7話 魔王?違いますニートです.1
あれから数日が経った。
あの場にいた大人達は、人それぞれに重傷と言われる程の傷を負い、多くの村人が王都へ避難して行った。
まぁそれは自業自得、俺は一切悪く無い!
そう自分に言い聞かせ、俺の膝を枕にして寝ている犬耳幼女の頭を撫でる。ついでに若干揺れている尻尾をモフる。自然と笑みが溢れ、もう一度頭を撫で撫で。
そして一度天井を見上げ、一息。
目線を前に持っていくと、豪奢な装備に身を包んだ男共がーーー
ジャパニーズ・DOGEZA!!
ーーーをしている。
誰か…この状況を…説明してくれ。
【7話 魔王?違いますニートです】
王都号外。
ラクレル村に魔王降臨。
村民を容赦無く皆殺しにし、魔物の餌としてばら撒いた悪逆非道の魔の王。
どこからともなく現れて、眷属を囮にラクレル村の村長ヘラクレス ヴァントを襲撃。
追加情報求む。
王都新聞まで。
有力情報には賞金 銀貨二枚を進呈。
その号外紙を指先で目線の高さまで上げて口元に笑みを作りながら見ている女性。
「ここに書かれている内容は誠か大臣?」
見る者全てを魅了する真紅に染まった眼、流れるような睫毛に細い顔立ち。長い銀髪を纏め上げ、華美な玉座にてその引き締まった長い脚を組み、威風堂々とした佇まい。
女王 ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
「ははっ。詳細はまだ判りませんが、ラクレル村より避難して来た者達の話を聞く限りですが全てが嘘、という訳でも無いかと存じます」
大臣は首を垂れながら答える。
実際に避難して来た者達の中には片脚が無い者、指が溶けている者、目が潰され見えない者等が多くいたからだ。その者達は皆等しく恐怖に怯え、酷い者は獣族の奴隷を見る度に地面に伏して赦しをこうといった奇怪な行動にはしると報告が上がっている。
ふむ、魔王か…この王都からでもハッキリと見る事ができた光が現れた所に魔王のぅ。
「教会の者達はどうしておる?」
大臣は少し困った顔をする。
「数日前に現れた光の原因の調査と、魔王に関しての報告を求めて来ており、大司教様を筆頭に、彼の地、ラクレルを 神降りた地 として守護する様嘆願書と言う名の強迫文も届いております」
ふむ、どうするかの…面白そうじゃが…村一つとは言えそれを蹂躙せしめた者…魔王か。
女王は手に持った号外紙をヒラヒラとさせ笑みを深くする。
「どんな化物か…見てみたいのぉ」
女王の言葉に大臣が目を閉じ、深い溜息をしているのを、女王は見逃してはいなかった。
※
俺がプッツンした次の日、のんびりと村長宅へ向かっていた。
右見て、誰も居ない肉屋。
左見て、誰も居ない花屋。
後ろ見て、誰も居ない通り。
上見て、ミルンの可愛い顔。
前見て、遠くに見える片腕のおっさん。
まるで村人総出の夜逃げをした様な状況。
ミルンは俺の肩に乗りながら村の中を初めて見るので尻尾をふりふり周りをきょろきょろ何この可愛らしいミルン。
「やあ! まっていたよ流君!!」
ミルンがビクッと硬直したじゃねぇか声でかいんだよおっさん!?
「おぉ…あんたも元気? そうでなにより」
俺の目線でどこを見ているのか分かったのか村長は肘から先が無い右腕を見せる。
「俺が罪悪感を感じる人間に見えるのか?」
村長は白い歯を見せながらーーー
「流くんは罪悪感を感じる人種だろう?」
ーーーと言って来た。
ミルンが凄い村長を睨んでいる…可愛い。
「それで、何で呼び出したんだ? 村を壊滅させた犯罪者をさ」
勝手知ったる村長宅の調理場でミルンの朝ご飯を作りながら聞いてみる。
「おと…流さん流さん。朝ご飯はお肉が良い!」
ミルン! お父さんと呼んでも良いんだよ! と変なスイッチが入るやばい可愛い!!
