間話 ジアストール王国の小さな悪魔.4
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ゼイルノースは、王の前で跪いていた。
腹の内を悟られぬ様、言葉を選びながら、それを国王に伝える。
『御父上。バハス・ゲイ・ジアストール国王に、進言したき義が御座います』
『おぉゼイルノースや。今回は、どの様なおねだりなのかのぅ? 良い良い申してみよ』
国王が発する、威厳の全く無い声。
まるで、幼子の頼みを聞くかの如きその振る舞いは、ある意味で恐ろしい。
『はっ。現在、ジアストール王国に向け、決起した獣達の集団が、向かって来ているとの事。至急、騎士団総出撃にて、これを殲滅する許可を頂きたく、存じます』
『ほぅ……懲りぬ獣共じゃのぉ』
『まったくです。それと、騎士団の総大将に、アシュノン・ゼァ・ジアストールを推挙したく存じます』
『別に構わぬが、何故総大将が、アシュちゃんなのじゃ? いつもならば、御主が率先して行っておるのに』
国王が、王座で娘を"ちゃん呼び"なぞ、本来ならば嘲笑モノであろう。
『それに関しましては、アシュノンより嘆願が御座いました。少しでも騎士団に寄り添い、その一助になれば。との事で御座います』
国王は"うんうん"と笑みを作る。
最早ただの、気持ち悪いおっさんである。
『アシュちゃんは優しいのぅ。あいわかった。アシュちゃんを総大将に、穢らわしい獣達の殲滅を、騎士団に命ず』
『ははぁっ!!』
『また、アシュちゃんを狙う、獣共が居れば……生皮を剥ぎっ、そのままゴブリン共の餌とする様っ、厳命する!!」
『……ははぁっ!』
◇ ◇ ◇
王宮内の一室で、正妃、側妃の面々が集まり、優雅なひと時を愉しんでいる。
その中に、愛くるしい笑顔で、口いっぱいに焼き菓子を頬張る、少女。
ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、まだかまだかと、心の中で苛々していた。
最近のお店はどうの。
美味しい新作スイーツがどうの。
侯爵に子供が伯爵に子供が。
あちらの奥様は、此方のお子様は、今のトレンドがどうのこうのと……こいつら、本当に脳みそ沸いてるな。
『ルルシアヌ』
おっと、笑顔笑顔────『はいお母様』
『貴女はもう、八歳になるのです。そろそろ婚約者を、選ばなければなりません』
国が滅んだら、そんなの意味無いからな?
理解してないの?
厚化粧のし過ぎで、周りが見えていない?
『はい。出来ましたら、お兄様の様な格好良い男性が、良いのですわお母様』
正妃はそれを聞き、満足そうに頷いている。
『本当に仲が宜しい事。でも流石に、兄妹では婚約出来ませんわ。其れは叶いませんわね』
『『おほほほほほほほほ』』────(大合唱♪)
解っとるわそんな事おおお!!
頭がお花畑過ぎる。
「あら、嫌ですわお母様。あくまでも、こんな方が理想と、申し上げたまでですの」
ニコッっと笑顔を振り撒くと、ああ可愛らしい可愛らしいと、馬鹿共に囲まれる。
香水臭いし、暑苦しい。
────プププーッププッププップーッ!!
遠くから、出撃のラッパ音が、鳴り響く。
厚化粧の馬鹿共が、その音が聴こえてきた方へ、顔を向けた。
あぁ、ようやく。
ラッパ音を聴き、本来の笑みを浮かべる。
『(影、やれ)』
◇ ◇ ◇
『整列!!』
等間隔で並び、一指乱れぬ動きで、出陣の準備を終えた、屈強な騎士団。
総勢五万人。
幾度もの反乱を未然に防ぎ、討ち滅ぼして来た、ジアストール国が誇る精鋭達。
『軍団長。妹を……宜しく頼むぞ』
ゼイルノースは、軍団長の肩を叩く。
『はっ! お任せ下さい殿下! 必ずや御護りい致します!』
顔を硬直させながら返答する。
『宜しく頼む。アシュも、達者でな』
『はぃ。お兄様もぉ、お元気でぇ。またいつかぁ、お茶をしましょうねぇ』
お互い笑みを浮かべ、別れの挨拶。
そう、これらは、ただの派兵に見せかけた、国外への脱出、『精鋭部隊を添えて』である。
精鋭部隊五万。
その内の二万が、アシュノン・ゼァ・ジアストールの、熱狂的な"信者"である。
殆どの部隊長が、その信者に含まれる。
アシュノンが右を向けと言えば右を向き、舞台で歌うとなれば、各種セッティングから衣装合わせ、来客の誘導から、不審者の洗い出しまで、何でも行う。
国王よりも国よりも、アシュノンに魂を捧げた、狂信者集団。
因みに、ノーマル兵士は、理由を付けて戻す手筈となっている。
そして、国外脱出の一番の理由。
『これでぇ、ずっと一緒ですねぇ』by.アシュ
「はっ! この命尽きる迄、貴女様を御護りする事をっ、誓います!」by.軍団長
駆け落ちする為であった。
但し、狂信者達は諦めていない。
軍団長の寝首を狩く事を。
『出陣!!』
高らかに、ラッパ男が、響くのであった。
◇ ◇ ◇
『後は……お兄様ですわね?』
笑みを浮かべながら、ルルシアヌは言う。
『あぁ、これで良い。あとは頼むよ……ルシィ』
黒装束を見に纏い、足元には自らの父であった唯のモノ。
未だ剣から、血が滴り落ちる。
『……逃亡の道を、選びますのね』
ルルシアヌはそっと、兄の頬に手を添えた。
『これで、この国を救えますわ。あとは全て、任せ下さいませ……お兄様』
手を離し、王座へと進む。
振り返らずに。
これが国の為と。
真紅の眼から、雫が溢れ落ちた。




