7話 魔王?違いますニートです.1
2026/06/03 加筆修正致しました。
冒険者ギルド、アストール本部報告書──ラクレル村にて、魔王と思しき者が出現。"善良な村人"を襲い、致命傷を負わせるものの、楽しんでいたのか、死者は無し。
村人を蹂躙した際、異様な"圧"を放ち、海洋国家アルカディアスの"魔王"の圧と、酷似していた為、魔王である可能性は大。その者の名は、小々波流。出自不明、年齢不詳の男である為、要調査されたし。又、避難民保護も併せて、要請したい。
以上、冒険者ギルド長、ゴッズ・ノバリ。
その報告書を、指先で目線の高さまで上げ、口元に笑みを作りながら、見ている女性。
「ここに書かれている内容は、誠か?」
見る者全てを魅了する、真紅に染まった眼。
流れるような睫毛に、細い顔立ち。
長い赤髪を纏め上げ、華美な玉座にて、その引き締まった長い脚を組む、その威風堂々とした佇まい。ジアストール王国女王・ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
「ははっ。避難して来た者達の話を、聞く限りはで御座いますが。全てが嘘という訳では、ないモノかと存じます」
女王は腕を組み、考える。
ラクレル村から、避難して来た者達の証言と、冒険者ギルドからの報告書は、一致する。
一人の男が、村を壊滅させた。
にわかには信じ難いが、魔王と仮定するのならば、あり得ぬ話でもない。
ないのだが……腑に落ちぬ点も、多々ある。
「誰一人として、死んでおらぬか……それに、ラクレル村のぅ……」
お兄様が住んで居たとされる、小さな村。数年前に、獣族に襲われ、今度は魔王ときた。
「ふむぅ、どうにも、腑に落ちぬ」
魔王といわれる者共の大半は、冷徹、野蛮、交戦的といった、正に化物と呼ぶに相応しい存在だが、理性を保つ魔王も存在する。
「村を蹂躙しておきながら、なぜ誰も、殺しておらぬのじゃ……よう分からぬのぅ」
それに、ラクレル村の方角の空から、光の柱の様なモノが、地上まで落ちたという。
神の奇跡とでも、言うのかしらねぇ。
「ラクレル村の長は、避難して来ておるのか?」
「いえ。どうやら、村に残って居るとの事に御座います。お望みとあらば、呼びつける事も出来ますが……」
「ふむ、それには及ばぬ」
矢張り、この報告書は、何かが抜けている。
蹂躙された村に、長が残っているですって? 魔王がまだ、居るかもしれないのに? 村から来た者達や、冒険者ギルドは、何を隠しているのかしらねぇ。
「教会の者達は、どうしておる?」
大臣は少し、困った顔をした。
「ラクレル村で起きた、光の柱の情報と、魔王に関しての報告を、求めてきております」
「儂らにも分からぬ状況で、何とも無茶な要求じゃのう。彼奴らには、困ったものじゃ」
大臣は更に、汗を拭きながら答える。
「また、大司教様を筆頭に、彼の地、ラクレル村を、"神降りた地"として守護する様、嘆願書という名の強迫文も、届いております」
「……彼奴ら、暇なのかや?」
美の神アルテラを唯一神と崇め、ジアストール王国において、絶大な支持を集める、扱いに要注意な集団。前王の時代に、急激にその権力を増大させ、今や国政にまで口を出して来る、女王にとっての厄介者。
「ふむぅ……」
女王は手に持った報告書で、ヒラヒラと自分の顔を扇ぎ、何かを思い付いた様に、深く笑みを浮かべる。
「この魔王に是非一度、会ってみたいのう」
「陛下……本気に御座いますか?」
女王の言葉に、大臣が目を閉じ、深い溜息をしているのを、女王は見逃してはいなかった。
◇ ◇ ◇
俺がプッツンした日から、七日目の朝──あの場に居た人達は、老若男女問わず、重傷といわれる程の傷を負い、村人達は全員、王都へと避難して行った。
「あぁ……体が怠い」
ギシッと軋むベッドから起き上がり、倦怠感が凄まじい体を、無理矢理動かす。
「んんっ──ぷはぁ」
背伸びをして、肩と首の柔軟良し。
村長と戦った次の日から、全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げ、歩くだけでも悲鳴モノの筋肉痛に襲われた。
その間、世話をしてくれたのは、ベッドですやすやと寝ている、ケモ耳幼女のミルンだ。
マジで助かった……トイレとか行くのにも、支えてくれないと、転けたら激痛で悶え苦しんで、お漏らしコース確定だったからな。
「まだ痛むけど、ようやく動けるわ」
「むにゅ……あさぁ?」
「もう朝だぞ。起きて朝食にしよう」
「おきるぅ……」
もそもそと起きるミルンを、癒され眼で眺めながらも、ここ数日の事を思い返す。
あのイメージ通りに、使えた"筈"の魔法。
そう、"筈"なのだ。
