9話 真紅の瞳の享楽の女王.5
コカトリスがコケェコッコーッと鳴く、朝日が立ち昇る時間の門兵詰所にて。
「オラァッ早朝から聖女が来たんや茶ぁぐらいださへんのか! チンタラせんと早よ持ってこいやぁ!!」
最早聖女のカケラも無い聖女とーーー
「またつぶす! たまつぶす! おとうさんにあわせなきゃまたつぶす!!」
ーーー昨日、門兵の若者の漢を殺したミルンが再度嘆願と言う名の脅しに押しかけていた。
「昨日、君達の所為で一人の若者が治療院送りになったにも関わらず、また来たのか!?」
今日の門兵中年は下半身に鉄のプレートを曲げて着けており、白く塗ればオムツと言っても過言ではない姿で堂々としている。
「知るかぃそんな事! 流に合わせんお前達が悪いんやろが! うちらかて暇ちゃうねん! さっさと茶ぁだして合わせんかい!」
ミルンはニアノールから、はいどうぞと借りたナイフ片手にーーー
「あわせなきゃそぐ! あわせなきゃそぐ! あわせなきゃそぎおとす!!」
ーーーと尻尾を逆立てて獲物を狙う目に。
ヘラクレスはただ溜息しかしていない。
「とっとりあえずそこの獣族を抑えろ!? 次私達に何かしたら貴様達も捕まえるぞ! そもそもそんな穢れた獣なぞ連れて来おって何かすれば極刑! そうっ死刑にしてやる!!」
それを聞いた聖女が声を止め。
ミルンが姿勢を低くして。
ニアノールの瞳孔が開き。
ヘラクレスの筋肉が盛り上がる。
門兵中年の命が狩り取られるかと思った瞬間ーーー
「待てと言われたら全力疾走だ馬鹿共がぁああああはっはっはっ!フッフッフっッハッ!!」
ーーーどこからともなく響いてくる馬鹿の声。
ミルンは即座に詰所を出て耳を澄まし、遥上空、城壁の上を走る全裸を見て声を上げる。
「おとーさぁああああああああん!!」
声が…城壁の全裸へ届いた。
※
キングマッスルホースに引かれた豪奢で小振りな馬車の中で、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは早よ早よとキングマッスルホースを急かしていた。
「陛下っ、やはり御自ら向かわずとも、詰所へ連絡をし、此方へ来させるよう命令すれば宜しかったのではないでしょうか…」
大臣は、この女王が一切聞いてくれないだろうと諦めながらも進言する。
「ふむ、大臣の言うことも一理あるが…やはり謁見の間では堅苦しかろうて。ならば直接! この儂が出向き! 魔王とやらの度肝を抜きたいと! 儂は思うのじゃがどうだろうか大臣?」
揺れる馬車の中で拳を固め意気揚々としている女王の姿をみて、こんなんだから謁見の間の方が良いのにと思う大臣。
「はぁ…もう直ぐ到着ですが、詰所には私が行きますので、陛下は何卒、何卒、何卒! 馬車の中でお待ちいただくようお願い申し上げます!」
女王が凄い顔で睨んでくる。
その時ーーー
「待てと言われたら全力疾走だ馬鹿共がぁああああはっはっはっ!フッフッフっッハッ!!」
ーーーどこからか馬鹿の声が響いてきた。
女王は馬車から身を乗り出し、眼を凝らす。
あれは…あれは…?
「ふっふふっ、ふっふっぷっ、ふっはっはっは、はーはっあっはっはっはっはっはっはー!?」
馬車の中で大臣が女王の笑い声に驚く。
「見よ大臣っくくっ。馬鹿がいるぞ馬鹿が! いや、変態か、変質者かっぷっぷぷっ。 良い! 良いぞ!」
「何がですか陛下!?」
馬車を止め、女王が見ている先を見る。
「いや…あれは…見てはいけませぬ陛下!?」
其処には、城壁の上で朝日に照らされて全裸の変態が門兵達に追われているという…謂わゆるヤバい絵面が瞳に写っていた。