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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女の居る世界

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6話 狂気と理性の境目で


 2026/06/03 加筆修正致しました。



 空の彼方から降り注ぐ、一本の暖かい光。

 その光が──今にも息を止めそうなミルンを、優しく包み込むように広がる。

 千切れかけの可愛らしい耳が繋がり、斬られた指が生え、折れた脚も治っていく。

 尻尾の毛並みまで、艶々だ。

 

「……ミルン」


 俺の問いかけに、「すぅ、すぅ」と、穏やかな寝息を立てて、応えてくれた。

 生きている。

 生きていてくれた。


「っ────」


 声にならない安堵感と、それと同じくらい、腹の奥底から込み上げてくる──憤怒。

 両親の死を、思い起こさせた、過去の怒り。

 ミルンをおいて行った、自身への怒り。

 そしてなにより、ミルンを平然と痛め付け、殺そうとした"奴ら"への、許し難い怒り。

 

「ふぅぅぅ──っ、許せる訳っ、ないだろ……」


 ミルンを起こさない様に、抱きかかえたままゆっくりと立ち上がり、村長の方を向く。

 村長はジッと、ミルンを睨み付けている。

 そこまでして、ミルンが憎いのか。

 

「なあ村長……」


 俺は一歩、村長へ近付く。


「何であろうか……流君」


 村長が一歩、後退した。


「この子が、このミルンがだ……お前らに何か、酷い事でもしたのかよ」


 俺は問いかける。


「その獣は、何もしておらぬが……所詮は獣。生かしておけば、後の脅威となるであろう」


 白い歯を見せ、人当たりの良い笑顔を見せていた、あの村長はどこへやら。

 侮蔑の笑みを、俺に向けてくる。

 

「このミルンは、何もしてないだろ」


 ただ俺を、愚かな俺を、追って来ただけだ。


「いずれ害を為すと、言っておるのだ」


 後の脅威、いずれ害を為す。

 今のミルンを見ずに、悪と断定し、自らが正義であるかの様に宣うからには、この村長の過去にも、相当の事があったのだろう。

 でもだ……それでもだ。そうだったとしても、こんなに幼い子供を斬り付けて、痛め付けて、殺そうとする理由にはならない。


「あんたは、良い奴だと思ってたのに、残念だよ……ヘラクレスっ、ヴァント」


 足を止め──村長の目をジッと見る。


「可笑しな行動ばかりであったが、こちらに理解ある者だと、勘違いしていた様であるな。残念であるぞ……流君」


 剣を持つ腕が膨れ上がり、あんなモノで斬り付けられたら、真っ二つになるだろう。

 だけど何故か──不思議と怖くない。


「……」


 この胸で眠る、ミルンが居るからだろうか。


「覚悟は良いかね……」


 村長が中腰に、剣を構えた。

 だからこそ俺も、いまだ抑える事の出来ない怒りを抱え、今俺がやるべき事、やらなければならない事を──実行に移す。


「お前ら……楽に生きられると、思うなよ」


 俺が狙うは──ここに居る者"全て"。

 ミルンを苦しめた、ラクレル村に住まう全ての人に、ミルン以上の苦しみを与える。


「『覚悟しろ』するのである」


 お互いの声が重なった瞬間、村長が迫って来たが、やけに動きが遅く感じる。

 アクション映画の、スローモーションを観ているかの様に、村長の動きが目で追える。


「むうんっ!」


 中腰から、抜刀の様な横振り。

 こういうのを、剣圧と言うのだろうか。俺の頭を狙って振られた、その剣を──脚を曲げてしゃがむように避け、直ぐに後ろへ下がると、前髪が数本散っていった。


「殺す気満々か……それならっ」

 

 俺には腕力がない。

 俺には持久力も、使える武器もない。

 けれど、魔法がある。

 全属性中級魔法使用可という、意味不明なスキルが、俺にはあるんだ。

 

 村長が剣を上に構え、上段の振り下ろしで追撃してくるが、俺にはそれが見えていた。

 ゆっくりと手を上に掲げ、日本で培ったイメージ力を使い、「シールド」と唱えると、ギギギッ──と鈍い音を発し、村長の剣を弾いた。


「なっ!?」


「隙だからけだそ、ヘラクレス」

 

