7話 魔王?違いますニートです.1
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あれから数日が経った。
あの場に居た人達は、老若男女問わず重傷と言われる程の傷を負い、多くの村人が、王都へ避難して行った。
まぁそれは自業自得、俺は一切悪く無い!
そう自分に言い聞かせ、俺の膝を枕にして寝ている、犬耳幼女の頭を撫でる。
ついでに若干揺れている尻尾をモフる。
自然と笑みが溢れ、もう一度頭を撫で撫で。
そして一度、天井を見上げ、一息吐く。
目線を前に持っていくと、豪奢な装備に身を包んだ男共が────『ジャパニーズ・DOGEZA!!』を、見事に披露している。
誰か…この状況を……説明してくれ。
◇ ◇ ◇
王都号外────ラクレル村に魔王降臨。
村民を容赦無く皆殺しにし、魔物の餌としてばら撒いた、悪逆非道の魔の王。
どこからともなく現れて、眷属を囮に、ラクレル村の村長ヘラクレス・ヴァントを襲撃。
追加情報求む。
王都新聞まで。
有力情報には賞金、銀貨二枚を進呈。
その号外紙を指先で目線の高さまで上げて口元に笑みを作りながら見ている女性。
「ここに書かれている内容は、誠か大臣?」
見る者全てを魅了する、真紅に染まった眼。
流れるような睫毛に細い顔立ち。
長い銀髪を纏め上げ、華美な玉座にて、その引き締まった長い脚を組む。
その威風堂々とした佇まい。
女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
「ははっ。詳細はまだ判りませんが、避難して来た者達の話を聞く限りですが、全てが嘘。という訳でも、無いかと存じます」
大臣は、首を垂れながら答える。
実際に、避難して来た者達の中に、片脚が無い者、指が溶けている者、目が潰され見えない者達が、多く居たからだ。
その者達は皆、等しく恐怖に怯えて居た。
酷い者は、獣族の奴隷を見る度に、地面に伏して赦しをこうといった、奇怪な行動にはしると、報告に上がっている。
ふむ、魔王か。
この王都からでも、ハッキリと見る事ができた、"光"が現れた場所に……魔王のぅ。
「教会の者達は、どうしておる?」
大臣は少し、困った顔をする。
「数日前に現れた、光の原因の調査と、魔王に関しての報告を、求めて来ております」
何とも無茶な要求じゃのぅ。
あの光か……むぅ。
「また、大司教様を筆頭に、彼の地、ラクレルを、"神降りた地"として守護する様、嘆願書と言う名の強迫文も、届いております」
ふむ、どうするかの。
面白そうじゃが……村一つとは言え、それを蹂躙せしめた者……魔王。
女王は、手に持った号外紙をヒラヒラとさせ、笑みを深くする。
「どんな化物か…見てみたいのぉ」
女王の言葉に大臣が目を閉じ、深い溜息をしているのを、女王は見逃してはいなかった。
◇ ◇ ◇
俺がプッツンした次の日、のんびりと、村長宅へ向かっていた。
右見て、誰も居ない肉屋。
左見て、誰も居ない花屋。
後ろ見て、誰も居ない通り。
上見て、ミルンの可愛い顔。
前見て、遠くに見える片腕のおっさん。
まるで、村人総出の夜逃げをした様な状況。
ミルンは俺の肩に乗りながら、村の中を初めて見るので、尻尾をふりふり周りをきょろきょろ……何この可愛らしいミルン。
「やあ! まっていたよ流君!!」
ミルンがビクッと硬直したじゃん! 声でかいんだよおっさん!?
「おぉ…あんたも元気?そうでなにより」
俺の目線で、どこを見ているのか分かったのか、村長は、肘から先が無い右腕を見せる。
「俺が、罪悪感を感じる人間に、見えるのか?」
村長は白い歯を見せながら、『流くんは罪悪感を感じる人種だろう?』言って来た。
ミルンが凄い、村長を睨んでいる…可愛い。
「それで、何で呼び出したんだ? 村を壊滅させた、犯罪者をさ」
勝手知ったる村長宅の調理場で、ミルンの朝ご飯を作りながら、聞いてみる。
「おと…流さん流さん。朝ご飯はお肉が良い!」
ミルン! お父さんと呼んでも良いんだよ! と変なスイッチが入るやばい可愛い!!
