間話 王都ジアストール国の小さな悪魔.1
王都ジアストール国。
冒険者であったジアストールが未開の土地を切り拓き、村を作り、街を創り上げ、他種族、他国との戦では自らが先陣に立ち、悉くを討ち滅ぼして国と成した人種絶対主義の王国である。
それから五百年。
現国王バハス・ゲイ・ジアストールには三人の子供がいる。
第一王妃の息子
ゼイルノース・ゲイ・ジアストール。
第二王妃の娘
アシュノン・ゼァ・ジアストール。
第三王妃の娘
ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
王は聡明で思慮深く、治世に力を注ぐ優しき賢王と呼ばれ、王妃達も其れを支える為力を合わせ、各派閥を取り纏めて平和な時代を創り上げていた。
その平和に疑問を抱く者。
第三王妃の娘、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは笑みを浮かべて国王である父へ言う。
「バハス陛下。いえ、お父様」
「おぉどうしたのだルルシアヌや?」
まだ八歳の娘から声をかけられて嬉しそうに微笑む父。
「はい、お願いがありますの?」
下から見上げる様に首を傾げて言う。
「ふむふむ、良いぞ良いぞなんのお願いかの?」
照れ照れしながら嬉しそうに微笑む父。
「死んで下さいませ」
ルルシアヌがそう言うと、突如王の背後から影が現れ、そのまま王の首を斬り落とした。
「えっ?」とした顔のまま首が転がっていく。
ルルシアヌ・ジィル・ジアストールは、其れを見て唯々笑みを浮かべていた。
【間話 王都ジアストール国の小さな悪魔.1】
ここは何処なのだろう?
身体が動き辛く、意識もハッキリとしない。
「おっ指を動かしたぞ!? 可愛いな〜」
誰かが私の手を触ってくる。
くすぐったい。
「もぅっアナタ!? そろそろ仕事に行きなさいな!」
誰かが私を抱きかかえる。
暖かい、優しい香りがする。
「もうちょっと! もうちょいだけ!」
「だーめっ。ほら、パパに行ってらっしゃいしようねー」
私の手を取りゆっくりと振る。
「くぅっウチの娘が可愛い過ぎるっ行って来ます!?」
そのまま走って行った。
それを見た後、すぐに目が閉じていった。
声が聞こえて目が覚めた。
何かを言い合っている。
「このままじゃ此処も危ない」
「何処に行けば良いんだ!?」
「俺は戦うぞ」
「やるんだ! 奴等から家族を守れ!」
「争って何になる!?」
煩い。
私は眠いんだ…ゆっくりと目を閉じた。
※
まだ闇が深い時間、私はゆっくりと目を覚ます。
よく分からない夢を見たせいか凄く疲れており、近くの井戸がある場所へ静かに歩いていく。音をたてようものなら朝まで折檻され、そのまま仕事をしなければならないからだ。
ゆっくりと水を飲み、月明かりで水面に浮かぶ自分の顔を見てみる。
毛深い頭にそこから少し垂れ下がった耳、歯は尖り、容易く骨を噛み砕く事ができる顎。
何度見ても信じる事が出来ない。
腰の下あたりからはフワフワした尻尾があり、自分の意思で動かせれる。
触り心地は抜群なんだけどもと手入れをしつつ、静かに寝床へ帰る。
名前も思い出せず、何故こんな姿なのかも分からないが、ハッキリと言い切れる事がある。
私は転生者だ。
私達の朝は早い。
朝日が昇る前に大声で叩き起こされ、起きなかった子はそのまま何処かへ連れて行かれて帰って来ることはない。
ボロボロのツルハシを持って、ひたすらに鉱山を掘り進める。
食事は一日に一回だけで殆ど水みたいなスープのみ。但し、希少な鉱石を掘り当てた子は少しのお肉が御褒美として貰える。全く掘り当てる事が出来ない子は折檻され、そのままいなくなる事もある。
私は死にたくない。
少しでもお腹いっぱい食べたい!
ツルハシを振り、崩れた土の中で、なんとか宝石の原石を見つける事が出来た。
「おー良くやった百五十二番!」
宝石の原石を監督に持って行き御褒美を貰う。
これで今日を凌ぐ事が出来る。
まわりの子達の視線が痛いが私は死にたく無い。助ける余裕など無いのだ。
朝起きたら隣で寝てた子が死んでいる事など当たり前という日常の中で、余裕など、持つ事が出来ない。