3話 犬耳ミルンと角付き幼女.3
2026/08/03 加筆修正
ミルンと角付き幼女を追いかけて、急いで外に出ると、二人は相対し、何処ぞの西部劇の様に睨み合っていた。
「銃がなくて、本気で良かったわ」
「じゅうとは、何でしょうか?」
「付いて来たのかよ院長影さん。アレだ、今の言葉は忘れてくれ」
「……分かりました」
お互いに、隠してる事が有るだろうしな。
さてっ、アレをどう止めるか。
「トカゲがお父さんに近付くなっ!」
「はんっ。体が自由ならば、御主如き獣風情には、負けぬのぢゃ。覚悟するのぢゃあ」
「何度も獣って言ったっ。絶対に泣かすのっ!」
止まる状況でない事は、確かだろう。二人はジリジリと、間合いを計る様に距離を詰め、同時に前へと──飛び出した。
「顔面凹ますのおおおおおおっ!」
「尻尾の毛を毟り取るのぢゃああああああっ!」
さてここで、簡単な問題だ。
ミルンの年齢は、六歳児程度だと仮定して、角付き幼女の年齢は見た目的に四、五歳程度だと仮定する。その差は一体、何でしょう。
答え、リーチの長さ。
「えいっ!!」
「のぶぢゅっ!?」
ミルンの可愛いパンチが、角付き幼女の顔面に突き刺さり、その隙を逃さずミルンは次の行動へと移る。
「握り易い角なのっ」
「ぶふっ、なっ、何をするかやぼぢゅっ!?」
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
「のぢゅっ!? のぢゅっ!? のぢゅっ!?」
エグい攻撃だ。ミルンの奴、角付き幼女の角を持ち、ひたすら顔面に向かって、連続膝撃ちをかましてんの。
「ミルンって本当に、容赦ないなぁ……」
「彼ら、彼女ら獣族は、戦いに手を抜きません。狩りの時もそうですね」
「分かる。俺も前に、狩られかけた事あったし」
「良く無事でしたね?」
「院長影さんがそう言うって事は、やっぱりあの時のミルン、手加減してたのかねぇ」
ミルンと出逢って直ぐの頃だから、何だが凄く、懐かしい気持ちになるぞ。
「おぉ……今度は、連続振り下ろし肘撃ちじゃん。アレは死ぬるぞ」
「大丈夫でしょう。魔龍様のお顔を見ても、傷一つ付いていない様なので」
「……何で様付けしてんの?」
「今の言葉は、忘れて下さい」
それ、さっきのお返しですか? アレに魔龍様とか、似合わない言い方だよな。
「にしてもあの角付き幼女、マジで弱いな」
「その様ですね。有り難い事です」
「弱いのが、有り難い?」
「はい。遥か昔……古の時代から、生きている龍ともなれば、世界なんて脆いモノです」
あの、ミルンに裸絞をキメられてる、角付き幼女が、簡単に世界を滅ぼせると?
「犬耳っ子に負ける龍とか……おーいっ、ミルンさんやーい。こっちに来なさーい」
「なあにっ!」
「のぷっ、のぢゃぁぁぁっ」
裸絞をキメたまま、ずりずりと角付き幼女と共に来るとか、超怖いんですけど。
「もうそろそろ、許してやったらどうだ? 側から見たら、弱い者虐めに見えてるぞ」
「でもこの子っ、まだ動いてるのっ!」
「ドドメ刺す気満々かよっ」
「それにっ、ミルンがお父さんの娘だって事をっ、可笑しいって言った!!」
「のぢゅぷぷぷぷぷぶっ!?」
絞める力が増したなぁ。この角付き幼女、意図せず虎の尾ならぬミルンの尻尾を、力強く踏んじゃった訳か。
「ミルンは間違いなく、俺の娘だ。他人がどうこう言っても、それは変わらないだろ?」
「……うん」
「それにミルンは、自分より小さい子を虐める、悪いケモ耳なのか?」
「違うのっ」
「それなら、やる事は分かってるよな?」
「……分かったっ」
俺の思いが、ミルンに伝わった様だ。
そう、思っていた。
裸絞を解いたかと思いきや、すかさず角付き幼女の腰に、手を回すミルン。
「あっ、その技……」
後ろに体を反る様に、角付き幼女を持ち上げ、その勢いのまま地面に叩き付ける、路上では絶対にしてはいけない技。
「ちゃんとドドメを刺すのおおおおおおっ!!」
「のぢゃあああああああああぶふっ!?」
バックドロップが、決まりました。
和名、大地落とし。
スリーカウント? 要らんだろ。
「ふぅっ! お父さんに倣って、ドドメを刺したのっ! これで許してあげるっ」
「ぷぷぷっ、げふっ……」
角付き幼女、泡吹いてるよ。
「おっ、俺に倣ってとか……倣ってるか?」
「次はお父さんの番っ!」
「……何でっ!?」
鬼のミルンが、にじり寄って来る。何で俺までボコる気なんだよ。
「待てミルンっ、理由を聞かせてくれ。理由が分からないまま殴られるのは、勘弁だぞっ」
一歩後ろに下がり、ミルンとの距離を開け、逃げ出す準備は万端です。
「その子の角を触ってたっ!」
「ああーっ、少し気になっただけだぞ。他意はないし、ちょっと触っただけだろ?」
「その子の頭を撫でたっ!」
「撫でてないってっ、手が落ちただけだ」
「ミルンの居場所をっ、明け渡したっ!」
「それって肩車の事か? あの状況じゃあ避けれんて。それにちゃんと、直ぐにベッドに突き刺しただろ?」
「むうううっ」
これはアレか、やきもちを妬いてるのか? 頬っぺたが膨らんでて、可愛いんです。
「最近ミルンに、構ってなかったからなぁ……なあミルン。どうしたら、許してくれる?」
「っ……遊んで下さいなっ!」
「そうか……分かったっ! 今日の仕事はサボって、ミルンと一緒に遊ぶとするか!」
「それなら許します」
尻尾の逆立ちが、横揺れに変わったか。どうやら俺は、助かったみたいだな。
「と言う事で、院長影さん。仕事をサボる事、村長とドゥシャさんに、伝えてくんない?」
「ふふっ、分かりました。お二人には上手く、説明しておきますよ」
「助かります」
俺が仕事を休むと、あっちでこっちで作業の遅延が生じるから、言い辛いのよ。
「んしょっ、んしょっ、定位置」
「ミルンセットオンっ、合体完了!」
「遊ぶのっ!」
ミルンの甘え声が戻ったっ! この状態のミルンなら安心出来るな。残る問題は……この魔龍とやらだけか。
「わっ、我を助けるのぢゃぁ」
「復活早くね? 耐久力だけは……龍っぽいな」
「中々しぶといのっ」




