10話 耳を澄ませば半裸を発見(ミルン視点).1
2026/06/28 改稿
お父さんが連れて行かれた。
あの変な石が光ってすぐ、あっという間の出来事で、助けようとしたのに村長に掴まれて、助ける事が出来なかった。
「ゔぅぅぅっ、お父さんを返してっ!」
「そっ、その様な事を申されましても、規則ですので、出す訳にはまいりませんっ」
「何も悪い事してないのっ!」
ダンッダンッ──とテーブルを叩いて、目の前の兵士さんに抗議するけど、こっちの言葉を一向に聞いてくれない。
ここは門を潜った先にある、門兵の詰所。
お父さんが連れて行かれてから、すぐにリティナは動き出して、この場所まで来た。
「あんた、ウチの客人に手ぇ出して、どないなるか……分かっとんのんやろな?」
「っ……いかな聖女様といえども、法を破って良いものでは御座いませんっ。真心の水晶で赤と出たからには、拘束は絶対ですっ」
「そん法を作っとる女王の命で、わざわざラクレル村まで行って、連れて来たんやで」
「それはっ……城に報告に向かった者が戻るのを、お待ち頂ければっ……」
「あんたら、それ待たずに処刑する気やろ」
リティナの言葉を聞いて、驚いた。
お父さんが、処刑される? なんで? 悪い事なんて、何もしていないのにっ。
「リティナっ、それどういう事っ」
「なんやミルン、知らんのんか。まぁ、あんたは獣族やし、知らんのも当然やな」
「ニアノールっ、教えてくださいなっ!」
まだ会って間もないけど、この聖女リティナの性格は、大体分かっている。
雑な性格で、大雑把に話す。
だからここは、ニアノールに聞くのか正解。
「なんでウチちゃうねんっ!」
「リティナは残念聖女っ」
「誰が残念聖女やっ! どこからどう見ても、慈愛の心溢れるっ、完璧聖女様やろっ!」
その言葉で一瞬──詰所内が静まり返った。
「「「……」」」
やっぱりリティナは残念聖女っ。
「ニア……なんか言うてぇや」
「えっとぉ、リティナ様は可愛いですよぅ」
「ミルンの言葉を否定せえへんのかいっ!?」
いちいちツッコミを入れる癖は、少しだけお父さんに似てるけど、そこが気に入らないっ。
ツッコミはお父さんのモノっ。
「ミルン君。真心の水晶は、触れた者のステータスを読み取り、その者が脅威となる存在かどうかを、色で判別するといわれておる」
「村長居たの?」
「っ、止めた腹いせかねっ」
それは違う。ムキムキの筋肉をしているのに、まったく気配を感じなかったから、本気で居ないと思っていた。
「空気になってた?」
「空気にはなれぬのであるが……まあ良い。流君の色は"赤"。これの示すところは、簡単な話、あの流君が、"国をも滅ぼせる力"を、有しておるという事なのだ」
「お父さんはそんな事しないっ!」
「分かっておる。分かっておるのだがっ……そのような力を有する者を、国が野放しにするなど、あり得ぬであろう」
だからこそ、手っ取り早く処刑する。
そんなのはおかしい。
お父さんはラクレル村で、ミルンを助ける為に、村人を蹂躙したけども、誰も殺していないのっ。一人も死んでなかったっ。
「……ウチが説明する予定やったのにっ」
「まぁまぁ、良いじゃないですかぁ」
このリティナも役に立たない。
聖女って、権力とかは持ってないの?
もしかして本当に、残念聖女?
「その目はなんやねん、ミルン」
「なんでもないっ」
もうこの聖女は、アテにしないの。
ジッと目の前にいる兵士を見つめて、背中に背負っている斧に、ゆっくりと手を伸ばす。
「っ、獣族の子供といえど、武器を構えたならば、対応せざる得なくなるぞっ……」
「兵士さんは、オークより強い?」
「なっ、何を言って……」
「ミルンはね、オーク"五体"より強いの」
「ごっ、そっ、そんな訳ないだろう……君みたいなこっ、子供がっ、オーク五体なぞっ」
この反応を見る限り、目の前に居る兵士さんは、ミルンより遥かに弱いの。
以前お父さんが倒した、大きなオークだと、ミルンは負けちゃうかもだけど、普通のオーク五体程度なら、簡単に勝てる。
「お父さんを、返してくれないなら、暴れてでも取り戻すの。ミルンの事を一人にしないって、約束してくれたんだもん」
斧を強く握り締め、目の前の兵士目がけ、ブオンッ──と軽く振り抜き、テーブルを真っ二つに割った。
「ひっ、なっ、なぜ貴様等は止めんのだっ!」
「いやぁ……怒らせたんはアンタやろ」
「ニアノール様のぉ、命令がないのでぇ」
今のミルンを止めれるのは、お父さんだけ。
意地悪する兵士さんには、容赦はしない。
犬人族は、家族を大切にするの。
「お父さんを処刑するのなら、殺すというのなら、"私"は貴方達を許さない」
隣に居る村長には、痛い目に遭わされたけど、村長が強過ぎるだけで、パパとママに護られていた頃の私とはっ、違うんだ。
「ちょっ、調子にのるなあっ!!」
兵士が腰の剣を抜き放ち、割れたテーブルを飛び越えて、ミルンの頭目がけ、ヒュッ──と振り下ろしてきた。
ミルンは"テーブル"を割っただけ。
兵士はミルンの"頭"を、割ろうとしている。
やっぱり、"遅い剣"なの。
「やめぬか馬鹿者っ!!」
斧で剣を砕こうとしたのに、凄い速さで村長が間に入って来て、兵士の剣を"素手"で受け止め、パキィッと握り潰す。
「……へっ」
「この獣族に手を出せばっ、国が滅ぶやも知れぬのだぞ! あの者っ、"流君"を怒らせてはならぬのだっ!」
「なにをっ、おっ、応援をっ!?」
村長の気迫に、兵士さんは後ろへとさがり、胸当ての隙間から何かを取り出した。
あれは──笛? 増援を呼ぶ気っ!
