2話 この子誰の子元気な子.1
「嘘だろ…なぁ嘘と言ってくれよ!」
俺は暗がりの中を恐る恐る歩き屋敷へと帰って来たのだが、影さん、ドゥシャ、レネアが一向に入れてくれない。
何故なら、屋敷の中には百人に及ぶケモ耳女の子がおり、そこへ魔王と崇められている俺が入ると休む事が出来ませんのでと入口を護る様に立ち塞がっていたから。
男共は近くで仮設テントを造ってそこで数日間寝泊まりして下さいとレネアが睨みながら言ってくるし、ミルン御嬢様はお任せ下さい。旦那様の分までしっかりとお手入れさせて頂きますのでとドゥシャさんがニヤついているし、鑑定持ちが居るとは残念ですが入れる訳にはまいりませんと影さんが突き放す。
「ここ俺の家だよね!?」
自分の家に入れないって泣くよ俺!
「流君、諦めたまえ! あとその屋敷は元々村の所有物であり、流君に貸していた物だぞ」
後ろから村長が来たよ。
何? くれたんじゃ無いのこの屋敷? あの時好きに使ってくれて構わん! って言ってたじゃん。だからくれた物と同じだろ。
「はぁ、そんな訳がないであろう。大人しく私とテントで寝泊まりするのだ!!」
嫌だ。何が悲しくて村長みたいな筋肉と寝ないといけないんだよ。俺にそっちの気は無い!!
私にも無いわこの馬鹿者と頭を小突かれ首根っこ掴まれて引き離されていくよぅミルン! ミルンさんやーい! 助けておくれよー!!
「旦那様。僭越ながらこの屋敷、防音も完璧に御座います」
ドゥシャさんあんたマジ凄いメイドだけどやり過ぎだよねーミルン呼んでも来ない訳だよ糞ぉおおおおおお!!
屋敷が遠く離れていくぅ…シクシク。
「君は子供かね!?」
煩いやいこの筋肉村長。
子供で良いじゃない、三十五のおっさんでもさ。
【2話 この子誰の子元気な子】
今頃、ミルン寂しくて泣いていないだろうか。
俺は仮設テントの外で焚き火を使って串焼きを作りながらぼーっとしながらそんな事を思っていた。だって俺が居ないと肩車わっしょいする人居ないし、いや、ドゥシャさんならしそうだけど、ミルンと遊ぶ人は…ケモ耳っ子達がわんさかいるから大丈夫か。でも美味しいご飯作れるの…影さん得意そうだな。護衛…レネア居るから安全だ。…俺、要らなくないか?
「考えたく無いよぅ…シクシク」
串焼き焼けたな、モグモグ…旨い。
んっ? 何か視線が…こんな夜に誰だ?
「ミルンかなぁ…?」
辺りを見回すが誰も居ない。気のせいか?
串焼きをもう一本、モグモグ旨い。
やっぱり視線を感じるなぁモグモグんぐっ。
「食べ始めると止まらない旨さだなぁ、どれ」
もう一本と…? 無くなってる?
俺三本焼いてたよな。
知らない内に食ってたのか俺?
まだボケて無い筈だけど。
「なんだ!?」
今一瞬俺の視界を横切って誰かが走って行ったような、居ないな。
気を張りながら周りを見るが何も無い。
異世界だから野良オークでもいるのか、それとも野良ゴブリンか、野良コカトリスか。
いつの間にか視線も無くなっているし、何だったんだ?
「寝るか…ミルン居ないけど…シクシク」