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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女の居る世界

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10話 耳を澄ませば半裸を発見(ミルン視点).2


 2026/06/28 改稿


 お父さんが動いた。

 それを皆に伝えて、先に突撃をしようとしたら「ミルン、ちょい待ちーや」と、下着姿のまま、残念聖女が止めてきた。


「なあにっ!」


「牙見せんなや、顔怖いでほんま……そんまま突撃しても、兵はあれだけやないやろ。昨日言った通り、ここはウチに任しーや」


「なら早くするのっ!」


 ミルンとしては、早く城壁の中へ突撃して、お父さんを助けたい。人数差なんて、犬人の足の速さで、どうにでもなるのっ。


「ふむ、少し落ち着くのだ、ミルン君。昨日詰所に居た兵と違い、あそこの者達は、熟練した動きをしておる。舐めてかかると、痛い目を見るのであるぞ」


「っ……村長より、強い?」


「私よりは、弱いのである。が、複数人で囲まれれば、厄介であろうな」


 ミルンより遥かに強い村長が、ここまで言うのなら、突撃しての救出は難しいって事? それならどうやって、お父さんを助ければっ。


「お待たせや、準備完了したで。ニアは少し離れた所から、警戒しといてや」


「分かりましたぁ。怪我だけはしないように、気を付けて下さいねぇ」


「分かっとるわ。ほれっ、行くでミルン」


 さっきまで下着姿だったのに、偉そうに仕切ってるの。本当に、残念な性格をしている。


「さて……結構集まっとるなぁ」


 リティナは真っ直ぐ、お父さんを捕まえた、あの門兵に向かって、足早に近付いて行ってるんだけど、何をするんだろう。


「リティナ、何するの?」


「そんなん、昨日言うたやろ。民衆を煽って、混乱させたるわって。まあ見ときーや」

 

