9話 捕まり走って半裸の男.2
2026/06/28 改稿
両腕を掴まれて運ばれるとか、ここは異世界の筈なのに、宇宙人になった気分です。いや、ちょっと待てよ……この異世界を、違う惑星と例えたなら、あながち間違いでもないのでは。
「こいつっ、自分で歩けっ!?」
「いやぁ……両腕が掴まれてるから、歩き辛いんですって。勘弁してくださいよ……」
「この状況で、太々しい奴だな」
意味も分からず捕まえられたら、太々しい態度にもなるだろうさ。だから、ちょっとした嫌がらせで、体を脱力させるぐらいの抵抗は、させてもらうぞ。
そんな事を思っていたら、「ここで大人しくしてろっ!」と牢屋にぶち込まれ、ガシャンッと鍵を閉められました。
「痛ぇっ! くそっ、もっと丁寧に扱えよ……」
牢屋なんて、初めて入っ……ラクレル村で一度入ったから、初めてって訳じゃあないな。
人生で二回目の牢屋イン。
「若干擦りむいたじゃん……っ」
擦りむいた腕に、「ふーっ、ふーっ」と息を吹きかけ、倒れた体を起こし、胡座をかいて座り、この状況を整理する。
「誤認逮捕……いや、あの水晶が赤くなってから騒ぎ出したから、何か理由があるのか?」
ミルン……物凄く怒ってたなぁ。あそこの門兵達を、可愛いパンチで襲って、人の睾丸も悪くないモゴモゴとか、やってないだろうな。
「……大丈夫だよな?」
汚い床にゴロンと寝てみる。
これは……硬くてゆっくり出来ません。そりゃそうだわ。だって石床の牢屋ですから。
『おぅっ、そこに居るのは、新入りかい?』
おっと、壁の向こうから、誰かが話しかけてきたんだけど。この牢屋の隣も確か、牢屋だったよな。て事は、犯罪者か?
「新入りというか、意味が分からない内に、牢屋に入れられた、唯の一般人だぞ」
『牢屋に居る時点で、俺らと同類だろ』
「違うっての。良く分からん水晶が"赤く光った"と思ったら、ここにぶち込まれたんだ」
マジで意味分からんのよ。
『っ、お前さん……"赤"なのかっ』
「何だよ赤って。俺は何もしてないぞ?」
『っ……何人殺りゃあ、そんな色になるんだ』
壁の向こうの人が、慄いている感じがする。
「冤罪だ。人なんて殺した事ないし、これからもそんな予定はないぞ」
『嘘吐くなって。ウチの頭ですら紫だってのに、赤なんて初めて聞いたぜ』
「赤ってそんなにも、珍しいのか?」
『自分の事なのに、何言ってんだ? 西の国に居る殺戮人形と、同じ類いの化物だろ』
おおっふ……殺戮人形って、何? そんなネーミングの奴と、同列視されちゃってんの?
「緑と赤とかっ、あの水晶は何なんだ?」
『お前、そんな事も知らずに、王都の門を通ろうとしたのか……頭が悪いとしか、言いようがないぞ』
「うるせぇっ。こちとら王都に来るのなんて、初めてなんだよっ」
現地人じゃないからね。なんだったら、この世界の住民でもないからね。異世界から迷い込んだ、ただの中年です。
これがテンプレ通りなら、異世界に来た時点で、俺勇者よ? それなのに実際は、牢屋に入りまくりの人生とか。
「理不尽過ぎるっ……」
『何言ってんだ?』
「お前には分からんよっ……」
『チッ……仕方ねぇな。あの門の所にある石は、真心の水晶って言ってな、触った奴の"脅威度"を、色で判別しやがんだ』
「脅威度の……判別? 脅威度って言うなら、それこそ俺っ……ラクレル村を蹂躙したからか?」
誰も死んでないのに、赤になるの?
