10話 耳を澄ませば半裸を発見(女王視点).3
2026/06/28 改稿
真紅の瞳を閉じ、煌びやかな装飾のなされた王座に、もたれかかるようにして、女王・ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、退屈な時間を過ごしていた。
「……暇ねぇ」
ラクレル村を調査する為の人員も、いまだ編成が"終わっておらず"、魔王と呼ばれる者の正体も、掴んでいないこの状況。
「さざなみながれと言ったか……名前の響きだけ聞くと、この国の者では、なさそうですわね」
王の間には、近衛以外に誰も居ない。
その近衛さえも、隠れている為に、側から見ればただ一人。ポツンとぼっちで、ただボーっと座っているようにしか、見えないだろう。
「来季の予算も、通しましたし、隣国との会談も、まだ先の事……もう寝ようかしら」
視線を壁に向けると、コッコッコッ──と規則的に音を鳴らす、振り子時計なる物があり、その針は十二を指している。
「便利よねぇ。今まで、太陽と月で確認していたモノが、正確に分かるだなんて」
連邦国から来た、行商人が持っていた品で、大金を叩いて、なんとか買う事が出来た。一目見た瞬間に、便利だと思ったからだ。
「……連邦国の技術力は、相当なモノですわね」
あの腹黒達の巣窟ですもの。
我が国に、幾度となく攻めては来ますが、毎回毎回、途中で必ず退くのよねぇ。
「何を狙ってるのかしら……」
そんな事を考えていたら、ドバンッ──と合図もノックも無しに、大臣の一人が血相を変えて入って来た。
「へっ、陛下ああああああ──っ!」
ちょび髭大臣、トネリオス。落ち着きのない大臣の、一人ですわね。
「煩いわ馬鹿者がっ。場所をわきまえぬか」
「もっ、申し訳御座いませぬっ! ですがっ、一大事なので御座いますっ!」
トネリオスのこの慌て様、アルカディアス辺りが、宣戦布告でもしてきたのかしら。あの魔王ならば、あり得る話ではありますが……。
「ふむ……良い、申してみよ」
「はっ、ははあっ!」
さてさて、どの様な一大事かしらねぇ。
「こっ、この王都にっ、真心の水晶にて"赤"と判定された者がっ、侵入致しましたっ!」
王の間が──静まり返る。
トネリオス大臣が発した言葉を、ゆっくりと飲み込んで、女王は大臣に再度問う。
「トネリオス大臣。儂の前で妄言を吐くなど、許されぬ事であるぞ。それを踏まえた上で問う。間違いなく、"赤"なのであるな」
「ははぁっ、間違い御座いませぬっ。今先ほど、北門の兵より伝達があり、至急陛下にお伝えをとっ」
真心の水晶とは、触った者の脅威度を調べる為の物であり、犯罪を行い、"ステータスに悪しきモノ"があれば、緑、青、紫、赤色へと変わる、貴重な鉱石である。
これは、表向きの話。
本来の真心の水晶の特性は、"別"にある。
「"魔王級"の存在が、王都に侵入したとはのぅ」
真心の水晶、別名・紅玉水晶。
魔王又は、魔王に類する者に反応して、"赤く"輝きを放つ、看破の水晶である。
「陛下っ、それともう一点っ、御座いますっ」
「なんじゃ、勿体振りおって。早よう申せ」
「ははあっ。そのっ、赤と判明した者の特徴がっ、先のギルドからの報告書の者とっ……いっ一致するのですっ!」
先のギルドからの報告書……っ、ラクレル村を蹂躙し、壊滅させたにも関わらず、誰一人として殺さなかった──得体の知れない者っ!
