9話 真紅の瞳の享楽の女王.1
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空が視界を覆い尽くし、照りつける陽の暖かい日差しを、全身で浴びつつ、石畳の上を駆け抜ける。
「フッフッフッハーッ、フッフッフッハーッ」
ただ前を見ながら、脚を上げ、腕を振る。
「フッフッフッハーッ、フッフッフッハーッ」
横幅三メートル、高低差約三十メートルの城壁の上を、口に笑みを浮かべながら、ただひたすらに足を動かす。
「フッフッフッハーッ、フッフッフッ、ははっ」
背後から追って来るのは、立派な鎧に身を包んだ、殺気立っている兵士達。
『待てええええええ──っ!!』
『止まれ──っ!』
『くそっ、騎士団に連絡しろ!』
『何で追いつけないんだ!』
「「「待てえええ──っ、変質者──っ!!」」」
産まれたままの姿だからって、変質者呼びは失礼じゃ無いのか? 全裸にひん剥いたのは、お前達だろうに。
取り敢えず、煽って逃げなきゃな。
「待てと言われりゃ、全力疾走だ馬鹿共がああああ──っ! はっはっはっ! この桃尻を、捕まえてごらんなさぁいっ!!」
さて、何で俺が全裸で、玉をぶらぶらさせながら、こんな場所を走っているのか、説明しなければならないな。
話は、王都に到着した時にまで、遡る。
野営地を抜けた俺達は、穏やかな陽射しの中、筋肉馬に引かれた、コンテナの上部で寝そべりながら、お手製の神経衰弱をやっていた。
空間収納内の資材から、木の板を取り出し、簡単な絵をミルンに教えながら描き、何とか二十組完成。
「うーっ、これ!」
違うんだよなぁ。
「残念、俺の番だな。ふふふ、これとこれだ!」
あれ、間違えた?
「ミルンのばん!」
尻尾がふりふりと、俺の視線を誘導したな。
そんな風に過ごしていたら、聖女の馬鹿みたいな声が、コンテナ内部から聞こえて来た。
『二人共ーっ! もう直ぐ着くでーっ!』
可笑しいよね。
聖なる乙女と書いて聖女と読む筈なのに、それを一切感じさせない大声だぞ。
この異世界の聖女は、ネタ聖女なの?
「もう直ぐ……よっと」
「んしょっ、んしょっ」
俺は立ち上がり、ミルンは肩に跨り、道が続くその先を見ると、正に異世界だ。
「すっげぇ……」
「おぉーっ、大きいです」
ジアストール王国首都。
石造りの城壁は、高さ約三十メートル。その城壁が、田畑も含め、王都を全体を囲む様に造られている。
城塞都市なのだろうか?
実際に、その壁が何処まで続いているのか、分からない程の広大な土地に、人口凡そ、約三百万人が住んでいると言う。
住民達は穏やかで、市場は活気に溢れ、王の統治に揺らぎが無い事が分かる。また、その治世の良さが噂になり、人を呼び込み、根付き、また噂になりと、未だ発展途上中の凄い都。
王都の中央に行けば行く程、土地が盛り上がっており、丁度円を描いた中心に、王都のシンボルであり、王が住まう場所、ジアストール城が存在する。
「とまあ、こんな感じやな。分かった?」
コンテナ内部に降りた俺に、聖女が聴き取りづらい発音で説明して来たので、脳内補正をかけながら、何とか理解した。
「このままやと入られへんから、一旦手前で降りて、徒歩で王都に入るで」
聖女なのに徒歩。
筋肉馬に引かれたコンテナのままだと、大き過ぎて、城門壊しそうだもんな。
「たのしみ!」
ミルンはふんすっと鼻息荒く、尻尾を膨らませて興奮してるけど……何その尻尾、膨らむのモフモフ。
