8話 お前の事は忘れない.2
2026/06/12 改稿!
「がぁぁぁっ、ぐごぉぉぉっ……ごがっ!?」
コンテナの上部でのんびりと寝ていたら、急な振動で頭が揺れ、一瞬にして目が覚めた。
「っ、何だこの揺れ……」
隣を見ると、すやすやと寝ているミルン。という事は、マッスルホースが爆走している理由は、ミルンの圧ではない。
「どっこいせっと」
体を起こして、コンテナ馬車上部の柵に向かって、転けない様にゆっくりと歩く。
「ととっ、危ねぇ……」
「んんっ、流さんどうしたの?」
「起こしちゃったか。何か急に、馬車の速度が上がったから、何かあったのかと……おおっ」
馬車より少し前方から、大量の魔物達が、まるで餌を見つけたと言わんばかりに、土煙を上げながら迫って来る。
「すっげぇ光景……じゃなくてっ! 何でこの馬車っ、真っ直ぐ進んでんのっ!?」
このままだと、あの魔物の集団の中へ突撃して、美味しくモグモグされるだろうにっ。
「おい馬っ! 避けろって……何で俺は、馬に向かって叫んでるんだっ」
「いっぱい魔物さんが来るのおっ!?」
ほら、いつもは肉肉言ってるミルンでさえ、あの大量の魔物を見て、尻尾が丸まって──って、尻尾を見てる場合じゃない。
「ブルゥヒヒヒヒィィィィィンッ!!」
「ブルゥッ、ブルゥッ、ブルゥ、フシュッ!」
「脳筋馬過ぎるだろっ、このまま突っ込む気かっ! ミルンっ! 何かに掴まれえええおおおおおお──っ!?」
「とうっ──離さないっ」
ミルンが俺を掴んだと同時に、馬車がこれまでにない程揺れて──大量の魔物の中へと、突撃をぶちかました。
「うおっ!? 落ちるうううううっ!」
「おさかなっ!」
「ミルンは何で、親父ギャグを知ってるんだ?」
「何の事?」
誤魔化されたぞ。なんか思っていたよりも早く、衝撃が小さくなった……どういう事だ?
そう思い、前方を見たら──納得した。
というか、ゴブリンっぽい魔物が、俺達の上をくるくると飛んで行き、「ギュギョッ!?」一瞬だけ目があったのだが──涙を流していた。
「うわぁ……マッスルホース容赦ねぇ」
「潰れていくのぉ」
生々しい音を立てながら、ゴブリン、ゴブリン、オーク、ゴブリン、オーク、ゴブリン、ゴブリン、鶏? オークと、その迫り来る魔物の群れが、見事に潰されていく。
ある者は押し潰され。ある者は上空へ。ある者は噛み引きちぎられ。またある者は粉々に。
「ヒヒィイイイ────ンッ!!」
「ブルゥッブルゥッッッ!!」
二頭のマッスルホースが、その筋肉と重量でもって、魔物の大群を蹂躙せしめている。
「……そりゃそうか」
コンテナハウスと言って良い程の、トン単位であろう質量を引っ張っている、あのマッスルホース達が、小さいゴブリンや、同サイズのオークに負けるなんて事は、考えられない。
「コレは……あの台詞を言う、チャンスではっ」
振り落とされない様に、コンテナの柵をしっかりと握り締め、ヲタクとして言ってみたい台詞を、声高らかに叫ぶ。
「ふはははっ! 我が軍は圧倒的ではないか!」
「流さんどうしたのっ!?」
「さあ筋肉馬達よっ! 敵を薙ぎ払えっ!!」
「ヒヒィイイイ────ンッ!!」
「ブルゥッブルゥッッッ!!」
次の台詞は、やっぱりコレだろう。
「お馬さんパッカパッカ♪」
「流さんが可笑しくなったっ!?」
ミルンさんや。揺られ揺られて、ハイテンションになっただけだから、可笑しくない。可笑しくなってないんだよ。
「んっ? 何だアレ……」