「すぅ──っ」
「そんな暇は与えませんよぅ」
いつの間にかニアノールが、笛を鳴らそうとした兵士さんの背後に迫り、「ぐぐぅっ!?」そのまま首を絞め落とした。
「詰所に一人だけやなんて、たるんどるなぁ」
「むぅっ、ミルンが倒したかったっ」
「しゃあないなろ。ウチが居る前で、剣抜いたんやから、ニアが動くに決まっとるやん」
ぬぅ……ニアノールには速さで勝てないし、村長に至っては、素手で剣を握り潰すとか、意味が分からないの。
「それで、これからどうするのかね」
「そやなぁ……ウチに剣を向けた時点で、ここん門兵の取り纏め役は、終わりやろうけど……」
「陛下に報告しましょうかぁ?」
「それはまだええやろ。なあミルン」
リティナが笑みを向けてきた。
この国の偉い人に報告をする前に、しておかなければならない事は何か。
「ぬぅぅぅ、どうするか考えますっ!」
「あんた犬人やのに、随分と慎重やなぁ」
「明日の早朝にまた来るの。それで、今日と同じ返答だったら……暴れるっ!」
「うん、慎重言うた事、訂正するわ。暴れんのなら、ウチに任せときーや。直ぐにでも民衆煽って、混乱させたるわ」
腰に手を当てて、ふんぞり返ってるけど、残念聖女なのに、そんな事出来るのかな?
「なんやそん目は?」
「なんでもないのっ……明日に備えますっ!」
そうして一度、門をくぐって、リティナの巨大馬車へと戻り、その屋根の上でジッと、通行人達を眺めながら、その時を待つ。
「お父さんの事だから、大人しく捕まっている訳がないのっ……何か動きがある筈っ」
匂いを嗅いでも、人が多過ぎて、お父さんを追えないし、今はただ、我慢するしかない。
「入口はあそこっ」
正門検問所の城壁内部。あの兵士達が立っている通路へ、どうやったら入れるか。
ニアノールに貰った、硬い干し肉をモゴモゴしながら、斧を片手に考える。
辺りが暗くなり始め、徐々に人が減り、魔石の明かりが灯る中、眠る事なくただジッと、お父さんが動くのを、待ち続ける。
暗がりの中、巡回の兵士が、ミルンの視線に気付き、「ひっ!?」と逃げるように去ったけど、今は襲わない。まだ襲わない。
「ミルンさぁん、寝ないんですかぁ?」
「寝れないのっ。ニアノールは寝てて良いよ? ミルンはこんなの、慣れっこですっ」
「……あまりぃ、気を張り続けるのも、体に悪いですからねぇ。少しは寝て下さいよぅ」
そう言ってニアノールは、馬車の中に戻ったけれど、心配不要っ。魔龍の川の近くで、魔物を狩りながら、ずっと一人で暮らして来たんだから、一日程度、寝る必要がないの。
「狩りは我慢が大事っ……」
遠くから太陽が昇り、ちらほらと冒険者達が、門を通って行く姿が見えた頃、城壁の中から、兵士達だろうか。息を殺して、ジッと聞き耳を立てると、鎧の擦れる音と、叫び声が聞こえてきた。
「っ、お父さんが動いたの!」
バンバンッ──と馬車の屋根を叩き付け、中に居る全員に合図をして、屋根から飛び降り、斧を握り締める。
「なんやぁ、朝っぱらから。煩いなぁ」
「リティナ様っ、そのまま出ないで下さぁい」
「何事であるかっ!」
何事かと、三人が飛び出して来たけど、どうやら残念聖女以外は、起きていたようなの。
「城壁の中が騒がしいのっ! お父さんを助けるのなら、今が好気っ!」




