7話 魔王?違いますニートです.3
2026/06/12 改稿!
「んで、なんで俺が、行かないといけないんだ」
「仕方あるまい。聖女様が、魔王と噂される流君を、連れて来いと仰ったのだ」
「本当に噂になってんのか……面倒だなぁ」
輝きを失い、縛り上げられたおっさん共、もとい、教会関係者を引きずって、ラクレル村の北側に位置する広場へと、足を運んでいる。
「魔王ねぇ……俺はただの、中年だぞ」
「……はっ?」
「睨むなよ村長」
お前は何を言ってるんだと、言わんばかりの顔を、村長は向けてくるが、本当に俺はただの、中年ニートで間違いない。
「この私を、あの様な魔法で圧倒し、村人を蹂躙しておきながら、今更ただの中年だと言うのは、些かどうかと思うがね……」
「事実だ。あの時使えた魔法も、使えなくなってるし、意味わからんわ」
「ぴかぴかっ、綺麗なのぉーっ!」
一瞬空気が重たくなったが、絶賛肩車中のミルンの声で、その空間は霧散し、内心安堵しながらも、ゆっくりと歩を進める。
機嫌の良いミルンの尻尾が、パシパシと俺の背中を、リズミカルに叩くお陰で、なんとか平静を保てている状態だ。
「そんで、その聖女様って、どこにいるんだ。この村に偉い人が泊まれる場所なんて、見た事ないんだけど」
「それならば問題はない。聖女様は、護衛付きの馬車で、泊まられておるからな」
「ふーん。宿に案内しろとかは、ないんだな」
俺の勝手なイメージだけど、大体この手の人間は、高飛車、傲慢、偏屈と、三拍子揃った、名ばかり聖女だと思っている。
「若しくは、ガチの善人か……」
そっちの方が、ある意味"怖い"。
善意なんてモノを、平気で振り翳す輩ほど、根っこの部分は、腐っているかもだからな。
善意は悪意と、表裏一体だ。
社会人を経験していたら、嫌でも分かる。
「流さん見て見てっ! ぴかぴかっ!」
「……眩しいっ!?」
「むふふっ、光るミルンですっ!」
このミルンの様に、肉食べたいや、光りモノが好きといった、純粋な欲がある奴なら、まだ信用出来そうなんだけどな。
「どうだかねぇ……」
ボーッと歩いていると、村の北側へ到着したのだが、馬車らしき物は見当たらない。
「見た事ない家はあるけど……どこだ?」
「流君、あそこだ」
「あそこ……何あれ?」
村長が指を差した場所に、馬がいる。より正確には、馬っぽいナニカがいる。
「馬?」
四足歩行の馬ではなく、六足歩行の馬? 異世界の馬って、六脚馬なのか? 俺より大きくて、物凄く格好良いんですけどっ。
「お馬さんっ! お肉っ!」
「ミルンさんや、涎が頭に垂れてるよ?」
「美味しそうなお肉っ!」
あのお馬さん達は、お肉じゃない。というか、ミルンの殺気に勘付いたお馬さんが、一歩下がって逃げようとしている。
「ブルゥッ、ヒヒイイイイイイインッッッ」
「ブルゥブルゥッッッ」
「あぁ……暴れ出しちゃった。家に繋がれてるとか、どんだけ力が強いんだよ」
ミルンの視線から逃げる様に、クルッとその場で回って、尻がこっちを向いている。
なんか……スマン、馬っ。
「それで、聖女様どこだ? 馬だけなんだけど」
「流君の目は節穴かね。繋がれておる先を、良く見るのだ。あそこに聖女様が居られる」
「繋がれた先って……えっ?」
馬から伸びている縄を辿っていくと、どこからどう見ても、四角い木造家屋の筈なのに、その下部には、立派な"車輪"が付いていた。
「なあ……村長」
「なんだね流君」
「これを馬車とは言わない」
よく見ると、所々に鉄製の部品が付いており、四角い形も相まって、どこからどう見ても、コンテナハウスにしか見えない。
「作った奴、可笑しくね?」
そのコンテナハウスを眺めていると、ガコンッ──と重たそうな扉が開き、誰か出て来た。
「どうしましたかぁ?」
そのままお馬さんに近付いて、よしよしと宥めているのだが、そんな事よりもだ。
「よーしよし。どうしたの、こんなに震えてぇ」
「ブルゥブルゥッ」
その馬をあやしている人の姿に、俺は眼を奪われ、脚が小刻みに、震えている。
「あれぇ、ヘラクレス様じゃないですかぁ」
こちらに気付き、静かに近付いて来るその姿は、ミルンに続いて二度目となる、奇跡の存在であろう。
「っ……良い……」