そんな事をしていたら、ポーンと前方から、何かが飛んでくるのが見えた。良い感じに俺目掛けてきたので、手を上げてのスポッとキャッチ成功しました。
「鶏……?」
「流さん。それ、コカトリスですよ?」
ミルンが俺にしがみつき、涎を垂らしながら教えてくれるけど、どう見たってこの生物……アレにしか見えない。
「うん……鶏」
サッカーボール程の、大きさの鶏の身体に、蛇の様な尻尾を生やし、『コケッコココッ』と鳴いている、卵が美味しい飛べない鳥。
「鶏……だな」
俺は失念していた。
大きかろうが小さかろうが、魔物は魔物。
コカトリスとは、庶民の家計の味方。
低価格で販売されており、その肉は蛋白で、様々な料理に合うと好評。一時乱獲され、その数を減らしたが、現在では増えに増えて、害獣ならぬ害鶏となり、捕獲推奨と言われるまでに進化した、厄介な魔物。
その魔物の特性を、身を持って知った。
『コケエエエエエエ──ッ!!』
はい、石化光線ですね。
一瞬で石像に、なっちゃいました。
だけどコカトリス、お前も逃げられないぞ。お前は俺の手の中に、居るのだから。自ら逃げ道を塞ぐとは、愚かな行為だ。
『コケェッ!?』
ミルンは助けを呼んだ。しかし仲間は、既に潰されているようだ。
「……」
コカトリスが暴れている。
筋肉達磨の村長が現れた。
「……」
石像をコンテナに搬入した。
「……」
コカトリスが暴れている。
聖女は爆笑している。
ミルンは俺の頭を齧っている。硬い様だ。
「……」
コカトリスが暴れている。
聖女は爆笑している。
村長も笑い出した。
ニアノールは堪えている。
「……」
コカトリスが疲れている。
ミルンは尻尾を、俺の顔に擦りつけている。
ニアノールは笑い出した。
「……」
コカトリスは諦めた。
聖女が奇跡を行使した。
「ふぅ……助かった……良しっ」
俺はギュッと、コカトリスを握り締め、「こんのぉ鶏やろうがああああああっ!!」と、聖女の顔面目掛けて投げ付けた。
「何でやねんっ!?」
筋肉馬達の働きによって、魔物の群れを殲滅した俺達は、新たなる仲間、コカトリスの非常食(ミルン命名)を連れて、先へと進む。
「ふぅ……何か一気に疲れた」
仰向けになった俺の腹で、ぐっすりお休み中のミルンを撫で撫で……疲れが取れてきたな。
そうしてボーっとしていると、コンテナ上部の昇降口が開き、「流君。もう直ぐ野営地に着くのである」と村長の声が聞こえたので、了解とだけ伝え、ミルンを起こしつつ、前方を確認。
「んんーっ、あそこか?」
砂利道が終わり、整地された道が続く先に、大きなログハウスが見え、そのログハウスから、煙がもくもくと立ち昇っていた。
「何これ……ただのキャンプ場じゃん」
コンテナ馬車から降り、耳をぴこぴこ、尻尾を振り振りとしている、可愛いミルンを肩車して、野営地を歩く。
隣には、猫耳メイドのニアノールさん。その隣には、大股で歩いている、どう見ても聖女には見えない、聖女リティナ。後ろからは、身長二メートル越えの筋肉の塊である、筋肉村長。
「物凄く目立ってるなぁ」
「そんなん、気にせんでええやろ?」
「人が見てくるっ」
周囲から視線を感じるけど、怪しい者では御座いません。大道芸人でも御座いません。と、言って回りたい気分になる。
「流さん、お腹が減りましたっ」
「そうだな……あそこでご飯作るか」
広場の端に場所を陣取り、簡易の調理場を設置して、何処からどう見てもキャンプです。まごう事なきキャンプです。
「誰か火を着けてもらえるか?」
ミルンがビクッと、肩の上で震えた。
どうしたんだろ、ミルンは火が苦手なのか?