『聞こえてんぞ。お前、俺と同業だったのか?』
「……同業って、あんたは何したんだ」
『何言ってやがる。俺達のやる事なんざぁ、村襲って、殺して、全部奪うだろうに』
「あぁ……」
壁向こうの奴は、職業野盗の人でした。
しかもその野盗に、同業者と思われるとか、物凄く不本意なんですけど。
そんな風に、顔も知らない奴と、壁越しに話をしていると、コッコッと音を鳴らしながら、兵士が歩いて来た。
『チッ……どうやら、俺の番の様だな。おい、壁向こうの奴。お前が本当に何も知らないなら、一度ステータスを確認しろや。赤になった理由が、分かる筈だぜ』
「ステータスを?」
『盗賊っ、アダルスゼリファーっ! 出ろっ! 今から貴様をっ、鉱山送りとするっ!』
「あっ、おいっ!」
隣の奴が、連れて行かれてしまった。
鉱山送りとか、マジですかぁ……んんっ? となると、俺の処遇はどうなるの?
「盗賊のあいつが驚く程、赤はヤバいと。盗賊で鉱山送りだから、赤なら……」
鉱山送りよりもヤバい刑って、最悪のパターンを考えると、死刑もあり得るんじゃあ……これって相当、ヤバい状況だろ。
「取り敢えず、ステータスを見るか……」
====================
小々波流 35歳
レベル 10→11UP(楽し…経…値効果)
能力
STA 15
INT 23
VIT 17→56
AGI 90→135
DEX 85→120
(村人男性平均100とした値)
スキル
・身体強化(これで貴方もマッスルバディに)
・楽…い経…値リシュエルのサプライズ
・空間収納(大人の本の隠し場所として)
・基本魔法(一人暮らしのお供に)
・歪みの叡智(どうなっても知りません)
・ー 判別不ー ー
称号
・逃げ惑うニート
・崖からダイブするニート
・ミルンを愛する者(あっマズイです〜)
ミルンを愛する者の効果を発動。
・ケモナー(ゴールド免許)
+
・種を超えた奇跡(魔物特効)
+
・怒れるニート(恐怖)
+
・火事場泥棒(生き抜く為に)
+
・なんちゃって魔王(笑)
以上の称号を確認。
統合開始。
…統合中…。
…統合中…。
…統合中…。
…統合…リシュエルからの妨害を感知…。
…リシュエルからの妨害を感知…。
…リシュ…ルか…の…。
…統合…中…。
統合完了。
・異界の無法者(これなら〜)
・半魔王(ぎりせ〜ふ〜ふふふ)
====================
「えっ……」
ステータス表記がバグりにバグって、ガチャガチャ合体。最終的に"半魔王"になりました。
「……どゆことっ!?」
半魔王って、半分魔王って事ですか?
「もしかして、さっきの水晶……このステータスの所為で、色が赤くなっのか?」
盗賊のお偉いさんで、紫色。んで、殺戮人形とかっていわれる奴で、赤色に光ると……やっぱりこれって、あの時の行動の所為か? それとも、火事場泥棒の称号の所為?
「知らない称号もあるし、勝手に付いて合体するとかっ……納得いかねえわぁ」
脅威度が赤で、即拘束牢屋行き。
その理由らしきモノが、半魔王。
殺戮人形といわれている奴と、同格の存在。
「半魔王っ……」
どうにかして、ここから逃げないと。このまま悠長にしていたら、ミルンに会えないまま、死刑になる可能性がある。
「ミルンを一人にしないとっ、約束したんだ。絶対にここから──脱出してやるっ」