「くくっ……まさか、儂が会いたいと思っていたところに、自ら足を運んでくれるとはのぅ」
「陛下っ! 笑い事では御座いませぬぞっ!」
「分かっておるわ。兵共から報告が来たという事は、確保には成功したのじゃろう」
「そっ、その様で……おかしな話では御座いますが、牢に閉じ込めているとの事……」
トネリオス大臣の考えは分かる。
魔王、魔王に類する"赤"と出た者が、大人しく牢屋に入るなど、あり得ない事だからだ。
魔王とは災厄そのもの。
隣国の、アルカディアスに居る魔王は、例外中の例外なだけで、他の魔王共であれば、即戦闘となるであろう。
「牢屋に入る魔王か……面白いのぅ、大臣」
「なりませぬっ、なりませぬぞ陛下っ!」
「まだ何も、言っておらぬじゃろうて」
「絶対に北門へ行ってはなりませぬっ!!」
この大臣とも、長い付き合いですからね。私の考えを、良く理解しておりますわ。正直言って、邪魔なのですけど。
「有能で助かっのぅ。無能ならば即刻、辺境の地へ飛ばすというのに……」
「陛下っ……後生で御座いますっ。どうか大人しくっ、大人しくしてくだされっ!」
「儂はいつも、大人しい淑女であろうて」
偶に職務を放置して、城下へと赴き、民達に混ざってこっそりと、お茶を嗜む程度ですので、完璧な淑女ですわ。それに城下ですと、口調も威張らずに済みますし、楽ですのよ。
「勝手に国庫からお金を抜きっ、重要書類を放置して遊びまわるのがっ、淑女にですとっ」
「ははっ、大臣も、面白い事を言うのぅ」
「何がで御座いましょうっ」
「国の金は、儂の金じゃ」
トネリオス大臣が──急に固まった。
信じられない者を見る様な目で、私を見ながら固まるなんて、不敬に値するわねぇ。
「やはり……辺境に飛ばそうかのぅ」
「陛下……」
「ふんっ、まあ良い。明日の朝にでも、門に伝令を送り、その"赤"と出た者を連れてまいれ」
「きっ、危険で御座いますっ!」
牢屋に捕まる阿呆の、何が危険なのか。
「これは王命じゃ。もう遅い時間じゃし、儂は寝るからのう。あとは頼むぞ、大臣」
「陛下っ!?」
ぎゃあぎゃあと煩い大臣を放置して、そのまま寝室へと入り、ドレスのままベッドへと顔を埋めて、ぷるぷると体を震わす。
「くくっ、あの大臣の顔ときたらっ……ふぅ、明日楽しみだなんて思うのは、いつぶりかしら」
気持ちが昂り、中々寝付けない。
もしも"赤"と出た存在を、手中に収める事が出来たなら、隣国アルカディアスに対しての、切り札として、使えるかも知れない。
「楽しみですわねぇ……」
ゆっくりと目を閉じ、静かに眠る。
日々激務に追われ、腹黒い貴族共の対応をして、合間を見ては城下に赴き、こっそりと聞き耳を立て、民の声を拾う。
疲れない訳がない。
女王として唯一の、安息の時間。それは突如、『陛下あああああああああっ!』と大臣が寝室に突入して来た事により、崩れ去った。
「んがっ……なっ、何をしておるか貴様っ!」
「陛下っ! 一大事に御座いますっ!」
「儂の寝室に無断で入るなぞっ、死け『暴動が起きております!』────はっ?」
死刑を宣告しようとしたのだけど、目の前の禿げた大臣である、マッダリーの発した言葉に、固まってしまった。
「マッダリー大臣、今……何と申した?」
「北門にてっ、冒険者達による暴動が起きていると、城の見張り番から報告があり、至急報告すべきと、判断致しました」
「門からの報告は?」
「いまだ……御座いませぬっ」
これは、この状況は、非常に不味い。
万が一門にいる兵が、冒険者に危害を加え、殺す様な事があっては、冒険者ギルドが黙っておらず、下手をすれば、高ランク冒険者の化物共が、敵に回ってしまう事になる。
「まて、お主今……"北門"で暴動と申したな」
「左様に御座います」
昨日トネリオスから聞いた事。魔王級の存在を捕らえ、北門の牢に閉じ込めている。
現在暴動が起きているのは、北門。
偶然にしては、出来過ぎていますわね。
「チッ、マッダリー大臣っ! 動ける兵を集めよっ! 今直ぐにじゃっ!」
「陛下っ、何を!?」
「これは王命じゃっ! 急げっ!!」
「はっ、ははあっ!」
ただの暴動ならば良し。
冒険者ギルドには、直接私が出向けば、最悪の事態は回避出来る。が、これに魔王級が絡んでいれば、話は変わって来ますわ。
「逃げられでもしたらっ……」