「分かった。朝ご飯は、お肉たっぷりのシチューにしようなー」
勿論、ミルンを肩車したまま作る。
可愛い尻尾がパシパシと、リズミカルに背中に当たって、幸せだからな!
「王都から早馬が来た」
唐突に村長が話す。
「どうやら、避難した村の人達が、魔王が現れたと吹聴して騒いでおるのだ。それを受け王都は、調査団の派遣を決定した」
村人、王都着くの早く無い?
あぁ、お馬さん潰す勢いで走れば着く?
異世界の馬すげぇな。
それで……魔王?
魔王!?
どこに現れたの見てみたい!!
「勿論、魔王などデマだと伝えたがね! それに類する報告は、しなければならなかった」
「魔王居ないのかぁ……残念」
「君の事だぞ、流君」
ですよねーって?
「俺……魔王って言われてるの?」
「流さんは魔王じゃない」
おぉ……ミルンが脚を村長に向けて、器用に弁護してくれている。
「そうであるな。流君は、魔王じゃ無い」
そうだぞ!
ふははは!世界を征服してやるーっ!
なんて、一度考えた事があるくらいだ。
「魔王みたいな事は、してしまったがね」
「濡れ衣だ。俺は悪く無い」
俺は村長の眼を見ながら、言いきる。
村長は溜息を吐く。
「ああ。流君は、悪く無い」
悪いのは、感情に任せてその獣族を捕らえ、痛め付け、殺そうとした我々だと。
村に近付く事をしない獣族が、何故危険を犯してまで、来ていたのかを考えなかった。
それは我々の責だと、村長は言った。
「ほーらっ、シチューが完成したぞーっ」
と、勝手に戸棚から皿を出し、シチューを注ぎ、肩の上のミルンに渡す。
あっ、そのまま食べるんだね。
俺の頭がテーブル代わりですか?
ミルンさんマジパネェっす。
「ほら、村長も食うだろ?」
シチューを取り分けて、村長の前にも出す。
あったかトロける、美味しいシチューだ。
「ははっ。殺し合った相手に……食事とはな」
「流さんのつくったご飯、おいしい!」
ミルンの可愛い尻尾が、ピンッとなってるけど、位置的にモフれないんです。
でも、ちゃんと作れた様で、何よりだ。
「君等は本当に、親子みたいなんだな……」
「羨ましいか?」
苦笑いすんなよな。
この素晴らしさが、いつか村長も分かるさ。
ケモ耳ケモ尻尾は宝だからな。
次の日も、俺はミルンを肩車しながら、村長宅モーニングを楽しんだ後、健康の為の散歩に勤しんでいた。
暇潰しじゃないよ?
日課だよ?
昨日の夜は、大変だった。
ミルンが本当に、離れないんだ。
いや、良いんだよ。良いんだけども、流石にお風呂は、一人で入ろうね?
像が恐い?
斧を持った、ミルンさんよりも?
じゃあトイレは?
俺の臭いよ?
あっ、大丈夫ですか、そうですか。
それなら寝るのは、一人で寂しい?
うぬぅ……と、延々諤々と押し問答を繰り返し、なんとかトイレだけは死守。
それ以外は、追々だなぁ。
それじゃあ朝の体操だ!
さぁミルン、俺の真似をするんだ!
「右見て──っ、誰も居ない道」
「誰も居ないの!」
「左見て──っ、誰も居ない家」
「音聞こえないの!」
「上見て──っ、ミルンの可愛いお顔」
「綺麗なお空っ!」
「下見て──っ、舗装されて無い道」
「流さんの頭っ!」
「前見て──っ、何か光ってる人……?」
「ぴかぴか──っ!!」
もう一度、空を見て……準備完了。
「前見て──っ、何か光ってる集団……?」
「ぴかぴか光ってる!」
「……うん?」
ピカピカ光ってる、装備を付けまくった集団が、此方を……見詰めて居る。
「ぴかぴか!!」
ミルンの尻尾が、凄い振れているのが分かるよ。そうだね、ぴかぴかだね。
「凄げぇ眩しいな……」
光ってる集団と見つめ合う事、数分。
こいつら何!?
目を離さず見て来て何なの恐い!?
「あの、お間違い無ければで、宜しいのですが」
一番先頭に立っている、一番光ってる男が、話しかけて来た。
「貴方様は魔────」
「違います唯のニートです!!」
絶対に最後まで、言わせない。




