5話 異世界の現実.3
11/9 加筆修正!!
脚がぷるぷる、腰がズキズキ。
あれだけ反復横跳びしたらね、三十半ばのおっさんには、キツいのよ。
特に、ニートで籠ってた、腹ぷよ中年には、アレは駄目だって。
しかもここ最近、ランニングマンしてたし。
「筋肉痛、明日、明後日、明明後日。爆弾抱えて、眠気と戦う……行くか」
普段であれば、二度寝三度寝は当たり前の、生活だったのになぁ。
朝のウォーキングの時間です!
異世界で歩きましょう!
さっきまで、反復横跳びしてましたよ?
「あぁ……ビールが飲みたい」
村の中央に行く為、獣道を進む。
とりあえず、あの村長に家に行って、何か食い物恵んで貰おう。
何をするにしても、先ずは腹ごしらえだ。
そう思い、村の出入り口を横切ろうとした時、何やら塀の外から、村長と村人達の、物騒な声が聞こえてきた。
『追い詰めろー!』
『遠くから弓隊で縫い止めろ、戦士隊は包囲にて逃げ場を与えるなー!』
『冒険者は隙を見て、奴を仕留めろ!』
さすが異世界。弓隊、戦士隊、冒険者と、正にファンタジーな世界だな。
「魔物でも、追いかけてるのかね……」
君子、危うきに、近寄らず。
そそくさと、その場から離れた行った。
豚野郎だったら、怖いからな。
「村長は外か……取り敢えず行って、村長の帰りを、待つとしましょうかね」
村長の家の前に来た。
居ないのは分かってるんだけど、ここは礼儀として、ちゃんとやろう。
コンコンッ────「おじゃましまーす」
普通に入れたぞ?
鍵掛けてないって、不用心だなぁ。
「まぁ、入るんだけどね……」
『※ただの泥棒です。止めましょう』
何か今……変なノイズが……良いか。
さてと、優雅に朝のモーニングタイムだ。
「どれどれ」
『※ガチの泥棒です。止めましょう』
良い茶葉っぽいのがあるな。
ここの戸棚はっ、異世界のパン!
それじゃあ、これをテーブルに並べてっと。
「頂きます! ムグムグ……うまぁい!」
『※不法侵入、窃盗、器物破損の罪に、問われる可能性が有ります』
また何かノイズ?
頭にモヤがかかった様な……んっ?
「お帰り村長。これ、貰ってるぞ」
「おはよう流くん。不法侵入と言う言葉を、君は知っているかね?」
「不法侵入? この俺が? ははは、ナイスジョークだな村長」
「君は何を言っておる?」
「昨日村長に聞いたじゃん。ご飯食いに行っても良いかって。そしたら村長、オーケー♪って言ったから、こうして来たのに」
「オーケー♪何ぞ言うものか!?」
うん言ってないな。
そんな筋肉で、可愛らしくオーケー♪何て言われ日には、その瞬間に殴る。
しかし、ここは折れる訳にはいかない。
「確かに言った」
「いや、私は言っておらぬ!」
「言ったぞ村長!」
一切の曇りも無い綺麗な眼で、村長の顔を堂々と見詰める。
死んだ魚の眼だからこそ、眼を大きく見開けば、輝いている様に見えるのさ。
「言った事忘れたのか村長?」
相手に考える隙を与えるな。
「どうやら村長様は、記憶力が、乏しい様でいらっしゃる。脳味噌も筋肉じゃないのか?」
先ずは煽って、相手を怒らせろ。
「それともナニか。俺に飢えて死ねと? 昨日は牢屋に繋がれてて、何も食べてないのに?」
怒らせた先に、俺の勝利がある!
