7話 魔王?違いますニートです.4
2026/06/12 改稿!
残念聖女と言った矢先に、関西弁全開の勢いで、ツッコミを入れてくるとか、この少女……異世界風関西人だろうか。
「……」
「おいコラ何黙っとんねんっ! ウチが一人で怒っとるみたいやんかっ! 何か言えやっ!」
「何かって、えっと……チェンジで」
「何やちぇんじてっ!」
チェンジが通じないとか、流石異世界。
「ねえ流さん」
「何だミルン?」
「ちぇんじって、なあに?」
どうやらミルンも、知りたいようだ。ここはしっかりと、意味を教えておこう。
「あの残念聖女じゃなくて、ちゃんとした聖女に、変えて下さいって意味だぞ」
「成程っ、覚えたの」
「ウチ以外に聖女なんておるかあっ!?」
スムーズに突っ込んでくるなぁ……青い瞳に銀髪ロングで、服装は──昔の日本の吉原に居そうな、着物っぽい感じの衣装か。
異世界にも、着物ってあるんだなぁ。
「何やジロジロと……あんたまさかっ、ウチに色目使うてんちゃうやろなっ!」
「あっ、御免、絶対無理。最低限ケモ耳必須で」
「はあっ? ……あんた、何言うてんねん」
急に静かになりやがった。
俺はケモ耳やケモ尻尾は大好きだが、少女趣味はない。個人的には、お姉さんタイプが好きなんだ。お姉さんタイプのケモ耳ならば、尚良しです。
「やはりっ、こうなってしまったか……」
村長が頭を抱えているけども、これを予想していたなら、ちゃんとして欲しいものだ。
「おいコラ、ヘラクレス……ほんまにこのにーちゃんが、魔王って言われとる奴なんか?」
「間違い御座いませぬ」
「この弱そうなにーちゃんが、ヘラクレスの腕を斬って、村民を蹂躙したとか、信じられへんねんけど。嘘ちゃうやんな?」
「聖女様……結果としてそうなりましたが、過程の話となると、我らにも非があるのです」
可笑しいなぁ。呼ばれて来たのに、今の俺って、空気になってるんですけど。
帰って良いかなぁ。
ミルンも肩の上で、「ひまぁ」ってボヤいてるし、用がないなら屋敷に帰って、そのままぐてぇっと横になり、惰眠を貪りたい。
「おいこらっ、そこのにーちゃん。なに眠たそうにしとんねん。あんたの話やねんで」
「んな事言われても……なぁ、ミルン」
「ひまだからぁ、帰って寝るのっ」
「ほら、ミルンもこう言ってるじゃん」
聖女様の体がぷるぷる震えて、こめかみに血管がぷくぅっと、浮かんできている。
流石に、おちょくり過ぎたかなぁ。
「あんたらぁ、ウチで遊んどるやろぉ……」
「その言い方は、心外だな。俺はただ、呼び出しておきながら、いまだ自己紹介をしない残念聖女に、呆れているだけだ」
「せやから残念聖女ちゃうっ……リティナや」
「えっ? なんて?」
「リティナ・オルカスっ! ウチの名前やっ!」
ほうほう、聖女、リティナ・オルカスねぇ。名前は立派なのに、本人は残念感が凄いな。
「で、俺に何か用があって、呼んだんだろ?」
「いやあんたも自己紹介せーよっ!」
関西弁で、ここまで突っ込みが鋭いと、舞台を整えれば……人を集めれるかもな。
「ほれミルン、自己紹介だって」
試しにミルンに振ってみた。
「何でミルンなの?」
ミルンは不思議そうな顔で、聖女様を見た。
「何でウチを見るんやてっ! そっちのにーちゃんに聞いとんねんで!」
「ミルンですっ、よろしくーっ」
「結局挨拶するんかいなっ!?」
犬耳ミルンと褐色聖女の、面白漫才とか……異世界に劇場は、あるのだろうか。
ほのぼのする光景に、少しだけほっこりしていると、「リティナ様でぇ、遊ばないで下さいねぇ」と、俺の首筋に冷たい感触を感じた。
「っ……ちょっ、ニアノールさん。これは洒落にならないから、勘弁して下さい……」
まったく気配を感じなかった。
猫耳なだけあって、足音も何もなく、空気化している村長ですら、気付かない程の忍び足。
あっ……怖くて若干漏れたかも……うん。
「ニア、殺したらあかんよ」
「分かってますよぅ。ほらぁ、ちゃんとリティナ様にぃ、自己紹介して下さいねぇ」
「刃物押し付けたままって、若干切れてる感じがするんですけどっ……」
両手を上げての降参ポーズは、この異世界では意味のない姿勢のようだな。首に刃が食い込んで、ピリっと痛い。
「ニアノールっ、流さんに何するの……? 流さんから変な臭いがするっ」
「ミルンさんや。後で着替えるから、少しだけ我慢して下さい」
「お漏らしっ!?」
肩車中のミルンは、鼻を摘みながら、背後にいるニアノールさんに向けて、尻尾を振り回しながら、牽制している。
「ふわ毛では、目眩しにもなりませんよぅ。ほら早くぅ、自己紹介して下さいよぅ。このまま斬っても、良いんですかぁ?」
「良い訳あるかってのっ……流だ。小々波、流。言っとくが俺は、魔王じゃなくて"普通の人"だからな。そこんとこ間違えるなよ」
「「「……はっ?」」」
村長、聖女リティナ、ニアノールさん、ミルンまでもが、疑問の声を口にした。
寸分違わず同じタイミングとかあっ!!
「流君……冗談を言うのではない」
「王都で流れとる噂、聞かしたろか?」
「気持ち悪い目でぇ、見てきましたよねぇ?」
「ミルンのお家を消し去った事、忘れてないの」
あれっ? 何だろうかこの空気……さっきまでとは打って変わって、俺だけに視線が集まるとか、逃げ場なくね?
「えっと……うん。取り敢えず、ミルン。家は必ず直すから、御免なさいっ!!」
思い返してみれば、ミルンのボロ小屋を消し飛ばした事を、謝っていませんでした。
「お肉で許してあげますっ」
俺の頭をペチペチと叩き、もう気にしていないという、合図だろうか。近いうちにちゃんと、焼肉を食べさせてやらないとな。
「なあニア」
「何ですかぁ、リティナ様」
「ウチらは何を、見せられとるんや?」
「えっとぉ……劇でしょうかぁ?」
ミルンと和やかムードをかましていたら、いつの間にかニアノールさんが、聖女の隣に移動していた。
首をさすって、血が出ていない事を確認。
ミミズ腫れになり、多少痛みは感じるが、血は出ておらず、問題はなさそうだ。
「んで、結局聖女様は、何の用なんだ? 用がないなら、屋敷に帰りたいんだけど」
そして直ぐに、ズボンを履き替えたい。
さっきからミルンは、鼻を摘んだまま、俺の臭いに耐えてますからね。
「なあ……ニア」
「既視感を感じますよぅ。何ですかぁ?」
「あのにーちゃんを見て、魔王やと思うか?」
「えぇっとぉ……ただの変人ですねぇ」