と息巻いたのはいいモノの、何にも方法が思い浮かばず、壁の上側にある、鉄格子付きの小さい窓から、月明かりが差し込んできて、放置プレイをされております。
「……見張りの兵は、交代制か。時計があれば、時間を把握出来るんだけどなぁ。大体、十五分おきに、俺の事を見に来てる……よな?」
食事も水も与えられず、俺が衰弱するのを、待っているかのような、嫌な感じがする。
「水や食料なら、空間収納に入ってるけど……さて、どう脱出したものか」
恐らくだが、朝までここに居ては、不味い気がする。朝になった瞬間、死刑執行──なんて事にも、なりかねない状況だ。
「脱出方法ねぇ……干し肉旨めぇ」
空間収納から、干し肉と水を取り出して、濃い塩味を水で薄めながら、思考を巡らせる。
「やっぱり、試してみるしかないか」
という訳で、小々波流の、脱獄講座。
あまり煩くすると、兵士に気付かれてしまいますので、拍手はご遠慮下さいっ。
「はいはい皆様っ、小々波流で御座います。本日は誰にでも出来るっ、牢屋からの脱獄方法を、お教え致しますっ」
目の前には鉄格子。
周りを見ても、窓の無い石壁で、ここからどうやったら脱獄が可能なのか。皆様疑問に思う事でしょう。
「そんな時に役立つのがコレっ、『空間収納』」
容量制限無し。防腐効果、劣化軽減付きで、効果範囲半径二十メートル以内の、己の物と認識している物であれば、何でも収納出来ちゃう便利スキルっ。
このスキルの欠点をあげるのならば、毎回倫理観が試される感じがして、心が痛むんだ。
だってコレ、絶対に盗賊向きのスキルだろ。
「鉄格子を収納して、逃げるのかって? もしも鉄格子を収納して、石壁が崩れちゃったら、大音量で即バレしちゃうからねっ」
それならどうするのって、話ですよ。
それは、半径二十メートル以内に、鍵がある事を信じて、それを拝借する算段なんです。
ちょっとした運ゲーです。
「必要な事は、この牢屋の"鍵"が、自分の物であるという事の"認識"だけ」
ここでふと思い浮かんだのは、自宅です。
鍵の開け閉めを、必ず行う場所。
家に帰れば鍵を閉めて、外に出る時は、一度鍵を開けてから、外に出て閉めますよね?
「それなら簡単。ここを自宅だと思えば良い」
ラクレル村で、お肉屋さんや、野菜家さん。雑貨屋さんから色々と拝借した時の様に、〇〇だから俺の物と、"認識"すれば良いだけ。
「牢の見張りが居ないザルさなら、鍵さえ手に入れてしまえば、あとは逃げるだけって事」
それならどうやって、この牢屋を自宅だと認識するのかというと、これも簡単な話ですよ。
雑貨屋から拝借した、綺麗な毛布を敷いて、その上に横になり、生野菜をボリボリ齧りながら、ボーッとだらけるだけ。
「あぁ……引き籠るの、最高だぁ……」
籠もれる場所こそニートの自宅っ!
以上、小々波流の脱獄講座でした。
「なーんて、一人芝居乙っ……」
こうでもして気を紛らわせないと、若干手足が震えて、嫌な汗が出てきている。
時間が経つごとに、牢屋のツンとした鼻に付く臭いが、これは現実だと告げてくるからだ。
「兵士達の姿が、中世っぽいんだよなぁ。となると、有無を言わさず拷問とかかねぇ……っ、集中しろぉ、俺っ」
牢屋からこっそりと抜け出して、ミルンと合流した後、この王都から爆速で逃げる。
聖女様には悪いが、問答無用で牢屋に入れてくる国なんてのに、長居はしたくない。
だからそこの、牢屋の鍵っ!
