間話 ジアストール王国の小さな悪魔.3
11/10 加筆修正致しました。
遠くで声が聞こえる。
『一体いつ私が、この様にせよと命令した?』
この声は……ぴかぴか王子様?
『旦那の命令を無視したんですぜ? 痛め付けねぇと、他の奴らも理解しやがらねぇ』
薄っすらと目を開ける。
もう一人は……腹がデル監督だよね。
『しかもこいつ等は、化物。いくら痛め付けても、躾をして死んだとしても、何の問題無いでしょう?』
問題大アリ。
化物じゃ無いし、普通に痛いモノは痛いし、死ぬのなんて絶対に嫌です。
『そうか。ならば貴様は、私の言葉を勝手に解釈し、捻じ曲げ、弁明も無いと言うのだな』
『旦那……?』
『挙句、我が国の所有物である、"価値のある奴隷" を、"自己の判断で勝手に傷付けた"と言うのだな』
私は私のモノです。
国の所有物なら、一日三食おやつ付きで、休みもしっかり下さい。
『いや、何言ってるんですか旦那? こんな化物に、価値なんてある訳無いでさぁ。せいぜい魔物の餌か、夜の『影、殺せ』────?』
────プシュッ!!
うぇっ、気持ち悪いっ!?
監督がミンチ宜しくっ、細切れになった!?
あの黒い人、何処から現れたの?
今さっきまで、居なかったよね?
何か怖いっ!!
『おい、起きているのだろう』
尻尾をパタパタ────(寝てまーす)
『僕はまだ、昼食を食べていないんだ』
尻尾をパタン────(はいそうですかー)
『一緒に、"肉料理"など如何だろうか?』
尻尾をピンッ────『是非食べましょう!』
魔法発動っ!!
ヒュッと風が巻き起こり、檻を切り裂き破壊して、ぴかぴか王子様の目の前へ。
『早く肉っ! 血が足りないっ!!』
こちとら血が出て、腹が減ってるんだ。
嘘だったら、喰うからね?
『影、持って来てるか』
影さん?
大きいマンガ肉持ってるっ!!
それ私にくれるの!?
影さんから渡された、マンガ肉……こんなの、前世でも食べた事無いよ。
『じゅるっ……頂きますっ!』
お肉♪、お肉♪、お肉♪
自然と尻尾が揺れちゃうよ。
だって、涙が出る程美味しいもん!
『っ……美味しいか?』
『最高だね。有難う御座います!』(ニコッ)
『あふんっ……』
その時、その瞬間、王太子であるゼイルノース・ゲイ・ジアストールは────全力で初恋を拗らせた。
『さっ……触りたいっ!』
『急に何っ!?』
尻尾を狙ってる!?
手をワキワキしながら近付いて来るもん!
来たら殴るからね!!
それからは、あっという間に何だろう?
ミンチになった監督の代わりに、この場所の管理者に任命されたのは、あの影さん。
デルミンチを作った張本人が、管理者になるって、ある意味乗っ取りでわ?
王子様本人?
何処かへ行きました。
顔が気持ち悪かったよ……本当にね。
『すまない。一度本国へ帰り、なるべく早くに迎えに来れる様、努力する。そうだな……一年。あと一年だけ、耐えてくれるかい?』
などと、意味の分からない事をのたまい、私の尻尾を、名残惜しそうに眺めながら、この場を去って行きました。
私? 私はね……で影さんから、簡単な指導書を渡されて、私が他の子達を管理する様、小さな声で言われたの。
文字何て読めないよ。
だってここ、日本じゃ無いでしょ。
そう思って指導書を見てみたら、普通に読めるんですけど。
何で、私が文字読めるって分かったの?
ねえ影さん。
これ、丸投げだよね?
そんな事、言える訳が無い。デルミンチを、作った人だからね。
指導書を読む。
そこには、キッチリと労働時間が定められており、食事は一日三回、休憩時間にはお菓子も支給され、自由時間まで確保されている。
しかも、必要だと思える物を申請すれば、買って来てくれると言うのだ。
何この高待遇。
今迄の、私達の暮らしは……何だったの。
有難いけどさ。
『貴女はそれを、彼らに徹底してして下さい』
影さんの声初めて聞いた!?
男性? 女性?
声が通ってて、凄く良い声だよね。
命令なら仕方がない!
この私がちゃんと守らせますとも!
安心して下さい!
頭では応えているのに、口からだせない。
あーっ、眼がぼやける。
埃入った。
私は顔を隠しながら、首を縦に振った。
影さんが、私の頭を優しく撫でるのだった。
◇ ◇ ◇
薄暗い空間に設置された、円卓を囲む者達。
『さて……以上が、今回の視察の報告となる。この状況、計画を早める必要が、あると思うのだが。どうだアシュ?』
ゼイルノース・ゲイ・ジアストールは、彼女達に問いかける。
『そうですわねぇ……このままだと良くて暴動、悪くて国が滅ぶ。でしょうかぁ? う〜ん、どう思いますかぁ、ルシィ?』
蒼き瞳の慈愛の姫君。
アシュノン・ゼァ・ジアストールは、末妹に問いかける。
『間違いなく滅ぶでしょうね。そうでしょう、ゼイルノースお兄様?』
真紅の瞳の享楽の姫君。
ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、長兄に問いかける。
「そうだ。各労働施設全てで、いつ爆発してもおかしく無い状況が、既に出来ている。父上も母上も、人種の事しか見ていないから、気付かない。気付けないのだ」
暴動が起きれば、其れを鎮圧すれば良い。
非常に簡単な事だ。
だが、それをしてしまえば、国は自らの首を絞める事にも、なってしまう。
今までこの国は、耕作、鉱夫、汚水の処理等の、過酷な労働に、奴隷を利用して来た。
獣族など、掃いて捨てる程にいる。
そう言わんばかりの、生死を問わぬ環境。
建国から続く永い時の中で、小規模であれば、幾度も経験した事態。
ただし今回は、規模が桁違いに大きい。
金色の瞳の知恵者。
ゼイルノース・ゲイ・ジアストールは、息を吸い、覚悟を決めて声を発する。
『今、この時を持って……』
確固たる意思を胸に。
『王の首狩ってガス抜き作戦を……開始する!』
あの麗しき尻尾をっ、愛でる為に!!
『あれぇ……首狩って、お花で飾りましょう! 作戦では無かったですかぁ?』by.アシュ
「違いますわ。首狩って投げ合いましょう! 獣族達と! 作戦ですわお姉様」by.ルシィ
纏まりの無い、悪魔達が動き出す。




