていたからか? ステータスを見た時に、変わったのかと思ってたけど、王都に入る前には、既に半魔王だった訳か。
「面倒な……何で村長は、そんな事知ってんのさ? ラクレル村の、村長だろうに」
「こう見えて私は、若い頃、軍にいたのでな。騎士団の副団長を、しておったのだ」
「見たまんまじゃん。違和感ないわぁ」
二メートル超えの身長で、筋骨隆々だろ。昔軍に居ましたと言われても、納得しかない。しかも副団長って、強い訳だよ。
「あんがとさん。赤がなんなのかは、分かった」
簡単な話、ただの防犯装置って事か。
「で、リティナさんよ。そろそろ、俺を首都まで連れて来た理由を、教えてくれないか?」
「もうちょい待ちーや。着いたら分かる事やさかいに、そない焦らんでもええやん」
この聖女、一体何を隠してやがる。
あの女王は、俺が首都に来た事に対して、驚いていたようだし、誰の指示で動いている……教会の指示っていうのも、違和感があるしな。
「……あっ、思い出した。そういや、あの教会関係者達って、どうしたんだっけ?」
ラクレル村で、俺を襲ってきた? 罠に嵌めようとしてきた? 結局は村長にボコられて、簀巻きにしたんだけど……教会関係者って、あんなのばっかりなのかねぇ。
「うむぅっ……忘れておったな。縄で縛ったまま、村に放置しているのである」
「それ、普通に死ぬんじゃね?」
「大丈夫であろう。アルテラ教の者共は、しぶといと言うのが、常識であるからな」
「なにその言い方。いや確かに、しぶとそうでは、あったけどさ……おっさん三人衆」
どうでもいい事だから、深く考えるのはよそう。生きているのなら、どうでも良いからな。
そんな事を思いながら、体を起こして、王都の街並みを、ボーッと眺める。
北門から右回りに、小麦っぽい畑を抜け、石造りの家々が建ち並び、子供達が遊んでいる。
「ふんっ、ふんっ、ぅぅぅっ」
それを眺めるミルンの鼻息が、少しずつ荒くなり、尻尾がぶんぶんと揺れているんです。
馬車の中って、退屈だからなぁ。
「こうして見ると、平和な国だな。門での出来事が、嘘だったかと思うぞ」
「平和な訳あるかいなっ」
「何で急に怒るんだよ。俺、別に変な事なんて、言ってないだろうに」
「もう少し行ったら、嫌でも分かるわ」
リティナは不機嫌にそう言うと、ムスッとした顔で黙り込んだ。隣に座る、ニアノールさんを見ても、笑顔のまま何も言わない。
そのまま進む事、更に二十分程だろうか。
石造りの家、石畳で舗装された道が終わり、リティナが"平和ではない"と言った意味が、理解出来てしまう光景が、広がっていた。
「……」
「むぅぅぅ、鼻が曲がるのっ」
「ほれ、流にーちゃん。どうや? これでもまだ、平和やて言えるかいな」
土が剥き出しの道。
ミルンが住んでいたボロ小屋ですら、マトモだと思える程の、小屋とも言えぬ家。
馬車の中にも関わらず、すえた臭いや、卵が腐った臭いが広がり、鼻の奥を刺激する。
歩く人は居らず、所々に、虚な目をした何かが、ジッとこの馬車を、見詰めてくる。
「貧民街……か」
「せやな。王都アストールの掃き溜め、孤児の行き着く先、犯罪者の巣窟。他にも色々と、言われとる場所や。中々酷いやろ?」
「……」
異世界に来てまで、コレを見る事になるなんて、思いもしなかった。安全な日本だと、テレビやネットの中だけでしか、知る事のない光景だし、見ていて気持ちの良いモノではない。
「この国のお偉いさんは、あの女王とやらは、この現状を知らないのか?」
「あん女王でも、どうにもならんわ。こん貧民街は、王都の三分の一も占めとるやで? 今更何かした所で、なくならんやろ」
「三分の一って、よく暴動が起きないな」
「そこはあん女王が、上手くやっとんねん。ウチに金払うて、病の治療させたり、炊き出しも手伝うたりな。それでも、ギリギリやけど」
出来うる支援はしているが、それでも全てには行き渡らず、危険地帯はなくならないと。
「すんすんっ、むぅぅぅ」
「ミルンさんや。俺の体に顔を埋めても、臭いはなくならないからね?」
「もう少ししたら、慣れるやろ」
それはアレだよね、嗅覚麻痺ってやつ。犬人のミルンのお鼻も、麻痺るのだろうか。
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが1上がりました(ビリビリ?)
ピンポンパンポーン(下がり調)
麻痺の仕方が違うんですが、何でこのタイミングで、レベルが上がるの? 俺を揶揄う気満々のアナウンスだろっ?
「なんや……流にーちゃんの顔が、急におもろうなっとんで。臭いに負けたんか?」
「違うのリティナ。お父さんのお顔は、時々こうなるっ。変なお顔なのっ」
「気持ち悪いですよぅ」
俺の顔、酷い言われ様だな……泣くぞ。
泣きそうだったので、気を紛らわせる為に、窓の外を眺めていると──とても物騒な物が、視界に映った。
「……何、今の? 鉄線みたいな物が、見えた気がしたんだけど……アレ、鉄線じゃん」
「鉄線知ってんのかいな。もう少ししたら、目的の場所に着くさかい、驚かんといてや」
「なあリティナ……その場所って、刑務所か?」
「何やそれ? けいむしょ?」
鉄線に囲まれた場所って、刑務所以外に思い浮かばないんですが……何があるんだよ。