筋肉痛を癒す為に、回復魔法をイメージして、何度も試してみたが、発動した魔法はなぜか、懐かしく思った水の濁流や、焚火に使えそうな火の魔法だけ。
魔法発動の不安定さが、元に戻っていた。
「チートかと思ったのに……やっぱあの時のは、あのアナウンスが原因だったのか……」
使えないのは悲しいが、ミルンが看病してくれたし、結果オーライだったけどもさ。
「かたぐるまぁぁぁ」
「はいよ。もう体は治ったし、登れるか?」
「むぅぅぅ、んしょっ、んしょっ」
ミルンの重みに、幸せいっぱい胸いっばい。
落ちない様に気を配りながら、ミルンが登り切った事を確認して、屋敷から出て行く。
「眩しっ……良い朝じゃん」
「まぶたを閉じても、光がぁぁぁっ」
「そりゃそうだろうに。そんじゃ、見て回るか」
ミルンから、話は聞いていた。
俺が村人の大半に、傷を負わせた次の日には、この村から人が出て行ったと。
そして、誰も居なくなった訳だ。
「食料だけじゃなくて、家財丸ごと放置とか。そんなに俺が……怖かったのかねぇ」
「寝てたから分からないっ」
「ミルンはそうだろうさ。まぁ、あれに関しては、後悔なんてしないけどな」
例え価値観、倫理観の違いであったとしても、あの時の俺の行動に、後悔はない。ミルンを救えたのだから、それだけで良い。
「にしても……勿体ないだろ。大量の生肉、生野菜に、調理器具って……勿体ないだろ」
「流さん?」
「"空間収納内"に、保存しておこうか」
腐らすのも、あれだからね。
スキルを意識して、俺の物だと認識するだけで、あっという間に収納完了。
「腐らない効果付きって、これこそチートじゃん。魔法より役に立つかもなぁ」
「流さんが、盗人っ」
「ミルンさんや、有効活用と言って欲しい」
目がくわっとなった、ミルンを肩に乗せながら、そこそこ広いラクレル村を散策しつつ、回収業務をこなして行く。
「ゲームの勇者にでも、なった気分だわ」
「ゆうしゃ? なあにそれ?」
「知らないのか? 勝手に他人の家に侵入して、宝箱を漁る、勇気ある者の事だぞ」
「それは盗人っ」
ミルンの評価は、手厳しいな。
そんな風に雑談をしつつ、どこで朝朝食の準備をしようかなと、ぶらぶらしていたら、片腕のない筋肉が、手招きしてきた。
「あの傷で、もう動けるとか……」
「村長は、流さんが寝ていた時には、既に動き回っていたよ? 村人を見送ってたの」
「……何で俺、村長に勝てたんだろ」
渋々と、村長のもとまで歩いて行く。
「やあ流君っ! 起きるのを待っていたぞっ!」
「声がデカいんだよっ」
「っ!?」
ミルンが驚いて、ビクッと硬直したじゃん。マジで何でこの筋肉、こんなに元気なんだ。
「待ってたって……なんでだ?」
俺の目線は、村長の右腕。
粗布が巻かれ、その隙間からは、傷口を塞ぐ為に焼いた痕が、しっかりと見えている。
「ふむっ……」
村長は、俺がどこを見ているのかが分かったのか、肘から先が無い右腕を、上にあげた。
「俺が罪悪感を感じる人間に、見えるのか?」
村長は白い歯を見せながら、「流君は、罪悪感を感じる人種だろう?』と言ってきた。
「チッ……メンタルまで筋肉かよ」
「むぅぅぅ」
肩の上から、ミルンが物凄い顔で、村長を睨んでいる気がする……尻尾が忙しなく、俺の背中を叩いているからな。
「それで、何の用件だ?」
「それなのだが……家の中で話そう」
「なら、台所借りるそ。朝食がまだなんだ」
そんなこんなで、勝手知ったる村長宅の調理場を使い、ミルンと朝食の準備だ。
筋肉痛の時は、ミルンがどこからか持ってきた、血の滴る生肉ばかりだったから、胃に優しいモノが食べたい。
「ミルンは、何が食べたい?」
「おと……流さんっ。朝はお肉が良いっ!」
「……肉だな、良し分かった」
一瞬ミルンが、お父さんと言ったか? アレよ、俺本当に、変なスイッチ入っちゃって、まだ痛む体でも、踊り狂っちゃうぞ。
「それなら朝食は、お肉と野菜のたっぷりのシチューにしようか。胃にも優しいしね」
勿論ミルンを、肩車したまま作ります。
可愛い尻尾がパシパシと、リズミカルに背中に当たって、幸せですから。
「空間収納から、ブロック肉と芋っぽい物。人参っぽい野菜……これ、人参だよな?」
「お野菜は、少な目でお願いしますっ」
「少しは食べなさい」
大き目に切った肉を、鍋に入れ、火打石で着火して、色目が付くまでしっかり炒める。
「王都から、早馬が来たのだ」
「……急になんだよ」
しっかり炒めたら、水と野菜、お高そうな香辛料を入れて、沸騰させないように煮込む。
「どうやら、避難した村の者が、魔王が現れたと吹聴して、騒いでおるのだ。それを受け王都は、調査団の派遣を決定した」
「はぁ……んっ?」
村人達、王都着くの早くないか。このラクレル村から王都までって、そんなに近いの?