 体勢を崩した隙に、「アースニードル」と唱え、村長の股間目掛けて、土槍を飛ばすが、矢張りあの筋肉は伊達じゃない。


「ぐっ、ぬああああああ──っ!!」


 その一息で剣を回し、土槍を砕いて直ぐ、下段からの振り上げ、からの振り下ろし後、剣を引いてからの突きと、猛攻をしかけてきた。


「チッ……"普通の盾"じゃあ、防げないか。それならっ、シールドウォールっ」


 さっしのシールドが、丸い小さな盾なら、今回のシールドウォールは、正に壁そのもの。

 ガラスの様な光沢に、馬鹿みたいな強度だ。

 ギギッ──キンッと、幾百、幾千の村長の全ての剣撃を、見事に弾いてくれている。


「むぅ、はぁっ、はぁっ。流君、君は……魔法使いだったのだな。厄介なっ」


「さてね。俺はただの……休ませないぞ」


 息を整える時間を、やる訳がない。今度はこっちが、攻め立てる番だろ。

 魔法のイメージは出来ている。

 確実に発動する、確信がある。


「ファイヤランス」──村長の剣が折れる。

「アースバインド」──村長の脚に杭が刺さる。

「アースショット」──村長の腕が弾け飛ぶ。


「「「ヘラクレス様をっ、助けろおおおっ!」」」


 呆けていた村人達が、四方から襲って来た。

 しかしそれも、動きが遅過ぎる。

 村長よりも、遥かに遅い。


「待てえええええええええ──っ!?」


 村長が吠えるが、待つ理由なんてない。


「お前らもっ、俺の"敵"だからなあっ!!」


 肉屋のおっちゃんが、殴りかかって来た。

 見ず知らずの俺に、肉を無料でくれたりした、とても人の良いおっちゃんだ。

 いや、"だった"と言う方が、適切だろう。


「ウインドスラッシュ」


 殴りかかって来たその腕を、風の刃で切り飛ばし、そのまま後方へと蹴り飛ばす。

 花屋のお母さんが、鋏の様な物を振り上げ、悪鬼の様な形相で、迫って来た。


「その怒りは、何に対してなんだ」


 アースニードルを発動して、片目を潰し、その上からアースロックで、鼻も潰す。

 二度と花の香りを、楽しめない様にする。


「怒る方向が、違うだろうにっ」


 仲の良い農家の老夫婦が、鍬と鎌を持って、背後から突き刺して来た。

 シールドで防ぎ、「フリーズ」で下半身を凍らせて、二度と立てない様にする。


「お前らは何でっ、ミルンを見ようとしないっ」


 次々に迫り来る村人達を、思い付く限りの魔法で、悉く、根刮ぎ蹂躙していく。

 誰も殺さぬ様に。

 されど、誰も生さぬ様に。


「止めよっ……」


 静かに寝息を立てる、ミルンを守る為に。


「もうっ、止めてくれええええええ──っ!!」


 地面を這い、村長が懇願してきた。

 その瞳にはありありと、恐怖と後悔のが入り混じったモノが見てとれるが、まだ終わりじゃない。まだ残っている奴らがいる。


「残るは……あいつらか」


 視線の先で、震えている子供達。苦しむミルンを指差し、笑っていた子供達。

 ゆっくりとそこへ、歩き出す。

 子供達は怯えて、声も出せず、ただ懇願するような目を、俺に向けてくる。


「子供も無邪気さは、時に残酷だよなぁ……」


 歩きながらも、思考は回る。

 心の奥底では、分かっているのだ。

 あの子供達は、ただ親に言われるがまま、そういった教育を受けて、育ったのだろう。


「分かってる……分かってるんだ」


 善悪の判断は、生まれ育った環境と、親からの言葉、態度で、子供達に染み込んでいく。

 

「それでもっ、俺は許せない」


 子供達の目の前で、静かに見下ろす。

 ここにいる誰も、ミルンを見なかった。だからこそ、こいつらも俺の──敵だ。


「いやっ、ゆるしっ、ごめっ」


「ママああああああ──っ!」


「僕はっ、悪くっ、ないよぉっ!」


 こいつらに、有効な魔法は何だ?

 ミルンと歳が近いから、外傷を負わせるのも後味が悪いし、それは却下だ。


「……あぁ、永遠に笑顔のままってのも、悪くないよなぁ。お前ら笑ってたもんなぁ」


 家族が死んでも、笑顔のまま。

 友達が苦しんでいても、笑顔のまま。

 大人になっても、解けない呪い。

 死ぬまで絶対に、解けない呪い。

 今の俺になら、使える気がする。


「後悔し続けろ、カースっ……ミルン?」


 魔法を発動しようとした、その時──ミルンの小さな手が、俺の服をギュッと掴み、「おとぅ……さん……むにゅ」と、まるで俺の行いを止めるかの様に、もぞっと動いた。


「……チッ、ミルンに感謝しろよ……ガキ共」


 ミルンの頭をそっと撫で、息を整える。

 もしもミルンが、止めてくれなければ、俺は間違いなく、魔法を発動しただろう。

 それも、恐らくは、ミルンのボロ小屋を破壊した、あの意味不明な魔法と、同等の魔法を。


「ミルンが止めたのなら、従うさ」


 ゆっくりとした足取りで、満身創痍となっている村長の前まで行き、隣に座り込む。


「こんな事をして、満足かね……流君」


 目の前に広がる惨状。

 怒りに身を任せた俺が、この光景を作った。

 しかし、後悔の念はない。


「満足だよ……誰も死んでないだろ」


 そう言って、村長の傷口を布で縛り、斬り飛ばした腕は、火の魔法で断面の血を止める。


「ぬぐっ、かはっ……」


 村長はゆっくりと、身体を起こし、その目の前に広がる光景を、ジッと見つめた。

 誰一人、死んではいない。

 但し、誰一人として、無事な者もいない。


「流君……君にとって、その獣族は……一体なんなのだ。何故ここまでの事が出来る……」


 村長の視線は、前を向いたまま。


「そうだな……父さんと言われたからなぁ。うん、父親になっても良いと、思える存在だ」


 村長は、ただ遠くを見つめて、「そうか……」とだけを言い残し、意識を失った。


「本当に……誰も殺さずに、良かったよ」


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