「ほら、ヘラクレスも準備せぇて。中入ってから、やってほしい事説明するさかい」
「結局移動中に、説明は無かったですな」
「そんなん言うたっけ?」
村長は、渋々とした顔で聖女を見つめているが、聖女は何のことやーっと知らん顔。
「皆様、到着いたしました」
ゆっくりと筋肉馬が動きを止め、ニアノールさんが先導し、ドアを開けた。
「うしっ、行くぞミルン!」
「いっぱいあそぶの!」
「……それで聖女さんや、いつになったら、俺達は入れるんだい?」
ミルンが苛々して、俺の頭をパシパシポンパンと、楽器代わりにしているんだ。
俺達はなぜか、正門の列の最後尾で、あの夏冬の名物である、某即売会ばりに整列して並んでいるんだ。
正直言って暇過ぎる。
「なぁ、聖女リティナ様」
「なんや急にっ、気持ち悪いやっちゃな!?」
えっ……名前を呼んで貶された。
「何で俺達、並んでいるんだ?」
いや、そんな口を開けて、馬鹿な子を見る様な目で俺を見るなよ。アンタ聖女だろ。
「かーっ、ほんま田舎者は。これやから困るわ」
「流君。この門を自由に出入り出来るのは、陛下と門兵のみで、貴族、騎士団、商人、都に住む者等、例外無く並ばなければならない」
「何その面倒臭いの……」
犯罪者を中に入れないための、検問なのか?
やり過ぎ感が、半端ないなぁ。
「おとうさん…ねむい…」
ミルンが俺の頭を枕にして、寝ちゃったじゃん。テーブルからのランクアップ、おめでとう俺の頭。
『次の方ーっ、ここに手を当てて、ゆっくりと進んで下さーい』
知らない間に、順番が来ていたようだ。
ようやく中に入れるよ。
「ほらミルンさんや、起きて降りなさいな」
『慌てず騒がず節度を持って、紳士淑女の皆様、走らず順番にお願いしまーす』
「本当に、何かを買う列じゃ無いよな? 薄い本とか異世界にあったら……普通に買うぞ」
ニアノールさんを先頭に、門番さんが持っている透明な丸い石を触って進み、怪しい聖女、筋肉村長、可愛いミルンと来て、最後は俺ですねーはいはいっと。
「はいタッチ」
透明だった石が赤く輝きを放ち、石を持った門番さんが笑顔で俺の顔を見て来たので、俺も門番さんを笑顔で見返す。
「…………(ニコッ)」
「…………(デヘッ)」
門番さんが俺の手を掴んで来たから、俺は掴んできた手を更に掴み返した。
「…………(ニコッ)」
「…………(デヘッ)」
門番さんが、持っていた石を投げ捨て、俺の胸ぐらを掴んできたので、俺は門番さんの足を踏み付け、門番さんが息を大きく吸い込み、俺も息を大きく吸い込い込んだ。
「犯罪者だあああああああああああああ!!」
「痴漢よおおおおおおおおおおおおおお!!」
門兵達が凄い速さで駆けつけて来て、一瞬立ち止まって迷ってる様だったが、直ぐに俺を殴りつけ、抑え込み、即座に腕に枷を付けられ、どう事コレ?
「糞痛ってぇ、何すんだよ!?」
「おとうさん!」
「来るなミルン!!」
ミルンが怒りを露わにしながら、俺を助けようとするも、村長がミルンを止めてくれた。
「待てミルン君!」
「はなしてっ、はなしてよーっ!」
「我慢せぇミルン! 直ぐに助けたるさかいに、今は動いたらあかん!」
聖女は何も出来ずに、傍観している。
「流さんっ」
ニアノールさんは、直ぐ動ける様な姿勢のまま、だけども動く訳にはいかない。
「すまない……皆んな」
俺は、意味が判らないまま枷に紐を通され、まるで刑事ドラマの最後を見るかの如く、門兵達に連行されて行った。
「本当に……どうなってんの?」