「まだ七日しか経ってないのに、行動が早いな」
「ここから王都までは、馬を使えば一日二日。徒歩でも急げば、四日程で着くのである」
「へぇ……灰汁はしっかりと、取らないとな」
徒歩で急げば四日なのに、馬だと一日二日で着くとか、どっちが速いのかが分からん。
しかも、調査団ねぇ……?
「村長……俺の聞き間違いじゃなければ、今さっき、魔王とかって言わなかったか?」
「言ったであるな」
魔王って、何それ? あの時あの場に、魔王が居たの? 物凄く見てみたいんですけどっ!
「勿論、魔王の話はデマだと、伝えたがね。それに類する報告は、しなければならなかった」
「えっ……魔王居ないのかぁ、残念」
「君の事であるぞ、流君」
何が俺の事なんだ?
「俺の事でも、報告したのか?」
「そうであるが……魔王といわれているのが、君の事だと言っておるのだ」
「……俺、魔王って言われてんの?」
「流さんは、魔王じゃないのっ」
ミルンが肩の上から、村長に足裏を向けて、器用に弁護してくれている。
そういやミルンって、ずっと裸足だけど、犬耳なだけあって、痛くないのだろうか。
「そうであるな……流君は、魔王ではない」
「そりゃそうだろ」
中学の時に、ふはははっ! 世界を征服してやるーっ! なんて、中二病を拗らせて、一度考えた事があるくらいだ。
「魔王みたいな事は、してしまったがね」
「濡れ衣だ。それに関しては、断固譲らない」
調理する手を止めて、村長の目を見ながら、俺の意思をハッキリと言葉にする。
「ああ……流君。君は、悪くないのである」
悪いのは、感情に任せて獣族を捕らえ、痛め付け、殺そうとした、我々だと。
村に近付く事をしない獣族が、何故危険を犯してまで、来ていたのかを考えなかった。それは我々の責だと、村長は言った。
「後悔しても、もう遅いがな」
「生きてるだけ、儲けもんだろ。うしっ、肉も柔らかいし、良い感じだろ」
「良い匂いっ」
お肉たっぷり、野菜シチューの完成です。と言っても、調味料が足りなさ過ぎる。
「それじゃあ、お皿お皿と」
戸棚から勝手に皿を出し、シチューを注いで、肩の上のミルンに渡す。
「頂きますっ! ズゾゾゾゾゾゾ──ッ!!」
「肩の上で食べるのかよ。まぁ、良いけど……シチューは飲み物じゃ、ないからね?」
俺の頭が、ミルンのテーブルになりました。
「ほら、村長も食うだろ?」
シチューを取り分けて、村長の前にも出す。
あったかトロける、美味しいシチューだ。
「ははっ。殺し合った相手に……食事とはな」
「流さんの作ったシチューは、美味しいのっ」
ミルンの可愛い尻尾が、ピンッとなってるけど、位置的にモフれないんです。
でも、ちゃんと作れた様で、何よりだ。
「君達は本当に……親子みたいなのだな」
「羨ましいか?」
「ははっ……」
苦笑いすんなよな。この素晴らしさがいつか、村長にも分かる時が、来ると良いな。
ケモ耳ケモ尻尾は、人類の宝だからね。




