9話 真紅の瞳の享楽の女王.8
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女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールのおかげで、何とか無事、ミルンと合流できた。
そういう事にしておこう。
俺のゴールデンボールを、粗末な物と言ったのは、許せないけどな。
「おとうさん! きたないモノをかくして!」
「……はい」
ミルンが近くに来てました。
俺の玉は、汚いんだって……しっかりしたお風呂に浸かって、汚れを落としたいよ。
「ルルシア……ルシィで良いか。さっさと服寄越せ。お前のところの奴に、燃やされたんだからな」
「そうであったのか。そこの者、この者に着せるモノを持って来るのじゃ」
『っ、ははっ!!』
そうして、門兵詰所から新品の服を貰い、いそいそと着用完了。
下着は履いてませんけどね。
無いんだって……下着。
「んしょっ、んしょっ、がったい!」
「ミルン装着完了!!」
尻尾を俺の背中に擦り付け、頭をヘッドロックッと言わんばかりに締め付け来る。
「ミルンさんや、頭が割れちゃう割れちゃう」
「ここがおちつくの!」
「さいですか……ミシミシ鳴ってね?」
「もう良いかのぅ」
ルシィが門兵達に、何かを言った後、ゆっくりと近づいて来た。
モデル歩き?
生脚見えてて、ご馳走様です。
「……さっきの黒外套、どこ行った?」
「しらないうちに、きえてたの」
「影って言ってたな……また人が増えてる?」
ルシィの側に、文官っぽい人が居るな。
何か、腹黒そうな爺だ。
「それでは魔王殿。このまま王城に来て貰い、話をしたいと、思うておるのじゃが?」
「ボソッ(断るのだっっっ)」
文官っぽい人が小声で、断れって言ってる様な気がする。しかも、左右に首を振り、必死に訴えてくるぞ。
首振り人形か?
「待てや女王……先約はこっちやねん」
「ふんっ。儂より優先させる事など、有る筈が無いであろう」
「ウチが連れて来たんや、女王は引っ込んどれ」
聖女が女王へ突っかかるって、大丈夫?
確かに、俺は聖女に連れて来られた訳だから、言ってる事は合ってはいる。
「なあ、ルシィ陛下。ルシィ陛下の呼び出しには応じるけど、聖女の用件を済ましてからでも、良いだろうか?」
「貴様……陛下に向かってその様なっ」
女王をルシィ呼びした事に、文官っぽい人が目を細め、右手を挙げた。
周りの兵士達が、腰の剣に手をかけたんだけど、本気でやり合う気か?
「やめよ大臣。儂がそう呼べと命じたのじゃ。御主が手を出せば、儂自ら、貴様の首を刎ねねばならぬが……」
「……苛々するなぁ」
門兵、大臣、女王も、見てて苛々するけど、何でだ……あぁ、この目だな。
人を小馬鹿にした様な、見下した様な"目"。
こんな奴等、日本にも居たわ。
「うん無理。おいルシィ、さっきの言葉訂正するわ。王城には、絶対に行かない」
「貴様っ! 陛下を付けぬか!!」
「やめよと…儂は言うたぞ大臣。して、理由を聞いても良いかの、魔王殿……」
女王の顔から、さっきまでの、ニヤニヤした笑みが消えた。
真面目な顔も、出来るんだな。
最初からそんな風に、真面目な顔して、話をしていれば良いモノを……もう遅いけどな。
「理由ね……先ず一つ。来て早々、訳の分からない理由で、牢屋に拘束された」
まあこれは、俺にも責任が有るのか?
あの石は、セキュリティ装置みたいな物だろうし、拘束は仕方が無い。
「一つ。拷問前提の取り調べで、逃げ出そうとしたら、焼かれて全裸になった事」
リュックサック、カップ麺、赤ジャージ。
この異世界だと、二度と手に入れる事が出来ないであろう、貴重な品々。
これだけでも、殺意が湧くぞ?
