間話 ジアストール王国の小さな悪魔.1
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『ジアストール王国』────
冒険者であったジアストールが、未開の地を切り拓いた事から始まった、小国である。
原住民族である獣族を、悉く殺し、犯し、奴隷として使い捨て、小国でありながらも、大国と渡り合う、"人族絶対主義"の国。
建国から凡そ五百年。
現国王、バハス・ゲイ・ジアストールには、三人の子供達が居た。
第一王妃の息子。
ゼイルノース・ゲイ・ジアストール。
第二王妃の娘。
アシュノン・ゼァ・ジアストール。
第三王妃の娘。
ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
現国王は、聡明で思慮深く、民衆から、治世に力を注ぐ"優しき賢王"と云われる者。
王妃達も、国王を支える為力を合わせ、各派閥を取り纏め、争いの無い、平和な時代を作り上げていた。
その平和に、疑問を抱く者達。
第三王妃の娘、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、その赤き瞳を煌めかせ、口元に笑みを浮かべながら、国王である父へ言う。
「バハス陛下。いえ、お父様」
「おぉ、どうしたのだ、ルルシアヌや?」
まだ八歳という、幼い娘から声をかけられ、嬉しそうに微笑む国王。
「はい、お願いがありますの」
ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、国王を下から見上げる様に、首を傾げて言う。
「ふむふむ。可愛い娘からの頼みじゃ、何でも聞いてやろうぞ? 新しい"玩具"かのう? それとも"ペット"が良いか?」
国王の威厳などは何処へやら。
末娘が可愛くて、仕方が無いと言わんばかりに、顔が崩壊しきっている。
「有難う存じます。では、死んで下さいませ♪」
「んっ、今何と?」
────プシュッ!
その言葉と共に、突如国王の背後から"影"が現れ、そのまま首を、斬り落とした。
馬鹿顔をしたままの、国王の首が、そのままころころと、転がって行く。
ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、転がって来た、自らの父であった"モノ"を踏み付け、ただただ、笑みを、浮かべていた。
◇ ◇ ◇
ここは、何処なのだろう?
身体が動き辛く、意識もハッキリとしない。
『おっ、指を動かしたぞ!? 可愛いなぁ』
誰かが私の手を、触ってくる。
指をぷにぷにしないで。
『もぅっ、そろそろ仕事に行きなさい!』
誰かが私を、抱きかかえた。
暖かい、優しい香りがする。
『もうちょっと! もうちょいだけ!』
『だーめっ。パパに行ってらっしゃい、しようねー』
その誰かは、私の手を取り、ゆっくりと左右に振って、何をしてるのだろう。
『くぅっ! ウチの娘が可愛い過ぎるてっ、行きたくないけど行って来ます!!』
そのまま走って行った。
それを見た後、すぐに目が閉じていった。
声が聞こえて、目が覚めた。
何かを言い合っている。
『このままじゃ此処も危ない』
『何処に行けば良いんだ!?』
『俺は……戦うぞ』
『やるんだ! 奴等から家族を守れ!』
『争って何になるんだ! 敵う訳無いだろ!』
物凄く煩いけど、私は眠いんだ。
そのままゆっくりと、目を閉じた。
◇ ◇ ◇
私はゆっくりと、目を目を開けた。
辺りはまだ暗い。
よく分からない夢を見た所為か、体が怠く、汗を酷くかいている。
そっと体を起こし、近くの井戸がある場所へ静かに歩いて行く。
音を立てようモノなら、朝まで折檻され、そのままあの仕事を、しなければならなくなる。
それは嫌だ。
と言うか、普通に死んでしまう。
ゆっくりと水を飲み、月明かりで、水面に浮かぶ自分の顔を、覗き込む様に見る。
モコモコと毛深い頭に、そこから少し垂れ下がった耳。歯は尖り、容易く骨を噛み砕く事ができる、強靭な顎。
何度見ても、信じる事が出来ない。
腰の下あたりからは、フワフワした尻尾が生えており、自分の意思で、左右に振り振り。
触り心地は抜群なんだけどね。
そんな事を思いながら、尻尾の手入れした後に、静かに寝床へと戻った。
私達の朝は早い。
朝日が昇る前に、大声で叩き起こされ、起きなかった子は、そのまま何処かへ連れて行かれ、帰って来ることは無かった。
壊れかけのツルハシを、ただひたすらに、目の前の岩に向かって、振り続ける。
食事は一日に一回。
殆ど水みたいな、薄っすいスープのみ。
但し、希少な鉱石を掘り当てた子は、御褒美としてお肉が貰える。
全く掘り当てる事が出来ない子は、折檻され、そのまま居なくなる事がある。
私は、死にたくない。
少しでも、栄養を摂らないと。
そう思いながらツルハシを振ると、大きな岩が割れ、何かの鉱物だろうか。宝石の原石の様なモノを、見つける事が出来た。
『おぉっ!? 良くやった百五十二番!』
その鉱石を監督に見せたら、物凄く褒められて、拳大のお肉を貰う事が出来た。
これで、今日を凌ぐ事が出来る。
私は、少し離れた場所へ移動して、そのお肉を一口大にちぎった。
包丁があれば、綺麗に切れるのにね。
無いモノねだりだ。
私は死にたく無い。
死にたく無いけど、死なせたく無い。
監督に知られない様、こっそりと、小さい子達にお肉を渡した。
勿論、私も一口食べました。
生肉だけど、これも生きる為。
朝起きたら、隣で寝てた子が死んでいた。
そんな事が、当たり前と言う日常の中で、だからこそ、こんな理不尽に負けたく無い。
気付いたらここに居た。
何故なのか分からないし、自分の名前だって思い出せない。けど、コレだけはハッキリと、言う事が出来る。
今ここに居る私は、"転生者"だ。