「火の魔石持ってますよぉ」
「ニア、それウチに貸し」
「んっ? 魔石?」
ニアノールさんが、メイド服から取り出したのは、薄っすらとした灰色の石。
「これをこうしたらっと」
石を握った、聖女リティナの手の平から、小さな光がふよふよと現れ、枯葉の上に落ち、ポッ──と火が着いた。
「えっ……何その便利アイテム」
濡れパンをマシパンにする為、俺がどれ程苦労したと、思っているのだろうか。その後ミルンのボロ小屋までも、消しちゃったんだぞ。
「ほいニア、返すわ」
「はいどうもぉ。お役に立てて良かったですぅ」
「いやいや、ちょい待ちちょい待ちっ」
「何やねん、魔王のにーちゃん」
「魔王じゃないってのっ、じゃなくて、その石何? 何で今ので火が着くの?」
石を握っただけで火が着くとか、意味不明な光景を見せられたら、気になるだろうに。
「何やあんた、魔石使うた事ないんか?」
「魔石って……」
この異世界には、魔石が──あっ。そういえばあの時、空間収納内にオークを入れたら、魔石も一緒に取れたんだったか。
「何でそれで、火が着くんだ?」
「ほんまに知らんようやな。ニア、この常識知らずの魔王に、説明したりーや」
「はぁ……良いですけどぉ」
「誰が常識知らずだこのっ……お願いします」
ここはぐっと堪えて、我慢我慢。
ニアノールさん曰く、魔石を媒介にして魔力を流すと、その魔石の特性に合った魔法が、使えるとの事。
「魔力って……何?」
ステータスの項目には、魔力の記載がありません。イコール、疑問しか湧かないぞ。
因みに魔石は、魔物の心臓。
解体しなければ、手に入らないらしい。
「以上ですぅ。分かりましたかぁ?」
「……無茶過ぎるぞ」
この俺に、魔物の解体なんて、出来ると思うなよ。こちとら現代人ですからね。日々お肉屋さんに、感謝しておりました。
「んで、さっきも聞いたけど、魔力って何だ?」
「常識も、ここまで知らんとなると、説明する気にもならへんわ。自分で調べぇ」
「ぐっ……」
残念聖女に、ここまで言われるとは。ミルンは首を傾げてるし、村長は空気になっているから、質問はここまでだな。
「んじゃっ、お料理のお時間ですよっと。『空間収納』から、鍋をだしてっと」
この鍋の出所は、村長には内緒だ。
先ずは、玉葱っぽいモノを微塵切りにして、色が変わるまで炒め、人参っぽいモノと、馬鈴薯っぽいモノを加えて、更に炒める。
次に、ブロック肉を取り出して、一口大に切り分け、調味料を揉み込んだら、色が変わるまでしっかりと炒める。
「流君……その調理器具と食材は、一体どこから出したのだ。そういえば、あの鞄も持っておらぬが……聞いてるのかね?」
村長の事は、一旦無視無視。
焦げないように炒めたら、お水を投入。その後はひたすら、煮込んで、灰汁を取り、煮込んで、灰汁を取り、煮込みまくる。
「良い匂いっ!」
「もう少しで、出来上がるからな」
最後に、揺れているミルンの尻尾を、一度モフモフしてから、味を確認して、微調整。
「玉葱香る、シンプルシチューの完成っと」
異世界の野菜だから、玉葱かどうかは分からないけど、味見した感じだと、玉葱なんだ。
「何か美味そうな匂いやん」
「これは、貴重な香辛料の香りですよぉ」
「流さんっ! 早く食べたいっ!」
ミルンは涎が止まらない。
コカトリス(非常食)をジッと見ている。
『ココッ……ケェェェッ』
コカトリス(非常食)は怯えている。
「おっと、お皿だったな。『空間収納』から、お皿をだしてっと、コレで良いかな」
「……流君」
「何だ村長?」
村長が、ポンッと俺の肩に、手を置いた。
白い歯を見せた村長の顔面が、ゆっくりと近付いてくるんだけど、本当に何なんだよ。




