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カイがいた朝

懐かしい匂いがする。


「ショア、起きて……ショア、起きなさい!」


「ドカン!」


僕はベッドから転がり落ちる。


「いたた...」


目を開けると、リアがいた。どうやら、両手で僕を思いっきり揺さぶっていたみたいだ。


騒がしい音を聞いて、妹が慌てて様子を見に来る。

僕とリアの姿を確認すると、少し微笑んで階段を降りていった。


「も、もう少し優しい起こし方があるんじゃない、リア」


「優しく起こしたわよ。でも、ショアが起きないんだもの」


「そ、それでもベッドから起こすのはないんじゃない?」


リアは少し頬を膨らませた。


「なによ、せっかく起こしてあげたのに」


僕は部屋から出ていくリアの背中を見ながら、痛む箇所を手でさする。


階段を降りると、リアと妹と母さんが料理の準備をしていた。


母さんが僕を見て言う。


「ショアは、お父さんの手伝いをお願い。」


「分かったよ、母さん」


僕は父さんと薪割りの仕事を終え、家に戻った。

母さんがリアに声を掛ける。

「リアちゃんも一緒に食べましょ。」


父さんもリアに話しかける。


「そうそう!みんなで一緒に食べた方が美味いぞ!」


リアは申し訳なさそうに答える。


「あ、いえこれ以上お邪魔するのも悪いんで、私はこれで、お邪魔しました。」


そう言うと、リアはそそくさと家を出ていった。


僕はぽつりと呟いた。


「珍しいな。リアが家に来るなんて」


そんな僕に、母さんと妹が呆れている。


「リアちゃん、大変ね。」


「リアさん、ほんと可哀想」


僕は、二人の視線に耐えられず、助けを求めるように父さんを見る。父さんはキョトンとしている。

見かねた妹が話す。


「はぁ...今日はリアさんの成人の日の祝いでしょ」


妹の話を聞き、僕は思い出した。つい口にしてしまう。


「そうだった!」


二人の見る目がさらに厳しいものになる。僕は耐えられなかった。妹が話す。


「リアさんに謝ってきたら?多分、村の中央にいるか、家に帰ってるから」


僕は妹の鋭い視線に耐えかね、逃げ出すように家を出た。


「じゃ...じゃあ、少し早い気もするけど行ってくるよ」



僕は村の中央付近にやって来た。腰掛けているリアを見つけた。だが、リアは誰かと話している。


あれは、誰だろう。僕はリアに近づき、尋ねようとした。


その人は、僕を見て手を振っている。


「おい、ショア遅えじゃねえか」


僕はリアに尋ねた。


「この人は誰ですか?」


そんな僕に、リアが答える。


「誰って、ショアたらふざけてるの」


僕の問いに、リアは笑っている。すると、その人が僕に答えた。

「誰って...オレ!だよ。オレ!オレ!」


僕の頭に激痛が走った。耳鳴りがキーンと響く。

カイ。そう、カイだ。思い出した。

どうして今までカイのことを忘れていたのだろう?

カイが話す。


「でよお、今日はリアの成人の日じゃねえか、いや...違えなイベント日だな」


僕は、カイが本当にその言葉好きだな、と、はにかんだ。


懐かしい。


今、なぜ僕は懐かしいと感じたんだ?

カイが続ける


「で、でよおオレ!とリアはもう、成人な訳じゃん。後ショアが15歳になったら帝都で、冒険者にならないか?」


リアは答える


「な、なんか分かんないけど面白そう!」


「冒険者は人々を守ったり、未知を探検する仕事だぜ!ショア!どうだ。だが、まだ分かんないこと多いがなこの世界」


カイの話を聞いて、僕は目を輝かせる。

なんて素晴らしいんだ。

この村のみんな、もっといえば世界のみんなが平和に暮らせる世界を目指せる仕事なんだ。

僕はカイの発言に内心首を傾げる。まだ分かんないことが多いって、当たり前じゃないか。


カイが続ける


「なあ、あの人って何やってる人なんだ、いつもあそこで立っているけど、何か知らないか?」


カイが視線の先を指差す。少し離れた所に、この村を訪れた人を歓迎する案内人がいた。案内人と言っても案内はしないのだが、僕はカイに話す。


「ああ、あの人はこの村を訪れた人に挨拶する人だよ。」


カイが話す。


「そうか...。いいなあ、ただそこに立っているだけで良いんだろ楽そうじゃん。オレ!もなりてえなぁ」


リアがカイの発言を否定する。


「なに言ってんのよ、あの人は雨の日も雪の日も、たとえ、嵐が来てもあそこで翌朝まで立っているのよ」


「ひ、一人でやってんのか?ブラック過ぎんだろ」


リアは少し困惑した様子で話す。


「ブラック過ぎん...はよく分かんないけど、一応交代制よ」


僕も話す。


「へぇ、そうなんだ。大変な仕事だね。」


僕達は他愛のない話を続けた。


太陽が真上に昇った頃、村のみんなで祝う成人の日が始まる。


カイはリアにプレゼントを渡す。


「ほらコレ」


嬉しそうな表情で、リアはそれを受け取った。手編みのミサンガを身に付ける。


「ありがとうカイ!」


リアは笑顔でお礼をしていた。カイは目に優しさを滲ませ、少しはにかみながら話す。


「よかった、喜んで貰えて。実際、15歳の女の子が喜ぶ物が分からなくてね」


カイはたまに、僕らを我が子のように見守る、温かな表情を浮かべる。口調も少し変わる。


しかも、「女の子」っていう言葉は少し幼い気がする。成人を迎えているのだから、もう立派な女性の仲間入りなのに。


リアが期待した目でこちらを見てくる。ま、まずい、僕はプレゼントを持ってきていない。

ここは素直に謝るしかない


「ご、ごめんリア...プレゼント持ってきてないや」


「う...う〜」


リアは一瞬目を見開き、目を手で押さえて泣いてしまった。カイは呆れたように僕を見たあと、リアの背中を優しく摩っていた。咄嗟に僕は嘘をついた


「う、嘘だよ…この場に持って来れそうになかったから、持ってきてないだけだよ」


僕の話を聞いて、リアが泣き止む。


「な、なんだびっくりしちゃったよ、意地悪なショア」


こうして、最悪な雰囲気を回避して、無事に成人の日が終わる。

後日、家にあった薪を渡して、また泣かせたのは別の話だ。



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