幸せ
ショアは紙に視線を向け、目を見開いた。困惑した表情を浮かべる。
「だ、誰の事?」
リアの話が理解できない。
するとリアは、周囲をチラチラ確認しながら近づいてきた。手を添え、耳元で声をひそめて話す。
「アシュのことよ」
予想していない人物名を聞き、困惑の表情を浮かべる。
「アシュさんが...?」
リアは答えない。
唇を震わせ、何度も口を開きかけては閉じる。
まるで、言葉にしてしまえば何かが壊れてしまうかのようだった。
「リア?」
「違う...違うの...」
リアの目から涙がこぼれ落ちる。
「アイツ...カイ」
そこでアシュが外から店内に戻ってくる。リアは慌てて席へ戻った。その様子を見たアシュは思案げな顔を浮かべ、すぐに険しい表情へ変わる。
「何してたの?」
そう話す彼女の表情は、氷のように冷たかった。
――それでも、彼女は愛おしかった。
私は、彼と害虫を確認する。
害虫は、私が戻ってきたことに気づくと、慌てて席へ戻り、顔を伏せて震えている。害虫め。どうしてやろうか。あんなに体に教えてやったのに、まだ分からないのか。呆れる。
けれど、今ここで騒ぎを起こす必要はない。
彼の前では、私は優しい魔法使いでいればいい。
「ねぇショア、リアさんに何を聞いたの?」
私は注意深く反応を見る。
「何って、特に何もないよ」
私は怪訝そうに目を細める
「ホント...?」
彼は屈託のない顔で返事する
「うん!」
「あらそう...なら良いんですわ」
恐らく、彼は嘘をついていない。内心、胸を撫で下ろす。よかった。彼に余計なことを知られるのは、まだ早い。
そうだ、いいことを思いついた。今度はアレの身体に教えてやるとしよう
ダ、ダメだ。
そのことを考えるだけで、声を荒げて笑ってしまいそうだ。漏れそうになるのを抑え、何とか笑みに変える。
今のショアの前で、そんな顔を見せるわけにはいかない。
だが、先に確認する事がある。
「リアさん、少しお時間よろしくて? お外でお話ししませんこと」
リアの表情が強張る。目を大きく見開いた。ゆっくりと席を立つ。前傾姿勢のまま、恐る恐るこちらへ歩いてきた。
「早くしてくださらない?」
私は扉を足で抑え、明らかに不機嫌な表情で待つ、声はいつもより低く腕を組んで睨みつけている。
リアは店の外へ足早に向かう。
開口一番、私は聞く。
「彼に伝えようとしたの?」
リアは涙を浮かべ必死に首を横に振る
「...本当に?」
リアは何度も頷く。
「は、はい...」
声が震えている。
「あらそう、ならいいのよ」
私は笑顔を作った。
「あなたも席に着いて食べてきなさい。彼の大切な人の一人でしょ」
その言葉を聞いたリアは、ショアの顔を思い浮かべたのか、視線を下げて頬を赤らめた。
「もういいわ、席に戻りなさい」
リアは何度もこちらを振り返りながら、店内へ戻っていく。
私はその背中を見送る。
あの様子なら、もう余計なことを話すことはないだろう。
ショアはリアが戻ってきたことに気付いた。
「何話してたの?」
リアは笑顔でいつもの元気を取り戻し話す
「うんうん、何でもないよ」
その笑顔は、さっきまで泣いていた少女とは思えないほど明るかった。
リアは満面の笑みを浮かべる。
彼と食べる食事が一番好きだ。
目の前にあるパンを半分に手で分け、彼にあげる。
「はい、あげる!」
ショアは受け取ったパンを見つめる。
「...半分?」
リアは笑った。
「うん! 半分こ!」
彼はあまり喜んでなかった。。。




