11話 お偉い人には徹底的に.1
2026/06/28 改稿
ミルンの声が聞こえて直ぐ、『待でえええええっ! のじょぎまあああああっ!』と恐ろしい声が、階段から響いてきた。
「階段ダッシュで、息切れしてんのか……」
何で俺、兵士が疲れる程の、階段を上がってきたのに、息切れしてないんだろ。
「火傷は糞痛いけど、動けてるんだよなぁ。半魔王になって、ステータスが上がったから?」
なんて、考察している場合じゃない。ミルンの声は、一体どこから──城壁から落ちないように、そっと下を覗いて見ると、騒ぎ声というか、何やら争っている声が聞こえる。
「……何でっ!?」
俺の疑問には、誰も答えてくれないし、そんな事よりも、ミルンが兵士に襲われている。隊列を組んだ兵士達が、村長を押し退け、ミルンを長槍で刺そうとしている。
意味が分からない。
真心の水晶とやらで、ミルンの色は無色。という事は、何の罪もなく、兵士達に襲われる理由なんて、ある訳がない。
「アイツらぁぁぉっ、本気じゃねぇかっ」
徐々に怒りが湧き上がる。
意味も分からず牢屋へぶち込まれ、散々追いかけられて、リュックも、ジャージも、カップ麺も燃やされて、背中に火傷も負わされて、それでも俺は、逃げたんだ。我慢に我慢を重ねたんだ。
「赤が居たぞっ! 総員抜剣っ!」
「「「ははあっ!!」」」
「そこから動くなあっ! 直ぐにその首っ、叩き斬ってあげるからあっ!」
それなのに、ここの兵士共は、ミルンに槍を向けて、突き殺そうとしてやがる。
理解出来ない。
ここに着く前の野営地で、王都なら、獣族の差別も、そこまで酷くないと聞いていた。少しだけ、楽しみだったんだ。聖女の用が、何なのかは知らんけど、ミルンと楽しく、異世界初の旅行だと、年甲斐もなくワクワクしていたんだ。
「何だこいつ……動きません隊長っ!」
「構わん! そのままその首を刎ねよっ!」
「それなら私がするわっ! 乙女のあんな姿を見ておいて、生かしてはおけないものっ!」
それをお前らは、台無しにして、更にはミルンにまで、危害を加えようとしてやがる。そんな事、許せるか? 許せる訳なんて、ないよな? 大人の我慢にも、限界はあるんだぞ?
「そのままっ、動かないでよ……ふっ!!」
「『空間収納』……」
「はっ? あれっ、剣は……?」
俺の手に触れておらず、俺の物であると認識すれば、範囲内の物を収納出来る、チートスキルの空間収納。これだけでも十分に、ここにいる奴らを、殲滅出来る。
簡単だ、足場を空間収納で、抉れば良い。半径二十メートル以内が、効果範囲。それなら、足場を抉ってここから落とせば、楽なもんだ。
「なあ、お前ら……」
それともう一つ。
制御が不安定で、まともに使えたのは、村長と殺し合った時だけだった、意味不明スキルである、基本魔法。全属性中級魔法使用可。心の揺らぎにより範囲威力増減。
「俺を……怒らせやがったな……」
半魔王になって、その枷が外れた。
馬鹿みたいな魔法を放つ、制御が不安定だったスキルが、解放されているんだ。制御された魔法が、撃ち込めるんだ。
「なっ……ひっ!?」
「何だっ、体が……っ」
「ひゃっ、ひゃあああああああっ!」
人の顔を見て、硬直して、声上げて、そんなに今の俺の顔が、怖いのかねぇ。
「まぁ、今回は、お前らの自業自得だろ」
腕を組み、下を覗き込むと、兵士達が動きを止め、他の奴らも動かない。その中で、ミルンが手を振ってきたので、俺も手を振り、少しだけ安心した。
なんとなくだが、分かる。半魔王の称号が、何かをしているのが、分かるんだ。言葉であらわすと、俺の"殺意"だろうか。
ゆっくりと、兵士達に向き直る。
「さて、覚悟は良いか?」
ラクレル村の村人達は、殺さなかった。あの時は、腕にミルンが居たし、"人"には優しい人達だったからこそ、半殺しで済ませた。