「村長は、俺に死ねと言うのか? 死ねと言う気か? あと、俺のリュッー鞄返して?」
うんうん、村長の笑顔がピクついてる。
「ふむっ、先ずは鞄を返そう。ご飯も構わん。後で仕事を紹介するから、取り敢えず、その顔を止めてくれぬだろうかっ」
おっと、煽りフェイスになっていた様だ。
反省反省パン美味ぇ。
そして次の日。
「流くん。昨日あの後紹介した仕事は……どうしたのかね?」
勝手知ったる村長宅のモーニングを、優雅に堪能しながら、しっかり答える。
「畑作業の邪魔になるって、その場でクビになった。少し寝てただけなのに……酷くない!」
また次の日も。
「流くん。村の外の見回りは、どうしたかね?」
勝手知ったる村長宅モーニングを、静かに堪能しながら、間違い無く答える。
「武器なんて持った事が無いので、こんなん使えないと伝えたら、呆れられてクビになった」
そのまた次の日も。
「流君っ! 村の子供達にっ、変な事を教えないでくれたまえ!」
勝手知ったる村長宅モーニングを、自然な動作で堪能しながら、普通に答える。
「聞かれたから答えた。村長は優しい、モンスター(魔物)だよって」
少し、楽しかった。いや、楽しかったんだ。
異世界に、俺は浮かれていた。
今日も今日とて、村長宅へ飯をたかりに行きましょう! と、鼻歌を口ずさみながら、村の中を歩く。
『おーい、にいちゃん! これ、村長のとこ持って行きな!』
肉屋のおっちゃんから、すんごい大きいブロック肉を持たされる。
『流にいちゃーん今日も遊ぼー』
『今日も働いてねーの!』
『やーい! 駄目にんげーん!』
はいはい朝飯食べた後で遊ぼうなーっと。
他の二人は拳骨だな。
村の子供達に手を振り合図する。
『お仕事見つかるといいわねぇ』
「お構い無くっ!!」
花屋のお母さんから、嫌味を言われる。
「ここ数日で、そこそこ顔が知られたなぁ。人畜無害なニートですからね!」
そう自分を、納得させながら歩いていると、村に設置している櫓がある方角から、鐘の音が響いてきた。
────カンカンカンッ!!
────カンカンカンッ!!
初めて聴くこの音を、疑問に思っていると、背後から声をかけられた。
『おい、にいちゃん。あの鐘が鳴ったら、討伐完了しましたって合図だな!』
「討伐完了? あの豚野郎か?」
『見に行きゃ分かるよ! 今日は店閉めて、おいらも行かねえとな!』
肉屋のおっちゃんだった。
そう言えば、ここに来てから、豚野郎以外の魔物を見たことが無い。
少し興味が沸いたので、鐘を鳴らしたであろう櫓へ、のんびりと足を進めた。
先へ進むと人だかり。
「多いな。村の人全員、集まってんのか?」
中央にはお立ち台で、その上に村長の姿があり、声高らかにあげ、叫んでいた。
『村人達よ! 今日この時っ、ラクレル村に迫る脅威をっ、取り除く事が出来た!』
『いいぞー!』
『流石はヘラクレス様だ!』
『さっさと殺せーっ!』
周りの村人達の熱狂ぶりが怖い。
そんなにヤバい魔物だったのか?
『この魔物! 数年前よりっ、この地に現れっ、我々の暮らしをっ、悉く脅かして来た!』
「どんな魔物だ……」
凄く気になるな。
俺は、魔物見たさに、村人達の間を通りぬける。
『見よ!この醜い姿を! 我らの神々を冒涜し! 貶め! 踏み躙るこの魔物を!』
ようやくっ、人混みをっ、突破!!
ふぅ……膝に手を当て、一息一息。
『私は!! この様な獣共をっ、この世界から根絶する事をっ、皆に誓う!!』
よいしょっと!
どんな魔物さんなのかね。
そう思い、前を向き目を見開く。
「────はっ?」
『良いぞーっ!』
『穢らわしい獣は殺せーっ!』
『皮を剥いで晒し首にしろーっ!!』
『殺せーっ!!』
村人達の、歓喜の声が、頭に響く。
意味が……分からない。
どうして?
「……ミルン?」
お立ち台のすぐ下で、犬耳幼女"ミルン"が、血溜まりの中、倒れていた。
流のクソさは修正してませんw




