間話 王都ジアストール国の小さな悪魔.2
今日は何だか慌ただしい。
叩き起こされたが誰も折檻されず、ただ一言だけ、「少しでも身綺麗にしてろ」と言って走って行った。こんかボロ衣でどう綺麗にしろって?
私達はいつものように鉱山へ行き、いつものようにツルハシを持って掘り進めていた。
遠くから監督の声が聞こえる。
「おぃ!集まれ!」
濁声で叫んでくる。
「お前らぁ!集まって飯だ!」
監督の言葉に私達の思考が追いつかない。
「早くしろ!」
一人、また一人と休憩所へ集まっていく。
目の前には、いままで見た事が無い量の料理
と、一人の男の子が笑顔で立っていた。
「とりあぇずこれで全部でさぁ旦那」
監督が下手に出ている。珍しい事もあるものだ。
床に座り、監督にそんな態度をとらせている男の子を見る。
キラキラの金髪に背も高く、何より顔が良い。王子様かよ!? って言うくらい顔が良い。
男の子が一歩前にでる。
「皆んな、初めましてだね。僕は、ゼイルノース・ゲイ・ジアストール。この国で王太子と呼ばれている者だ」
王子様かよ!?
私は心の中で突っ込みをいれた。
私達は目の前の料理と王太子を交互に見てどうしたら良いのかわからない美味しそう。
「あぁすまない。食べ終わってから話そうか、デル、良いだろう」
デルと呼ばれて反応したのは…監督さんかー初めて名前を聞いたな…お腹空いた。
「へぃ…お前ら! 有難く頂け! 食って良しっ!」
その監督の号令で、私達の戦が始まった。
私の肉だはなせぇええ! 痛っ誰よ尻尾引っ張ったのは! この野郎っ尻に腕突っ込んでやる! テメェ等は雑草でも食ってろ! 皆んな落ち着いてぇょふゅっ、あっ飛んで行った。
肉肉お肉〜久しぶりのお肉〜と自分の分を確保し、目の前の喧騒を眺めながらモゴモゴと食べていると、キラキラ王子様が近づいて来たモゴモゴ。
「隣いいかな?」
勝手にどうぞーモゴモゴ。
私は頷く。
キラキラ王子様は目の前の喧騒を見た後、私の身体もまじまじと見てきたモゴモゴモ。変態か?
あっ尻尾に触ろうとして来る。
パシィッ
尻尾を鞭の様にして弾く。
凄く哀しそうな眼を向けて来る。
あっまた?
パシィッ
同じ様に弾く。
「少し…触らせては貰えないだろうか…?」
今度はお願いをしてきたモゴモゴモゴ。
嫌でモゴモゴす。
「嫌でモゴモゴす」
王太子のお願いを物凄く失礼な態度で断る。
「尻尾を触って良いのは家族だけでモゴモゴ」
そうか…失礼したなと王子様は離れていった。
やっぱり変態なのかな?
「おい!百五十二番、来い!」
おっと監督がお呼びだなんだろう。
休憩所から出て鉱山の奥へ、監督の後を着いていいく。監督が立ち止まり、振り返り、私の脇腹に深々とツルハシを打ち付けた。
「このっ穢れたっ! 醜いっ! 化物が!」
傷口を押さえて倒れ込む私のお腹に蹴りをいれながら、監督は言う。
「旦那のっ! 命令をっ! 無視しやがって!」
あっ食べた物出しちゃった…。
「俺のっ! 出世にっ! 響くだろぅが!!」
息を切らせながら血走った眼を向けて来る。
髪を掴まれ、引き摺られていき、そのまま檻の中へ投げ込まれた。
「お前はそこで大人しくしてろ!」
くそぉっ! と声を上げて戻っていく後ろ姿が見えなくなる迄目を離さず、離れたと同時に傷口を処置する…痛い。
私は、痛みを堪えて唱える。
「癒しよ司る大いなる風に乞い願う」
お腹空いた…吐いちゃったもんね。
「願くば御御力の一端で矮小なるこの身を御助け下さい」
やっぱり痛いなぁ。
「ヒーリングウインドッ」
獣族は魔法を使えないと言われている。
但し、私はそれに当てはまらないらしい。
転生者特典かな?
ぶっちゃけコレ使えなかったら私、既に死んでますからねてへぺろ。
そんな自問自答を繰り返しながら、檻の中で朝が来るのをただ待つしかなかった。
遠くで声が聞こえる。
「誰がこの様にせよと命令した?」
この声は…王子様?
「しかし…旦那の命令を無視したんですぜ?痛め付けねぇと他の奴らも理解しやがらねぇ」
薄っすらと目を開ける…こっちは監督か。
「しかも、こいつ等は化物だから頑丈だしいくらでも湧いて来る! 躾をして死んだとしても換えも沢山で問題ないでさぁ」
いやそんな理由で死にたく無い。
「そうか、ならば貴様は私の言葉を勝手に解釈し捻じ曲げ、弁明も無く、挙句我が国の所有物である 価値ある奴隷 を自己の判断で勝手に傷付けたと言うのだな?」
いや、何言ってるの王子様?
「いや、何言ってるんですか旦那!? こんな化物に価値なんてあるはず無いですぜ! せいぜいが魔物の餌か夜のーー」「影、殺せ」「ーーー?」
うひゃ、監督がミンチ宜しく細切れになった!?
影と言われた黒い存在が王子様に何かを囁いている。
「おい、起きているのだろう」
尻尾をパタパタ、寝てまーす。
影と言われた黒い存在が王子様に何かを囁いている。
「そう言えば、僕はまだ食事をしていなくてね」
尻尾をパタン、はいはいそうですか。
影と言われた黒い存在が王子様に何かを囁いている。
「一緒に肉料理など食べないかいお嬢様?」
尻尾をピンッとして、是非食べましょう!
「是非食べましょう!」
私は力を少し出す。
ヒュッと風が巻き起こり檻を切り裂き破壊して、王子様の目の前へ。
「さあ早く肉寄越せ」
お肉〜お肉〜お肉〜。
尻尾が全力で揺れている。
王太子ことゼイルノース・ゲイ・ジアストールは、その獣族の女の子の笑顔に、見事にハートを砕かれーー
「さっ…触りたい」手をワキワキ。
「ひぃ!?」尻尾を抱きしめて守る。
ーーゆっくりと近づいていった。