「ここは俺の家、俺の家、俺の家……っ、頼むから成功しろよっ! 『空間収納っ!』」
このスキルを何度か使って、分かった事は、某ゲームの様な、コマンドを入力してのスキルの発動ではなく、持っているスキルを意識して使えば、発動するという事。
若干体が熱くなる感じがしたら、"発動したよ"という合図っぽいんだけど、空間収納以外の検証は済んでない。
「うしっ、発動したっぽいな。何が入っているのかねっと、空間収納一覧確認っ」
ステータスをポチッとな。
====================
(一覧)
ハイオークの魔石
ミルンの尻尾の毛玉
ミルンの耳毛
ミルンの髪の毛
肉屋の在庫▼
花屋の在庫▼
農作物▼
資材▼
汚れた村人A装備セット
流のリュック▼
門兵Aの家の鍵
門兵Bの家の鍵
門兵Cの家の鍵
門兵Dの家の鍵
門兵Eの家の鍵
門兵Fの家の鍵
門兵Gの家の鍵
門兵Hの家の鍵
門兵Dの"不倫相手"の家の鍵
門兵Fの"不倫相手"の家の鍵
門兵Hの"不倫相手"の家の鍵
門兵Eの"貞操帯"の鍵
隊長室の扉の鍵
門兵詰所の鍵
門兵女性用詰所の鍵
手錠の鍵×二十五錠
手枷の鍵×十二錠
牢屋の鍵A
牢屋の鍵B
牢屋の鍵C
牢屋の鍵D
牢屋の鍵E
牢屋の鍵F
通路の鍵
====================
「鍵……多くね? 取れ過ぎじゃね?」
偶然にしては……ヤバいだろ。これって近くに兵士達の詰所がありますよって、言ってるようなモノじゃん。
てか門兵D、F、Hって、不倫してる門兵多すぎじゃね? そこまで門兵ってモテるの? 不倫は理解出来ないけど、少し羨ましいぞっ。
「それに……貞操帯の鍵って……」
貞操帯ってアレだよな。身分の高いお嬢様が、殿方から身を守る為に装着する、ある意味での防具品。
「……」
うん、そっと放置しておこう。
そんな事よりも今は、急いでここから脱出しないと、鍵が無くなっている事に気付かれたら、兵士が動き出してしまう。
「牢屋の鍵は六つか……先ずはAの鍵っ」
空間収納から鍵を取り出し、鉄格子に腕を通して、手探りで鍵穴を探す。
「どこだ……っ、早くしないとっ」
小さな鍵穴を見付けたら、手首を捻って鍵を差し込み──鍵がガキッと回らなければ、次の鍵を試す。
「チッ、この鍵じゃないのかよっ」
Bの鍵を差し込み──違う。
Cの鍵を差し込み──これも違う。
「焦るなっ……焦るなよ、俺っ」
Dの鍵を差し込み──違う。
Eの鍵を差し込み、「あぇっ」汗で手が滑り、石の床にキィン──と嫌な音を発しながら、鍵が落ちてしまった。
「────っ!」
動きを止めて手を口に当て、ジッと息を殺して、足音が来ないか耳を澄ませる。
「……」
誰も来る気配がない。
遠くで足音は聞こえるが、それもまた少しずつ、遠ざかって行っている気がする。
「ぷはぁっ、ふぅっ……」
心臓に悪過ぎるだろっ。
落ちたEの鍵は放置して、一旦Fの鍵を差し込み、それを回すと──カチリッ──小さな音と共に、鍵が開いた。
「うしっ、Eの鍵じゃなくて助かった」
いそいそと毛布を回収して、音が鳴らない様にゆっくりと、鉄格子を開けて、左右を確認。
「確か……左側から来たよな」
ぶっちゃけ覚えていない。
運ばれている最中、ずっとだらぁっとしていた所為で、どこをどう運ばれたのかが、記憶からスッポリと抜けている。
「……」
左へと真っ直ぐ進むと、T字路になっており、左右どちらともが、扉となっている。
「右……か?」
右の扉へと進み、ゆっくりと開こうとするが、目の前の扉はピクリともしない。
「なんだ? あぁ、ここも鍵か。確か……」
空間収納から通路の鍵を出して、ゆっくりと差し込んでみると──カチリッ──と鍵は回り、扉を開く事が出来た。
「さて……誰にも見つかりませんようにっ」
そっと扉を開けて、先を確認。
人影はなし。
しかし、油断は禁物だろう。
手に入れた門兵の鍵の数は九つ。となると、最低でも九名の門兵が、半径二十メートル以内に居た事になる。
「出会いませんようにっ……」
足音に警戒しながら、真っ直ぐ通路を進んで行くと、今度は十字路に差し掛かった。
まるでこの場所は、迷路。
どの通路も、似たような造りとなっており、十字路を進んでもまた十字路。右へ進むとT字路で、左に進むと行き止まり。
「っ、完璧に迷子じゃん……俺」
頭を掻いて反転し、別の道を探そうと踏み出したその時、ピュィィィ──ッと笛の音のような音が聞こえた。
「この笛っ、バレたのかっ!」
通路の至る所から、兵士の踏み締める足音と、鎧の擦れる音が近付いてくる。
「チッ、出口はどこにあるんだよっ」
俺はすかさず身を低くして、足音の聞こえない方へと、全力で駆け出した。




