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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女が居る世界
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5話 異世界の現実.5


 脚が震えている。

 喉が渇き、鼓動が早くなる。

 周りの喧騒も耳に入らず。

 ただ前にゆっくりと進む。


「ミルン?」

 俺の声が、雑音に掻き消される。


「おい、ミルン?」

 それでも問いかけを辞めない。


「なぁーミルン」

 雑音が邪魔で苛々とした感情がでてくる。


「ミルン!!」

 俺は駆け寄り、ミルンを抱き抱えた。

 

 「ミルンっおい! ミルン!」

 ゆっくりと息をしている事を確認するが、状態が酷い。右耳は千切れかけており、左手の指が無く、両足が折られている。至る所に痣があり、出血も止まらない。

 

 「ミルン…なんでっこんな」


 薄っすらとミルンの目が開く。


 「な…がれぇ…?」

 「あぁ! 流だぞ! ミルンっどうしてっなんで!」

 ミルンの血を止めようとするが止まらない。


 「いっ…しょ…ひと…いゃ…」

 ミルンの目から涙がでてくる。

 「ぉい…て…いか…な…い」

 ミルンの手が弱々しく俺を掴む。

 「ぃっ…しょ…」

 

 俺は異世界にうかれていた。

 俺は異世界を楽しんでいた。

 危ない目にあったりもしたが。

 それでもやっぱり楽しんでいた。


「あぁっごめんなミルンっ一人にしてごめんなっ」

 

 ミルンは後をついて来ていた。


 この魔物いる世界で子供が一人。


 寂しいに決まってるじゃないか。

 

「痛かったな怖い思いしたな、ごめんなっもう大丈夫だぞっ一緒にいるからなっ」


 俺はミルンを包み込むように優しく背中を撫でる。

 

「ぉと…さん」


 ミルンは笑顔を作りゆっくりと眼を────


「だめだ! ミルン! おいミルン!!」


 どうすればどうすれば俺の所為だ俺が一人にどうすればどうすれば何をどうやってどうすれば俺の所為だどうやってどうすれば良い俺が一人にどうやって何をすれば俺の所為だ何を誰がどうすれば良い!?


 傷痕だらけの両親の亡骸。

 冷たくなった身体。

 もっと話をしていれば。

 二人だけにしていなければ。

 どうしてこんな。

 こんな異世界に来てまで。

 俺は屑のままなのか。

 一人きりの子を守れず。

 

────────あっ


 俺は後悔と苦悩と怒りが混ざり合った感情でミルンとの短い、だが楽しい記憶を思い出した。


「使える人には使えるみたいです!」


 ここは異世界だ。

 魔法がある、魔法があるんだ。

 俺には魔法がある。

 俺は魔法が使える。


 謝るからさ、頼むよ。

 一緒にいるからさ…お願いします。こんな小さい子から逃げてさぁ、置いてけぼりのまま最後はコレって。許せないよなぁ。このままじゃ、許せない。


 許せないんだ。

 俺が俺を許す事が出来ない!!


 叫べ! 心の奥から!

「俺の感情で! 魔法がどうこうなるのならっ! 俺は願う! 俺はっ俺はぁあああ!!」


 願う、魔法と言う奇跡を!

「この子を救えぇええええええええええ!!」


 天の彼方、星の向こう、いるかどうかも分からない神の世界へ! 俺の願いを!!


 頭の中で────


リンゴーン、リンゴーン(上がり調)


レベルがー--ー-奇-ー跡--ー -(--ー-ー 可)

エラー、エラー、エラー、エ-ー-ー可


「良いですよ〜貴方は見ててたのしいので〜」


リンゴーン、リンゴーン(下がり調)


────女神の優しい声が聞こえた気がした。


           ※


 ヘラクレス ヴァントは困惑していた。


 穢れた獣族を追い詰め、捉え、村人達の前で処刑する。

 幾度も繰り返した。

 人種たる者魔物に近しい存在を殲滅する。

 その為に肉体を、鍛え、磨き上げてきた。

 亡き妻への誓いとして。

 

 目の前の男は、穢わらしい獣族を抱き抱え泣いている。分からない、理解出来ない。理解したく無い。


 目の前の男が叫んだ。

 神に祈り? 馬鹿馬鹿しい。

 崇高なる神は人種だけの神、穢れた獣如きに祈りなど、神への冒涜そのもの。

 

 ふと、空を見た。

 暖かな光、穏やかな光。

 それが、その光が穢れた獣へと吸い込まれていく。

 

 目を疑った。

 先程まで死に体だった獣の傷が無くなり、耳が治り、指が生え、脚が元の状態になっていく。


 ぶざけるな! 神から奇跡を賜ったとでも言うのか!? 穢れた! 醜い! 魔物の分際で!


 私は剣を抜き、穢れた醜い魔物へと近づいていく。


 目の前の男がゆっくりと立ち上がり、こちらを見た。その瞳を見た瞬間私の身体が凍りつく。


 其れは生存本能から来る恐怖。


 そこには、魔物すらも遥かに超える威圧を放つ、狂気の様相をした、化け物が存在していた。



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