「なっ、あああっ、逃げっ!」
「許してぇっ、許してぇっ」
「ぐっ、動けっ! なんでよおっ!」
でも、お前らは違う。国の"兵"が、槍を誰に向けたのか。お前らが、超えてはならない一線を、無遠慮に超えたんだ。
人を殺したくないという、その俺の良心すら消し飛ぶ事を、無色で罪のない、俺の娘に対してやろうとした事を、許す事はしない。
「そこのお前、俺に魔法を撃ち込んだ奴だよな」
奥にいる、許してと懇願する兵士。その兵士の使った魔法を、俺は覚えている。
「自分の魔法で殺されるのは、どんな感じだ?」
俺に詠唱は要らない。ただ一つ、あの時見た魔法をイメージして、意思を込めて前に撃ち込めば良い。
「焼き尽くせ────」
「ひゃああああああああっ!?」
「嫌っ!」
「糞っ、覗き魔なんかにいっ!」
「豪え『止めよ馬鹿者がああああああっ!』っ、急に何だ……デカい声出しやがってっ!」
怯える兵士達の後ろ──階段を上がってきて直ぐの所に、息を切らてこっちを睨む、やたらと胸を強調した姉ちゃんが、立っていた。
「そのっ、魔法を……放つでないっ!」
「誰だあんた? 兵士には見えないけど」
ドレスの上から、白銀の胸当てを付けるとか、何とも偉そうな雰囲気だな。
「すんすんっ、お父さんっ!」
「んっ? 何でミルンが来てんの?」
「迎えに来たのっ」
ミルンがこっちに、歩いて来る──途中で、「えいっ」と兵士の尻を殴り付け……何でミルンは、尻を殴って楽しそうなの?
「これでお終いっ。ミルンが怒ったから、お父さんは怒っちゃ、めっ!」
「ミルン、それは……」
「怒っちゃ、めっ! ミルンは怪我なんて、してな……お父さんが半裸なのっ!?」
「えっ、今それ言うの?」
正確に言うのなら、背中に火傷を負った、パンイチスニーカーお父さんです。
ミルンのやつ、絶対わざと聞いてるよな。
「……くくっ、あぁ、ミルンには敵わないなぁ」
「むふふっ。お父さんの娘だもん」
「だな。ふぅ……っ、背中痛てぇっ」
緊張が解けた所為か、火傷の痛みがじわじわと酷くなってるんですけど、リティナってこの傷とかも、治せるんだろうか。
「……んで、お前だれよ?」
ミルンに尻を叩かれた兵士達を、こっそりと逃している、赤髪ロングの美女……いや、見た目からいうと、美少女だろうかね。
「少しは落ち着いたかのぅ、魔王よ。あのまま魔法を放っておれば、国に害なすモノとして、お主に"関わる者全て"を、排除しなければならぬ、ところであったわ」
「……その言い草、やっぱりお偉いさんか」
「ふんっ。儂はその、お偉いさんとやらの、一番上の存在じゃぞ。馬鹿にするでないわ」
お偉いさんの、一番上の存在? 兵のトップって見た目じゃないし、大臣という割には、若過ぎる気がするが。
「結局お前は、誰なんだ?」
「太々しい奴じゃのぅ。まあ良いが……儂はこの、ジアストール王国が女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールじゃ。親しい者からは、ルシィと呼ばれておるのぅ」
「痛っ……なあミルン。リティナはどこにいるんだ? 火傷治して欲しいんだけど」
「下に居るのっ。早く診てもらわなきゃっ」
ふらふらと歩いて、妄言を吐く女の横を通り過ぎ、ミルンに支えられながら、階段を下りて行くと、凄い勢いで女が追って来た。
「待たぬか馬鹿者おおおおおおおっ! 儂は女王だと言うとろうにっ! 何故無視をする!」
「……リティナ居ないなぁ」
「あっちだよ」
ぎゃあきゃあと、騒ぎ立てる女を無視して、ミルンの案内で、城壁の外に出ると──兵士とは違う、鎧を着込んだ騎士っぽい人達が、何故か冒険者達の介抱をしていた。
「なにこの状況?」
「リティナが暴れた結果なのっ」
「……今何て?」




