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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女が居る世界
29/319

side.0 小々波 哲也 の成れの果て.1



※シリアス・ストーリー※

※キチ◯イ・ストーリー※

※ネタバレ注意※

※不定期に突然※



 それは穏やかな日常。


 優しい妻に、不出来だが可愛い息子。


 小さいが立派な家を建て、仕事は部下に引き継いで、あとは老後を家族とのんびり、幸せに暮らすはずだった。


 はずだった。


「おりゃあなぁにみつんけだあああああ!?」


 妻と二人きりで買物を楽しみ、腕を組みながら話をしていたら、少し先から奇声を発した男が辺りを喚き散らして、何かを探すように通行人の顔を凝視しては、また喚き散らして、凝視して、歩いて来る。


「貴方…」

 妻は俺の腕を引き、離れようとしたが、急に男が走り出して向かって来た。


「ひゃはぬるぅえだずげでぉおえええあああああええええりしゅえええる!」


 手には燻んだ色の包丁が握りしめられ、勢いをつけて振り落とされる。


「由香里っ!?」


 俺は咄嗟に妻を庇い男に背を向け、そこへ振り落とされる刃。


「ぬぅっぐぅ!?」


 熱い、痛い、熱い、痛い、痛い。


 何度も何度もその刃が振り落とされる。


 痛い、痛い、熱い、痛い。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 それでも妻を、由香里を護らねば。


 由香里だけは!由香里だけは!


 由香里だけは!

 由香里だけは!

 由香里だけは!


「哲也さんっ!」


 結婚してからはあまり言わなくなった俺の名を言い、由香里が俺を突き飛ばす。


「りしぇええええるぅあああああああああ!」


 やめろぉおおおおおおお!?


 その振り下ろされる刃が、由香里の胸へと吸い込まれる様に突き刺ささる。


 俺は血が噴き出すのも厭わずに男に掴みかかり、手首を掴みながら由香里を見た。


「てっ…つやさん…」

 由香里!?


 由香里を見た一瞬の間にーーー

「ひゃはひやったやったりょない!」

「がっ」

ーーー男は俺の手を振りほどき、そのまま走り去って行った。



 身体を引き摺りながら、小百合の近くへ行き容態をみるが、刃が刺さったままの胸から血が止まらない。

 

 誰か! 救急車を!?

「だれがぁ…ぎゅうぎゅうじゃを…」


 俺の口から、背中からも流れ出ていく命…。


 俺は小百合を抱きしめ、ゆする。

 

 小百合…?


 小百合…?


 小百合…?


「あっが…ああああぐぁ…ああぁあああぃっ」


 声にならない叫びをあげて。


 俺は力が抜けていく。


 生命の火が消える間際。


 ただ一つ。


 ただ一人の自分の息子に。


「ながれ…ごめ…」


 こんな別れになる事を。


 謝りたかった。



【side.0 小々波 哲也 の成れの果て】



 暖かい…土の匂い…。

 塩風が俺の髪を優しく撫でる…。

 波の音が心地良い。


 俺は、どうした…。

 ああ、確か、妻に久しぶりに二人でデートに行こうと誘われて…。

 映画を観て、ご飯を食べて。

 それから。

 それから。

 それから…!?


「由香里!!」


 眼が開き、飛び起きる。

 辺りを見渡すがここは…?


「由香里は…確か…俺が…俺の…」


 俺の手には最早自分の血か、誰かの血か、判らない程に染まっており、服も朱に染まり、背は破け、何故、どうして生きているのか。


 唯一つ。


 自らの腕の中で冷たくなっていった妻、由香里の感触だけがハッキリと残っている。


 身体が震えて、目が見えない。


「ふぐぃううっううううあああああっ!!」


 この残る感触が、嘘では無く現実であると伝えてくる事に、心が耐えられず、精神が耐えられず、溢れてくる涙と怒り。


 あの男が、あの男の、あの男が、あの男の。


「どごだぁああああ!?」

「でで来ぉおおおおおおおい!!」


 俺は叫ぶが、辺りには誰も居ない。


 誰も居ないし、建物もすらも無い。

 

 俺は、何も無い砂浜でただ一人、海に向かって吠えているだけであった。


「ここは…何処だ?」


 感情の整理は出来ていないが、ただ刺された自分が生きており、何故か砂浜に倒れていた現状を認識して今度こそ辺りを見渡す。


 目の前は遥か先、地平線が見える大海原に、後ろを見ると鬱蒼とした森が生茂り、その先には火山だろうか、溶岩が噴き出している大きな山が見えた。


「どうすれば、俺は、どうすれば良い」

「あの男はどこだ」

「ここはどこだ」

「どうすれば戻れる」

「あの男は」

「由香里は」

「俺はっ!」


 そうだ…。

 俺は生きている。

 生きているんだ。

 ならばやる事、やらなければならない事を整理しよう。

 簡単な事、分かり切った事じゃかいか。

 ははは。

 駄目だな俺は駄目な夫だ。

 そうだな。

 うん、そうだ。


 戻って、探して、必ず殺す。


「そうだ、今はまず戻らなきゃ、戻ってからあの男を探して、同じ目に合わせなきゃ、背中を刺して、刺して、刺して、刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺してから、ゆっくりと胸を突き刺して、必ず、殺してやる」


 口元に笑みを浮かべ、俺は、もう人とは呼べない表情となっていた。


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