6話 狂気のニート
暖かな光、穏やかな光。
それがゆっくりとミルンを包み込む。
傷が消え、可愛らしい耳が治り、小さな手が生えてきて、折れていた脚も治っていく。
尻尾の毛並みも艶々モフモフ。
呼吸を確認、穏やかな寝息をたてている。
俺はミルンを抱き抱えたまま立ち上がり、村長の顔を見る。俺はどんな表情をしているのか。
ミルンが助かったと気を緩める間も無く、沸き上がる怒りが俺の心を蝕んでいく。
今ならどんな事だって、どんな魔法だって使えそうだ。固有スキルの所為か? 中級って何が使える? いや、今はそんな事よりもだ。
「村長」
俺は一歩近づく。
「何かな流くん」
村長が一歩後退した。
「子供をこんな目に合わせて、罪悪感はないのか?」
俺は問いかける。
「子供? 其奴は穢わらしい獣だぞ。魔物と変わらん! 魔物を狩って罪悪感なぞ生まれるか?」
いつもの、白い歯を見せていた笑顔は無く、侮蔑の笑みを向けてくる。
「そうか、アンタは良い奴だと思ってたのに残念だよ。ヘラクレス ヴァント」
そんな言葉、聞きたく無かった。
村長も周りの奴等もなんで笑えた? 子供をいたぶって殺そうとして、巫山戯るな、巫山戯るな!!
俺の魔法が、想いでどうにかなるならっ、俺の願い通りに行使できるよなぁ……徹底的に潰す!!
俺は怒りの矛先を────
「私も残念だ! 君はもっと賢い人種だと思っていたのだがね、小々波 流くん!!」
────この村全域に定めた。
「楽に生きられると思うなよ」
ニートの蹂躙が始まる。
村長が剣を腰に添え、一瞬にして目の前現れ一閃。
俺はそれを『シールド』思い付く守りの魔法で弾きつつ、『アースニードル』村長の股間目掛けて土槍を飛ばす。
村長は冷静にそれを捌き、上段、中段、下段と剣の軌道を変えてくるが、俺はミルンを抱き抱えたまま『シールドウォール』その全てを、弾き返していく。
「流くん、君は魔法使いだったのか!?」
幾百の剣閃を防がれ、息があがり、離れて整えようとしている。
「さてね、俺はただの、ニートだよ」
イメージした魔法が、発動されるのなら、ある意味チート万歳だな。現代で磨かれたこの妄想力、全開にして打ち込んでやる。
『ファイヤランス』
村長は剣の面で防ぐが、衝撃で根本から折れる。
『アースバインド』
村長の足が大地から伸びた杭に貫かれ、縫い留められる。
『アースショット』
村長は急所を腕で防ぐが、その片腕が弾け飛び、膝を折り地面に伏した。
「「「ヘラクレス様ッ村長を助けろー!!」」」
「待てぇええええ!?」
手に鍬や木の棒を持って、必死な顔で向かって来てもな、慕われてるな村長。
でもなお前等、ミルンが苦しんでる姿見て笑ってたよな? 笑ってたんだよな。
容赦しないし……する気も無い!!
肉屋のおっちゃんは、この魔法かな?
花屋のお母さんは、お花畑にっと。
農家の夫婦は、くっつけて、ほいっ。
手紙配達の若者は、潰しましょーう。
仲の良い夫婦は、旦那のアレを!!
嫌味を言う爺は、口要らないよね。
愛想が良い青年は、顔面フルボッコ。
狩が生き甲斐のおじさんは、手を焼き焼き。
冒険者の男女は、腕要らんかねー?
泣きながら襲って来る女性は、足をボキッと。
逃げようとしているおっさんは、お目々にジュー!
綺麗な顔を歪ませている女性は、全裸になぁれ。
太った叔母さんは、脂ギッシュッ!
痩せている爺いは、椅子に座らせ固定完了。
次は……次は……残さず魔法を撃ち込みましょう!
「もう辞めよ!?」
んっ、何をだ村長?
「爺逃げようとしてるじゃん、逃がすかよ」
ほいファイアアローっと。使えるね、これ。
『火矢』って言っても、撃てるかなっと。
撃てた撃てた、もう一発!!
爺いが脚を押さえ、悲鳴をあげているなぁ。
少し煩いぞっと。
押さえている腕を狙って火矢を撃ち、刺さると更に煩い悲鳴をあげながら、転がって行った。
「もうっ辞めてくれぇっ」
だから何を?
えーっと次はー冒険者発見!
「まだ居たのか冒険者さん」
無詠唱いけるかな? いけた! けど威力弱いな。
んじゃ、『ロックバレット!』。
逃げようとしていた冒険者の背中に幾つもの石の弾を撃ち込み、撃ち込み、撃ち込む。
「一向に血が出ない……? あー鎧かぁ」
「お願いじまずっ、やめでぐだざいぃ…」
村長が這い蹲り、泣きながら懇願してきた。
俺は辺りを見渡す。
まだ子供達が残っているじゃないか。
俺はゆっくりと、子供達のいる場所へ歩き出す。
子供達は怯えて声も出せず、ただ懇願するような目を向けてくる。俺は目線を合わせて、優しーく聞いてみた。
「ガキ共。何でお前達はこの子、ミルンって言うんだけど、ミルンが血を出して倒れていたのに、笑っていたんだ?」
子供達は、震えて首を左右に振ってとー答えない。
俺聞いてるんだけど?
じゃあ君!!
君だ、君に聞こう、ちゃんと答えれるよね?
俺は一人に指を向け、その子は震えあがる。
口をパクパクさせて、何を言っているか分からない。
「お父さんお母さんに、言われているだろ? 質問には、大きな声で答えましょうって。ほら、声にだせ」
「お…いて…」
聴き取れないなぁ、まあ大体理解出来るけど。
「お父さん、お母さんが笑って居たから。この子が、いや、もしかしたら、前にも同じ事あったのかな? 要は親の真似をしたんだろ。大丈夫だ、君達は悪く無い。悪いのはお前等の家族だ」
俺は、子供達に笑顔でそう言った。
子供達は、俺の笑顔を見て、ほっとした様だ。
助かる、僕達、私達は悪く無いと、そんな顔だ。
「だからって、お前達を許す事には、ならんからな」
豹変した俺の表情に、子供達の顔が一気に恐怖へと変わり、俺は魔法を撃とうと手を向け────
「ぉと…さん…むにゃ」
────ミルンの声を聞いた瞬間、怒りが引いていく。
ミルンと子供達を交互に見て、溜息を吐いた。
「命拾いしたなガキ共……ミルンに感謝しろ」
俺はミルンを撫でながら、村長の所へゆっくりと近づいて行く。
「こんな事をして満足か…流くん」
這い蹲り、力無き声で聞いてくる。
満足か? 大満足だぞ。
だってほら、見てみろよ。
「良かったな、誰も死んでいないぞ?」
村長の傷口を、魔法で焼きながら坦々と答える。
村長はゆっくりと身体を起こし、その光景をみた。見てしまった。
誰一人死んではいない。ただ、誰一人として無事な者もいない。地獄が現出したかの様な光景。
「流くん…流くんにとって、その獣族は…なんなのだ?」
虚な目で聞いて来た。
「そうだな…父さんと言われたからなぁ…うん、父親になっても、良いと思える存在だな!」
村長は遠くを見つめて。
「そうか…」
ただそれだけを言い残し、意識を失った。
オブラートに編集致しました!! 包みました!!
えっ? 包みきれていない?
そんな事は無い筈!!