 そうして、リティナはそのまま、あの水晶を持っている、お父さんを捕まえた門兵の前で、立ち止まった。


「えっと……聖女様、どうされましたか?」


「あーっ、あーっ、コホンっ……隊長はどこやゴラァっ! 昨日ウチに剣を向けた理由をっ、説明しにこんかいあほんだらあっ!!」


「っ、ちょっ! 聖女様急に何をっ!」


 リティナは門兵から水晶を取り上げて、その水晶をニアノールに渡し、門兵に詰め寄る。


「どうしたもこうしたもあるかいっ! こん先の詰所でなあっ! 若い兵士が剣を向けてきおったんやっ! それがどういう意味を持つんかっ、分かっとんのんやろなあっ!」


 ここは検問所。朝からこの王都を出入りする、冒険者や商人達が、自分たちの番はまだかまだかと、列をなして並んでいる。

 その全員の視線が、リティナに向いた。


「あれ、聖女様だよな?」


「あの派手な見た目、間違いないだろ」


「兵士が聖女様に……剣を向けた?」


「儂らの聖女様に、国の兵士が……剣を?」


 リティナが発した言葉は、ざわざわ──と並んでいる者達に伝播していき、「せっ、聖女様お静かにっ」と門兵は焦りだす。


「聖女護衛騎士のニアノールがぁ、証言致しますよぅ。ほらぁ、早く隊長さんを呼んでぇ、釈明してくださぁい」


 そこへ、少し離れた位置に居る、ニアノールからの追い打ちの言葉。


「国軍の奴らっ、聖女様を襲ったのかっ!」


「おいおいおいっ、俺の母ちゃんは、聖女様に助けてもらって、元気になったんだっ」


「儂だってそうじゃっ。疫病が流行った時も、笑って皆を助けてくれたっ、功労者じゃぞっ」


「私達の聖女様を、国軍が襲ったってことっ?」


 並んでいる人達が、口々に聖女への恩を言葉にしながら、どんどんと殺気立っていく。


「ゴラァっ! 早よ隊長呼ばんかいっ!」


「せっ、聖女様っ! こっ、ここで声を荒げられますとっ、いくら聖女様といえどもっ、許される事ではないのですよっ!」


「ウチが悪い言うとんのかゴラァっ!」


 周りに居る門兵達は、じりじりと、リティナを包囲するように、近付いて行く。

 その手に、持つ槍の穂先が、リティナの胴を向いている事に、一人の男が反応した。


「おいっ! あの兵士っ、槍を構えておるぞっ! 聖女様を襲う気なのであるっ!」


 何処かで聞いた事のある、筋肉の声。

 その声に反応して、列に並んでいた冒険者達が、腰から剣を抜き、斧を持ち、弓を構え、あっという間に、一触即発の空気となる。


「おい門兵共っ! 聖女様に槍を向けて何してやがるっ! その槍を下ろせっ!」


 一人の冒険者が、剣を片手に前へ出た。


「っ、その剣を捨てろっ! ここでの抜剣は重罪っ! 冒険者とて例外は無いのだぞっ!」


 一人の門兵が、声を荒げる。


「何言ってやがるっ! お前らこそっ、その聖女様がどういう存在かっ、分かってて槍を向けてんのかっ!」


「俺達の癒し手だぞっ!」


「聖女様に武器を向けるなんてっ、ジアストールに住まう者達をっ、敵に回すつもりかっ!」


 並んでいる者達の、その声を荒げる姿を見て、リティナに対する印象を、改め直した。

 残念聖女じゃない。

 村長の腕を治した様に、その奇跡の力を使って、数多くの人達を助けてきたんだ。

 

「聖女様っ、どうか大人しくしてくださいっ!」


 門兵の一人が、槍の穂先をリティナに向け、リティナはそれを見て、「悪手やな」肩をすくめてつぶやいた。


「っ、聖女様を護れえええええええっ!」


「朝からずっと並んでんだよおおおおおおっ!」


「冒険者舐めんなゴラァっ!」

 

「「「わあああああああああああっ!!」」」


 並んでいた者達の──咆哮。


「ぐっ、総員構ええええええっ!」


「へっ、兵長っ! 数が多過ぎますっ!」


 ほんの僅かな時間で、リティナとニアノールの手により、暴動が起きてしまった。

 リティナの力を、過小評価していた。


「聖女は……暴動装置なのっ」


 ここにいる門兵の数は、十名程。対して、列に並んでいる者達の数は──数え切れない。

 門兵達の取れる手段は、ピュィィィ──ッ『増援が来るまで抑えろおおおおおおっ!』と笛を吹き、他の仲間を呼ぶ事だけ。


「ミルン君、行くのであるっ!」


「分かったっ! 今っ!」


 通路を塞いでいた兵が動き、見張りがいなくなった隙をついて──走り出す。が、少しだけ勇み足過ぎた。


『何事だっ!』


『急げっ! 正門からの増援要請だぞっ!』


 通路の先から、声と共にガチャガチャと、金属の擦れる音が数多く聞こえてる。


「っ、頃合いを見誤ったであるなっ」


「いっぱい来るのっ!?」


 城壁内部へ突入する筈が、出鼻を挫かれ、隊列を組む兵士達に押し戻される。

 

「第一班は冒険者を押さえよっ! 第二班は聖女様を囲みっ、決して傷つけるな!」


「「「ははあっ!」」」


 壁の中から来た兵の中に、一人だけ色の違う鎧を付けた人が居る──あれが隊長なのっ。


「第三班は、あのガタイの良い男と──獣っ、穢らわしい獣は殺せえっ!!」


「隊長っ! それは王国法に背く事にっ!」


「構わぬっ! 何が奴隷解放令だっ! 畜生が道を歩くなぞっ、息が腐るわっ!」


 これは不味いのっ、人数が多過ぎる。

 あの隊長、以前の村長に感じた、獣族に対する"怒り"ではなく、ただの"嫌悪"感だけで、殺意を向けてくる。


「ミルン君っ! 下がるのである!」


「ぬぃっ、突き殺そうとしてくるのおっ!?」


 隊列を組んだ兵が、これ程厄介だなんて。

 盾を持つ五人が前へ出て、槍を持つ五人がその後ろから槍を構え、突き出してくる。


「このっ愚か者共──ふんっ!!」


 村長の拳の一撃までも、べゴンッ──と盾で防ぎ切り、吹き飛ばない様に耐えている。

 兵士達が異常なのか、盾が異常なのかは分からないけど、このままだと不味いのっ。

 

「早くその獣を殺せええええええっ!!」


「頑張らんかい冒険者共っ!」


「リティナ様にぃ、槍を向けないで下さぁい」


「ぬぐっ、手強いであるなっ!」


「「「うおおおおおおおおお──っ!!」」」


 徐々に冒険者達が、押さえられていく。

 リティナはニアノールが守っていて、村長は少しずつ、押し負けている。


 その最中──何処からか、『走れってかあああああああああっ!』と、声が聞こえた。


 風に乗って、お父さんの匂いを感じた。


 突き出された槍が──ミルンのお顔目掛けて、迫ってくる。が、「っ、邪魔なのおおおおおおっ!!」と斧で弾き飛ばし、その場から急いで後退して、周囲を観察する。

 お父さんの、匂いを辿り──息を大きく吸い込んで、声を上げた。


「お父さああああああ──んっ!!」


 城壁の上から匂う、お父さんに向けて。

 

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