7話 魔王?違いますニートです.4
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ミルンは怒っていた。
「もう嫌ああああああああああ────!?」
ドアを開けた瞬間、おとうさんが急に、鼻水をたれながし、泣きながら踊り狂って、そのまま倒れた。
若干尿臭い。
何をされたのかは、分からない。
「うっひゃははは! 何や今の顔っやばいわ!」
けど、誰にやられたのかは、分かる!
手を床に着き、牙を見せ、意識を、殺意を鋭く、尖らせていく。
「おーおー恐い怖い、お犬さんさやねぇ。飼い主やられて血管ぷちぷちっ、くくくっあかんっ! 笑いがとまらへんっ!」
目の前の女が、足をばたばたさせながら、腹を押さえて転がっている。
「ころす!」────ドンッッッ!!
一度天井に飛びつき、それを足場にして勢いをつけ、女の腹を目掛け────全力の蹴りを放つ!!
『だめですよぅ』
女の腹に、全体重を乗せた足がとどく瞬間、ニアノールが現れ、足首を掴まれ、そのまま投げ飛ばされた。
宙返りをして勢いを殺し、そのまま着地。
すかさず床を蹴り、今度は真正面から突っ込んで、ニアノールの眼球を狙う。
「恐い事しないで下さいよぅ」
それも難なく避わされ、逆に回し落とされ、床に優しく、組み伏せられた。
「じゃっま…しないで…にあのーる」
何とか、抜け出そうとするけが、腕を完璧に押さえられ、一向に抜け出せない。
ニアノールは溜息を吐き、メイド服からゆっくりと、ナイフを取り出す。
「聖女様! お戯が過ぎますぞ!」
白い歯を見せ、筋肉を膨らませたヘラクレスが、いつでも動ける様に、腰を低く構えた。
聖女と呼ばれた女は、ヘラクレスに顔を向け、ゆっくりと体を起こした。
「ニア、もうええやろ。ヘラクレスがキレる前に、そん子離しーや」
「……分かりましたぁ」
ミルンは、拘束から解放されて、流を護るように移動して、威嚇する。
「お前っ、何! おとうさんに何したの!!」
「なんや? そこの筋肉達磨に、聞いとんのんちゃうんけ?」
しゃあないなーと呟きながら、立ち上がる。
ニアノールが、いつの間にか、見た事も無い形のモノを、肩に添えた。
突然部屋が部屋が、暗くなった。
ミルンは四足で構え、警戒する。
暗がりだろうと、夜目が効く獣族。一切の油断無く、何か有れば直ぐ飛びかかる。
────ポンッ!
「魔物蔓延るこの世界ぃぃぃ」
────ポンッ!
「迷える人を、救うためぇ」
────ポンッ!
「古今東西、なんのそのぉ」
────ポンッ!
「亡者共も救いを求め来るぅ」
────ポンッ!
「清き心の、聖なる乙女ぇ」
────ポンッ!
「あ、我のこそわぁ」
────ポンッポンッ!!
「聖女、リティ────」
『もう嫌ああああああああああ────!?』
「……あらぁ」
「おとうさん起きた!」
「今起きんなやああああああ──っ!!」
「へーへー。すまんかった、すまんかった」
胡座をかきながら、不貞腐れた顔で、テーブルに肘を付き、お菓子をぼろぼろこぼしながら、食べている女の子。
行儀が悪いと言うか、汚い食べ方だ。
空色の瞳には、何者にも支配されないと言う、力強さを感じさせる。
褐色の肌に、白銀の纏められた髪色。
何だか、神々しさが滲み出てるな。
日本の着物と、似た衣装を着ており、大人になれば、男を惑わす傾国の美女に成りそうだ。
胸が成長する事が、大前提ではあるが。
あとこの性格と、喋り方もアレだな。
残念聖女、リティナ・オルカス。
「なあ聖女様。俺が見たあの豚野郎……何処行った? アレは、何だったんだ?」
俺は、目が覚めてから、村長に別室へ連行され、臭いからと着替えろと言われた。
股間が滲んでますからね。
じんわりしっとり、温かい。
空間収納から、懐かしの、赤ジャージ上下セットを取り出し、装着完了。
んで戻ると、さっきまで、歌舞伎のポージングをしたまま、固まっていた女の子が、不貞腐れたまま自己紹介。
因みに、ミルンはずっと、俺の腰に万力の力でしがみ付いてます。
ベアバッグかな?
犬耳なのに?
腰の骨が、メキメキってヤバいけど、ミルンの頭を撫でながら、何とか耐えてます。
それで、俺が気を失っている間、何がおきたのかの説明を、村長から受けた。
うん、犯人確定したぞっ♪
「お前のせいかこの糞餓鬼いいい──っ!!」
俺がプチ切れを起こして、聖女に掴み掛かろうとしたら、首元に冷たい感触が。
『だめですよぅ』
いつの間にか、ニアノールさんが背後から、俺の首元にナイフを添えていた。
ミルンが其れを見て威嚇し、村長は頭を抱えて、ニアノールさんは目がヤバい。
何この混沌。
一瞬で冷静になったわ。
「あぁひょれな…ぷはっ。ウチはアンタが、何見たんか知らんのよ。ほんまゃやで。アンタがここ最近で、いひゅ番恐怖を感じた物を、見せる力やからな」
「食べながら喋るなよ……お菓子をボロボロと、行儀悪過ぎて何も言えんわ」
「んくっ。それでな、なんかニアが『気持ち悪い人来た!』って、涙目で言うて来たんや」
「気持ち悪っ……それで?」
「それでな、可愛いニアに何してくれとんじゃ! って、懲らしめたろ思ってん。ホンマすまんかったわーっ」
「あーなるほどなるほど……」
俺は椅子から立ち上がり、ニアノールさんに身体を向け、両手の先をを揃えたまま勢いをつけて膝をおり、地面に額を押し付けた。
「すみませんでしたあああ────っ!!」
これぞ、完璧な"DOGEZA"である。
光るおっさんとは、モノが違う。
こちとら社会人になってから、至る所で研鑽を積んで来た、本場の"DOGEZA"だからな。
「ヒィッ!?」
「いひゃっひゃっひゃ!!」
一人は怯え、一人は笑う。
大丈夫。
これは、謝罪をしているだけなのだから。
因みに村長は、空気になってる。
「あかんっ、ホンマおもろいなアンタ。まあええわ、挨拶もこのへんで、来てもろた本題や」
聖女は、笑いを堪えてこう言った。
「一緒に王都へ、行って欲しいんよ。まお────」
「ニートです!!」
「……」
「……」
「ま」
「ニートです!!」
「……」
「……」
俺は断固として譲らない。
絶対に言わせて、あげないんだからね!!