フリフリのメイド服に身を包み、青ずんだサラサラの髪の毛を、肩まで短く揃え、頭からピョコッと、こんにちはと言わんばかりに出ている、三角の猫耳様。
「間違いない……」
エプロンスカートからは、細くて長い綺麗な尻尾が、歩く度に振り振りと、後ろから付いてくるとか、俺を誘惑しているのだろうか。
「ふぅ……良しっ」
息を整え一歩前へ──左手を胸元へ、地面に片膝を付き、「貴女が……聖女様ですね」と、右手の平を上にして、そっと前に出す。
流式貴族風ご挨拶、イン、猫耳バージョン。
俺の瞳から止めどなく、涙が溢れてきた。
「ヒィッ!?」
その麗しき猫耳メイド様が、なぜか悲鳴を上げて腰を抜かし、そのまま後退りをしている。
「流さんっ!」
「何をしておるのだ流君っ!?」
「おごぉっ!?」
ゴズンッとミルン必殺の、脳天ナックルと、ゴスッと村長の拳骨が合わさり、相乗効果を発揮して、一瞬お花畑が見えた。
「ぉぉぉっ、ガチであの世がっ……」
「君という人種は……彼女は、聖女様付きのメイド兼護衛の、ニアノール殿だ」
「今紹介されてもっ、痛くて頭に入らんっ」
涙目になりながら、痛みに耐えて前を向くと、猫耳メイドも立ち上がり、エプロンスカートの両端を、指で摘み、軽く持ち上げ、流れるような動きで、頭を下げてきた。
「初めましてぇ、ニアノールと申しますぅ。ヘラクレス様の仰る通りぃ、聖女様のお付きを、させて頂いておりますぅ」
ニコッと笑顔が素敵で、猫耳が可愛い。
モフっとした、素敵な尻尾。
更には本物の、メイドさん。
本物の、猫耳メイドさん。
「これがっ、奇跡と言うモノか……っ」
「ヒィッ!?」
「流君っ!?」
「流さんっ!」
ゴズンッ──ミルン必殺の脳天肘打ちが、良い感じに俺の脳天に、突き刺さりましたとも。
下手したら即死だから、勘弁して欲しい。
「ニアノール殿。聖女様のご要望通り、王都で噂になっておる者を、連れて来たのである」
「……その人ですかぁ?」
「うむ……この男なのだ」
何だろう、残念な人を見るような視線を、全方位から感じるんだけど、気の所為だよね。
「でっでは、中へどうぞぉ」
猫耳メイドに案内されて、コンテナハウスの中へと入ると、「こちらでお待ち下さい」とだけ言って、猫耳メイドが行ってしまった。
「猫耳メイドさんって……良いなぁ」
「流さんっ……肘打ちするよっ」
「ミルンの殺気が凄いっ!?」
頭上をとられているから、逃げれません。
「にしても、凄い造りだな……」
壁として太めの木材を使い、それを組み合わせて、待合室やお手洗い、各用途に合わせた部屋に、しているっぽい。
「目が犯罪者であるぞ。どうしたのだ、流君」
「流さんは、ミルンと初めて会った時も、身体を触ろうとしてきたのっ」
「誰が犯罪者だっ。それとミルンさんや……変な誤解を生まないで?」
ミルンの爆弾発言に、村長は真面目な顔をして、俺の細腕を捻り潰さんばかりの力で掴み、濃い顔を近付けてくる。
「流君……頼むから、頼むからっ! 聖女様に失礼のない様っ、頼むのであるぞっ!!」
「顔が近いっ! そんなに念押しせんでも、分かってるっての……暑苦しいわっ!」
「信用ならぬっ!」
ここまで念押しするとか……俺が一体、いつ、誰に、どこで、失礼を働いたというのだろうか……失礼な村長だ。
「お待たせ致しましたぁ、こちらへどうぞぉ」
「ようやくか」
「頼むぞ流君……」
「猫耳には要注意っ」
ニアノールさんの案内で、ドアの前に立ち、軽くコンコンッ──とノックしてから、声をかけて反応を待つ。
「入って良いか?」
『入って来てええでーっ』
「……関西弁?」
声を聞く限りだと、少女っぽいんだよなぁ。
一体俺に、何の用があるのだろうか。
「聞いてみれば、分かる事だな」
そう思い、ゆっくりと扉を開けた先に居たのは──六畳程の広さの部屋で、椅子の上で胡座をかきならが焼菓子を頬張り、ポロポロ溢す、褐色肌の少女が居た。
「……」
「おーおーようやく来おったか。待っとったでーっ、ヘラクレス」
焼菓子の"大半"を、口から溢す少女が居た。
「なあ……村長」
「何だね、流君」
「あの生意気そうな餓鬼が、聖女なの?」
思っていた聖女像の、どれでもない。
何というか……威厳の欠片が微塵もない、懐かしの小ギャルっぽい雰囲気だ。
「残念聖女じゃん」
「誰が残念聖女やゴラァっ!?」