「一つ。あろうことか、罪が無いミルンや、他の奴らも捕らえて、拷問にかけようとした事」
落ちたあの門兵、まだ生きてるっぽい。
そのまま一生、入院しててくれ。
「これが最後……女王ルルシアヌ・ジィル・ジアストール陛下、良く聞けよ」
「ふんっ、言ってみよ」
一番許せない事。
未だコイツらが、理解していない理由。
「ルシィ……お前がコイツ等、門兵の親玉だ。トップであり、リーダーだ。何でここの門兵達に謝らせない」
「魔王殿にか?」
「俺にじゃあ無い。真心の水晶とやらで、何もしてないと判断された、聖女や、ニアノールさん。村長やミルンにだ」
「っ、それは……」
「それとな……あの俺が落とした門兵。ミルンの事をっ、獣族だからっ、生きてるだけで罪だってほざきやがったっ!! そんな奴等の親玉がっ、誰にっ、王城に来いだって?」
あーもう、ミルンが肩に乗ってるのに、ブチ切れが収まらないな。
「寝言は寝て言え糞餓鬼がっ……先ずはミルン達にっ、御免なさいだ!! 国のトップだからとっ、そんな事も出来んのかあああああああああああああ────っ!!」
ミルンを見下し、蔑み、傷つける奴等を、俺は絶対に許さない。
例えそれが、どんな存在だとしても。
「無理矢理謝らせるぞ……この糞共」
怒りで血管が切れそうだ。
この感じはアレだ……ラクレル村の奴等を、半殺しにした時と、同じ感じだな。
そう思い、目の前の女王に魔法をぶち込もうとしたその時────『おとうさん、めっ』
ミルンの可愛い声が聞こえた。
肩の上から、優しく俺の頭を撫で、そのお陰だろうか、怒りが収まって行く。
「じょおうさま、ないている……」
「えっ……うわぁ……」
大臣は腰を抜かし怯え、門兵達は気を失い、村長は震え、ニアノールさんは、聖女を守る様に立っているけど、何でだよ。
んで、目の前の女王は……ガチ泣き。
「私だってっ、どうにかしようと頑張ってっ、おりますのにっ。ひどりでっ獣っ族もわたっ、わたくしっ、頑張ってっ、ミルっンだってっ、目がっおにぃっ…ひっくっ……」
「一人称、儂じゃないのかよ?」
あっ、うずくまった。
女王の三角座り。
腕を組み、胸を強調させながら、偉そうに言って来た、あの女王が……三角座り。
「良い歳した大人が、泣いたら済むと思うなよ。なぁ、ルシィ陛下様?」
俺は伝える言葉は捻じ曲げない。
「うああああああ────んっっっ、何で私だげえええっ!!」
鳴き声が、更に酷くなったな。
良い気味だ!!
「なぁ、魔王のにーちゃん。流石にな、若い子に言い過ぎやて」
「若い? この糞陛下様が?」
何ちゃって聖女が、嗜めて来たぞ。
どう見てもこの糞陛下、成人してるだろ?
「十八歳で、女王やっとるんや。せやからもうな、堪忍したって」
「えっ……こいつ本当に、糞餓鬼だったの?」
「流君…言い過ぎであるぞ」
震えていた村長が、俺の背中を軽く叩く。
「流さんっ、恐いですよぉ……」
ニアノールさんに至っては、さっき迄リティナを守ろうとしてたのに、いつの間にか、気絶している門兵を盾にしている。
仕方無いなぁ……ここは大人の対応だ。
「さっさとミルンに謝れ糞餓鬼があああっ!!」
俺は女王に、追撃を入れた。
『おとうさん! めっ!』
『御免よミルン。手は出さないから、口は出させて?』
『陛下に暴言……流君は恐ろしいな』
『リティナ様に敵意向けたらぁ、斬りますよぅ』
『大丈夫やろ。それよりも、こん女王やな……』