「分かった。朝ご飯はお肉たっぷりのシチューにしようなー」
勿論ミルンを肩車したまま作る。
尻尾がパシパシと背中に当たって幸せだからな!
「王都から早馬が来た」
唐突に村長が話す。
「どうやら避難した村の人達が魔王が現れたと吹聴して騒いでいて、調査団の派遣を検討しているらしいのだ」
村人、王都着くの早く無いか!?
あぁお馬さん潰す勢いで走れば着く? 異世界の馬すげぇな。
それで…魔王? 魔王!? どこに現れたの見てみたい!
「勿論、魔王などデマだと伝えたがね! それに類する報告はしなければならなかった」
魔王いないのかぁ…残念。
「君の事だよ、流君」
ですよねーって?
「俺…魔王って言われてるの?」
「流さんは魔王じゃない」
おぉミルンが脚を村長に向けて弁護してくれている。
「そうだね、流くんは魔王じゃあ無い」
そうだぞ! ふははは世界を征服してやるーなんて一度は考えた事があるくらいだ?
「魔王みたいな事はしてしまったがね」
「濡れ衣だ、俺は悪く無い」
俺は村長の眼を見ながら言いきる。
村長は溜息を吐く。
「ああ、流くんは悪く無い」
悪いのは感情に任せてその獣族を捕らえ、痛め付け、殺そうとした我々だと。村に近づく事をしない獣族が、何故危険を犯してまで来ていたのかを考えなかった我々の責だと、村長は言った。
ほーらシチューが完成したぞーっと勝手に戸棚から皿を出し、シチューを注ぎ、ミルンに渡し、俺の頭がテーブル代わりですかミルンさんパネェっす。
「ほら、村長も食うだろ?」
俺はシチューを取り分けて村長の前にも出す。
「ははっ。殺し合った相手に食事とはな…」
「流さんのつくったご飯おいしい!」
ミルンの尻尾がピンッとなってるなってる。ちゃんと作れた様で何よりだ。
「君等は本当に、親子みたいなんだな…」
村長は、そんな俺達をみながら苦笑していた。
※
次の日も俺はミルンを肩車しながら村長宅モーニングを楽しんだ後、健康の為の散歩に勤しむ。
暇潰しじゃないよ?
昨日の夜は大変だった。
ミルンが本当に離れないんだ。
いや、良いんだよ? 良いんだけども流石にお風呂は一人で入ろうね? 像が恐い? 斧を持ったミルンさんよりも? じゃあトイレは? 俺の臭いよ? あっ大丈夫ですかそうですかそれなら寝るのは一人で…寂しい? うぬぅと延々諤々と押し問答を繰り返し、なんとかトイレだけは死守。それ以外は…追々だなぁ。
それじゃあ朝の体操だ!
さぁミルン、俺の真似をするんだ!
「右見てー」
「誰も居ない道」
「誰も居ないの!」
「左見てー」
「誰も居ない家」
「音聴こえません!」
「上見てー」
「ミルンの可愛い顔」
「綺麗な空ー!」
「下見てー」
「補装されて無い道」
「流さんの頭ー」
「前見てー」
「何か光ってる人…?」
「ぴかぴかー!」
「……?」
もう一度。
「前見てー」
「何か光ってる集団」
「ぴかぴか光ってる!」
「……うん?」
ピカピカ光ってる装備を付けまくった集団が此方を…見つめてくる。
「おぉーぴかぴか!」
ミルンの尻尾が凄い振れているのが分かるよそうだねぴかぴかだねー眩しいな。
見つめ合う事、数分って何!? 何なの恐い!?
「あの…お間違い無ければで宜しいのですが…」
一番先頭の一番光ってる男が話しかけて来た。
「貴方様は魔ー」
「違います唯のニートです!!」
絶対に最後まで言わせない。