9話 捕まり走って半裸の男.3
2026/06/28 改稿
牢屋に入って夜には脱出。ミルン達と合流して、そのまま楽しく、王都観光真っしぐら。なーんて、そんな上手い話はないよな。
「そっちはどうだっ! あの男は居たかっ!」
「こっちには居ないっ! たくっ、見張りの奴ら、また遊んでいやがったな!」
「兎に角っ、絶対に"赤"を探し出せっ!」
息を潜めて、ガシャガシャと、鎧が擦れる音が遠ざかって行くのを確認したら、そっと木箱の中から顔を出し、周囲を確認。
「……行ったか」
何で俺は、異世界に来てまで、某ミリタリーゲームの主人公よろしく、木箱の中に隠れたり、棚の隙間に隠れたりしてるのだろう。それになんだか、どんどんと兵士の数が、増えているような気がするし……早く逃げないと、囲まれたら詰むだろ。
「赤ジャージも目立つし、着替えてぇ」
抜き足差し足忍び足と、門兵が向かった方とは逆の通路を進み、耳を澄ませて、足音を確認しながら、迷っております城壁内部。
「出口どこだよ……こっちか?」
扉をそっと開けて、先へと進み、右へ左へと、頭の中でマッピング。特徴のない石畳の通路だから、本当に迷路のようだ。
「んで、また十字路ねぇ」
真っ直ぐ行くと、上り階段しかない。
となると、左右どちらかの扉を選んで、進まないといけないと……右だろうか。
そう思い、扉を引いてみるが、鍵が閉まっているのか、開いてくれない。
「チッ……どの鍵だ?」
空間収納から、鍵の束を取り出し、緊張の所為か、震えている手で、一個一個試していくと、カチッ──という音が聞こえた。
「うしっ」
背後の扉から、ガシャガシャと足音が迫り、少し焦ってしまったのだろう。扉の先を確認する事なく開き──固まった。
「頼むから、出口であって────えっ?」
「……えっ」
目の前には、何かを必死に外そうとしている、見事な太腿全開の女性が、こっちに顔を向けて、ポカンと口を開けている。
「……」
「……」
無言で見つめ合う、俺と女性。
静寂がこの場を支配する中で、俺は、見てしまった。女性が必死に外そうとしているモノを、見てしまったんだ。身分の高いお嬢様が、殿方から身を守る為に装着する、ある意味での防具品。
「てっ……貞操帯?」
「いっ──」
「あっ、ちょっ、ちょっと待ってっ!」
「いやああああああああああああっ!?」
女性が側の剣を手に取り、振りかぶっての──俺はすぐに扉を閉め、ズガンッと俺の顔ギリギリに、刃が扉を突き抜けてきた。
「あっ、あぶっ、危ねぇっ……っ、逆の扉かよ」
駆け足で左側の扉に向かい、そのまま開けようとするが──『今の声っ、こっちだっ!』と、行こうとした先から、兵士の声が聞こえる。
「叫び声デカ過ぎだろおっ」
前の扉は駄目だっ、来た道を戻るか──そう考えて直ぐに走り出すが、そっちからも『急げえっ!』と、兵士の声が聞こえ、進める道が一つしかない。
「嘘だろっ、上がらなきゃならんとかあっ」
階段を上がった先から、兵士が来てしまえば、囲まれてしまい、逃げ場がない。
立ち止まってしまった。
階段を上がるのを、躊躇してしまった。
「赤がいたぞおおおおおおおおおっ!」
突然扉が開き──兵士と目が合い叫ばれた。
「糞っ、道は一つだけかよおっ!」
踵を返し、階段へと駆け出す最中、何故か兵士は足を止め、手の平を俺に向けた。それはまるで、日本にいた頃、小説や漫画などでよく見た、"魔法を放つ動作"のような──嫌な予感がした。
「我が手に宿るは"火"の精の理っ────」
「えっ、詠唱"っ!?」
偶然か必然か。無意識のうちに体が動き、『空間収納』から取り出したのは、俺の大切な物が入った、リュックサック。
「眼前の敵を焼き尽くせっ──『豪炎っ!!』」
それは、喉が焼けんばかりの炎。
それが、放たれた。
視界を埋め尽くさんばかりの、炎の塊が迫りくる中、俺はそのリュックサックを──その炎に向け放り投げ、階段へと飛び込んだ。その瞬間、バシュッ──パアアアンッ!! と、中に入っていた炭酸飲料が弾け、煙を作り出す。
「ぐっ、今のはなんだっ! 煙だとおっ!」
兵士が驚きの声をあげているが、俺はそれを気にする余裕も、冷静さもない。
「ぐぅぅぅっ、熱っ、糞っ、火がっ!」
火だるま状態のジャージを脱ぎ捨て、背中に感じる痛みに耐えながら、階段を駆け上がる。
パンイチスニーカー男の、完成です。
しかもアレだよ……リュックサックもそうだけど、貴重な日本のカップ麺が、見事に燃え尽きてしまいました。
「ぐぅぅぅっ、もう二度とっ! 食べられないかも知れない物なんだぞっ! 糞痛えっ!!」
赤ジャージが燃え尽きるよりも、リュックサックが燃え尽きるよりも、他の何よりも、カップ麺が燃え尽きてしまった事が、今の俺にとっては、最大のショックだ。
「アイツらっ、絶対に許さないからなあっ!!」
「待てえええええええええっ!」
「奴は上に居るぞおっ!」
「覗き魔ああああああ──っ! ぶち殺してやるわああああああ──っ!!」
許さないと言ったけど、訂正します。
「許すから来るなああああああああっ!!」
兵士達の殺意だろうか。階段下から迫り来る兵士達の熱気が、火傷の痛みを忘れさせる程に、俺の背筋を凍らせる。
「ぐうっ! 足重っ……」
ひたすら走っているからか、それとも、背中に感じる激痛の所為か、足が思うように動かず、階段下を見ると──俺を追うかのように、赤い線が引かれている。
「……背中っ、見たくないなぁ」
今直ぐにでも、泣き叫びたい激痛。
しかし、今ここで泣き叫び、足を止めてしまえば、「覗き魔ああああああっ!」と叫びながら迫って来る兵士に、殺されてしまう。
「ふぅっ、ふぅっ……階段長くね?」
延々と続く、上り階段。他に道はなく、逃げ場もなく、ただひたすらに上がって行く。
「ぐぅっ……もう少しでっ」
痛みを堪え、階段を上りきり、光と風を感じる出口へと足を踏み入れ、ソレを見た。
「ははっ、凄げぇ」
高さ二十メートル以上はある、巨大な城壁の道が、首都を囲むように造られており、目を凝らさないと、先まで見る事が出来ない。
「んで、下りれそうな所は……うわぁ」
この城壁上の遥か先に見える、突起物。
ここは恐らく、この城壁の見張り台的な場所なんだろうけど──あそこまで走れと? 今の俺のこの状態で? 泣くぞ。
後ろの階段を見ると、『のっ、のっ、覗き魔ああああああっ!』と、息を切らせながら、殺意の塊が迫って来る。
「……っ、走れってかあああああああああっ!」
背中に風が当たる度、ズキズキと痛む。
意味が分からず捕まって、牢屋に入って抜け出して、挙げ句の果てにはパンイチで、城壁の上を走る俺。
一日でこれだぜ?
本当にもう、血管がキレそうだ。
このまま怒りに身を任せて、意味不明な魔法をぶっ放してやろうか。そう思ったその時、『お父さああああああ──んっ!!』と何処からか、可愛いケモ耳の声が聞こえてきた。




