3話 犬耳ミルンと角付き幼女.4
2026/08/03 加筆修正
さて、今日一日はミルンと遊ぶ事になった訳だけど、どこで遊ぶかが問題だ。近場で遊ぶと、村長やドゥシャさんに見つかって、文句を言われそうで怖い。かと言って、日帰り小旅行をするには時間が足りない。それならば、何処で遊ぶのか。
「来てるっ、来てるのおおおおおおっ!」
「くぅっ、またミルンかやっ!」
「おっきなお魚っ、釣れたのおおおっ!」
はい、魔龍の川に来ております。角付き幼女を見ていてね、ふと思い付いたというか、魚が食べたくなったんだ。
「見て見てお父さん! おっきなお魚!」
「……うん、スゴイネー」
「むふふっ、もっと釣るの!」
「我も負けぬのぢゃあ!」
泡を吹いていた角付き幼女も、あの場に残したままにはしておけず、こうして連れて来たんだけど、いつの間にか仲良くなってるよ。
「さっきまであんなに、殴り合っていたのに、不思議なんだけど……なんで?」
「お魚ーっ、お魚ーっ」
「食い付くのぢゃぁぁぁ」
仲が良い事に、越した事はないか。
にしてもさっきから、一匹も釣れない。釣りなのに、釣れない。ポイントが悪いのだろうか、それともエサが悪いのだろうか。
「また釣れたのおおおっ!」
「我も釣れたのぢゃあああっ!」
「同じエサで、この差は何なの?」
釣りのポイントは違えども、竿は俺のお手製だし、針も同じ物を使って、エサも同じ。そう考えたら、やっぱりポイントか。
「釣りをし始めた時は、俺が先生だったのに、余裕で負けてるこの状況って……」
ミルンと角付き幼女は、魚を手掴みで取る事しか知らない様で、それならばと釣りの楽しさを伝授したんだ。
「その俺が……楽しくないとかぁ」
「大物釣れたーっ!」
「我もなのぢゃっ!」
「ポンポン釣ってんじゃん、羨ましいっ」
少し移動するか? でも、あまり移動し過ぎると、魔物が来たらヤバいからなぁ。特に、ひ弱な俺が一番危ないの。
「ゴブが来たのっ! 邪魔しないでっ!」
「あっちに行くのぢゃっ!」
「ゲギュガッ!?」
「ギヤアアアアアアアッ!?」
ミルンと角付き幼女は二人して、魔物が出る度に即討伐。んでそれを、そのまま川へと投げ捨ててんの。
「魔法がなけりゃあ、ゴブにも負ける貧弱ステだし、しっかり守って貰わんと」
俺もそろそろ、何か釣りたいなぁ。そんな事思っていたら、急にグンっと竿がしなり、噂をすれば何とやらか。
「ちょっ、引き強過ぎっ!? くっ、大物か!」
リールを作っておけば良かったか? いや、今はそんな事を考えている時じゃないっ!
「っ、逃すかああああああっ!!」
あらん限りの力を持って、この魚を釣り上げねば、俺だけボウズは嫌だああああああっ!!
「よっしゃ釣れっ……」
ピチピチと、何とも可愛らしいサイズ。うん、手の平サイズの小魚ちゃんです。
「何故だあああああああああっ!?」
石の上で元気に跳ねる、見た事のない異世界風味の溢れる、顎の尖った小魚ちゃん。
「……大きくなったら、またおいでよ」
キャッチアンドリリース。
「お父さん待って!」
「んっ? 何だミルン?」
ミルンの方へ顔を向けたら、小魚が手から飛び出し、川へと帰って行きました。
「あっ……勿体ないのぉ」
「何が?」
「ほう、まだあの魚が、残っておるかや。残念な事をしたのぅ魔王。貴重な魚ぢゃったのに」
「んっ? お前まで何だよ?」
ミルンが尻尾をぶんぶんさせて、川の方を覗き込み、さっきの小魚を探し始める。あの小魚、そんなに美味しいのだろうか。
「見た目は結構、怖い小魚だったけどなぁ」
そうして、ミルンと角付き幼女と一緒に、なんやかんやと釣りを楽しみ、太陽が傾いて来たので、暗くなる前に村へと帰った。
「皆様、お帰りなさいませ」
「うっ……たっ、ただいま」
「疲れは取れましたでしょうか?」
「はっ、はは……目が笑ってないぞーい」
屋敷の前で、メイドさんの出迎えだけど。この人、目が笑ってないのよ。
「なあドゥシャさん」
「何で御座いましょう?」
「顎の尖った、手の平サイズの魚って、何か知ってたりする?」
「その特徴ですと、古代魚かと存じます。一匹で金貨三百枚の、幻の魚に御座いますね」
「へぇーっ、古代魚って居るのか。流石ドゥシャさん、博識でいら……金貨三百枚っ!?」
どうりで、ミルンがあんなに残念そうにしていた訳だわ。逃した魚はデカ過ぎでしょ。
