5話 異世界の現実.2
さて皆様。本日は、こちらの物件を紹介させて頂きます、私、小々波流と、申します。
どうぞ、最後までお付き合い下さい。
早速ですが見て下さい、この獣道。
人を通さん!と言わんばかりのこの道なら、セキュリティは万全!
泥棒だって、先へ進む事を考えるでしょう。
さぁ見えてきました、立派な御屋敷。
部屋数は何と十部屋っ!
お子様が多い御家族様でも、一人一部屋と個人の空間を作り、引き篭もりを量産できる事、間違い無し!
廃れた大浴場には、立派な像が仁王立ち!
ゆっくりと、長風呂をする事を躊躇う、最高の快適性です!
お手洗いは、何と浄化槽を設置!
水洗で清潔ですが、間違っても浄化槽に触ってはいけません。
触った瞬間、浄化槽に溜まっている汚水が、全て排出する仕組みとなっております!
浄化槽に触らぬ様、ご注意下さい!
極め付けはこの外観!
辺り一面に鬱蒼と雑草が生茂り、屋根は崩れかけ、外壁が剥がれまくりで御座います!
風通しは最高ですよ!
窓枠だけは、残っておりますので!
『しょっちゅう家の鍵を、無くすんです……』
御安心下さい! そんな方にも、お勧め出来る物件なんです!
何故なら、鍵を持つ必要が御座いません!
こちらの物件っ!
閉める扉が無いと言う、憎らしい程の完璧設計!
これなら、いつでも幽霊屋敷として、繁盛する事間違い無し!
お値段ですか?
はい! 何とおおおおお! 今ならプライスレス!
お気持ち一つで、本日からでも、入居する事があああああっ、可能となっております!
入居を希望される方は、今直ぐ! ラクレル村の村長、ヘラクレス・ヴァントまで、ご連絡を!
そんなこんなで、夕暮れ時の屋敷前。
雨風凌げれば、気にする事も無いとは言えど、寝てる間に……崩れないだろうか?
「お邪魔しまーすよっ」
入って直ぐの床が、見事に抜けいる。
薄暗く埃臭いが、元ニートにとってはどうって事は無いな。
ニートと言う生物は、籠もれる場所さえあれば、そこが癒しのオアシスなんだ。
桃源郷、又は天国と例えても良い。
どちらにせよ、籠もれるからな。
そんな無駄な事を考えながら、一部屋一部屋確認確認、使える物はあるかいなっと。
別に、RPGの伝説の勇者宜しく、金目の物が無いかと、探している訳では断じて無い!
何処の部屋が、一番快適に過ごせるのかを、確認しているだけです。
嘘じゃ無いよ?
本当だよ?
「そしてっ、ここが最後のおおおっ、角部屋だああああああ!」
妙なテンションになり、そのまま扉を開けると────『プギイイイップギャアアア! オヴァヴァ!』
豚野郎(漢)が、仁王立ちをしてます。
見つめ合う、一人と一匹。
そのつぶらな瞳に、愛は、ありますか?
愛を下さい。
無いよね、豚野郎なんだから。
さんはぃっ!
「泥棒よおおおおお巡りさあああああん!?」
俺は、叫びを終えたその時、酸欠により、そのまま意識を手放した。
◇ ◇ ◇
何処までも続く、花畑。
そこで俺たちは、共に、語り合う。
『プギィ』
「ははは、うんうん、そうだよな」
『プギィプギャ』
「うん、俺もそう思うよ」
『プギィギ』
「ははは、違うって」
見つめ合う、一人と一匹。
『プギャァ』
「恥ずかしいのか?」
お互いの手を、そっと重ね合わせ、少しずつ、距離を縮めていく。
そして────『流さんの睾丸も美味しいモゴモゴ』
血塗れのミルンが、俺の睾丸を食していた。
◇ ◇ ◇
「いやああああああああああああああああ!?」
全身から汗が吹き出し、飛び起きた。
もう全てがトラウマ過ぎて、何が何だか分からないと、反復横跳びを実施。
口からは、オクラホ◯ミキサーが自動再生され、ひたすらに、ただひたすらに、それらを体力が続く限り行った。
何故なら、やらなければ、心が死ぬ。
そして……体力が尽き、足腰がぷるぷると震えたその時、ふと、目の前の開けた部屋から、後光が差し込んできた。
豚野郎が……輝いている。
はい、唯の剥製でした。
窓枠から、暖かな朝陽が、降り注ぐ。
「……疲れた」