「金貨三百枚とか……分からんてっ!」
「お父さん、どんまいっ」
「あの魚は、アレで成体なのぢゃ」
そんなん、逃す前に言って欲しいよね。
他のケモ耳達に見付からない様、テントの近くまで移動して、夕飯の準備をします。この魚は、ミルンと角付き幼女の獲物だし、他のケモ耳達に分ける量がないからな。
「さてっ、コレが今日の戦果か……」
空間収納から、二人が釣った魚達を取り出し、テーブルの上に並べて確認する。
「異世界の魚って、見た目が派手だなぁ」
「つんつん、このお魚は美味しいの」
「そうなんだ……」
デッドフィッシュ、十三尾。直訳したら死の魚って、縁起悪いだろ。浅黒い鱗に下顎の牙が鋭く、川に入って来たゴブリンを襲って、齧り付くらしいお魚さん。
「次は……これ、食べれんの?」
「こっちを見てるのぢゃっ」
「うん、怖い……食べたくねぇ」
バリアントフィッシュ、五尾。おっさん顔の人面魚。丸々と太った体に、おっさんの顔が付いおり、正直言って食欲が失せます。
「最後は、コレか。眩しいんだけど」
「ぴかぴかっ!」
「我が釣ったのぢゃっ」
ゴールドフィッシュ、一尾。鱗がマジもんの金らしく、一攫千金を狙う者達に乱獲され、今では古代魚に次ぐ、幻の魚と言われている。
「食べる際は、お気を付け下さいませ」
「……院長影さんと言い、ドゥシャさんと言い、何で足音しないのかなあっ」
「お気にならさず」
「気にするわっ! んでっ、こいつを食べるのに、気を付ける事があるのか?」
ゴールドフィッシュの身は、川魚でありながらも生臭くなく、生がとても美味らしい。あまりの美味しさに、定期的に食べないと禁断症状が出てしまい、踊り狂うとの事。
「ですので絶対に、生で食べてはいけません」
「それ、間違いなく毒だよね?」
「この魚に、毒は無いかと存じます」
毒じゃないなら、何だって言うんだよ。
「火を通せば良いんだな? それじゃあこの魚達をどう調理したものかねぇ。素揚げ、串焼き、鍋物……調味料が有ればなぁ」
鍋にするなら、味噌が欲しい。南蛮漬けも、お酢が無いから作れない。香辛料は有るのに、お酢、醤油、味噌が無いとか、マジで一から作らないと、駄目なパターンだろうか。
「……この魚は、揚げ物かねぇ」
「お手伝いさせて頂きます」
「そりゃ助かるわ。鱗取り頼んで良いか?」
「お任せ下さいませ」
調理台を設置して、コンロに火を付け、鍋で湯を沸かし、沸騰したらまな板にかける。熱湯消毒は、最低限必要だろう。
鱗を取ってもらったデッドフィッシュを、三枚おろしにして、コカトリスの卵、パン粉の順に潜らせて、大量の油の中へ、優しくそっと入れていく。
「旦那様、鱗取りが終わりました。私目も、魚を捌いて参ります」
「……手際良すぎだろ。そんじゃあ、バリアントフィッシュの串焼きよろ」
「お断り致します。鍋をなさるのでしたら、そちらをお任せ下さいませ」
断ってからの違う作業を提案とか、どんだけ人面魚が苦手なんだよ。その気持ちは、分からんでもないけどさ。
「……そんじゃ、鍋は頼むわ」
「承りました」
「バリアントフィッシュねぇ。こうやって、串をグリっと刺しからっと……グロいっ」
おっさんの顔面を貫く串とか、グロさとキモさが際立っています。これを食べるのかぁ。
「んじゃこいつらは、焚火で焼くか。残るは……一番ヤバそうな、ゴールドフィッシュか」
「まだ出来ぬのかやっ。我もミルンも空腹で、お腹が限界なのぢゃ!」
「お魚ーっ!!」
「もう少しだって。そうだ、このゴールドフィッシュの鱗、お前のだから渡しとくわ」
角付き幼女が釣ったんだから、この金の鱗は、ちゃんと渡しておかないとな。
「貰うのぢゃあっ。今の我は、素寒貧ぢゃからのぅ。コレで一安心なのぢゃっ」
「んっ? 今どこに入れたんだ?」
黒いドレス風の鱗が一瞬開いて、その中に入れた様に見えたんだけど、何それ?
「我の懐ぢゃが? 大事なモノはここに仕舞っておかねば、直ぐ失くすからのぅ」
「そのドレス、着脱出来んの?」
「我は魔龍ぞ? 自らの鱗ぐらい、変化させる事なぞ、容易いのぢゃっ」
「さいですか……ゴールドフィッシュは、火で炙って、野菜と混ぜてのサラダにするか」
ドゥシャさんの様子はどんな感じかと、目線をチラッと送ってみます。
「旦那様。もう間もなく、鍋が出来上がります」
「やっぱ気付くのか……」




